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無能として家から追放されると決めた転生者の俺は、モフモフたちと一緒に第三の人生をエンジョイする  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
0000 1101[第13章]アガ塔よいとこ、一度はおいで

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0221話 今から俺がパパになるんだよオラッ!

 いやー、大満足だ。やはり大人数での食事は楽しいな。最後の方はお好み焼きだけでなく、焼きそばやチャーハンまで作ってしまった。みんなどんだけ食うんだよ。明日の朝はあっさりめの和食にしよう。


 匂いに釣られた連中が道路から覗いていたので、早いうちに挨拶をしておかねばならん。明日の朝一でフェンネルに頼むとするか。



「おーい、風呂に行くぞ」


「すぐ降りるから、ちょっと待ってね」



 (はり)の上でシマエナガたちと遊んでいたジャスミンが、俺の胸へダイブしてくる。どうやら今日は巣の方へ帰るらしい。あまり長時間離れるのは良くないとのこと。風呂はこんど誘ってやろう。



「……あるじ様、早く行こ」


「少しだけ待ってくれ。サントリナも一緒に入るか?」


「ダメです、兄さん。シナモンやジャスミンはともかく、サントリナはフェンネルの従人(じゅうじん)なんですよ。しかも女の子ですからね。入るなら、同性の方が良いに決まってます」



 大人五人くらいが余裕で入れる風呂だから、年少組をまとめて入れてやってもいいんだけどな。まあニームの言うことも一理ある。



「サントリナは誰と入りたい?」


「私でも兄さんでも、他の従人とでも良いですよ」


「・・・・・」



 二人の顔を見比べたサントリナが、俺の服をキュッと掴む。なんというか、本当に庇護欲をそそる子だ。母親の代わりにはなれないが、大切にしてやらねばならん。



「くっ……負けました」


「勝ち負けの問題じゃないだろ。一緒に過ごした時間の差が出ただけじゃないか。ニームならすぐ打ち解けられると思うぞ」


「ねえ! タイムちゃんは、あたしたちと一緒に入らない?」


「うん、ローリエちゃん」



 十歳のローリエと九歳のタイム。年齢が近いだけあって、すっかり仲良しになってるな。



(われ)妹君(いもうとぎみ)友誼(ゆうぎ)を深めたいのだが、構わんか?」


「龍族には興味があるので、色々話を聞かせてください」



 そんな感じで組み合わせが決まっていき、ミントはアルカネットとカルダモン。シトラスがナツメグと。そしてユーカリがパインとマンダリンを誘う。


 入る順番を決めてから脱衣所へ行き、シナモンとサントリナにバンザイのポーズを指示。服と下着を次々抜き取り、自分のものと一緒に汚れ物のかごへ。ジャスミンとコハクを肩に乗せ、二人の手を握りながら浴室へ行く。



「これなに、みずじゃないの?」


「これが風呂だ。溜めてあるのは温かいお湯だから気持ちいいぞ」


「さあ、そこへ座ってタクトに体を洗ってもらいましょ」


「……あるじ様、ぶっかけて」



 四人の体に湯を何度もかけ、浴室内を水蒸気で満たす。水滴が玉のように滑り落ちていく二人と違い、サントリナの肌にはお湯が膜のように張り付く。ろくに体を洗ってないせいで、汚れが固着してしまってるからだ。


 これは少し時間を置いたほうが良いな。体が冷えないよう足の間に座らせ、シナモンとジャスミンを洗ってしまう。



「先に入ってるわね」


「……浮いてくる」


「よし、まずは頭を洗うぞ。石鹸がしみるから、目を開けるなよ」


「うん」



 石鹸をよく泡立て、まずは一回目の洗髪。髪を濡らすと、どうしても指通りの悪さが気になる。子供特有の細くて柔らかい毛が台無しだ。



「くすぐったい」


(つら)いだろうが我慢しろ。今日は念入りに洗わないと、汚れが落ちない」


「うぅぅ……」



 むずがるサントリナを何度もなだめ、清浄魔法も併用しながら体の汚れを徹底的に落とす。モフ値はそれほど高くないが、ピクピク動くうし耳がかわいすぎる。手触りでなく見た目で俺を癒やしてくれるとは、なかなかやるなサントリナ!!



「よし、終わったぞ」


「もういい?」


「俺も体を洗うから、先に風呂へ入ってこい」


「こっちに来てお湯に浸かりましょ」


「……隣、来るといい」



 そそくさと離れていくサントリナを見送り、まずはコハクを泡だらけに。その後、俺も頭から洗っていく。少し嫌われてしまったかもしれないが、心を鬼にしてでもやるしかない。だが頑張ったおかげで子供らしいたまご肌や、サラサラで柔らかい髪の毛を取り戻せた。あとは栄養状態が改善していけば、もっと肌艶や髪質が良くなるだろう。



「どうだ、風呂は気持ちいいか?」


「うん」


「あまり長く入りすぎるのも体に悪いから、頭がボーッとしてきたら遠慮なく言えよ」



 二人の間に腰を下ろし、お湯の中であぐらをかく。左足にシナモンが座ってきたので、サントリナを持ち上げて右足の上へ。コハクが水面を漂いはじめ、ジャスミンは俺の肩に腰を下ろして足湯状態。ぴったり寄り添ってきた二人の高い体温が、体だけでなく心まで温めてくれる。



「将来が楽しみな子ね」


「……触っていい?」


「さっきくすぐったい思いをさせたから、今は勘弁してやれ」



 これで六歳というんだから、なかなか末恐(すえおそ)ろしい。ニームが俺との入浴を阻止したがるわけだ。今後の栄養状態を考慮すると、将来アンゼリカさんを凌駕するかもしれん。



「あのね……」


「ん、どうした?」


「ここでいいこにしてたら、おかあさんにあえる?」



 やはりこの話題は避けられないか。この子の中では母との離別が、まだ受け入れきれないんだろう。しかも別の家へ連れてこられたんだ。もしかしたらと希望を持ってしまうのは仕方ない。



「申し訳ないが俺の力では、お前の母親に会わせてやることは出来ない」


「もう……あえないの?」


「ジマハーリにある販売店から、別の街にある業者へ渡ったみたいなんだ。そうなると足取りを追うのも、買い戻すのも難しい」



 理解できないかもしれないが、フェンネルの調査結果をそのまま伝える。獣人種というのは、親子の関係が俺たちとは大きく違う。大体五歳前後で親離れ、子離れできるのが普通だ。なので六歳から俺に仕えていたミントは、両親と離れていても平気だった。


 同じ六歳のサントリナが親を追い求めるのは、それだけ大切にされていたということか。まったくサーロイン家は、ろくなことをせんな。一等級以外を全員追い出しやがって……


 言葉の意味をしばらく反芻(はんすう)していたサントリナだったが、俺を見つめる瞳がみるみる涙で滲んでいく。



「ひっく……おかあさんに、あいたい……うえぇぇぇぇーん」



 泣き出してしまった小さな体を胸に抱き寄せ、背中を優しく撫でてやる。シナモンも俺と一緒にサントリナを抱きしめ、ジャスミンがこぼれ落ちる涙を拭う。近づいてきたコハクが、元気づけるように鳴き声を上げた。



「母はいないが、今日から家族がたくさん出来た。ここにいるみんなはサントリナの味方だ。父や母のように甘えたり、わがままを言ってもいい」


「おとうさんみたいに……ひっく……なってくれる?」


「ああ、構わないぞ」


「私やユーカリちゃんは、お母さんになれるわね」


「……私、お姉ちゃん」


「おこったり、たたいたりしない?」


「悪いことをしたら怒るが、いい子にしてたら褒めてやる。美味しいものも、いっぱい食べさせてやるからな」


「ふえぇぇーん。おとうさぁーん……おかあさぁーん」



 しばらく俺の胸で泣いていたが、声がどんどん小さくなりやがて途切れる。どうやら眠ってしまったようだ。今日はもう上がろう。湯冷めしないようにしっかり乾かし、ベッドで寝かせてやらなければ。



◇◆◇



 腕の中でスヤスヤ眠るサントリナをベッドに乗せようとしたが、服を握ったまま離してくれない。仕方がないな、このままみんなのブラッシングをしよう。俺にもたれかかるサントリナにブランケットを掛け、コハクを赤外線温風魔法で乾かしながらブラシで撫でる。



「キュゥゥゥーイ」


「今日もよく伸びてるぞ」


「キュゥーーー」



 液状化するコハクは、まるでネコのようだ。シナモンも脇に手を入れて持ち上げると、ビヨーンと伸びるんだよな。伸び率はどっちが上だろう?



「とうとう離れなくなってしまったわね」


「……かわいい」


「子供ができたら、こんな感じかもしれないな」


「将来はそんな仕事をやってみる?」


「仮にブリーダーとかやっても、生まれてきた子を他所にやるなんて、できそうもない。従人が増えていく一方で、商売にならん」


「うふふ、確かにそうかもしれないわ」



 ブリーダーにしろ仲介業にしろ、割り切って付き合えなければダメだ。そんなことが俺にできるだろうか?


 どう考えても無理という答えしか浮かばん。


 従人だけで働ける企業でも作れば別だが、接客業や飲食関係は絶対に無理。そんなものに金を出すのは、一握りの上人(じょうじん)だけ。もちろん娼館なんて論外だし。


 今の社会制度でできそうなのは、傭兵や派遣業だな。その場合、男しか需要はないが……


 そんなことを考えながらジャスミンやシナモンのブラッシングをしていたら、ニームたちが風呂から上がってきた。



「なんですか、この巨大なベッド。本当に兄さんは自重を知りませんね」


「アインパエで作ってもらった。皇居にあるものより大きいんだぞ、凄いだろ」


「挑戦の末たどり着いた納得のベッドだと、職人たちが良い笑顔で主殿(ぬしどの)へ語っていたな」


「うわー、フカフカだー。すごく座り心地がいいから、タイムちゃんもおいでよ」


「いいんですか?」


「遠慮なく上がってこい。良ければブラッシングもしてやろう」


「あっ、タクト様。久しぶりにお願いしていい?」


「おう、いいぞ。こっちに来て座れ」



 ローリエを膝に乗せ、温風魔法を当てながらブラシを通す。さすがニームに毎日手入れされてるだけはある。夕方にモフったナツメグとは雲泥の差だ。



「そうそう、私も三種複合魔法を使えるようになりましたよ」


「今日も気持ちいいです、ニーム様」



 ステビアのやつ、幸せそうな顔しやがって。しかし、こうもあっさりマスターされると、ちょっと悔しいな。まあ小細工で負けないようにしよう。



「凄いじゃないか。三種複合が使えるようになると、応用範囲が大幅に広がる。近い内に炎色反応を教えるから、新しい魔法に挑戦してみてくれ」



 花火は同時に扱える魔法が増えるほど、様々な色を生み出すことができる。ニームなら夜空に大輪の花を咲かせてくれるはず。今年の夏が楽しみになってきたぞ。浴衣も家族全員分を揃えなければ。



「なにせ私も三つ星冒険者になりましたからね。星の数と同じ魔法が使えないようでは、冒険者の名折れです。新しい魔法とやらも、すぐマスターしてみせますよ」


「三つ星ってことは、犯罪者でも捕まえたのか?」


「クミン様に経験値を分配するため、ちょくちょく森へ入っているんです。そのときに二組ほど、ならず者を捕縛しました」


「そうだったのか。大丈夫だと思うが、あまり危険なことはするなよ」


「私の魔力操作で相手の魔法を封じてから奇襲をかけていますし、手を出すのは人数が一人か二人のときだけです。決して無茶はしません」



 そうか、それならまあ安心だな。対魔法戦ならニームの魔眼がチート過ぎる。対策なしで戦うと、なにもできずに敗北だ。


 話を聞くに、どちらもアインパエ(なま)りだったらしい。北方大陸でも密航者の取り締まりが強化されているから、そろそろ南方へ渡ってきた無法者は打ち止めだろう。これからは治安も少しは良くなるはず。


 おっと、ローリエの様子を見て興味が出たらしく、タイムもブラッシングを願い出てきた。充実度が増したブラッシングタイムを堪能しつつ、俺がいなかった間の話をニームから聞く。クミンもかなり回復してるようなので、マツリカに相談して屋敷へ誘ってみよう。善は急げだ、明日辺りアインパエへ行ったほうが良いかもしれないな……


次回は視点を変えて「0222話 タクトの影響力」をお送りします。

屋敷で働くことになったフェンネルとその従人たち、そしてマハラガタカでは……

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