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無能として家から追放されると決めた転生者の俺は、モフモフたちと一緒に第三の人生をエンジョイする  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
0000 1101[第13章]アガ塔よいとこ、一度はおいで

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0210話 ダエモン教からの依頼

 皇居の庭からワカイネトコの聖域へ渡り、ハクをモフりまくってから森を出る。やはり大きな動物は良いものだ。全身でモフモフを感じられるからな。


 有袋類(ゆうたいるい)の霊獣とかいないんだろうか?

 一度でいいから袋の中に入ってみたい……



「ほう。これが南方大陸の家か。なんとも華奢で頼りなく見えてしまう」


「アインパエの家は寒さ対策で、重厚な石材で作った壁や二重窓の家が多い。それと比べたら小さいレンガと漆喰だけの家が、脆弱(ぜいじゃく)に見えてしまうのは仕方ないと思うぞ」


「……煙突、少ない」


「こっちはそろそろ半袖でも平気な季節だし、暖炉は今度の冬まで出番がなさそう」


「ミントはシトラスさんより寒がりですから、まだ長袖でいいのです」


「わたくしはスカートが好きなので、これからの季節が楽しみです」


「少々薄着でも私は平気よ。だって寒ければタクトの胸元に入っちゃうから」


「……ジャスミン、ズルい」



 シナモンが両手を突き出してきたので、抱っこして頭をなでてやる。こうして歩けるのはシナモンとミントくらいだから、それはお前たちの特権だぞ。



「しかし(われ)たち、やたら注目されていないか?」


「そりゃースイが珍しいからに決まってるじゃん」


「長い髪とツヤツヤのしっぽが、とてもおきれいだからなのです」


「不変だと思っていた肉体が、これほど見違えるとは驚いたよ。いやはや主殿(ぬしどの)は本当に凄いものだ」



 従人(じゅうじん)という原石は、磨けば磨くほど光るからな。そのポテンシャルを引き出せないなど、モフリストの名折れ!


 ブラッシングの成果は、しっぽの先を覆う筆っぽい毛にまで現れている。なにせモフ値が五十パーセントアップ(当社比)した。まあ数値的には三十モフなのだが……



「だけど私のときと違って、あっさり入れてもらえたわね」


「オレガノさんのお抱え冒険者で、マノイワート学園の室長。それに流星ランクシューティング・スターだからな。初めてこの街に来たときと違い、信用度が桁違いに上がっている」


「次々と名声を得られていく旦那様は素敵です」


「そういえばアンゼリカ殿からも、なにか授かっていたな」


「あー、あれは皇室発行の身分証だ。要は皇族譜(こうぞくふ)に俺の名前が()ってますよ、という証明書だな」



 マジックバッグから青いカードを取り出し、そこへ魔力を流す。すると中央部分に皇家の紋章が浮かび上がった。これさえあれば帝国内に存在する、ほとんどの場所へ入ることが可能だ。例外は機密性の高い、皇帝直属のラボとか宝物庫など。


 大図書館と同じで三種類あり、一番下が黒で次が赤、そして最上位が青になる。直系皇族と同じ色を発行してくれたのは信頼の証だろう。裏切ったりしないよう気をつけねば。



「キミってさ、皇籍から離脱するとか言ってなかったっけ?」


「最初はそのつもりだったぞ。しかし母さんが(つむ)いでくれた縁を切り捨てるのは、さすがに心苦しくてな。だから皇位継承権の放棄だけにしておいた」


「ふーん。まあキミが納得してるのなら、いいんじゃないかな。ボクもあの家族は好きだしね」


「……美味しいお菓子、いっぱいある。ご飯も最高。アインパエ、いい国」



 その点はシナモンに激しく同意だ。味噌や豆腐、落花生(ピーナッツ)に納豆、小豆ともち米、様々なものが手に入った。いずれ味噌や豆腐を自作してみたいが、そっち方面の知識は前世にもない。時間のある時にでも学んでみよう。


 アインパエのことをあれこれ語りながら歩いているうちに、オレガノさんの店へ到着。扉を開けると、ドアベルの澄んだ音色が響く。



「待っておったぞタクト君、時間どおりじゃな」



 店内でお茶を飲んでいたメドーセージ学園長が、椅子から立ち上がって挨拶をしてくれる。こっちの行動パターンが、完全に読まれてるぞ。先読みの鋭さは賢者のギフト故か?


 しかし今日の服も派手だ。赤いロングコートに、ニッカポッカのような赤いズボン。背中には金の糸で刺繍された、マノイワート学園の校章と学園長という文字。


 特攻服だろ、それ!

 三連ホーンを鳴らしながら、街の中を爆走したりしないだろうな……



「適当なことを言うな、ゴルゴンゾーラ。最近のお前さんは、毎日この時間に茶を飲みに来てるだろ」


「日に一度セルバチコの茶を飲まんと、調子が出んのでな」


「もったいないお言葉です」



 行動を読んでたんじゃないのかよ!

 まったく、変なところで茶目っ気を出しやがって。この行場(ゆきば)のない感情、どうすればいい?


 ……仕方ないな、これで解消しよう。



「主殿よ。しっぽを磨いてくれるのは有り難いのだが、あまり激しくすると(たかぶ)ってしまいそうだ」


「おっといかん。つい夢中になってしまった」


「それにしても、また珍しい従人を連れてきたな。こっちへ来て紹介してくれ」


「皮のようなしっぽ、そして二本の細いツノ。まさかとは思うが……」



 どうやらメドーセージ学園長は、スイの正体に気づいたみたいだ。やたら期待に満ちた目でこっちを見てくる。



「我の名はスイ、北方大陸を守護する龍だ。主殿のきつい一撃で倒されたゆえ、従人として迎え入れてもらった」


「なんだと!?」


「そのようなお方まで使役されるとは……」



 おーいセルバチコ、ポットから茶がこぼれてるぞ。せっかく()れたのに、もったいないじゃないか。ユーカリに目配せして、ポットを保護してもらう。かなり衝撃的だったのか、ポットが自分の手から離れていっても、まったく反応がない。オレガノさんも、目を大きく開けたままだ。瞬きしないとドライアイになるから気をつけてくれ。



「やはり龍じゃったか! それを倒してしまうとは、さすがタクト君じゃ」


「倒したというか、弱点を突いて昏倒させただけだがな」


横っ面(よこっつら)を思い切り蹴り飛ばされたり、触手を斬られるなど初めての体験だった。そしてトドメが主殿のレールガンとかいう魔道具だ。あれは妙な快感を覚えてしまいそうな衝撃であったぞ」



 こらこら、変な趣味に目覚めるなよ。俺にそんな性癖はないからな。痛めつけるより甘やかすほうが、何倍も心が満たされるだろ。



「いやはや、龍が人の姿に変身できるとか、ましてや使役できるとは新事実が目白押しじゃな。冒険者ギルドへ行く前に、詳しい話を聞こうではないか」



 知識欲を抑えきれない学園長に催促され、アインパエ帝国であったことを一通り報告する。そうしているうちに、オレガノさんとセルバチコも復帰した。さて、依頼の詳しい話を聞きに、ギルドへ移動しよう。



◇◆◇



 上空から眺めていると、稜線(りょうせん)の向こうに広がる土地が見えてくる。山に囲まれた盆地は空から見ないと、全体像が把握できないほど広大だ。森と湿地を内包し、紫粒(ぶどう)畑になっている丘陵地や農地まである。それらが集まった乾地(かんち)には、この距離からも判別できる白亜の建築物。ダエモン教の総本山に当たる大聖堂が威光を放つ。そこが俺たちへ依頼を出した。



「そろそろ降下してくれ。峠の先にある関所で審査を受けないと、俺たちは犯罪者になってしまう」


『我らなら直接大聖堂へ乗り込んでも、許されるのではないのか?』


「まあこのメンバーに文句は言ってこないと思うが、ダエモン教とは仲良くしておきたいからな」


『ふむ、そうであったか。では道の広がった場所へ着陸しよう』



 信者という諜報員が世界中にいる組織から悪印象を持たれたりすると、どこへ行っても住みにくくなってしまう。ただでさえ従人を家族のように扱っている、俺やオレガノさんは異端に近い。決まり事は守っておいたほうが得策だ。


 着替え終わったスイを連れ、関所へ向かって進む。



「長生きはするものじゃな。まさか空の旅ができるとは思わんかった」


「タクトといると、本当に退屈せんな」


「たった数時間でマハラガタカに到着するとは驚きました。これは先触れを出しておかないと、先方にご迷惑をかけてしまうでしょうね」



 さすがセルバチコ。調整や根回しに関する知識と経験は頼りになる。もし彼が上人(じょうじん)だったなら、安心して持ち家を任せられただろう。



「峠の連絡員に伝えておけばいいじゃろ。早馬で向かってくれるはずじゃ」


「ここまで来れば街までは下り道だし、あとは景色を見ながらのんびり行くとしよう」


「あら。あの白い建物、壁に龍の紋章が彫ってあるじゃない。スイちゃんとよく似てるわね」



 まだ峠を登りきったばかりなのに、そこまで見えているとは。ちょっと視力が良いってレベルを、遥かに超えてしまってるな。



「我はこの大陸へ降り立ったことがない。恐らく別のやつだろう」


「ダエモン教で最も高位な色は赤だから、赤龍が関係してるのかもしれない。教義が目指すところの力も、龍族が持っている術だとすれば合点がいく」


「龍に関する伝承は、この国にもいくつか残っておるぞ。スイ君と出会ったことで、信憑性が一気に増したものも多い。歩きながらで良ければ聞かせてやろう」


「それは有り難い。ここにいるやも知れぬ同族が、どんなことをしていたのか。ぜひ聞かせてくれ学園長殿」



 ほぼ顔パスで関所を越え、歩きながら学園長の話を聞く。アインパエでは天候操作をしたり、願いを叶えてくれる存在といった、超常的な姿で語られる伝説が多い。しかしヨロズヤーオ国に伝わる龍の逸話は、人々に紛れて暮らしぶりを見守っていたり、困っている人を未知の力で助けたりと、我々の生活に根付いた存在だ。


 この辺の伝承はノーチェックだったので、なかなか面白いな。



「山に引きこもっていた我とは違い、ここにいる龍は活動的なのだな」


「俺のギフトとスイの感覚器官なら、人の姿に変わっている龍も見つけられそうだ」


「見つけたら挨拶してやろう。きっと驚かれるぞ」



 面白そうだから、しばらくギフトを発動したままにしておくか。大陸中を旅しているオレガノさんも、見たことがないというくらいだ。スイと同じような外見的特徴は、隠しているのかもしれない。



「ところでさ。ダエモン教って龍を特別視したり、神様みたいに祀ってたりしないの?」


「龍をかたどった紋章が使われだしたのは、ダエモン教が創生された後なんじゃよ。初代聖女が考案したという話じゃ」


「へー。じゃあスイが連れて行かれたり、使役してるこいつが恨まれたりすることはないんだ」


「その心配はせんでもよいじゃろ。ダエモン教は偶像を崇拝するような団体ではないからな」


「すまん、シトラス。そのあたりの配慮をすっかり忘れてた」


「キミのために聞いたんじゃないよ。訓練相手がいなくなるとボクが困るのさ」



 やばいやばい。未知のアイテム鑑定という依頼を聞いて、すっかり舞い上がってた。ダエモン教とは仲良くしたいと自分で言っておきながら、なんという体たらく。よく気づいてくれたな。今夜はご褒美に、大好物の味噌漬け肉を出してやろう!


 献立を聞いたとたん盛大に揺れ始めたしっぽを眺めながら、俺たちは街を目指して街道を進む。シトラスのおかげで大きな懸念も解消した。さて、どんなアイテムが出てくるのか楽しみだ。


聖女が直々に依頼した品は、主人公にとって馴染み深いものだった。

次回「0211話 聖女と謁見」をお楽しみに!

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