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無能として家から追放されると決めた転生者の俺は、モフモフたちと一緒に第三の人生をエンジョイする  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
0000 1101[第13章]アガ塔よいとこ、一度はおいで

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0220話 歓迎会

 浴室にテーブルを設置し、解体用の道具や手袋を並べる。そして製水の魔道具を使えるように、魔力をチャージしておく。ユーカリの魔術で氷漬けにした、ハリケーンボアとブラウンブルをマジックバッグから取り出し、流水できれいに洗う。血抜きは現地ですませてるから、さっそく解体にかかろう。



「どれも一撃で倒してるので、とても綺麗ですね」


「貴重な肉だから、一切無駄にはできん」


「魔法で倒すと切り傷や焦げ跡だらけで、解体しにくいんですよ。高レベルの従人(じゅうじん)が倒すと少しはマシらしいですけど、きっとこれより状態は悪いと思います」


「槍や剣で急所をひと突きって、かなり難易度が高いからな。どうしても弱らせてから、とどめを刺すことになる。だから傷をつけずに仕留めるには、蹴り倒すか絞めて落とすしかない。それが可能なのは、シトラスとスイくらいだろ」


「暴れまわるハリケーンボアを力ずくでねじ伏せるとか、襲いかかってきたブラウンブルをしっぽで叩きのめすとか、どう考えても普通じゃないですよね」


「まあ太古の力を持った従人や龍族は、それだけ規格外ってことだ」



 話しながら解体を進めているが、ナツメグの手際がとても良いぞ。これって冒険者ギルドの解体師並みじゃないか?



「シナモンがキングオーガをソロで倒してしまったり、いくら何でもおかしいと思うんですが」


「あいつらに魔法は効かないが、シナモンが使う真空斬(しんくうざん)は空気の断層を作って飛ばす技でな、実は物理攻撃なんだよ。最近、連続で出せるようになったから、腕六本程度なら一気に切り落とせる」


「その後に投げ飛ばした技はなんですか? あれってほとんど力を使ってなかったですよね」


「さすがよく見てるな。あれは操氣掌(そうきしょう)といって、簡単に言うと相手の力を別方向へ逸らす技だ」


「従人が炎や氷を生み出したり、火傷や切り落とされたしっぽが元に戻ったり、無茶苦茶すぎますよ」



 今までの常識がどれだけ崩れたか、ナツメグの口から次々と言葉が飛び出す。しかしそれでも全くスピードが落ちない。本当に優秀な従人だな。こんな逸材を見つけてくたフェンネルには感謝しないと。



「内臓はそっちの桶に入れておいてくれ。乾燥させてから廃棄する」


「あっ、それなら肥料にしません?」


「野菜がよく育ったりするのか?」


「上人の方は使わないらしいんですが、魔素が含まれてる内臓を土に混ぜると、植物が丈夫に育つんです。庭にある木や、花壇なんかに撒くといいですよ」


「それは知らなかった。じゃあ粉砕してから裏庭の小屋に入れておこう」



 野人(やじん)たちに伝わる、生活の知恵ってやつなんだろうか。なかなか興味深い話を聞くことができた。屋敷の人員に余裕が出てきたら、裏庭をハーブ園にでもしてみよう。ユーカリが喜ぶに違いない。



「可食部分はこんな感じですね。骨はどうしましょう」


「煮込んでスープにする。一か所にまとめておいてくれ」


「あっタクト様もそれ、するんですね」


「骨からはいい出汁がでるから当然だ。美味いコンソメを作ってやるぞ。期待しておくといい」


「白い水麦(みずむぎ)を食べたり、黒たまりの煮汁( しょうゆ )を使ったり。本当にタクト様の料理は面白いです。でも従人がこんな贅沢をしていいですか?」



 そんなに申し訳無さそうな顔をするなよ。せっかくのトラ耳がペタンと寝てしまってるぞ。同じネコ科の従人だけあって、シナモンやローリエとまったく一緒だな。あとでモフらせてもらおう。



「こんなもの、労働に対する正当な報酬だぞ。同じことを上人なんかにやらせてみろ、いくら金があっても足りん。なにせ俺の要求を一方的に飲ませているんだ、もっと待遇を上げてもいいくらいに思ってる」


「いえいえ、待って下さい。その要求ってちゃんとした服を着ろ、しっかり食事をとれ、読み書きを覚えろとかでしょ。全部、私たちのためじゃないですか」


「例えそうであっても、お前たちの希望を聞かずに押し付けてるのは事実だ。そしてここで働くのが辛くなっても、秘密を守るため解放することが出来ない。いわば終身刑で牢獄に入れられた、囚人みたいなもの。自分たちの境遇がどれだけ悲惨か、わかるだろ?」


「楽園の間違いな気がしますよ?」


「そう思ってもらえるように、待遇に力を入れているわけだ。あとは俺の趣味だな」


「モフリストの考えって、よくわからないなぁ……」



 一気にモフモフたちが増えて、俺がどれだけ歓喜に打ち震えてるか、わからないだろ。しっぽをフリフリ揺らしながら、メイド服姿の従人が仕事をする屋敷とか最高すぎる。長年の夢が、今ここに叶おうとしているのだ!!



「コーサカ家での生活は、まだ始まったばかり。ゆっくり慣れていけばいい。そんな訳で、軽く汚れを落としてから風呂に行くぞ。二人とも血で汚れてしまってるからな。しっかりお湯で流して着替えないと、飯を食うことなどできん」


「わっ、私もお風呂に入るんですか?」


「一緒に入れとか言わないから安心しろ」


「普通は水をかけられて終わりなのに、待遇がいいにも程があります。ちょっと怖くなってきました」



 体を要求したりしないから怯えなくていいぞ。風呂上がりにしっぽと耳を、モフらせてもらうけどな。濡れたままで脱衣所から出られるとは思わないことだ。覚悟しておけ。



◇◆◇



 庭に並べたテーブルの上へ、焼肉用の鉄板を四台置く。それぞれ最大まで魔力をチャージして起動。脂身を馴染ませながら食材の到着を待つ。するとユーカリたちが肉や野菜、そして握り飯の乗った大皿を、次々運んできた。


 いつもの反応を見せるシトラスだけでなく、アルカネットとパインのしっぽも揺れてるな。やはり犬種(いぬしゅ)狼種(おおかみしゅ)のしっぽは最高だ。遠慮せず腹いっぱい食えよ。


 さて、これも当主の努め。面倒だが開会の挨拶をするか。コーサカ家に籍を置くニームを呼び寄せ、みんなの前に立つ。



「今日は長距離の移動、ご苦労だった」


「普通はジマハーリから、半日で来ることは出来ません。わかってますか?」


「挨拶の途中でツッコミを入れるな」


「はいはい。わかりました」


「ハイは一回でいい」



 ニームのやつ、俺に対する遠慮がどんどん無くなってるな。



「とりえあず形式にのっとり、改めて名乗っておく。俺が屋敷の主人であり、当主のタクト・コーサカだ」


「私が妻のニーム・コーサカです」


「待て、妹だろ」


「さっき挨拶の途中で突っ込むなと注意したのは、あなたですよ。余計なことを言わず、続けて下さい」



 ニヤけた顔でこっちを見やがって。ステビアの視線が痛いから、あまり変なことを言うんじゃない。



「まだ十六歳という若輩者だが、様々な出会いと幸運の積み重ねがあり、ワカイネトコで居を構えるに至った」


「聖女様をたぶらかして手に入れるとか反則だ、なんて気持ちは心の中に仕舞っておきましょう」


「慣れない土地で苦労すると思うが、コーサカ家に来てくれたこと感謝する」


「場所がどうのこうのより、訪ねてくる人物が普通じゃないという考えは、忘れたほうが身のためです。学園長先生もちょくちょく遊びにいらっしゃるでしょうから」


「人が真面目な挨拶をしてるのに、変な合いの手を入れるなよ」


「そうは言いますけど、ここはそんな堅苦しい家じゃありませんよね?」


「……確かにそうだな。ちょっと気負いすぎていたのかもしれん」



 これまでは気ままに旅をして、適当に稼いでいるだけで生活できた。しかしこれからは、フェンネルや使用人を養っていかなければならない。そうしたプレッシャーで自分らしさを見失いかけていたか。


 やはりなんだかんだで、ニームはよく出来た妹だ。それに気づかせてくれたからな。



「ほら、兄さん。いつものノリでいきましょう」


「ああ、ありがとうニーム。とにかくコーサカ家に来てくれたみんなは、俺やニームの家族だ。序列や上下関係は無しで、楽しくやっていこう。今日は思う存分、飲んで食べてくれ!」



 鉄板に肉や野菜を並べ、ガンガン焼いていく。タレは果物をたっぷり使った甘めのもの。少し濃い目のピリ辛味。黒たまりの煮汁( しょうゆ )ベースのタレに、白根(だいこん)おろしと果実酢を加えた、おろしポン酢風味。そして新作の味噌ダレだ。



「このタレおいひー! ミソってホント、お肉に合うよね」


「すりつぶした白種(しろごま)が入っていて、風味がとてもいいです」



 さっそくシトラスとユーカリが味噌ダレを使っている。どんぶり飯の上に焼き肉を山ほど乗せ、夢中で食べるシトラスのしっぽが大暴れ。速すぎて目で追えない。



「ほらサントリナ。この部位はサシが入っていて、柔らかいぞ」


「ありがとう。はむはむ……ほいひぃ」



 霜降りの部分を軽く焼き、甘めのタレにつけてサントリナに差し出す。だいぶ話をしてくれるようになったな。この調子で打ち解けていこう。



「マンガ肉が焼けたようだ。食べてみるか?」


「……食べる」


「中が熱いから気をつけろよ」


「……あふうま」



 骨が大量にあったら作るしかないよな、マンガ肉を! ミンチにして骨の周囲に形成したハンバーグなのだが、それっぽい雰囲気に仕上がった。蓋をして蒸し焼きにしてるから、中まで火は通ってるだろう。



「ミントもそれ、食べたいのです」


「味が付いてるから、タレは必要ないぞ」


「いつものハンバーグよりプニプニしてるです」


「型崩れしないよう、白イモ粉(かたくりこ)を使ってるんだ」


「すごく美味しいのです!」


「ジャスミンにはバーベキュー風のミニ串焼きをやろう」


「これすごく食べやすいから嬉しいわ」



 錬金術で作った小さなテーブルの上に、野菜と肉が交互に刺さった串焼きを置く。最後にタレを付けて軽く焼いてるので、香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。小さい串と格闘するジャスミンは可愛すぎるぞ。



「主殿よ、我にもおすすめを頼む」


「スイはまだ、お好み焼きを食べたことなかっただろ」



 ヘラで豚玉を切り分け、少し冷ましてからスイの口もとへ。一口でパクリと平らげたスイの顔が、パッとほころぶ。メシ代わりに少しだけ焼いておいて良かった。



「肉もうまいが、これもなかなか。そこにあるものを一枚もらっても構わんか?」


「材料はまだあるから、遠慮せず食え」



 フェンネルやアルカネットたちも、色々なものに手を付けているようだ。俺はシナモンやサントリナに給餌(きゅうじ)しながら、新しいものを次々焼いていく。あれだけあった材料が、かなり少なくなってきたな。さすがにこの人数だと、消費される食材も半端ない。



「兄さん、兄さん。このミソって調味料、どこで手に入れたんですか?」


「これはアインパエの郷土料理だ。ただ生産量があまり多くなくてな。どうやって増産しようか悩んでいる」


「兄さんにも作れないなんて、かなり難しい料理なんですね」


「そっち方面の知識が、ほとんど無いんだよ。発酵と腐敗は線引きが難しいから、俺みたいな素人には手が出せん」



 前世でも味噌や納豆は、市販のものを買っていた。自家製味噌を作るキットなんかにも、手を出したことはない。しっかり学んでおくべきだったな。時間を作って生産者がいる街へ行ってみるか……



「ミソ漬け肉ってすごく美味しいからさ、ステビアとローリエも食べてみなよ」


「ミソシルはご飯によく合う飲み物ですよ。明日の朝に作ってみますから、楽しみにしておいて下さい」


「わーい。ありがとう、ユーカリちゃん」


「ミソ漬けにしたお肉というのも、興味があります」


「そちらは時間がかかるので、少し待っていただけますか」



 ステビアとローリエも味噌の(とりこ)か。焼肉のタレも味噌が一番減ってる。これは本格的に自作を考えねばならん。この人数だと在庫があっという間になくなってしまう。


 味噌ダレの焼きおにぎりを作りながら、アインパエ訪問の計画を練る。とりあえず、みんな満足しているようで何よりだ。焼肉パーティーにして正解だったな。


新しい従人との絆を深めようとする主人公。

しかし入浴中に泣かれてしまう……

次回「0221話 今から俺がパパになるんだよオラッ!」をお楽しみに!

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