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無能として家から追放されると決めた転生者の俺は、モフモフたちと一緒に第三の人生をエンジョイする  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
0000 1101[第13章]アガ塔よいとこ、一度はおいで

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0212話 召喚者

 更に階層を一つ上がり、教団の重要施設が集まる廊下を歩く。どうやらここが尖塔を支える、土台部分の最上階になるらしい。窓から見ると聖堂の屋根より少し上だ。景色がよく見えるので、シナモンのテンションも上昇中。本当に高い場所が好きだな……



「こちらで召喚された方を保護しています」


「……タクト様。さっきからずっと悲しそうな声が聞こえてくるです。なんとかしてあげて欲しいのです」


「ああ、わかってる。俺に任せておけ」



 ここまで近づけば俺にも聞こえる、若い女性のすすり泣きが。やっぱりラノベやゲームとは違って、現実は厳しいらしい。その手のお約束がないとか、サービスが悪すぎるぞ。この世界の神は仕事をサボりすぎだろ。



『〔ひっく……家に帰してほしいっす。スマホを取り上げられてログボはもらえないし、最悪っす〕』



 気持ちはわかるが、この世界にモバイル回線はない。どこかのラノベみたいにネット通販が使えたり、チート機能付きのスマホを持ってるなら別だがな。


 まあいい、ちゃんと相手の言葉は聞き取れている。あとは俺がうまく発音できるかだけ。



 ――コンコン



『〔だっ、誰っすか!? 自分は世界を救う力なんてない、ただの一般人っす。チート能力を持ってたり、ステータスが見えたりしないっすよ〕』


「〔んんっ……あー、あー。俺の言葉がわかるか? 世界を救えとか言わないから、まずは落ち着いてくれ〕」



 ――ガチャッ!



「〔もしかして日本人っすか! 自分のことを助けに……ヒィィィィッ!?〕」



 扉を開けた女性が、俺の顔を見て尻餅をつく。髪は青いし日本人とは顔つきも違う。だが、そこまで驚かなくてもいいだろ。


 それにしても……黒縁(くろぶち)の野暮ったい眼鏡に、白いラインが入ったエンジ色の芋ジャージ。年齢は十台後半から二十歳くらいに見える。ダークブラウンの髪が乱れてるのは寝癖か? 素材が良いだけにもったいない。



「キミの怖い顔を見て怯えちゃってるじゃん」


「ちょっと目つきは鋭いですけど、襲われたりしないのですよ」


「……ご飯、美味しい。だからいい人」


「ベッドの上でも優しいですから大丈夫です」


「最近は上人(じょうじん)が相手でも普通に付き合えるようになってきたわね」


(われ)のしっぽを情熱的に磨き上げてくれる御仁だ」


「キュ、キューイ」



 お前ら、ちょっとは言葉を選べよ。まあ相手に通じてないから、良いんだけど……



「〔おぉぉー……ケモミミっ()や、妖精みたいな()がいるっす! ほんとに異世界なんっすね、ここ〕」


「〔日本からの転移者だよな?〕」


「〔そうっす。突然知らない場所に飛ばされたっすよ。もしかしてお兄さんはアレっすか?〕」


「〔俺は日本人の転生者だ。とりあえず、あんたをどうこうするつもりはないから、安心してくれ〕」



 シトラスたちを見て落ち着いてくれたようなので、言葉が通じたことを学園長たちに伝え、まずは自己紹介から始める。いやー、さすがモフモフパワーは凄い。現代日本人には効果てきめんだな!



「〔じゃあ名前は立花柚子(たちばな ゆず)で、二十歳の日本人大学生。近所のスーパーへ買物に行こうとしたら、突然目の前が暗くなって気を失った。そして気づいたら、この部屋だったと〕」


「〔女の人がなにか説明してくれてるっぽいのに、話してる言葉がまったく判らなかったっす。異世界転移って、翻訳機能はデフォじゃないんっすか?〕」


「〔俺は転生してこっちの言葉を覚えたし、転移者と会ったのも今日が初めてだ。そのあたりのシステムはよく知らん〕」



 通訳しながらオレガノさんをちらっと見るも、目線で知らないと答えを返す。日本からの転移者であろう祖父がどうだったのか、まったくヒントがないようだ。



「〔カーテン越しで顔も見せてくれないし、やたらセキュリティーの高そうな場所だし。ここって悪の秘密結社とかじゃないっすよね?〕」


「〔ここは宗教団体の総本山にある、重要施設が入る場所だ。悪の組織とは違うから安心しろ。改造人間にされたりしないし、バイクに乗って戦う必要もない〕」


「〔おぉぉー。自分が暮らしてた時代と同じタイミングで、生まれ変わったんっすね〕」


「〔とりあえず今後どうするか聖女に聞いてくる。もうしばらく待っていてくれ〕」


「〔できればタクトさんに保護してもらいたいっす〕」


「〔わかった。その方向で話を進めてみよう〕」



 教皇にその旨を伝えようとしたとき、ユズの腹から小さな音が鳴る。緊張が解けて、腹でも減ったんだろう。仕方がない、握り飯とほうじ茶を出してやるか。


 マジックバッグから包みを取り出すと、シトラスの顔が絶望に染まっていく。今夜は味噌漬けの肉を焼いてやると言ったよな。水麦(みずむぎ)も大量に炊くから、それまで我慢しろ。



「〔これ、おにぎりじゃないっすか! 食べていいんっすか?〕」


「〔腹が減ってるんだろ? 遠慮せず食え〕」



 嬉しそうに包みを開くユズを残し、俺たちは謁見の間へ向かう。さっき聖女が召喚したと言った理由、しっかり問いただしてやらねばならん。ここは勇者に助けを求めるような、殺伐とした世界じゃない。それに話を聞く限り、トラックに()かれたわけでもなさそうだ。


 教皇にそれとなく(たず)ねてみても答えは返ってこないし、一体どんな秘密を抱えているのやら……



◇◆◇



 再び謁見の間に集まり、さっき聞いた情報を報告する。それにしても聖女のやつ、妙に落ち着きがないな。こちらへ近づいてきたり遠ざかったり。挙句の果てにカーテンの中をぐるぐる歩き出す。もしかしてスケジュールが押してるんだろうか?



「問題なく意思の疎通が図れた上に、食事の提供まで。本当に感謝します」


「彼女はここを非合法組織と勘違いしていた。出された食事も警戒して、ほとんど口にできなかったみたいだからな」


「誤解が解けたようで何よりです。彼女に倒れてもらっては困りますから」


「ユズの精神面や生活スタイルを考慮したら、俺の方で保護するのが一番だと思う。引き渡しは可能か?」


「申し訳ございません。その申し出はありがたいのですが、現時点では承服しかねます」


「さっきユズを召喚したと言った。その理由が関係しているんだな」



 カーテン越しの聖女が大きく息を吐く。もしかすると、かなり言いにくいことかもしれない。だがこれを聞いておかないと、今後の予定が立てられん。聖女の言葉通り時間が経てば、引き渡しが可能になるかもしれないしな。



「これから話すことは、他言無用でお願いします」


「タクト君と彼が使役しておる従人(じゅうじん)なら大丈夫じゃよ。伊達に流星ランクシューティング・スターは名乗っておらん」


「……実は私のもとに天啓が降りてきたのです」



 どうやら聖女になる条件が、スキルを持った者というのは確かのようだ。きっと何かしらの術を使って情報を得てるんだろう。


 なにせ俺のギフトで表示される支配値は〝1111 1111 0000 0000〟、十進数で表すとマイナス二百五十六(-256)になる。魂の輝きという概念で捉えられるスイが反応したのも、十六ビットの桁数に加え数値が人とは違うから。


 まったく……正体が気になって仕方がないぞ!



「どんなお告げだったんだ?」


「私が知覚できる天啓は具体性に欠くのですが、徐々に大きくなる波のイメージとともに、〝青の厄災が世界を飲み込む〟というメッセージが頭に浮かんでいます」


「つまり、この世界に危機が訪れると」


「私も同じように解釈し、その厄災を鎮めようと、祭壇で祈祷を行いました。その結果、彼女が召喚されてしまったのです」


人身御供(ひとみごくう)寄越(よこ)したとしても、我の破壊衝動は収まらなかったぞ」


「……へっ!?」



 そういうオチか!

 あのまま暴れまわっていたら、北方(ほっぽう)だけでなく南方大陸(なんぽうたいりく)にも影響を及ぼしていたと。あのときスイが「世界を救った」と口にしたのは、あながち間違いではなかったのかもしれん。



「あー、なんだ。人の姿をしているが、こいつの正体は青龍だ」


「我の名は北方大陸を守護する青龍、エストラゴン。今は人の姿に変身し、主殿(ぬしどの)から授かったスイという名前で活動している」



 ――バッ!!



「神よ」



 カーテンを開け、聖女が飛び出してきた。そしてスイの前で五体投地の礼をする。見た目は十七歳くらいだろうか。明るい緑色の髪と、深みのある赤くてきれいな瞳。そして最も目を引くのは、顔の横から伸びる長い耳だ。



「なるほどエルフ族なら色々納得できる。この数百年、常に聖女が存在していたのは、悠久に近い寿命を持っているからだな」


「……あっ」



 そそくさとカーテンの中へ戻ろうとするな。全員にバッチリ目撃されてるし、今さらもう遅いぞ。



「こんなところで教団の最高機密に触れてしまうとは、人生なにが起きるかわからんものじゃ」


「次から次へと騒動を呼び込むのは、実にタクトらしいな」


「今日は驚くことばかりです」


「あー、うー……どうしよう、ルバーブ」


「諦めて下さい、聖女様。そのお姿だけでなく、長寿の秘密までバレています」


「言いふらしたりしないから安心してくれ」



 全身を床に投げ出したせいで、服が茶色くなってるじゃないか。ふくらはぎまである長いベールやドレスが白いから、やたら汚れが目立つ。仕方がないので一言断りを入れ、生活魔法でさっと落とす。



「あの……ありがとう」


「気にするな。それより異世界から来た転移者でいいんだよな?」


「うん、そう」


「しかし聖女の在籍期間から考えても容姿が若すぎる。普通のエルフではなく、ハイエルフやエンシェントエルフ、あるいはエルダーエルフといったところか。ファンタジーな存在と会えて嬉しいよ」


「怖かったり……しない?」


「少なくとも俺にとっては、創作物でよく目にする存在でしかない。怖いどころか、できれば仲良くなりたいくらいだ」



 なにせ特殊な支配値を持っているし、発現したスキルにも興味がある。たとえモフ値がゼロでもエルフだぞ、エルフ! これまで架空の存在だと思っていた種族に会えたんだから、テンションだって上がるというもの。


 部屋にいるメンバーは、誰一人として奇異の目で見ていない。なのでここからは対面の話し合いに移行し、互いの自己紹介からやり直す。俺の方はユズと同じ世界からの転生者であること、聖女の方からは森に覆われた星から来た純血エルフ(ハイエルフ)であると教えあう。なんでも寿命は千年を優に超え、星の指導者的種族だったらしい。



「私がいた世界だと龍は神の化身で、万物(ばんぶつ)(ことわり)()べる存在なの」


「我にそこまで力はないぞ。せいぜい天候を操れるくらいだ」


「それだけでも凄いだろ。なにせスイがいれば、干ばつ被害を回避できるからな」



 嬉しそうな顔をしながら、頭を差し出しやがって。ほれほれ、これで満足か?



「もう一度確認したいんだけど、スイ様は従人として生活してるのよね?」


「主殿よ、リードを出してくれんか」



 まあ一番わかり易い方法だから仕方がない。俺は指輪をスイのチョーカーに当て、そこからリードを引っ張り出す。それを見た聖女と教皇の顔が驚きに染まる。



「あー、そうそう。測定器ではゼロになると思うが、聖女の支配値はマイナス二百五十六(-256)だ。俺なら使役してしまえるかもしれん」


「……ふえっ!?」



 なにせ俺の支配値はマイナス四千九十六(-4,096)マイナス二百五十六(-256)のちょうど十六倍あるからな。



「悪い、ほんの冗談だ。間違ってもそんなことはしないから怯えないでくれ。それより、もし厄災の天啓が消えていたら、ユズをこちらで保護してもいいな?」


「あっうん、もちろん。次の満月になれば占星術(せんせいじゅつ)が使えるから、そこで問題がなければになるけど」


「それならワカイネトコで家を借りておくか。学園長やオレガノさんもいるし、ニームに住んでもらえばなんとかなりそうだ」


「その件なんだけど、タクト様に教団が保有する屋敷を寄贈したいの」


「そこまでしてもらわなくても平気だぞ。それに俺を様付けで呼ぶのは、色々問題がありそうなんだが……」


「いっ、いえ! タクト様はスイ様の(あるじ)だから、敬うべき対象だもん!! それにこれは世界を救ってくれたお礼と、祈祷術(きとうじゅつ)で召喚してしまった者への償いだから、もらってくれないと困る」



 詳しく聞くと大きな木の自生する庭があり、暖炉もついた屋敷らしい。シナモンのテンションが爆上がりだし、大きな木は疑似霊木にできる。しかし屋敷の管理がなぁ……


 ――そんなことを考えていたとき、入口の扉が乱暴に開かれた。


扉を開いた人物とは?

(それは紛れもなくヤツさ)


次回「0213話 乱入者」をお楽しみに!

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