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無能として家から追放されると決めた転生者の俺は、モフモフたちと一緒に第三の人生をエンジョイする  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
0000 1101[第13章]アガ塔よいとこ、一度はおいで

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0224話 不調の正体

 混乱しているステビアとローリエからは、まともな答えが返ってこない。仕方ないのでノックをせずに部屋へ踏み込む。緊急事態なんだ、多少の無礼は許してくれるだろう。


 まず目に飛び込んだのは、青い顔で机に突っ伏すニームの姿。状況を見る限り、吐血した感じではなさそうだ。腕を下におろしているが、腹を押さえているのか?



「平気か、ニーム」


「……うぅっ、兄さん。私はもう……だめです。せっかく兄さんと、暮らしはじめたばかりなのに。……先立つ不幸を……許してください」


「しっかりして下さいです、ニーム様。ミントが治して差し上げますから」


「血は止まったのか?」


「怖くて確かめることができません。きっと昨日食べた魔獣が……お腹の中で生き返ったんです」



 よく見ると、尻の下にタオルを敷いてるな。これは男の俺があまり根掘り葉掘り聞けないアレかもしれん。念の為ステビアを問い詰めてみたが、やはり予想通りだった。



「かえって悪影響を与えるかもしれないから、とりあえず治癒術はなしだ」


「どうしてです!? ニーム様が、おかわいそうなのです」



 アルカネットたちにやらせるのは酷だし、ローズマリーやベニバナは授業中。他に説明できる人間がいない以上仕方ない。知識を持っていなかったであろうニームにも、体の仕組みについて説明する。保健医にでもなった気分だぞ、これ。



「話には聞いてましたが、こんなに辛いものだったのですか……」


「痛み止めとかあると思うが、すぐには用意できない。ひとまず布を何枚か重ねて、ベッドに寝ておけ」



 みんなも心配しているだろうから、ミントを報告に行かせる。俺も一旦部屋を出て、着替え終わるのを待つ。しばらくすると、ステビアが呼びに来た。なんだよ、その顔は。言いたいことがあるなら遠慮せず話せ。


 しばらく見つめていると、ステビアが口を開く。



「私たちとはずいぶん違うのですね」


「商会で習わなかったのか?」


「このようなお世話を従人(じゅうじん)が行うのは、タブーとされていますので」



 あー、言われてみれば確かにそうか。俺たちの距離感がおかしいんだもんな。


 ということは、アルカネットたちも知らない可能性が高い。俺だって前世の知識がなかったら、ミントに治療させていたかもしれん。その手の話を男にしないのは、この世界だと当たり前のことだし……



「まあ獣人種は体に変調をきたさないのが普通だからな。まったく気づかずに終わっている、なんてこともあるくらいだ」


「ニーム様のお役に立てなかったこと、悔しくてなりません」


「そう落ち込むな。これからニームは周期的に体調を崩す。その時に支えてやればいい」


「わかりました、次こそは必ず!」



 力なく垂れ下がっていたしっぽが、クイッと上を向く。本当にニーム一筋だよな、こいつは。



「ですが、今日はニーム様のこと、よろしくお願いします」


「任せておけ。できる限りのことはやってみる」



 いつもの感じに戻ったステビアに連れられ、ニームが寝ているベッドサイドへ腰を下ろす。悲壮感こそ無くなったが、まだ表情はつらそうだ。



「温めたら少し楽になると、聞いたことがある。お湯を袋に入れて持ってきてやろうか?」


「お湯をお腹の上になんか置いたら、圧迫されて余計に苦しくなりそうです。それより、兄さんのドライヤー魔法で温めてください」


「それは構わないが、服の上から触ることになるぞ」


「兄さんなら構いませんよ」



 口調こそいつもの感じだが、やはりニームの様子はおかしい。普通なら男の俺に触らせるような場所じゃないからな。配偶者なら別かもしれないが……


 とりあえず雑念は捨て、布団の中に腕を突っ込む。するとニームが俺の手を取り、目的の場所へ導いてくれる。風を起こす必要はないから、遠赤外線だけでいいか。



「じんわり温かくなってくると思うから、しばらく待ってくれ」


「手のぬくもりだけでも、少し楽になった気がします」


「ニーム様、すぐに良くなる?」


「痛みや症状には個人差があってな、ニームがどれだけ重いのかはわからない。ただ、数日は続くと思う」



 心配そうに覗き込むローリエの頭を撫でながら、前世の知識を引っ張り出す。ってそんな目で見るなよ。もしかしてお前もやって欲しいのか?


 体調が悪い時は心も弱くなるし、仕方がないな……



「この家に来てよかったです。兄さんがいなかったら、泣いていたかもしれません」


「男の俺では教えられることに限りがある。恥ずかしいかもしれないが、同性に聞いておいたほうがいい」



 本来ならその役目は母親になるだろう。しかしニームの母は、エゴマがマハラガタカで勾留されていた間に、若い男と駆け落ちしてしまった。どうやら俺の母さんが死んで、序列最下位になったのが原因らしい。立場を上げるべく男児を欲していたが、授かったのはニームだけ。


 そして年齢的に限界の見え始めたエゴマを見切り、不倫を繰り返していたんだとか。実母のそんな姿を見て育ったら、潔癖な性格になるよな。


 ニームの母をコーサカ家へ呼ぶかフェンネルに相談したとき、返ってきた答えがこれだ。そんな問題を抱えていたなんて、俺はまったく知らなかった。ニームが自分の母親について一度も話さなかったのは、そうした事情があったからだろう。


 俺は紅赤(べにあか)の髪をなでながら、やるせない気持ちを抑え込む。



 ――コンコン



 そんな時、部屋にノックの音が響く。ステビアが応対してくれたが、そこにいたのはユーカリと意外な人物……



「連絡もなしにどうしたんだ?」


「カイザーちゃんがずっと落ち着かにゃくて、タッくんの家へ連れて行こうとしたにゃ。それで心配になって見に来たにゃ」


「ホォーゥ」


「キューン」



 俺の肩で不安そうにニームを見つめるコハクと、精神感応したのかもしれないな。それでアンゼリカさんを連れてきてくれたわけか。しかし今はとても助かる。



「兄さん、この人は?」


「彼女がベルガモットの母親で、アインパエ帝国の現皇帝、アンゼリカ・スコヴィルさんだ」


「いきなり押しかけて、ごめんなさいにゃ」


「俺だけでは対処しきれなかったんだ。すまないが助けて欲しい」



 部屋の中へ入ってきたアンゼリカさんが、俺の隣に腰を下ろす。話しやすいように撫でるのをやめると、彼女はニームの頭にそっと手を置く。


 容姿こそ十代だが、さすが五人の母親。俺には真似のできないオーラが出ている。少し緊張していたニームも、すぐ落ち着きを取り戻した。



「下で聞いてきたんだけど、急に始まっちゃったんだよね?」


「あっ、はい。そうです。どうしていいか判らなくて、ステビアやローリエに迷惑をかけました」


「初めてで取り乱しちゃうのは仕方ないにゃ」


「死んでしまうかと思って、すごく怖かった……」


「お母さんも最初はびっくりして泣いちゃったにゃ」



 これ、俺が聞いていて良いんだろうか。だが布団の中にある手を、離してくれないんだよな……



「みんな、そうなんですね」


「だから気にすることないにゃ。お母さんが使ってるお薬と衛生用品があるから、分けてあげるにゃ」


「あの……そこまでしていただくのは、さすがに」


「タッくんの妹なら娘みたいなものにゃ。遠慮なんてしなくていいにゃ」



 そんな顔で見るなよ、ニーム。なんだかんだでスゴヴィル家には、家族同然の扱いを受けてるんだ。まあ他国の最高指導者が、こんな場所にいるのはおかしいんだけどな!



「俺ではどんなものが良いのかわからない。ありがたく貰っておけばいい」


「兄さんがそう言うなら……」



 アンゼリカさんがマジックバッグから包みを取り出しニームに渡す。なんでそんなに準備がいいんだと思ったら、公務に穴をあけないためとのこと。やはり国を動かすってのは大変な仕事だ。



「空腹時に薬を飲むのはあまり良くない。スープを作ってやるから、それを腹に入れてからにしろ」


「さすがタッくんの知識は御殿医(ごてんい)なみにゃ」



 フリーズドライのスープを水に浸し、魔法で一気に加熱する。木のスプーンで軽くかき混ぜ、皿をサイドテーブルの上へ置く。



「熱いから気をつけて飲めよ」


「せっかくですから、シナモンやサントリナみたいにしてください」


「俺は片手が塞がってるんだぞ」


「弱った妹の看病は、兄の役目じゃないですか」



 まったく、デレ期でも来たのか?

 ここぞとばかり甘えやがって。


 薬を早く飲ませるためだ。仕方ないから言う通りにしてやろう。


 ステビアが抱き起こしてくれたので、スプーンですくったポタージュスープを風魔法で冷まし、こぼれないように気をつけながら口もとへ運ぶ。昨日感じた微妙な違和感は、大人へ近づいた影響だったのかもしれないな。



「ほら、口を開けろ」


「ん……美味しい」


「問題なく食べられそうか?」


「兄さんの手とスープの両方に温められて、すごく気持ちがいいです」



 熱を出して汗をかいたから体を拭く、なんて定番イベントじゃなくてよかった。俺はそんなことを考えながら、何度もスプーンをニームに差し出す。一皿飲みきったあとに薬を服用させ、再びベッドへ横たえる。


 同性の話を聞けて安心できたんだろう、ニームの顔が眠たげな表情になってきた。



「薬はすぐ効いてくるから、このまま寝ちゃうといいにゃ。起きた時には、スッキリしてるはずにゃ」


「ありがとうございます、兄さん、それに……おかあ……さ」



 言葉の途中でニームは寝落ちしてしまう。布団の中で握っていた手も離れたので、魔法を止めて腕を引き抜く。夕方までにある程度回復していたら、お祝いをしてやらねばならんな。もち米があるし、アレをつくるか。


二人と霊獣で学園を目指す主人公。

途中で生徒たちに囲まれてしまう。

次回「0225話 アンゼリカとお出かけ」をお楽しみに。

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