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無能として家から追放されると決めた転生者の俺は、モフモフたちと一緒に第三の人生をエンジョイする  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
0000 1100[第12章]はるばる来たぜアインパエへ

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0207話 保養地デンバー

 山を二つ超えると、ひょうたん型の大きな湾に出る。くびれた部分に浮かんでいる島が、北方大陸で最も温暖な場所。祖母のカラミンサが逗留(とうりゅう)している、国有の保養地デンバーだ。港から少し離れた岩場に降りてもらい、人の姿になったスイへ着替えを渡す。



「……すごく楽しかった。また乗りたい」


「帰りも(われ)が運ぶことになっているから、期待しておくとよい」


「……うっ!?」


「マツリカよ、大丈夫なのか?」


「へっ、平気ですベルガモット様。帰るときには克服してみせますので」



 マツリカのやつ、どうやら高所恐怖症だったらしい。飛び始めてから一言も喋らなかったのは、そういう訳か。未知の恐怖心に襲われ、パニックにならなかっただけでも大したものだ。今日中に帰ると約束しているし、ここは森のない岩だらけの島。まあこの機会に克服してくれ。



「ミントとユーカリは平気か?」


「景色が良くて感動したのです!」


「海がキラキラと光っていて、とてもきれいでした。帰りも楽しみです」



 二人とも楽しめたようで良かった。帰りは景色が見やすいように、身長順で座るのが良いかもしれん。乗る前に希望を聞いて決めるとしよう。



「ボクのことは心配してくれないのかい?」


「シトラスは以前、ワカイネトコのでかいポールに登ってるだろ。それに飛行中も笑顔だったし、降りてからも機嫌がいい。十分楽しめたと思うが、違ったか?」


「へー、ちゃんとボクのこと、見ててくれたんだ」



 そりゃーお前、あれだけしっぽが揺れてたら、嫌でもわかるわ。



「あの柱に登ったというのですか。……なんて恐ろしい」


「それは我も挑戦してみたいぞ。南方大陸へは行ったことがないので、期待が膨らむな」


「もっと高い大聖堂へも行く予定にしてる。楽しみにしておくといい」



 スイが服を着終わったので、認識阻害を解除して整備された道へ出る。シナモンがスイの方へトコトコ歩いていき、俺の方にはベルガモットが近づいてきた。よしよし、抱っこして欲しいんだな。皇居では甘える機会が少なかったから、それくらいお安い御用だ。


 俺がベルガモットを、スイがシナモンを抱き上げ、街を目指して道を進む。色々な逸話が語りぐさになってる祖母とは、一体どんな人物なんだろう。大きな興味と同時に、少しだけ恐怖心が頭をもたげる。まあ会う前にあれこれ考えても仕方ない。彼女だって意味もなく襲ってきたりはしないはず。



◇◆◇



 ベルガモットのおかげで、あっさり入場審査も通過できた。富裕層や著名人も逗留する保養地だけあり、身分のしっかりした者でないと入れないんだよな。まあ流星ランクシューティング・スターの俺なら、問題ないと思うが……


 それにしてもこの街、あちこちから湯煙が上がってる。温泉から出る熱のおかげだろう、帝都(ドアッガ)よりかなり温かい。寒さの苦手なシナモンが、とても嬉しそうだ。


 あまり大きくない島なので、かなりゴチャゴチャとしてるのが欠点か。公営の施設しかないんだから、区画整備とかやり直せばいのに。



「カラミンサお祖母様(ばあさま)が暮らしているのは、あの家なのじゃ」


「周囲の家より一回り小さいな。彼女も皇族なのであろう?」


「派手なものを好まぬ方じゃからな。それに健康上の問題もあって、あのような場所で暮らしておられるのじゃ」


「すまない。後から来たスイには、事情の説明を忘れていた。まあ会えばすぐに理由はわかるはず」


「家の中にいる人が、ボクたちに気づいたみたいだよ」


「玄関から誰か出てきたな。話はここまでにしよう」


「うぅっ……ミント緊張してきたです」



 気持ちはわかるが、力いっぱい俺の腕を抱きしめるんじゃない。ものすごい変形の仕方をしてるから、シトラスがこっちを睨んでるぞ。



「……どちら様どす?」


「久しいの、ゼラニウム。カラミンサお祖母様は、いらっしゃるか」



 玄関から出てきたのは、黒い犬種の従人(じゅうじん)。歳はセルバチコと同じくらいに見える。こんな年齢まで使役しているとは、かなり大事にされてきたんだろう。



「ようこそおいでやす、ベルガモット様。ところで……お嬢様を抱き上げてはる方は、ご令兄(れいけい)やあらしませんやろ?」


「この男が手紙に書いた(わらわ)守護者(ガーディアン)、タクトなのじゃ」


「そうどしたか。少し待っておくれやす、いま奥様をお連れしますさかい」



 家の奥へ入っていったゼラニウムが、車椅子を押しながら戻ってきた。この人が俺の祖母、カラミンサ・シーズニングか。髪は白髪の混じった赤橙色(せきとうしょく)。色付きのメガネを掛けているせいで、顔の表情が読みにくい。



「病人扱いするのは、よして欲しいわぁ。車椅子がなくても歩けるのにぃ」


「そらあかんどすえ。奥様はぶつかった障害物を、燃やしながら進もうとしますやろ。家具の犠牲をこれ以上増やすわけにはいきまへん」



 カラミンサ婆さんの声を聞き、俺は在りし日の母を思い出す。この語尾がわずかに伸びる優しい喋り方、それにイントネーションやアクセントが母さんと全く同じだ。南方大陸出身の母親を手本にしたから、違和感を与えず生活できていたわけか。



「ご無沙汰しておるのじゃ、カラミンサお祖母様。その様子を見ると、お変わり無いようじゃな」


「久しぶりねぇ、ベルガモットちゃん。それでぇ……あの子の息子も来てるって本当ぉ?」


「初めまして、カラミンサ婆さん。俺がカモミール母さんの息子、タクト・コーサカだ」


「こんな出迎えでごめんなさいねぇ。視力が衰えちゃって、もうほとんど見えないのよぉ」


「幼い野人(やじん)を使った罠にはめられたのが原因なんだろ?」


「年を取ってから無茶するのはダメねぇ。若い頃ならあれくらい、なんでもなかったのにぃ」


「うちが付いていながら、ほんま申し訳おへん」


「それはもういいっこなしよぉ。今日は孫が会いに来てくれた、記念日なんだからぁ。ねえタクト、もっと近くに来てくれるぅ?」


「ああ、わかった」



 カラミンサ婆さんの前で膝をつき、伸ばしてきた手を取って自分の顔へ導く。ペタペタ触られるのは気恥ずかしいが、ここは我慢せねば。



「なんとなく凛々しい顔つきなのがわかるわぁ。だけどぉ……この目で孫の姿を見たかったぁ。あの子が残してくれた、宝物なのにぃ……うっ、ううぅっ」


「泣かないでくれ、カラミンサ婆さん。母さんを連れて帰れなかったのは残念だが、俺の姿を見たいという願いは叶えてやれる」


「ほんまどすか!?」



 ベルガモットと一緒に来たのは、それが理由だからな。ミントと力を合わせれば視力の回復に加え、これまで積もり積もった不調もまとめて治療できる。


 なにせ政権から離れた後のカラミンサ婆さんは、法で裁けない悪を滅ぼしてきた影の執行人だ。もしこの人が一線を退いていなければ、ブリックス家の暴挙も防げたに違いない。


 長年の活動で無理したツケが、いたるところに現れているはず。そうでなければ、視力の低下という理由だけで、ここへ湯治に来ないだろう。レベルがカンストしてるんだし、まだまだ長生きしてもらわねばならん。いつかひ孫を抱かせてやるから、楽しみにしておいてくれ!


次が第12章の最終話です。

箱の中身はなんだったのか?

そして主人公の決意。

「0208話 母からの手紙」をお楽しみに!

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