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無能として家から追放されると決めた転生者の俺は、モフモフたちと一緒に第三の人生をエンジョイする  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
0000 1101[第13章]アガ塔よいとこ、一度はおいで

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0217話 フェンネルの覚悟

 ミントの治療が終わり、全員が唖然と(たたず)む。ボリジの魔法暴発に巻き込まれ、カルダモンの可愛らしさを台無しにしていた火傷痕(やけどあと)。チャービルが腹いせで切り刻んだ、タイムのネコ耳としっぽ。どちらもすっかり元通り。


 それだけでなく、アルカネットの手荒れやナツメグの打撲痕(だぼくこん)。過度なスタイル矯正でマンダリンに残っていた後遺症、そしてフェンネルの関節痛まで消え去った。


 よしよし。よく頑張ったぞミント。すぐ昼飯にしてやるからな。


 サントリナを森のくまさんに預け、抱きしめたミントを撫でながら、レジャーシートや弁当箱を取り出す。黒い重箱の中には、ぎっしり詰め込まれた大量の握り飯。赤い重箱の方は唐揚げやハンバーグ、魚の煮付けにエビフライと卵焼き。白い重箱を鮮やかに彩る、野菜やカットフルーツたち。


 それを見たシトラスのしっぽが盛大に揺れる。今日も元気で実によろしい!


 携帯コンロのお湯が沸き、ユーカリがフリーズドライの野菜スープを作り始めた。俺は人数分のおしぼりを、電子レンジ魔法で加熱する。



「準備ができたから、全員座れ。いまから昼飯にするぞ」


「今日からお仕えする方は、我々の想像が及ばない場所にいる。驚くことばかりだが、諦めて受け入れなさい」



 言い方はちょっとアレだが、フェンネルの号令でアルカネットたちが動く。俺は魔力経由で、森のくまさんに食事を楽しんでもらわねばならん。足の間に座らせてもらおう。


 森のくまさんが抱っこしていたサントリナを、自分の左足に座らせる。それを見ていたシナモンは、肩から降りてクマの右足へ……


 よし! シトラスのしっぽが千切れ飛ぶ前に準備完了だ。



「こっちは薄藻(わかめ)ご飯で、こっちはコッコ(ちょう)そぼろの混ぜご飯だ! ろっちも、おいひぃー」


「サントリナも遠慮せず食え」


「いい……の?」


「ほれ。この俵型なら、お前でも食べやすいだろ」



 周囲に海苔を巻いた筒状の握り飯を渡す。恐る恐る口にした瞬間、不安そうだった顔がパッとほころぶ。子供は笑顔が一番。いっぱい食べて大きくなれ。



「混ぜ込んでいるのは、塩漬けにした長葉(ノザワナ)だ。旨いか?」


「うん」


「こちらのおにぎりにはアインパエで水揚げされた、赤魚(シャケ)のフレークが入っています。わたくしのイチオシですから、タイムさんもどうぞ」


「あ、ありがとう」


「これはミントが大好きな、ハンバーグなのです。アルカネットさんもカルダモンさんも、食べてみてくださいです」


「私のおすすめは、このポテトフライよ。ケチャップにつけて食べると絶品なの。若い子に人気だから、ナツメグちゃんも食べてみたら?」


「ほれ、パインとマンダリンも遠慮するでない。主殿(ぬしどの)とユーカリの作る料理は、どれも美味だぞ」



 俺の従人たちに勧められ、ようやくみんなが料理を口にする。遠慮なんてしてたら、メシにありつけないぞ。シトラスを見てみるがいい。両手に握り飯を持ち、唐揚げを三ついっぺんに口へ放り込んでるだろ。


 俺はおかずをいくつか小皿に取り、箸で小さく切ってからサントリナへ差し出す。



「肉もたくさん食え」


「はむはむ」


「野菜もバランスよく()れよ」


「はむはむ」



 なんか出会った頃のシナモンを思い出すな。やはり子どもが美味しそうに食べる姿を見るだけで、俺の心は満たされる。


 そんなことを考えていたら、こちらを見るシナモンの視線に気づく。サントリナの世話ばかりで悪かったな。ほれ、タルタルソースをたっぷり乗せたヒゲナガフライ(エビフライ)だぞ。



「口を開けろ、シナモン」


「……あ~ん」


「タウポートンのヒゲナガ(エビ)は大きくて食べごたえがあるだろ」


「……うまうま」



 天使の微笑みを眺めながら、俺も弁当をつまむ。コハクと森のくまさんも機嫌が良さそうで何よりだ。



「タクト様は、いつもこのような食事を?」


「肉と野菜、そして卵や果物類は、それなりの量を自前で調達可能。そして主食にしている水麦(みずむぎ)は、とにかく安価。なので低コストで作れる分、品数と量に全振りしてる。今日は魔獣を数体狩れたから、夕食にも期待しておくといい。引っ越し祝いってことで、焼肉パーティーにするか?」


「やったー! ボク、夜もたくさん食べるぞー」



 ホコリが立つから、座ったまましっぽを振るんじゃない。屋敷には従人の水浴びに使っていた浴室がある。そこを解体所にして、ナツメグと一緒に捌くか。



「家族の衣食住には手を抜かない、それが我が家のモットーだ。少し時間をもらうことになるが、全員の制服を支給する。家で働く時は、基本的にそれを着てくれ」



 全員にメイド服を着せてやるぜ! 覚悟しておけ。



「街へ着いたら全員で生活に必要なものと、私服を買いに行くぞ。そっちは支度金として、俺が全額負担する。みすぼらしい格好で生活するなど絶対に許さん。あと、月に六日以上は必ず休暇を取れ。シフトの作成はアルカネット、お前に任せる」


「わっ、わかりました」


「みんなには毎月、給金を出すからな。読み書き計算ができるようになったら、自由に使って構わない。それまでは積み立てておくので心配するな。金の管理はフェンネルに任せるぞ」


「承知いたしました」


「それとフェンネルには、マッセリカウモ国で働く家令長と、同じ水準を出そうと思う。それで問題ないか?」


「サーロイン家で頂いていた給金の倍近くになりますよ。さすがにそれは……」


「東部大森林で荒稼ぎしてるくせに、あそこの才人(さいじん)どもは金払いが渋すぎるんだよ。屋敷のほぼ全てを任せるんだから、それくらい受け取ってもらわないと困る」



 マジックバッグから簡単なバランスシートと、キャッシュフローの一覧を取り出し、フェンネルへ手渡す。



「こっ、これほどの資産と収入源をお持ちとは驚きました」


「ある程度の蓄えは自分で管理するが、それ以外の資産をお前に預ける。屋敷の維持管理や、使用人たちの快適な生活。ニームの学費と生活費。そして税金等を、そこから工面してくれ」


「やりがいのある役目を頂き、感謝します。コーサカ家の一員として、タクト様の期待に応えてみせましょう」



 どうやら俺の家に骨を(うず)める覚悟ができたらしい。歴史ある一族なのに家名を持たない理由は、他家に尽くすため。そんなフェンネルが〝コーサカ家の一員〟と言ったんだ。これでなんの心配もなくなった。


 待遇の良さに愕然としている従人たちを眺めつつ、雑談をしながら食事とデザートを存分に味わう。食べ終わったら屋敷へジャンプだ。シマエナガたちが待っている。



◇◆◇



 森のくまさんに別れを告げ、聖域渡りで自宅の庭へ。俺の姿を見たシマエナガたちが群がってきた。今日もモフモフで可愛いぞ!


 やはり聖域から直接戻ってこられるのは最高すぎる。大量の蜂蜜をもらってしまったし、オレガノさんにおすそ分けするか。アインパエへ持っていってやるのもいいな。



「さあ今日からここが、お前たちの職場だ」


「驚きません、もう驚いたりしませんよ。なにせタクト様のやることですから。フッ、フフフフフ……」



 おーいアルカネット、変な笑い方をするなよ。サントリナやタイムが怯えるだろ。



「やはりこの広さになると、今日連れてきた者だけでは、手が足りないかもしれません」


「洗濯なら俺とニームが魔法で手伝えるし、掃除は毎日隅々までやる必要はない。あとは一人、ここへ来てくれそうな上人(じょうじん)に心当たりがある。親族に相談してから、打診してみよう」


「屋敷に常駐している上人が私だけというのは、タクト様が保護する方のためにも良くないと思います。そちらの件は最優先でお願いできれば」


「料理はマンダリンと……あとは、もう一人くらい欲しいな」


「あの、タクト様。少し心得がありますので、よろしければ私が」


「パインも料理ができるのか」


「はい。集落にいた小さな子供の面倒を、見ていたことがありますので」


「それなら俺とユーカリの二人で、お前たちに料理を仕込んでやる」


「「よろしくお願いします」」


「ひとまず無理のない範囲でやっていくぞ。張り切りすぎて体を壊したんじゃ、話にならないからな」



 主要な家具は一通り運び終えているし、とりあえず中をざっと見てもらおう。そこで足りないものを聞き、街へ買い物に出発だ。そんな予定を伝えながら、屋敷の玄関を開ける。



「おかえりなさいませ、タクト様」



 なんでここにいるんだよ。というか、どうやって来た。何日も大聖堂を留守にしたら、大問題になるだろ……



「あらら、ラズベリーちゃんじゃない。遊びに来たの?」


「ちょっと報告もあったし、屋敷の感想も聞きたかったから、来ちゃった」



 来ちゃった……じゃない!

 てへぺろポーズが似合い過ぎだぞ、そこの純血エルフ(ハイエルフ)



「つい最近、耳にしたお声だと思うのですが、まさか……」


「心して聞いてくれ。この人がダエモン教の聖女、ラズベリーだ」


「「「「「……えーっ!?」」」」」



 フェンネルとその従人たちが、盛大に固まってしまう。

 まあ……そうなるよな。


聖女がここまで来た方法とは?

次回「0218話 聖女と街へ」をお楽しみに!

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