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無能として家から追放されると決めた転生者の俺は、モフモフたちと一緒に第三の人生をエンジョイする  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
0000 1101[第13章]アガ塔よいとこ、一度はおいで

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0227話 見習い使用人

誤字報告、ありがとうございました。

 いくつかの書類にサインし、受付の事務員に渡す。なんでそんなに寂しそうな顔をするんだよ。しかもノロノロと動きやがって。牛歩戦術か?


 保養所(サナトリウム)の職員たちもそうだったが、どこへ行っても周囲の人間と仲良くなれるな。これはクミンの才能なんだろう。この子がいてくれれば、円満なご近所づきあいができそうだ。そして来月になったら引き取る予定のユズとも、仲良くやっていけるはず。



「長い間、お世話になりました」


「仕事が辛くなったら、いつ帰ってきてもいいからね」



 待て待て。学園の治療施設は、気軽に戻ってきていい場所じゃないぞ。部外者の宿泊施設にするのではなく、生徒たちの健康を守るために使ってくれ。



「私もコーサカ研究室の一員だから、ちょくちょく顔を見せに来ます」


「絶対だぞ、待ってるからな」


「また一緒にお茶を飲みましょう」


「達者で暮らせよー」



 ハンカチを振りながら見送る職員たちに別れを告げたあと、再びクミンの個室へ。そして少しだけ増えた私物を、マジックバッグに詰め込む。どうやら一般の生徒たちとも、友だちになったらしい。恋愛小説と身だしなみの道具、花瓶やマグカップは貰い物とのこと。



「今までありがとう。ここで過ごした日々は、私の大切な思い出だよ」



 隅々まできれいに掃除した個室へ、クミンは大きく頭を下げる。礼儀もしっかりしていて本当にいい子だ。



「よし、じゃあ行くか」


「うん!」



 コハクをクミンに預け、治療施設のある棟を出て校門へ向かう。足取りもしっかりしているし、階段でもふらつくことはない。リハビリを頑張ったのがよくわかる。これはなにか褒美をやらねばいかんな。



「そういえばまだ言ってなかった。十五歳の誕生日、おめでとう」


「ありがとう、タクトさん」


「でも本当にうちで良かったのか? 園芸のギフトだったら、引く手あまただろ」


「ベニバナちゃんのご両親も誘ってくれたけど、やっぱりタクトさんのお屋敷がいい。だって他の所だと、水麦のご飯を食べられないもん」



 ふむ、それならコーサカ家で働くのがベストだ。他にも皇居という手はあるが、そっちはマツリカが頑なに拒否。クミンには故郷から離れてほしくないらしい。本人もこう言ってるし、これは伝えないでおこう。



「裏庭をハーブ園か何かにしようと思ってるんだ。花や野菜、果物でもいい。仕事に慣れてきたら作ってみるか?」


「やりたい、やってみたい!」


「最初は小さな畑でいいから、ギフトの効果を確かめながら挑戦してみてくれ。デュラムセモリナ穀物生産卸売協同組合に聞けば、基本的なことは教えてもらえるだろう」


「私、十五歳まで生きられないかもって思ってたから、なんか夢みたいだなー」



 実際のところ、クミンの衰弱は危険レベルだった。なにせあのマツリカが全てを投げうって、コルツフットから見せられた偽物の薬にすがったくらいだ。それだけ大切な存在を預かるからには、万が一など許されない。早急に従人(じゅうじん)と契約させよう。



「一旦戻って買い物に出ようと思うが、歩くのは平気か?」


「だいぶ体力もついてきたし、ニームちゃんのおかげでレベルも上がったから、たぶん大丈夫だよ」


「辛くなったら遠慮なく言え。どこかの店で休憩するからな」



 屋敷でどう暮らしたいか聞いてみたが、俺やニームのように従人と寝起きを共にしたい、とのこと。それなら大きめの部屋とベッドを、用意してやらねばならんな。この子の支配値は百九十二(192)だ。その気になったら、一等級を十人以上使役できる。とりあえず家具類は、ロブスター商会の支店へ行ってから、決めるとするか。



「あれ? 校門でシナモンが待ってるんじゃなかったっけ」


「そのはずだが、どこへ行ったんだ?」


「……あるじ様、こっち」


「うわ! 塔のてっぺんに登ってる」



 物見塔の最上部で手を振る、シナモンと警備員たち。これは上をじっと見つめる姿に、耐えられなかったのだろう。表情が(とぼ)しいぶん、全身から欲求オーラが出るからな。あれには誰も逆らえん。



「帰るから降りてこい」


「……わかった」



 身を乗り出したシナモンが、窓枠からピョンとジャンプ。空中でクルクル回転したあと、きれいに着地。警備員たちの拍手が鳴り響く。


 みんなシナモンの身体能力を知ってるので、誰も驚いたりしない。俺たちもすっかりこの学園に、馴染んでしまったものだ。そう考えると拠点をこの街にしたのは、最善だったといえる。



「ほんと、シナモンって身軽だよね」


「……えっへん」



 いつものように腕を伸ばしてきたので、抱き上げてネコ耳をモフり倒す。ほれほれ、(あご)の下も撫でてやるぞ。



「……うにゃー」



 ほっこり顔で見つめる警備員たちに別れを告げ、自宅を目指して道路を進む。初夏の爽やかな風が気持ちいい。そういえばこの地域は、もうじき雨の多い時期に突入だ。餅つき大会は、その時にでもやろう。



「面白かったか?」


「……家の煙突、見えた。あと、霊木も」


「そんなに大きな木があるの?」


「あの近隣では一番背が高いな。迷子になっても、木を目指して歩いたら、戻ってこられるぞ」


「もしかして、あれ?」


「……シマエナガ、住んでる。かわいい」


「キュイッ」


「会えるの楽しみだなー」



 いつもよりゆっくりしたペースで道路を歩く。ずっと狭い世界で暮らしてきたクミンは、ウキウキしながら周囲の景色を楽しんでいる。あまりにも危なっかしいので手を差し出すと、ためらうことなく握り返してきた。俺のことを兄みたいに思ってくれてるんだろうか?



「その木とシマエナガのおかげで、皇居へ直接行くことができる。マツリカに会いたい時は、いつでも言ってくれ」


「お給料をもらったら、お姉ちゃんになにかプレゼントしたい。その時に連れて行ってね」


「了解だ」



 まあ、それとは別にアインパエへ行くのもいいだろう。というか、向こうから会いに来そうだが……


 などど考えてたら、門の前でマツリカがソワソワとしてやがる。今日のことは伝えてあったし、なんとか時間を捻出したようだ。



「あっ、お姉ちゃーん!」


「走ったら危ないよ、クミン」


「平気だって。お姉ちゃんは心配性だなあー」



 俺の手から離れたクミンが走りだそうとすると、慌ててマツリカが駆け寄ってきた。まあマツリカにしてみれば気が気じゃないはず。俺の屋敷で働かせようとするのも、過保護の一環だろうし。


 ホワイトな職場を目指してるから任せておけ。福利厚生はこの世界でもトップクラスだぞ。



「タクト様。くれぐれもクミンが無理をしないよう、見てやってください」


「このあとロブスター商会へ行って、従人と契約してこようと思ってる。その子たちにも見てもらえば安心できるだろ?」


「あのー、私お金とか持ってないよ?」


「フェンネルから最低二人は契約して欲しいと頼まれててな。一人は俺からの誕生日プレゼントで、もう一人は支度金から契約費用を出す。他にも契約したい者がいたら、働きながら返済する感じで決めてくれればいい」


「わー! ありがとう、タクトさん」


「私も返済に協力するから、いい子を見つけてきなさい」


「それはダメだよ、お姉ちゃん。私が決めた分は、ちゃんと自分で返済するから」


「うぅ~、クミンー。いつの間にか立派になって、お姉ちゃん嬉しいよー」



 それくらいで泣くなよ、マツリカ。


 いつまでもダラダラやってるわけにはいかんので、屋敷に向かいながら契約内容を説明する。仕事に慣れるまでと、退所後の経過観察期間である三ヶ月は、見習いとして雇うこと。その後、役目や仕事内容に合わせて給与を決定。月の勤務日数や労働時間、住み込みにかかる費用なども説明しておく。



「天引きがほとんど無いなんて、皇居より条件がいい……」


「お姉ちゃんも一緒に働く?」


「お姉ちゃんはベルガモット様に尽くすと決めてるから」



 酷い家だと食費やら家賃という名目で、七割くらい天引きする所もあるんだよな。報酬がいいからと飛びついたものの、実際の支給額を見て愕然とする例は枚挙(まいきょ)(いとま)がない。


 とりあえずマツリカも納得してくれたし、ロブスター商会へ向かうことにしよう。


従人販売店へ向かった主人公たちだが、そこに支配人のローゼルが。

次回「0228話 ロブスター商会 ワカイネトコ支店」をお楽しみに。

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