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無能として家から追放されると決めた転生者の俺は、モフモフたちと一緒に第三の人生をエンジョイする  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
0000 1100[第12章]はるばる来たぜアインパエへ

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0204話 アンゼリカのヒミツ

 みんなの避難場所へいくと、ベルガモットたちが駆け寄ってきた。残っているのはスコヴィル家と皇帝の護衛(インペリアルガード)だけのようだ。そういえば参加者たちへの事情説明も、する必要があるんだよなぁ……


 隣りを見ると、アンゼリカさんがグッタリしている。同じことを考えてるのかもしれない。



「母上殿になにがあったのじゃ!?」


「うぅぅー、タッくんがいじめるにゃぁぁぁ」


「タクトよ、母上殿に酷いことはして欲しくないのじゃ」


「俺はなにもやってないぞ。ちょっと現実を突きつけただけだ」


「それが立派ないじめになってるにゃぁぁぁ」



 そんなにニャアニャア鳴くなよ。厳しい現実を目の当たりにして、猫化が進行してるのか?



「なんか連行されてる人みたいなの」


「お母さん……平気なのれす?」



 俺とサフランが左右の腕をとって、引きずるように運んできたからな。この光景は捕まった宇宙人そっくりだ。



「怪我とかしてないから安心しろ。放っておけば、そのうち元に戻る」


「タッくんは年上を敬う気持ちが足りないにゃぁぁぁ」



 うるさい。敬って欲しければ、ネコ耳でも生やしてみろ!



「とにかく今日は戻ろう。全ては明日からだ」


「明日なんて来てほしくないにゃぁぁぁ」



 グズるアンゼリカさんを馬車へ押し込み、まっすぐ皇居を目指す。沿道の野次馬たちは、既にいなくなっていた。きっと近衛や一般兵が頑張ってくれたんだろう。このあいだ差し入れた魔獣の肉で、英気を養ってくれ。



◇◆◇



 夜食を軽く取り、脱衣場へと向かう。しかしシトラスのやつ、普通の夕食と同じくらいの量を食べてたな。あれだけ細い体をしてるのに、一体どこに消えてるのやら。今まで一度も腹を壊したことはないし……


 そんなことを考えながら、手際よくシナモンの服を脱がせていく。しかしもう限界っぽい。



「おーい、スイ。シナモンが眠ってしまいそうなんだ。すまんが風呂に入れてやってくれ」


「任せておけ、主殿(ぬしどの)。ほれシナモン、こっちへ来るといい」


「……うにゅー」



 声に導かれたシナモンが、フラフラしながらスイの胸へ倒れ込む。これで溺れる心配はないだろう。あとはアレをどうにかせねば。



「なんで脱衣場までついてきた。早く青の御所へ戻ったらどうだ」


「ベルちゃんとタッくんが間違いを犯さないよう、監視するためにゃ!」


「いとこ同士で間違いなんか起きん。心配するな」


「本音を言うと、ベルちゃんだけズルいからにゃ!」


「今日は満月なんだから当然の措置だろ。なにせギフトの効果は有限だからな。今夜はこっちに泊まってもらうと、前から言っていたと思うが?」


「私たちも露草の館(つゆくさのやかた)に泊まるにゃ!」


「ここのベッドは全員で眠れるほど広くない。却下だ」


「御所にある一番大きなのを持ってきたから、問題ないにゃ!」



 なんでそんなに準備がいいんだよ。一旦別れてすぐこっちに来たが、目的は夜食だけじゃなかったというのか。

 そう思いながら脱衣所の入口を見ると、三人の娘がじっとこっちを見守っている。



「娘たちはどうするんだ。年齢の近い男がいるし、従人(じゅうじん)も一緒なんだぞ」


「あの子たちなら問題ないにゃ。私とベルちゃんだけで入った時、怒られたくらいにゃんだよ」



 再度入り口方向に視線を向けると、三人が身振り手振りでエールを送っていた。これはなにを言っても無駄だろうな。本人たちが希望してるのなら聞き入れてやろう。



「わかってると思うが、湯浴み着は必須だからな」


「了解にゃ!」



 まあベルガモットから俺の性癖を聞いて、安全だと思っているのかもしれない。あとは親戚の男の子としか、意識されてなかったり?


 俺も相手が上人(じょうじん)だと、似たようなものだし……



「着替え終わったのか?」


「うむ。バッチリなのじゃ」


「じゃあ一緒に入るか。その時にギフトをかけ直そう」


「よろしく頼むのじゃ」



 手をつなぎながら湯船の近くへ行き、かけ湯をして温泉に浸かる。ベルガモットを膝に乗せて大きく伸びをすると、月がかなり高い位置まで登っていた。長かった一日が、やっと終わるな。


 お? ナスタチウムはスイの方へ近づいて行ってるぞ。



「今日のスイ、凄かったの。あんな重いものを持ち上げて、痛くないの?」


「あれくらいなら心配には及ばん。これでも元は龍だからな」


「初代様に会ったことがあるって、本当なの?」


「山で行き倒れている男を見つけて、我が保護してやったのだ。こんな山奥まで来た目的を尋ねると、俺より強い奴に会いに行くとか()かしていたな」



 以前もその話を聞いたが、やっぱり赤いハチマキの男が目に浮ぶ。初代って路上格闘家だったのか?



「戦いを挑んできたから、こてんぱんに()して聖域へ放り込んでおいた。後にその男がこの大陸を統一したと聞き、我は大笑いしたよ」



 二人の会話に耳を傾けていると、残りのメンバーが入ってくる。



「隣……いいれす?」


「はいです。遠慮なく座ってくださいです、ラムズイヤー様」



 ラムズイヤーはミントを挟んで隣に来た。俺が近くにいても平気らしい。こっちの視線に気づいても、小さく会釈するだけ。今日の挨拶もそつなくこなしていたし、意外に根性が座ってるな。



「ミントのおかげで……話せるようになって、すごく……幸せれす。ありがとれす」


「今日の挨拶は、ご立派だったのです」


「確かにそうだった。あれだけ大勢を前にして喋るのは初めてだっただろ? よく最後までやり通せたな、偉いぞ」


「そう言ってもらえると……うれしいれす」



 少し照れながら、ラムズイヤーが俺を見る。上目遣いでこちらをうかがう視線、シナモンのあれと同じだ。そんなに期待のこもったオーラを出すんじゃない。まったく、仕方がないな……


 ゆっくり腕を伸ばし、ラムズイヤーの頭に手を置く。少しだけ身をすくませたが、嬉しそうにはにかむ。頑張ったのは事実だし、ご褒美をやろう。さわさわ撫でてやると、気持ちよさそうに目を閉じた。



「お父さんに……撫でてもらってるみたいれす」


「お母さんがタッくんと結婚したら、みんなのお父さんになれるにゃ」


「くだらないことばかり言ってると、頭の上に生えてるアホ毛を引っこ抜くぞ」


「タッくんは私にだけ辛辣にゃ! それになに言ってるのか、全然わからないにゃぁぁぁ」



 いくら見た目が十代でも、十六の俺を皇婿(こうせい)なんかにしたら、どんな醜聞が立つことやら。



「タクトは(わらわ)たちの知らない知識を、たくさん持っておるからの。そうじゃ母上殿。ギフトのことを聞いてみたらどうじゃ?」


「えっと……メドーセージ先生でも判らにゃかったんだよ? いくらタッくんでも無理じゃないかにゃ」


「もし問題なければ聞かせてくれ。なんなら大図書館で調べてみてもいい」


「うーん……じゃあ教えてあげるにゃ。私のギフトは〝塩基(ヌクレオベース)〟って名前にゃ。どこにも記録の残ってない、謎のギフトにゃ」



 あー、そらそうだ。この世界は、そっちの方面に進化してない。なにせ発展しているのは、科学の代わりに魔法だし。



「生物の体には遺伝子という、設計図みたいなものがあるんだ。その設計図を書くために、塩基という文字が使われる。アンゼリカさんのギフトは、それに作用するんだろう」



 それさえわかれば、自ずと答えは見えてくる。一旦言葉を切って、続きを話す。



「実は老化にもその設計図が関わっていてな。いつまでも若い姿でいられるのは、おそらくギフトのおかげだ」


「にゃんと!? あっさり判明してしまったにゃー」


「さすがタクトなのじゃ」



 世の中には、まだまだ知られてないギフトがあるんだな。それにしても、どんな体質かと思ったら、ギフトの恩恵だったとは。帰ったらメドーセージ学園長にも報告しておこう。



「呪われてるんじゃなくて、安心したにゃ。うれしいにゃぁぁぁ」


「お母さん良かったの」


「ベルちゃんの守護者(ガーディアン)……本当にすごいれす」


「南方大陸へ帰ったら、学会へ知らせておく。公式発表があれば、偏見も減っていくだろう」


「うぅぅぅー。本当にありがとにゃ、タッくぅぅぅん」



 感極まったアンゼリカさんが、俺に抱きついてきた。こら、当たってるぞ。というか、ベルガモットを押しつぶしてるじゃないか。



「は……母上殿。苦しいのじゃ」


「あっ!? ごめんにゃベルちゃん」


「いくら老化が遅いといっても、若い頃と同じ無茶ができるわけじゃない。健康には気を付けて、政務に励んでくれ」


「うにゃぁぁぁー。せっかく忘れてたのに、思い出させるなんてひどいにゃ! 幸せな気分が台無しにゃぁぁぁ……」



 表情の抜け落ちたアンゼリカさんが、ブクブクと湯船に沈んでいく。ユーカリにサルベージされ、そのままシクシクと泣き始めた。その胸は俺のものだ。勝手に使うな。


 とはいえ、少女を泣かせたようで、罪悪感が半端ない。後でフォローしておこう。


夜中に目を覚ましてしまう主人公。

そこでアンゼリカから聞かされた話は……

次回「0205話 アンゼリカの要求」をお楽しみに!

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