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無能として家から追放されると決めた転生者の俺は、モフモフたちと一緒に第三の人生をエンジョイする  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
0000 1101[第13章]アガ塔よいとこ、一度はおいで

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0211話 聖女と謁見

 途中で食事を済ませ、日が傾く前に大聖堂へ到着。ものがデカいだけに、距離感が狂うんだよな。しかも威光を示すためか、街の奥まった部分にある。思ったより遅くなってしまった。


 正面には礼拝の行われる、ホームベースを立てたような、どっしりした形の建物。その後ろにそびえ立っているのが、世界一の高層建築である尖塔だ。聖女もそこで暮らしているらしい。


 こらこらシナモン。登りたい気持ちはわかるが、まだダメだぞ。依頼が遂行できたら時間を作るから、それまで我慢しろ。


 今にも飛び出しそうなシナモンを、近くにいたスイが強引に止める。首根っこを掴まれて体が半分持ち上がった姿は、本物のネコっぽくて可愛すぎるな!


 そんな様子を横目で見つつ、肩車していたミントを下ろす。



「街並みは堪能できたか?」


「はいです! 遠くまで見えて、凄かったのです」


「大通りは人が多すぎるな、次に来る時は裏道を歩こう」


「ミントのレベルなら、人にぶつかられても平気だよね。なんで流されていっちゃうのさ」


「あうー……強引に進むのは苦手なのです」


「こらこらシトラス、人には得手不得手がある。今度はお前を肩車してやるから、そう言ってやるな」


「キミに肩車なんてされると、エロい手つきでペタペタ触られそうなんだけど……」



 イヤと言わないってことは、ワンチャンあるってことか。いつでもやってやるから、遠慮なんてするなよ。



「わたくしも肩車して欲しいです」


「ズボンを履いてるときに言ってこい。好きなだけやってやる」


「わかりましたっ」



 嬉しそうな顔しやがって、まったくうい奴め。その大きな耳をモフってやるから、もっと(ちこ)う寄れ。



「主殿よ。頑張ってる我も、ねぎらってほしいのだが」


「それくらいお安い御用だ。シナモンと一緒にこっちへ来い」



 近づいてきたスイの後ろに立ち、二人まとめて抱きしめる。陽の光を受けて青く輝く髪は、本当にきれいだ。膝裏まで届く長髪をポニーテールにしているおかげで、しっぽのように揺れ動く(さま)が実にいいんだよな……


 おっといかん、頭を撫ですぎた。俺はマジックバッグからヘアブラシを取り出し、少し乱れてしまった髪を丁寧に解きほぐす。澄んだ流水のようにこぼれ落ちる髪が、俺の心を満たしていく。



「タクトはどんな従人が相手でも、骨抜きにしてしまう才能があるな」


「男の(わたくし)でさえ、身を委ねてみたいと思ってしまいます」


「機会があれば風呂上がりのブラッシングをやってやるぞ。セルバチコのしっぽも、モフり甲斐がありそうだからな」



 宿泊場所に学園の研修施設を使わせてもらえる。風呂もあるそうなので、さっそく今夜にでも……



「取り次ぎの人が来たみたいね。やっと中に入れそうだわ」


「……早く登りたい」


「儂らは巡礼者や観光客とは別の経路で、大聖堂へ入れるからの。アガ塔へも観光客が帰った後に、登らせてもらえるじゃろ」


「……楽しみ」



 ここまで大聖堂が賑わってるとは思わなかった。人が絶え間なく出入りしてるもんな。いくら大きな建築物とはいえ、中の人口密度はかなり高そうだ。そこへ別ルートから入ることができて、人のいない時間帯に登らせてもらえるのは有り難い。


 取り次ぎの案内で聖堂の外から回り込み、関係者しか開けられない扉から尖塔へ入る。折り返し階段を登っていき、廊下を歩いた先にあるのは真っ白で豪華な扉。そしてその前に立つ白髪の老君(ろうくん)


 白いローブ(アルプ)に、赤のアミクトゥス・ケープと帽子(カロッタ)。そして紋章が金糸で刺繍された赤い(ストラ)。これを身につけられるということは、かなり高位の司祭なはず。恐らく教皇だろう。



「そちらの若者は?」


「メドーセージ様とオレガノ様の同行者ということで、お連れしました」


「俺は流星ランクシューティング・スターのタクト・コーサカ。未知のアイテム鑑定と象形文字解読に、少しでも役に立てばと思い同行させてもらった」


「彼は当学園の研究室を預かっとる者で、儂の助手として随伴(ずいはん)してもらった」


「そして儂のお抱え冒険者でもある」


「お二人が認めた方であれば問題ありません。ではこちらへ」



 教皇であると名乗ったルバーブさんが、背後のドアを開けてくれる。どうやらここは謁見の間になってるようだ。部屋がカーテンで仕切られ、その奥にぼんやりと人のシルエットが浮かぶ。あれが今代の聖女か……



「(主殿よ、あれは?)」


「(俺にも見えている。しかし今は黙っておこう)」



 スイに袖を軽く引かれ、耳打ちされた。なにせそこにいるのは、教団の実質ナンバーワン。部屋へ入れてくれた教皇より権力がある。下手を打てば、即座に謁見が打ち切りになってしまうだろう。



「メドーセージ・ゴルゴンゾーラ様、オレガノ・パルミジャーノ様、そして助手のタクト・コーサカ氏をお連れしました」


「ご苦労さまでした」



 一礼した教皇が俺たちを中へ招く。今のやり取りだけでも、はっきりと上下関係がわかるな。



「わざわざご足労いただき、ありがとうございます。想定より早かったので驚きました」


「優秀な助手のおかげじゃよ」


「なるほど。そちらの青年が少し前から話題になっていた霊獣の(あるじ)ですか」



 カーテンに映るシルエットが、少しだけこちらへ近づいてきた。頭巾(ウィンプル)でも被ってるのだろうか。頭から肩にかけての輪郭がはっきりしない。



「相談もせず力を行使してしまい、申し訳ない。しかし、ちゃんと正規の手順で街へ入っている。安心してくれ」


「ええ、先触れから報告が来ましたので、わかっています」


「予定外の謁見じゃから、他の者に迷惑をかけてしまうじゃろ。依頼の品を見せてくれるかの」


「わかりました。では、例のものをこちらへ」



 教皇がマジックバッグからトレイを取り出す。上に乗っているのは、黒い板と薄いカード。覗き込んでいる学園長の顔が反射してるし、黒い板の表面は平坦なガラスだ。



「これは危険なものではないのじゃな?」


「人が身に着けて持ち運ぶものらしく、危険はないと判断されております。念のため私のマジックバッグへ入れておりましたが、何かが起きる兆候はありませんでした」


「こいつはかなり高度な技術で作られているぞ。ここまで純度が高く歪みのないガラスは初めて見た」


「カードの印刷技術は、大図書館にある書物と同等じゃ。書かれている文字は、似て非なるものじゃが……」



 二人は板やカードを持ち上げたり裏返しながら、サイズの割に重いとか、弾力性の高い素材に感心している。



「メドーセージとオレガノでも鑑定は難しいでしょうか?」


「ここに刻まれとる文字と記号らしきものは、どの文献にも載っておらぬな」


「似たような遺物は存在するが、素材や手触りがそれらとまったく異なる。これまでの商いで、取り扱ったことのないものだ」



 そりゃー、そうだろ。だってそれ、スマホとプラスチックのポイントカードだからな!

 店のロゴとデザイン文字なので、大図書館にあるコミック本とは当然違う。確か関東圏に、いくつか店舗があったはず。そしてそのスマホ、俺が知ってる機種だ。



「すまない学園長、少しいいか?」


「なんじゃね」


「ここで秘匿性の高い話をしても平気か教えてほしい」


「彼のことなら大丈夫じゃよ。教団内で唯一、聖女様と直接対面できる人物じゃ」


「そうか、わかった」



 まあそれくらいでないと、俺がこの場へ呼ばないか。ギフトの能力があるから、聖女の特異性も見抜いてしまう。うっかり伝わったら大惨事だもんな……


 とりあえずスマホを手に取り、電源ボタンを長押しする。しかし画面に表示されるのは、空になったバッテリーマークだけ。



「ほう……板になにか浮かび上がったな。これはなんのマークじゃ?」


「きっ、危険ではないのですか!?」


「心配しなくていい。これはバッテリー……要は、動かすためのエネルギーがないという表示だ」



 驚く教皇に答えを返し、接続コネクタのモデルデータを思い出す。あの時は無駄に凝ってしまい、端子や信号線を調べたんだよな。直接電流を流すのは危ないから、ジャスミンに錬成してもらおう。ネゴシエーションしなくても、五ボルトなら受け付けてくれるはず。



「さすがメドーセージです。優秀な助手を持っていますね」


「一つ聞いてもいいか?」


「はい、なんでしょう」


「これは別の世界から来たものだ。もしかして人も一緒じゃなかったか?」


「おっしゃるとおりです。女性が一緒に召喚されてしまいました。しかし言葉が通じず、意思の疎通が図れないのです。そこでメドーセージやオレガノの知恵を借りようと、依頼を出しました」


「多分俺なら大丈夫だ。話をしてみるから、会わせてほしい」



 少し気になることを言っているが、今は持ち主に会う方が優先だ。まったく違う世界に飛ばされ、さぞや不安になってるに違いない。



「根拠があるのですね」


「もう一枚のカードは、店で使うものだ。書いてある文字が読めるから、ちゃんと通じるはず」


「わかりました。では案内をお願いします」



 教皇に連れられ、部屋の奥へ進む。そこには更にカーテンがあり、小さな扉へ続いていた。きっと誰にも見られず、謁見の間へ出入りするためだろう。そこまでして隠さないといけない聖女の素顔、ちょっと興味がある。


 とりあえず今は、転移者の方に集中せねば……


この世界に呼ばれた人物とは?

そして再び聖女と謁見。

その時……


次回「0212話 召喚者」をお楽しみに。

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