表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/274

0022話 先輩後輩の顔合わせ

 指輪で玄関のロックを解除しようとしたら、なにも反応がなかった。ということはシトラスが家にいるはず。自由行動にしていたが、出かけなかったのだろうか。



「お前の先輩になる従人(じゅうじん)が中にいるようだ。説明してくるから、ここで少し待っていろ」


「はいです。緊張するです」


「別に取って食われるわけじゃない。根はいいやつだから、そう緊張するな。少し従人らしくない言動をするが、そのぶん気兼ねなく一緒に暮らせると思うぞ」



 まあ家の外に出るのは初めてなうえ、その後は従人販売店をたらい回しにされている。もともと人見知りはないはずだし、不安が募って気弱になっているみたいだな。


 とりあえずミントを玄関に待たせ、俺は扉を開けて中へ進む。



「ただいま、シトラス」


「あっ、おかえり」



 うーん、やっぱり家で誰かが帰りを待っているというのは、実に素晴らしい。



「今日は出かけなかったのか?」


「なんか一人で街を歩いても楽しくなさそうだし、屋台のご飯って美味しくないから、キミの帰りを待ってたのさ」



 こいつはなんでこう、いちいち可愛いことを言うんだ。俺を萌え殺す気か。



「なら食後にどこかへ出かけるのもいいな」


「それもいいんだけど、新しい子って見つかったの?」


「ああ、お前と同じ四等級を見つけたので契約してきた。兎種の従人だが、仲良くしてやってくれ。おい、入ってこいミント」



 外で待たせていたミントがおずおずと扉をくぐり、勢いよく頭を下げる。ふむ、長い耳というのもいいものだな。しっぽにはない魅力を持つとは、新しい発見だ。



「ミントです。十二歳です。よろしくおねがいしますです、シトラスさん」


「あー、ちょっといいかな?」


「なんだ?」


「自首するなら今のうちだよ」



 なにを言ってる、こいつは。ミントはちゃんと正規の方法で契約したんだぞ。たしかに見た目は幼女だが、そもそも小柄な穴兎(あなうさぎ)なんだよ。こいつの母親だって、まだ十代に見える容姿だしな。



「前に言ったと思うが、俺がもう一人知っているという、特殊な数値を持った従人がこいつだ。運良く売りに出されていたから契約しただけで、それ以外の意図も目的もない」


「ふーん。キミのことだから、その長い耳をモフりたいだけかと思ったよ」



 良くわかってるじゃないか。さすが毎日、俺の愛を受け続けてきただけはある。



「タクト様とシトラスさん、とても仲良しなのです。ちょっと羨ましいのです」


「シトラスとは毎晩、同じベッドで寝る仲だからな」


「オトナの関係なのです!」


「ベッドが一つしかないんだから、仕方ないだろ! そもそもキミが一晩中、ボクのことを離してくれないんじゃないか」


「ラブラブなのです!」



 墓穴を掘ってるぞ、シトラス。俺は抱き合って眠るなんて一言もいってない。



「とりあえず立ち話をしてても仕方ないし、まずは飯にしよう。今から簡単なものを作ってやる、少し待っていろ」


「あの……タクト様がお作りになるのですか?」


「もちろんそうだぞ」


「ミント、なにかお手伝いするのです」



 申し出はありがたいが、こいつに刃物なんか持たせると危険だ。転んだ拍子に後ろから刺されかねん。それに料理を運ばせると、なにもない所でつまずいて床にぶちまけるだろう。なにせ前科持ちだからな。



「シトラス。こいつにも水麦(みずむぎ)の精白を教えてやれ。今日から一人分増えるし、丁度いいだろ」


「はいはい、わかったよ」


「ハイは一回だ」



 あれなら棒で突くだけだし、失敗する要素がない。仕事を与えないと気に病みそうだから、時間のかかる精白作業はうってつけ。我ながらナイス采配だ。



「あの、シトラスさん。〝せいはく〟とはなんです?」


「茶色い水麦を白くする作業だよ。根気のいるつまらない仕事だから、覚悟しておくんだね」


「よくわからないですけど、頑張るです!」



 これで料理に集中できる。

 さて簡単に作れるメニューだが、ミントも間違いなく精白した水麦を食べたことがない。ちょうど昨日の収穫品があるので、食べやすい丼ものにしてみよう。



◇◆◇



 砂糖と黒たまりの煮汁( しょうゆ )だけでも作ることはできるが、やっぱり出汁になる食材はほしいな。森で黒茸(しいたけ)が手に入ったら、干してみるか。



「二人とも、昼飯ができたぞ」


「今日はどんなご飯?」


「昨日、森でみつけたコッコ鳥の卵と肉を使った、親子丼だ」


「こんな料理、見たことないのです。黄色と白がすごくきれいですよ」


「俺は箸を使うが、お前たちはスープンで食べるといい」



 雑貨屋で買った木材を加工した箸は自分の前に置き、二人にはスプーンを渡す。丸ネギ(たまねぎ)もいい具合に煮えているし、半熟の卵もうまい。やはり新鮮な卵を使えるというのは、料理の幅を大きく広げてくれる。なにせ念願のマヨネーズができたしな!



「うんうん、やっぱりキミの作る料理が一番だよ。これで性格が良くて変態じゃなければ、最高なんだけどね」


「一言多いぞ、シトラス」


「ふわー、すごく美味しいのです! お肉が塊で入ってるですよ」


「ここのところ森でレベル上げをしていたから、肉が現地調達できるんだ。全部シトラスのおかげだぞ」


「ありがとうです、シトラスさん」



 お礼を言われ慣れてないシトラスが、こめかみをポリポリかきながら照れまくってるじゃないか。めったに見られないレアな表情をゲットだぜ。



「ボッ、ボクの顔を変な目で見るのは、やめてくれないかな」



 おっと、視線に気づかれてしまった。ちょっとニヤニヤしすぎたようだ。



「この白いつぶつぶが水麦なのですか? シトラスさんに聞いてたですが、こんなに美味しくなるなんて驚きです!」


「さっきやってもらった精白作業は、水麦をこうして食べるために必要だ。毎日しっかりやるんだぞ」


「はいです!」



 今日もシトラスのしっぽは元気に揺れているし、ミントの顔も嬉しそうにほころんでいる。やはり温かくて美味しいものを食べると、不安なんて吹き飛んでしまう。衣食住の力というのは、本当に偉大だな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ