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無能として家から追放されると決めた転生者の俺は、モフモフたちと一緒に第三の人生をエンジョイする  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
0000 1101[第13章]アガ塔よいとこ、一度はおいで

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0226話 帽子のポテンシャル

 入室の許可を告げられ、学園長室に入る。

 おっ。今日は比較的おとなしめのスーツじゃないか。色は蛍光ピンクだが。


 まあ服はどうでもいいとして、なんで学園長が持ってるんだよ、それ!



「お久しぶりですにゃ、メドーセージ先生」


「おぉ、アンゼリカ君。よく来たの」


「先生もすごく似合ってるにゃ」


「お揃いじゃな」


「ピンク色も可愛いにゃぁー」



 立派なヒゲを蓄えた老人にも似合うとは、ねこみみ型帽子のポテンシャル恐るべし!!



「まだ販売前の商品なのに、どうやって手に入れたんだ?」


「若者に人気が出そうじゃから、学園の購買で取り扱ってほしいと依頼が来てな。試供品として提供されたんじゃ」



 それを学園長みずから、かぶるなよ……



「さっき出会った生徒たちにも大人気だったにゃ」


「それならいくつか仕入れてみるかの」



 利用したことがないので頭から抜け落ちていたが、ここにもあったな購買部。ニームが使えるものを取り扱ってるかもしれん。あとで聞いておこう。


 いつもの事務員がどこからともなく現れ、茶を()れたあとに部屋から出ていく。相変わらずの神出鬼没ぶりに感心しながら、来客用のソファーに腰を下ろす。


 なんで膝の上に座ろうとするんだよ。それが当たり前みたいな動きをするから、思わずスルーしそうになっただろ。


 俺はアンゼリカさんの脇に手を入れ、一旦ソファーから立つ。シナモンほどじゃないが、この人も結構伸びるな。まあいい、とりあえず隣に置いておこう。



「ちょっとしたスキンシップにゃのに、タッくんはお硬すぎるにゃ」


「アンゼリカさんが緩すぎるんだ」


「そうかにゃー……」



 ちょっとまて、どこを見比べてる。そっちの話をしてるんじゃないぞ。

 知識や実践経験の豊富な大人は、本当に扱いづらいくてかなわん!



「昔のアンゼリカ君に戻ったようじゃな」


「若い頃はメドーセージ先生の膝にも、よく座らせてもらったにゃ」


「昔からこんなんだったのか……」


「こんなんとは失礼にゃ! 私だって見境なく膝に座ったり、手を繋いだりしないにゃ」


「ほっほっほっ。すっかり仲良しになっておる」



 孫を見るような目で微笑まないでくれ。年配者特有のおおらかな雰囲気と、ねこみみ型帽子の相乗効果で、部屋の中に変な空気が醸成されてる。

 なんだか帽子にしてある猫の刺繍も、優しい顔立ちになってる気がするなぁ……



「タッくんと仲良くしておかにゃかったら、アインパエが崩壊してしまうにゃ」


「それどころかタクト君を怒らせると、世界が終わってしまうからの」


「人のことを邪悪な破壊神みたいに言うなよ。それよりわざわざここまで来たんだから、なにか用事があるんだろ?」


「そうだったにゃ。メドーセージ先生に、これをお願いしたいにゃ。送るより早いから、直接持ってきたにゃ」



 アンゼリカさんが、マジックバッグから取り出した紙を、テーブルの上へ置く。どうやら身元保証に関する書類のようだ。



「儂の時は当時の教皇に、やってもらったやつじゃな」


「この保証書が揃ったら、タッくんが宝物庫へ入れるようになるにゃ」



 いくら皇籍を持っていても、俺は他国の人間。身元保証人がいなければ、許可を出せないとのこと。スコヴィル家の養子になれば必要なくなるそうだが、コーサカ家を捨てる気はないと言ってるからな。アンゼリカさんもそっちは諦めて、別の方法で許可証を発行してくれることにしたらしい。


 これでやっと皇家が所蔵している書物を読める。次にアインパエで滞在できる日が楽しみだ!



◇◆◇



 サントリナにも手伝ってもらいながら、テーブルに今日の夕食を並べていく。蒸さない作り方をしたが、味見したマンダリンとパインの表情が溶けていたので、問題ないだろう。色もきれいに付いている。茶碗に盛り付け、黒種(くろごま)で作ったゴマ塩を一振り。


 ボア肉の角煮や、筑前煮風の副菜を取り分けていたら、ニームが食堂へ入ってきた。顔色はすっかり良くなり、体の動きもいつもと変わらない。薬のおかげか、軽めにすんでいるようで何よりだ。



「今日の水麦(みずむぎ)は変わった色をしていますね」


「アインパエに自生している品種で、水麦とはちょっと違うんだ。前世の人たちは〝もち米〟と呼んでいた」


「赤紫の豆と一緒に炊いているから、こんな色になるんですか。見た目はちょっとアレですが、兄さんの作る料理ですから、間違いはないでしょう」


「きれいな色がついてて、美味しそうだねステビアお姉ちゃん」


「色のせいでしょうか、ちょっと特別な感じがします」


「もしかして、私のために?」



 日本だと古い習慣なんて言われてしまうこともあるが、こっちの世界にも似たような風習があったりする。もっとも祝賀というより、報告会の意味合いが強いのだが。



「この家でやるのは、単純に祝うだけだ。才人(さいじん)の義務やら役目なんて、面倒なことは言わん。ニームはこれからも、自由に生き方を決めればいい」


「ちょっと恥ずかしいですけど、嬉しいです。ありがとうございます、兄さん」


「とりあえず、まずは主役が座れ。そうじゃないと、いつまで経っても始められないからな」



 荒ぶるシトラスのしっぽを(しず)めるためにも、とっとと始めなければ!


 簡単な挨拶だけして、まずは赤飯をひとくち。うん、ムラなく炊きあがってるな。塩水にしてから黒種(くろごま)と一緒に煮詰めたゴマ塩も、いい塩梅(あんばい)だ。



「ふひぎな食感がして、ほいひー!」


「ちょっとネバネバしてるです」


「形はよく似てるのに、炊きあがりがこんなに違うなんて、水麦の世界は奥が深いです」


「喉に詰まりやすいから、いつもみたいに掻き込んで食ったらダメだぞ」


「お代わりー!」



 人の話を聞けよ、シトラス。まあ相変わらずの気持ちいい食いっぷりだから、放っておこう。


 スプーンでちまちま食べるサントリナを眺めつつ、山盛りの茶碗をシトラスに差し出す。



「……おはぎ、うまうま」


「小さく作ってくれたのを食べてみたけど、これってお菓子みたいね」


「赤飯と同じ赤豆(あずき)にもち米の組み合わせだが、カテゴリー的には和菓子になるな」


(われ)はキナコよりツブアンの方が好みだ」


赤豆(あずき)の皮を取り除いてこし餡にすると、ぼた餅という名前に変わるぞ」


「それは興味深い。今度はそちらも馳走(ちそう)してもらえるか、主殿(ぬしどの)よ」



 フェンネルたちも美味しそうに食べてるし、ニームの食欲も戻ってきたようだ。今度は(きね)つき餅に挑戦せねばならんな。みんなでペッタンペッタンやるのは、きっと楽しい。


 材料になる木は自力で調達ずみなので、あとは実行あるのみ。乾燥が終わったらジャスミンと協力しつつ、杵と(うす)を作ろう。



「同じ材料で主食とお菓子になるなんて、兄さんの料理は本当に面白いです」


「あたしはキナコがついたの好き!」


「タクト様、緑色のものはなんですか?」


「それは青豆(えだまめ)をすりつぶして作った、ずんだのおはぎだ」


「くろいの、おいしい」


「あんこが顔についているぞ。拭いてやるから、じっとしてろよ」


「ありがとう、タクトおとーさん」



 黒すりごまをまぶしたやつが好きとは、なかなか渋い趣味をしてるな。

 サントリナの笑顔に癒やされながらニームの方を見ると、食事も一段落したらしくほうじ茶をすすっている。そろそろアレを渡してやるか。



「普通は嫁入り道具に渡したりするものだが、これは俺からの成長祝いだ。受け取ってくれ」


「開けてみて、いいですか?」


「ああ、いいぞ。気に入ってくれると嬉しいんだが……」



 ニームはラッピングを破らないように外し、丁寧に折りたたむ。こんなところは性格が出ているな。



「これは……もしかして、マジックバッグ?」


「そこの金具を回して指を押し当てると、使用者登録ができる」


「すっ、凄いですこれ。小さな倉庫くらいあるじゃないですか」



 シトラスたちに作ったのは、キングクラスの魔晶核(ましょうかく)一個でできる小容量タイプ。母さんから譲り受けたマジックバッグの初期容量と同じ、ひと部屋分ほどの大きさ。それでも正式名称がマジックケースになる、クイーンやバロンクラスを使ったものよりデカい。


 一方ニームのものは、キングクラス五個分の中容量タイプ。単純に五倍とはいかないものの、個人所有では滅多にお目にかかれない容量がある。それより更に十倍くらい大きいのが、俺のマジックバッグだったりするのだが……


 一体どれだけの魔晶核が必要なのか、想像もできん。



「それだけあったら困ることはないだろ」


「困るどころか、持て余しますよ。いいんですか? こんな高性能なものをもらっても」


「俺たちはキングクラスをソロで狩れるからな。魔晶核集め程度なら半日で終る」


「やっぱり兄さんに常識を求めるのは間違ってましたね。でも、属性系ギフトじゃない私が、こんなものを持てる日が来るなんて。ありがとうございます、兄さん」



 ニームはマジックバッグを胸に抱き、花が咲いたような笑顔を浮かべる。このレアな表情を見られただけで、散財した甲斐があるってものだ。ユズのスマホが起動できたら、写真を撮って保存しておきたかった。


 それはさておき、これでステビアやローリエも活動しやすくなるだろう。人目を気にせず様々なものを持ち歩けるので、今後の学園生活でも絶対に役立つ。目一杯活用してくれ!


学園の治療施設へクミンを迎えに行ったのだが……

次回「0227話 見習い使用人」をお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[一言] おはぎは秋の彼岸の時で小豆の皮が柔らかいから粒餡で食べ、ぼた餅は年を越して皮が硬くなった春の彼岸の時だからこし餡にする説ですね。 萩の花の季節牡丹の花の季節から取った節は自分は信じてません…
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