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無能として家から追放されると決めた転生者の俺は、モフモフたちと一緒に第三の人生をエンジョイする  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
0000 1101[第13章]アガ塔よいとこ、一度はおいで

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0209話 墓参り

第13章の開始です。

主人公のギフトが再び奇跡を生む!


 アーティチョーク爺さんとタンジェリンさんの墓参りを終わらせ、俺とアンゼリカさんは蒼天宮(そうてんぐう)を出る。母さんの件に関しては、これでひとまず終わりだ。分骨や改葬でアインパエに里帰りさせてやりたいが、サーロイン家が首を縦に振りそうもないしな……


 それより、こっちをなんとかせねば。



「なあ、そろそろ泣き止んでくれ。そんな有り様じゃ白羽院(しらはねいん)に戻れないぞ」


「今日の公務は終わったから……ヒック、平気にゃ」


「それなら奥の庭園で少し休んでいこう」


「グスッ……わかったにゃ」



 まったく……このままだと、全身の水分が抜けてしまうんじゃないか?

 アンゼリカさんの手を引きながら、丸い霊廟(れいびょう)の後ろへ回り込む。そこにはいくつも藤棚があり、つる性植物が絡みついている。


 なんでも、初夏になると青い花が咲くらしい。みんなで見に来たいところだが、この一画は皇族血縁者しか入ることが許されない場所。例外はコハクとカイザーの二人のみ。なにせ皇居で最も神聖な空間とされているもんな。


 棚の下にあるベンチへ並んで腰掛け、礼服のポケットに入れていたハンカチを差し出す。

 って、俺に拭かせるのかよ。ここが人目につかない場所とはいえ、あんたは皇帝だろ。



「ちょっと甘えすぎじゃないか?」


「日頃頑張ってるご褒美にゃ」


「その原因を作った俺が言うのもなんだが、確かに今がいちばん大変な時期だな」


「しかもカモミールちゃんのこととか、私に負担をかけすぎ……にゃ」


「あー、ほら。また目が潤んできてるじゃないか。これを飲んで落ち着け」



 マジックバッグからほうじ茶を取り出し、温めながらコップへ()ぐ。差し出したコップを両手で掴んだアンゼリカさんが、チビチビと口をつけながら飲みはじめる。なんでいちいち仕草が可愛いんだ、この人は。



「タッくんのお茶を飲むと、ホッとするにゃぁぁー」


「最初に聞くのを忘れていたが、ここは飲食をしても大丈夫なのか?」


「家族でお弁当を持ってお花見する場所だから平気にゃ」


「それなら羊羹(ようかん)も出してやろう。甘いものを食べると、頭の疲れが取れるぞ」



 適当な大きさに羊羹を切り分け、聖域で伐採させてもらった竹の菓子楊枝と一緒に渡す。やっぱり和菓子には、ナイフの形をしたこれだよな。ジャスミンのおかげで、職人が作ったような見事な出来栄え。まったく錬金術様々だ。


 皇居内に作ってくれた疑似霊木のテストを兼ね、アインパエ近郊の聖域へ行ってきた。前回は時間の都合で諦めたが、今日はタケノコも掘っている。その場でアク抜きをしたから、かなり美味しく出来上がってるはず。今夜はタケノコご飯を作ろう。



「にゃんか考え事?」


「あー、すまん。晩飯のメニューを考えてた。あとでイノンドさんにレシピと材料を渡しておく」


「水麦を主食にしたり、豆や海藻をお菓子にしちゃったり、本当にタッくんはすごいにゃ。それが昨日聞いた、前世の知識ってやつにゃんだよね?」


「俺が暮らしていた国に伝わる、日本食と和菓子の技術だ」



 転移者や転生者の痕跡はいくつも残ってるのに、なぜか食文化だけは伝わってないんだよな。皇居では既に米食が普及しはじめてるから、小麦以外の食事に強烈な忌避感があるわけでもない。まさかクソッタレな神が、裏でコソコソやってるとか?


 そんな小細工、俺には通用せん。指をくわえながら見てやがれ。



「タッくんのおかげで、娘たちがどれだけ救われてるか。本当にありがとにゃ」


「母さんが大切にしていたものを守ると決めたからな。みんなのボタンを宝箱に入れてたのは、そんな願いが込められてるからなんだろ?」


「大切にゃ人の幸せを願って、その人が身に着けていた物を持ち歩く。アインパエに伝わる願掛けにゃ」


「それならタンジェリンさんに返せない分は、大事にしていた娘たちが受け取るべきだ。これは母さんからの贈り物と思っておけばいい」



 小麦アレルギーのナスタチウムには、地方の珍しい食材をお土産に。喋れなくなってしまったラムズイヤーのため、民間療法を行く先々で聞き取り調査。そして満月の夜に姿が変わるベルガモットを救うべく、様々な伝承を集めていた。どうやら母さんの手がかりを探すためだけに、地方巡行を繰り返してたわけじゃなかったらしい。


 皇帝としての資質はさておき、人の親としては立派じゃないか。優秀なギフトを引き継がせるために子供を産ませ、才能がないとわかったとたん興味をなくす。そんなどこかの才人(さいじん)とは大違いだ。



「カモミールちゃんは本当にかけがえのないものを、残してくれたにゃ」


「あー、そうだ。母さんが渡すはずだった手紙の内容、聞いても構わないか?」


船旅(ふにゃたび)の途中で書いたものにゃ。カラミンサ様の生まれ故郷……えーっと、モルワーグリだったかにゃ?」


「スタイーン国の首都だ。シャトーブリアン家の当主は、そこの名士だからな」


「どうしても見たいから黙って出ていくことを謝ってたり、お土産を楽しみにしててって内容にゃ」


「カラミンサ婆さんに宛てたものと、ほぼ同じか」


「タンジェリン宛も、だいたい同じだったにゃ。きっと南方大陸へ着いたら、送ろうと思ってたんじゃないかにゃ」



 しかし記憶をなくしてしまい、思い出した時にはベッドの上。結局そのまま箱の底で眠っていたというわけか。



「ずいぶん遅い配達になってしまったな」


「でもある意味良かったかもしれないにゃ」


「どういうことだ?」


「タンジェリンってカモミールちゃんを過剰なほど可愛がってたから、彼女の重荷になってたみたいにゃの。だから自分のいにゃい間に妹離れして、柱の陰からこっそり監視したり、毎朝起こしに来る習慣を治せって書いてあったにゃ」



 おいおい、それ立派なストーカーだぞ。

 しかも幼馴染まで混ざってるじゃないか!



「それって年頃の女の子にはキツかっただろ」


「私と結婚して子供ができてからは、だいぶマシににゃったんだけどね。でも手紙に書いてた行為だけは、やめられなかったにゃ。もしこれが彼の手にわたってたら、数年は落ち込んでたはずにゃ。そしたら私の子供は、二人だけだったかもしれないにゃぁ……」


「そこまでショックを受けるのかよ」


「カモミールちゃんが絡まにゃければ、普通にいい人にゃんだけどね。あの子が視界に入ると、残念な人になってしまうにゃ」


「とりあえず結婚より前の溺愛ぶりは聞かないでおこう。ちょっと怖すぎる」


「その方がいいにゃ」



 母さんが出奔(しゅっぽん)した遠因に、タンジェリンさんを更生させるって理由が、あったのかもしれない。いやはやなんというか、皇族の暗部に触れてしまった気分だ。


 なにせカラミンサ婆さんからは、面倒見のよい兄としか聞いてなかったしな。これは見る角度や感性、立場の違いからくる差だろうか。


 とりあえずアンゼリカさんも落ち着いたみたいだし、そろそろ戻ろう。あまり遅いとサフランやハットリくんが心配する。



◇◆◇



 青の御所へ向かい、遊歩道を並んで歩く。皇居の庭って、築山(つきやま)があったり庭石を置いていたり、どことなく日本庭園を彷彿とさせる。さすがに枯山水(かれさんすい)までは無いが……


 静かで緑も多く、本当に落ち着けるいい場所だ。森と湿地に覆われた星じゃなかったら、もっとこんな風景を見られたかもしれない。


 それにしても隣を歩くアンゼリカさん、やたら機嫌がいいぞ。墓参りを終わらせ、区切りをつけられたってことか。なにせ昨日からずっと、泣きっぱなしだったもんな。よく今日の公務をこなせたものだ。



「あれ? 玄関でみんな待ってるにゃ」


「なにかトラブルでもあったのか?」


「その割にはみんな落ち着いてるにゃ」



 たしかに誰も走り寄ってきたりしない。しかし娘たち三人の他に、シトラスたちまで。どうして全員で待ち構えていたのだろう。



「何かあったのか?」


「冒険者ギルドから、信書が届いたでござる」



 ハットリくんから手渡されたのは、最も重要度が高い黒の封筒だった。裏は封蝋で閉じてあるし、こんな場所では開けられない。とりあえず全員で青の御所へ入り、客間を使わせてもらうことに。


 マジックバッグからペーパーナイフを取り出して開封する。中から出てきたのは指令書だ。



「冒険者ギルドから指名依頼が来てる。依頼主はメドーセージ学園長だな」


「メド爺から頼られるとは、さすがタクトなのじゃ」


「どんにゃ依頼か明かしてもいいやつ?」


「ここには依頼の詳細まで書かれてない。わかっているのはヨロズヤーオ国の首都、マハラガタカへ向かうこと。そしてオレガノさんも同行するそうだ」



 世界最高頭脳のメドーセージ学園長、そして目利(めき)き商人のオレガノさん。なんかすごい組み合わせだぞ。一体どんな依頼内容なんだろう。


 わざわざ俺とオレガノさんに頼むくらいだから、珍しいものが見つかったのかもしれん。古代遺物とかならテンションが上がるな。



「マハラガタカにも行ってみたかったし、ちょうどいいじゃん。いつ出発するの?」


「今日はもう遅いし明日の朝だな」


「……聖堂、楽しみ」


「霊木が完成して、ちょうどよかったのです」


「キュイッ!」


「久しぶりにオレガノ様やセルバチコさんに会えますね」


「ワカイネトコからマハラガタカへは、スイちゃんに乗せてもらうの?」


(われ)に任せておけ。どんな距離でも運んでみせよう」


「行きはスイに頼んで、帰りは森を攻略するか。そうすれば最速で依頼達成できる」



 そんなことを話していたとき、こちらをじっと見つめる視線に気づく。流星ランクシューティング・スターへの指名依頼は、よっぽどのことがない限り断れない。だからそんな目で見るのはやめろ。



「そのまま帰ってこないとか……にゃいよね?」


「当たり前だ。聖域渡りで事故は起きない」


「キュキュー」


「ホォーウ」


「次はいつご飯作ってくれるの?」


「満月までには帰って来る。そのとき作ってやるから、一緒に(めし)を食べよう」


「なるべく早く……帰ってきてほしいれす」


「向こうについたら連絡をいれる。いい子で待っていてくれ」



 俺はお前たちの保護者じゃないんだがなぁ……

 っていうか、三人とも俺より年上だろ。転生者としての精神年齢を明かしたとはいえ、あまり依存されすぎるのも困る。


 とにかくパパっと終わらせて戻ってこよう。その頃には発注していたマジックバッグも完成してるはず。

 明日のスケジュールを組み立てながら、晩飯の準備をするためイノンドさんと合流。とりあえず今夜は新鮮なタケノコの旨さ、とくと味わうがいい!!


ワカイネトコへ戻ってきた主人公たち。

そして待ち構えていた学園長とオレガノ。

学園長のファッションは?

「0210話 ダエモン教からの依頼」をお楽しみに!

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