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無能として家から追放されると決めた転生者の俺は、モフモフたちと一緒に第三の人生をエンジョイする  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
0000 1101[第13章]アガ塔よいとこ、一度はおいで

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0223話 生まれ変わった頃の記憶

 ――ん?


 この明るさは、まだ早朝か。中途半端な時間に目が覚めてしまったらしい。しかしこの感覚はなんだ。ずいぶん昔に味わったような……


 意識がハッキリしていくにつれ、遠い記憶が呼び覚まされる。これはあれだ。生まれたばかりでろくに身動きが取れなかったとき、襲い来る生理現象に(あらが)いきれず、何度もやった決壊事故。



「……ひっく……ご、ごべんな……さい」



 隣で寝ていたサントリナの声を聞き、慌てて抱っこしたまま布団から抜け出す。よし、ギリギリセーフ!

 ユーカリと二人で抱きかかえたまま寝ていたのが、功を奏したようだ。被害は俺とユーカリの服だけですんでいる。



「大丈夫だ、泣かなくていいぞ。昨日は風呂で寝落ちしてしまったからな。シャワーを浴びて洗濯してしまおう」


「おはようございます、旦那様、サントリナちゃん」


「うぅ……ひっく」


「これくらいで怒ったりしませんよ。お風呂でキレイキレイしましょうね」


「私とコハクちゃんは濡れてないから、ベッドで待ってるわ」


「キュイッ!」


「すまない、ちょっと行ってくる」



 俺と密着して寝ているジャスミンとコハクも起きてしまったな。まあいい今日はシャワーを浴びて、そのまま朝食の準備をしよう。


 昨日から家族になった従人たちやフェンネルは、ちゃんと眠れただろうか。そんなことを考えながら階段を降りて風呂場へ。そして浴室内で服を脱ぐ。水を張った桶へ服を入れた頃には、サントリナも泣き止んでいた。



「……おかあさんみたい」


「ふふふ、くすぐったいです。さあ、お湯をかけますよ」


「うん」



 しゃがんで目線を合わせたユーカリが、サントリナをきれいに洗ってくれる。あまりじっと見てないで、俺もシャワーを浴びよう。朝はちょっとした刺激にも反応してしまうからな。そんな姿を幼女に見せられん。


 ぬるめのお湯で心頭滅却だ!



「きれいになった?」


「はい、もういいですよ」


「俺は先に上がって、サントリナを乾かしてくる」


「その後はわたくしもお願いします」



 よし、俺の威厳は守られた。

 サントリナと手を繋いで脱衣場へ行き、自分の髪を簡単に乾かす。さあサントリナ、その可愛い耳の動きで俺を楽しませるがいい。



「あったかいかぜ、おもしろい」


「どうだ、気持ちいいか?」


「ぽかぽかする」



 昨日は眠っていて、感想を聞けなかったからな。気に入ってもらえたようで何よりだ。膝の上に横座りしているサントリナがもたれかかってきたので、抱きしめるような格好で赤外線温風魔法をかけていく。今日はしっぽもよく動いてるじゃないか。牛種(うししゅ)にこれほどの魅力が詰まっているとは思わなかった。モフ値以外を軽視していたこと、反省せねばならん。



「すっかり仲良しになりましたね」


「ユーカリも上がったか。服を着たらそっちの椅子に座ってくれ」



 脱衣場においてある大きめのブラシを手に取り、乾かしながら毛先まで丁寧に整える。水分が飛ぶにつれ、しっぽがどんどん膨らむ。どうしたサントリナ、ユーカリのしっぽに触ってみたいのか?



「やってみたいなら、ブラッシングに挑戦しても構わないぞ」


「いいの?」


「はい、ぜひお願いします」



 俺が渡した小さめのブラシを握りしめ、懸命に腕を動かす姿が可愛すぎる。なにせユーカリのしっぽはサントリナよりデカいからな。彼女の視界に写っているのは、一面金色の世界だろう。



「なんだか娘に世話をされているみたいで幸せです」


「あのね……」


「ん、どうした?」


「タクトおとーさんと、ユーカリおかーさんって、よんでいい?」


「サントリナの父親みたいになってやると約束したからな。その呼び方で問題ないぞ」


「わたくしもサントリナちゃんみたいな娘が欲しかったんです。ぜひお母さんと呼んで下さい」


「ありがとう、タクトおとーさん、ユーカリおかーさん」



 よっぽど嬉しかったのか、ユーカリがクネクネし始めた。ブラッシングがしにくくなるから、あまり動くなよ。



「よし、次は髪の毛を乾かすぞ。サントリナはそっち側を頼む」


「うん」


「こうして旦那様と娘が一緒に髪をすいてくれるなんて、幸せすぎてどうにかなってしまいそうです」



 だから身悶えするなというのに。ちょっと朝から興奮しすぎだ。(はがね)の精神力で耐えきった俺を見習って、お前も我慢しろ。



「終わったら朝食の準備を始めるか。そろそろみんなも起きてくるだろう」


「おてつだいする!」


「じゃあテーブルを拭いたり、皿を並べたりしてくれ。頑張るんだぞ」


「うん!」



 朝一番で心ゆくまでモフモフを堪能し、ジャスミンたちに声をかけてから厨房へ向かう。三人で手をつなぎながら仲良く歩いていると、廊下の奥にある扉が開く。出てきたのはスーツをビシッと着込んだフェンネルだ。朝食のときくらい、ラフな格好でもいいのに……と思わなくもないが、家令であるフェンネルにそれを求めるのは酷か。



「おはようございます、タクト様」


「おはようフェンネル」


「おはようございます、フェンネル様」



 そこでユーカリがサントリナの手を少し引き、ニッコリと微笑む。少しだけ戸惑った様子を見せたものの、すぐにユーカリの言いたいことが伝わったらしい。パッとフェンネルの方へ向き直り、元気よくペコリと頭を下げた。



「あっ! おはよーございます、フェンネルさま」


「おはよう。ユーカリ、サントリナ」


「ちゃんと挨拶できて偉いな、サントリナは」


「えへへへ」



 頭を撫でてやると、ヒマワリのような笑顔に変わる。フェンネルがまるで孫でも見るような目で、サントリナを見ているぞ。従人(じゅうじん)に対してこんな表情ができるようになったということは、かなりこちら側へ傾いたとみて良いだろう。



昨夜(ゆうべ)はよく眠れたか?」


「おかげさまで、朝まで一度も目を覚ますことなく、眠ることができました。このような待遇で迎え入れてくれたこと、皆も感謝しております」


「住環境と食事、そして着るものには手を抜かない。これがコーサカ家の家訓だ」


「こちらとしてはとてもありがたいのですが、くれぐれも無理のない範囲でお願いします」


「まあ今回は一時的な出費だからな。これから徐々に毎月の必要経費が見えてくる。そうなった時に、どこへどれだけ使えるのか、相談して決めよう」


「かしこまりました」



 フェンネルの使うものは別だが、アルカネットたちの部屋においてある家具は、全て在庫のあった量産品だ。しかも一括購入してるので、かなり値引いてもらえた。俺のマジックバッグならあれくらい軽く詰め込めるので、運搬や設置費用もいらないしな。


 実は昨日買った家具全ての値段より、俺とニームが使ってる特注ベッド二台のほうが高かったりする。フェンネルが心配するので、これは黙っておこう。



「フェンネルはこれからどうする?」


「屋敷の点検と、挨拶回りの準備をいたします」


「それなら脱衣所においてある洗濯物を干すよう、誰かに指示しておいてくれ。物干し台は二階のテラスにある」



 他にも細々とした用事を伝えて別れようとしたとき、サントリナが俺たちの手を離れてフェンネルの方へ行く。



「このいえにつれてきてくれて、ありがとうございました」


「タクト様の言うことを聞いて、しっかり頑張りなさい」


「うん!」



 サントリナの頭を撫でるフェンネルの姿、あれは完全に孫と祖父だ。やはりこの男に来てもらって良かった。この様子なら、すぐに俺たちと同じ価値観を持てるだろう。



◇◆◇



 さて、片付けないとならないことが山積みだ。最優先事項はアインパエへ行って、クミンを使用人として雇っていいか、マツリカに相談すること。ついでにマジックバッグを引き取りに行きたい。そろそろ出来上がってるはずだしな。


 しかしフェンネルが戻ってくるまで、ここで待機しておかねば……


 なにせ体調不良のニームを、一人にするわけにはいかん。誰か上人(じょうじん)がついていないと、万が一のときに困る。


 本人は食べ過ぎだと言っていたが、大丈夫だろうか。



「ねえタクト、なにか考え事?」


「クゥーン?」


「上人の使用人を増やさないと、身動きが取れなくなるなと考えていた」


「フェンネル様のご懸念が、当たってしまいましたね。やはりユズ様が来られる前に、人員の確保をしておいたほうが良さそうです」


「ミントの力で、ニーム様を治療できたらいいのですけど……」


「ボクの半分も食べてないのに、お腹を壊したりするんだね」



 いやいやシトラス。お前、三倍以上食ってたぞ。どんぶり飯だけでなく、焼きそばやチャーハンも、しっかり一人前平らげただろ。そういえばお好み焼きもつまんでたっけ……


 それだけ腹に収めておきながら、今朝もお代りしてたしな。きっと鉄の胃袋(アイアンストマック)を持ってるに違いない。



「……お肉、十倍くらい食べてる」


「焼そばに焼き肉のトッピングは、流石にどうかと思うわ」


「焼き肉ってどんな料理にも合うから、仕方ないのさ!」


「締めのアイスクリームが、すごく美味しかったのです。サントリナちゃんは、なにが好きです?」


「おっきなおにく、はじめてたべたけどおいしかった。タクトおとーさんと、ユーカリおかーさんがつくるりょうり、みんなすき」



 俺とユーカリの間に座り、精米機のハンドルをクルクル回していたサントリナが、とても良い笑顔で答えを返す。まったく、素直でかわいい奴め。昼も旨いものを食わせてやるぞ。


 って、ユーカリ。クネクネしすぎだ。いい加減慣れろ。


 そんな話をしていたとき、ミントが廊下の方を注視する。



 ――バァーン



「すぐ来てくださいタクト様! ニーム様のご容態が」


「血がいっぱい出てるの。ニーム様を助けて」


「わかった。一緒に来てくれミント」


「ハイです!」



 慌ててソファーから立ち上がり、ステビアとローリエの後ろをついていく。吐血でもしたのか?


 胃潰瘍や寄生虫、原因はなんだ。内臓などの危険な部位は使ってないし、火もしっかり通して食べた。少なくとも昨日の料理に、体調不良を引き起こしそうなものは、なかったはず。とにかく考えても始まらない。まずは容態をみて、ミントの治療を試してみよう。それでもダメなら学園長に相談だ。


ニームの身に一体何が……

次回「0224話 不調の正体」をお楽しみに!

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