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0203話 作戦の全貌

 静かになった会場を、グルっと見渡す。どうやら近衛たちが、参加者の避難誘導を終えたようだ。この場に残っているのは、俺たちとハットリくんを含めた数人の隠密。そしてアンゼリカさんとサフランだけ。



「おーいスイ。そっちはどうだ?」


「やっと自由になれたよ。もう少し早かったら、(われ)もあの連中と拳を交えてみたかったのだが……」


「とりあえず自壊しないように支えてもらったけど、この建物はもうダメね。あっちこっち壊れちゃってるわ」



 大黒柱的なセンターピラーが崩れ落ちたんだから仕方ない。とっさに支えたとしても、建物全体に相当の負荷がかかってるはず。とりあえずスイがいなかったら、ベルガモットの結界で防ぐしかなかった。感謝の気持を態度で伝えるべく、スイの頭をそっと撫でる。


 建物一つが犠牲になったとはいえ、全員を守れたのは上出来だったと言って良いだろう。精霊たちは支持者を守る方に、専念してもらっていたのだから。



「龍族を完全に手懐けているでござる」


「我は主殿(ぬしどの)に全てを捧げた身だからな」



 俺たちより上位の存在にも関わらず、やたら依存してくる所が可愛いんだよな。これがギャップ萌えとかいうやつだろうか?


 スイの目尻が嬉しそうに下がり、俺の肩に頭をそっと置く。あまり変な動きをするなよ。ツノが目に突き刺さってしまうだろ。まあそれだけの働きをしたんだし、今は好きにさせておくしかない。


 そんな姿に当てられたのか、みんなが俺に近づいてきた。伸ばした両腕でアピールするシナモンを持ち上げ、じっと見つめるミントを抱き寄せる。よしよし、みんな頭を撫でてやろう。



「それにしてもキミの勘って、変なところでよく当たるよね」


「ただの消去法だから、近衛や隠密も予想していたと思うぞ」


「タクト様、消去法ってどういうことなのです?」


「国の重要な施設にはな、マノイワート学園と同じような結界があるんだ」


「つまり殺傷力の高い属性魔法は、使えないということですね」



 隣に来たユーカリの大きな耳をモフりながら、俺は周囲を見渡す。ここは敷地を取り囲む壁が、その役割を果たしているらしい。もしかすると建物の崩壊で壁が壊れることも、パルマローザの作戦だったのかもしれないな。そうすれば生き残りを魔法で一掃してしまえる。



「結界の特性上、外部から魔法で狙うのも無理だ。敷地に入った途端、霧散してしまうからな。となれば取れる手段は毒物による暗殺や、物理的な攻撃くらいしかない。だが毒のたぐいは、コハクやカイザーが絶対に見逃さないだろ?」


「キュィッ!」


「ホウッ!」


「参加者のボディーチェックは入念にされているし、暗器を使って攻撃してきても皇帝の護衛(インペリアルガード)皇嗣の護衛(プリンシパルガード)に防がれる」


「当然でござる」


「(コクリ)」


「だから会場自体に細工している可能性を考慮して、対策を練ってみた。なにせここの安全確認をしたのは、官僚連中だったからな」


「あれこれ口を出すと独裁者って言われるから、今回も強く出られなかったのにゃ」



 信頼できると思っていた官僚の中に、今回の首謀者がいたんだ。その点でアンゼリカさんを責めることは出来ない。なにせ俺自身も元老院が諸悪の根源だと、思っていたくらいだし……



「そこで俺は二つの保険をかけることにした。質量兵器による外部からの攻撃と、爆発物を使った破壊工作だ。どちらも非常に防ぎにくい」


「……それで私とシトラス、ジャスミンで、周囲を警戒させた?」


「そのとおりだ、偉いぞシナモン」


「……うにゃー」



 顎の下をクニクニ撫でると、体を弛緩させながら甘えてくる。ネコ耳が当たって気持ちがいい。

 なにせシナモンは夜目が効く。そして視力がいいジャスミンは、会場全体の把握と遠距離攻撃の監視。更に多対一の戦闘をこなせるシトラスがいれば盤石だ。



「私は精霊たちにお願いして、地下からの攻撃を防ぐ役目もあったのよ。途中で防壁にしてもらったけどね」


「我は質量兵器の攻撃を、受け止める役だ」


「即死でなければ、ミントの治癒でなんとか出来る。だからスイや隠密と一緒に、会場内で待機してもらっていた」


「他の人に見つからないか心配で、ミントすごく緊張したです」



 隠密が使う魔道具で隠れていたから、そうそう見つかったりはしないだろう。とはいえ、プレッシャーに耐えて、ミントはよく頑張った。ご褒美にうさ耳をモフっておく。



「あうー、気持ちいいれふぅー」


「関係者全員の協力、ベルガモットの防御結界、霊獣たちのフォロー、そして従人たちの能力。そのおかげで死者を出さずに、乗り切ることが出来た。とまあ、こんなところで納得してもらえたか?」


「タッくんがすごいってことだけ、よくわかったにゃ!」


「いくら予想できたとしても、普通はこんな作戦、取れないでござるからな」


「計画を未然に防ぐのが、本来のやり方だろう。限られた時間しかない中、受け身に回る作戦立案をしたから、気が気じゃなかったと思う。黒幕の検挙でチャラにしてもらえると、ありがたい」


「タッくんがいなかったら、スコヴィル家がどうなってたか、わからにゃいんだよ。変に責任を感じたりするのは禁止にゃ!」



 俺たちがあれこれやらなければ、パルマローザはここまで強硬な手段を取らなかったはず。その場合どうなっていたか? きっと皇族の権威や権力を、徐々に削いていくつもりだったんだろう。もしそこで介入したら、血なまぐさい闘争になっていたかもしれないな……


 学園長にも言われたが、俺は全知全能の神じゃない。たとえ運が味方した結果だったとしても、この難局を乗り切ることができたんだ。気持ちを切り替えて前へ進まないと。



「じゃあ、そろそろ撤収するか。なにせアンゼリカさんは明日から大変だ。倒壊寸前になった建物の処理。トップ不在で混乱するだろう内務省。いくらそそのかされていたとはいえ、元老院側の責任も重い。解体や再編を行わなくては、官僚たちも納得しないだろう」


「うにゃぁぁぁー! せっかく頭の片隅に追いやってたのに、思い出させないで欲しいにゃぁー」


「今日は国民の前で、あれだけ盛大に啖呵を切ったんだ。その期待に(こた)えないと、カイザーが許してくれないぞ」


「ホォーウ!」


「タッくん鬼畜にゃ! 人でなしにゃ! 邪悪で冷酷な極悪人にゃぁぁぁー!!」


「いくら罵詈雑言を並べても、仕事は待ってくれない。諦めるんだな。とにかく、まあ頑張れ!」


「こんな生活、もうイヤにゃぁぁぁ……」



 崩れ落ちたアンゼリカさんを引きずりながら、俺たちは会場をあとにする。そっち方面で俺に協力できることはない。後進育成も兼ねて、ナスタチウムたちに手伝ってもらえ。


皇居にある宿泊場所へ戻ってきた主人公たちだが、そこにはなぜかスコヴィル家の面々が。

次回「0204話 アンゼリカのヒミツ」をお楽しみに!

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