0201話 祝賀パレード
誤字報告ありがとうございました。
2か所同じ間違いをしていて、片方しか直してなかったw
月が昇りはじめる直前にパレードの開始とか、ゲスなことを考えやがって。移動途中に姿が変わるベルガモットを、さらし者にでもしたかったのだろう。だが残念だったな。
「そろそろビットを固定しておこう。こっちへ来てくれ」
「よろしく頼むのじゃ」
「ねえタッくん。本当に大丈夫にゃのよね?」
「コルツフットで何度か実験したし、ベルガモットもこの力で不自由なく夜を過ごすことが出来た。万が一の際はユーカリが対処してくれるから、安心してくれ」
「いつでも妖術を発動できるよう、近くで控えております。もしもの時はお任せください」
「タクト様の力は、私もよく知っております。実際にこの目で確かめておりますので、間違いはございません」
「日が暮れてからお風呂を楽しめるようになって、妾は幸せなのじゃ」
「じゃあ……よろしくお願いするにゃ」
青いカクテルドレスに着替えたベルガモットの手を握り、まずは可変で操作範囲を四ビットに指定。そして反転の力を加えると、下四桁の一がゼロへと変わる。そこに固定のギフトをかけ、ベルガモットから手を離す。
接触していないと消えてしまう反転の効果が、固定の力で維持された。これで最低でも三時間は大丈夫。あれから俺のレベルも上がってるし、もう少し長くなっているはず。
「アンゼリカさんもいるから、おさらいしておくぞ。今のベルガモットは、術の力が半減している。もし結界を張るような事態になったら、魔晶核二個を両手で握ること。いいな」
「わかっておるのじゃ」
「さっき渡したクイーンクラス、惜しみなく使っていいぞ」
「我の攻撃にも耐えられたからな。なにが起きても大丈夫であろう」
「クイーンクラスを湯水のように使うとか、恐ろしすぎるにゃー」
本当はキングクラスを渡してやりたかったが、マジックバッグを作る時に乱獲しすぎた。これ以上数を減らすと、森のバランスが崩れてしまう。まあクイーンクラス一個でスイの攻撃に耐えられるのだ。破られる心配は、しなくていい。
「ひとまず準備は整った。主役はベルガモットだが、アンゼリカさんにも目立ってもらう必要がある。霊獣と一緒にいる姿を、見てもらわないといけないからな」
「愛嬌を振りまくのは得意だから、お任せにゃ!」
「ホーゥ!」
アンゼリカさんとカイザーが、同時に片腕を天に突き出す。あれから二日しか経ってないのに、すっかりいいコンビになったな。
スコヴィル家の四人とユーカリ、そしてマツリカとサフランが、屋根のない馬車へ乗り込む。俺たちは皇帝の護衛や皇嗣の護衛と連携しつつ、馬車の周囲を歩いて行進だ。近衛たちは路上で壁となり、ハットリくんたち隠密は群衆に紛れながら、不審者のチェック。他には指揮官たちも参加しているはず。あいつらは元老院側なので、あまり期待していないが……
「それじゃあ出発にゃ!」
皇居の門が開くと、集まっていた群衆が一気に沸く。スコヴィル家の四人が立ち上がり、民衆に向かって大きく手をふる。こうして並んでいると、やっぱり四姉妹にしか見えない。
一番上が二十歳のラムズイヤー。身長はユーカリよりわずかに高く、胸は昔のミントと同程度。水色の髪をショートボブにしているのも、大人っぽく見える理由か。
二番めは四十四歳のアンゼリカさん。アホ毛の付いたピンクのウェーブヘアとか、どこの魔法少女だよ。ユーカリより少し身長が低いのに、胸のサイズは圧倒している。
三番目が二十四歳のナスタチウム。栄養不足のせいで発育が悪く、身長は百五十センチくらい。白髪のロングヘアを姫カットにしているせいで、ちょっと人形っぽいんだよな。
そして四番目が十四歳のベルガモット。今日は黒い髪を下ろしてるから、いつもより少し大人に見える。そろそろ月が見えてくる時間だが、体調に変化はないようだ。
「おい見てみるっぺ、陛下の肩」
「白い鳥がいるべさ」
「南方大陸から来た男が、連れてきたのと違うずら?」
「そいつは馬車の後ろを歩いているクマー」
カイザーとアンゼリカさんがかなり目立ってるので、民衆の目が俺から逸れていく。街でかなり注目されていたから、正直とても助かる。ベルガモットの話で、ある程度は覚悟していた。しかし日に日に大きくなっていく噂には、驚きを隠せなかったからな。
霊獣を連れた俺が、皇帝より高い地位に思われたら、面倒な未来しか見えん。色々な偶然が重なったとはいえ、いい方向に行ってくれてラッキーだ。
「この子は初代様が連れていた霊獣の子孫、カイザーちゃんにゃ。霊獣の加護がある限り、アインパエ帝国は永久に不滅にゃっ!」
「ホォォーウ」
アンゼリカさんのよく通る声に合わせ、ガイザーが大きく羽を広げる。これだけの民衆を前に啖呵を切るとは、何だかんだで指導者としての適性が高い。
「「「「「うぉぉぉぉぉーーー!!!」」」」」
「「「「「皇帝陛下万歳! 皇帝陛下万歳!!」」」」」
熱量がどんどん上がる大通りを、馬車は進んでいく。満月が完全に見えはじめても、ベルガモットは人の姿をしたまま。そして皇帝を称える声が、街中に響き渡る。皇族の権威を貶めようとしていた連中も、大慌てだろう。さて、次はなにを仕掛けてくるのやら……
◇◆◇
一時間ほどのパレードを終え、祝賀会が開かれる会場へ入る。ここ集まっているのは、高級官僚と国の重鎮だけ。飲食のできる場所なので、従人の入場は禁止だ。
壁に囲まれた正方形の広場には、前方を切り落としたドーム状の建物があり、床が周囲より一段高い。中央には拡声の魔道具が設置してあるな。
魔道具へ向かうのは、緊張した面持ちのラムズイヤー。それを見た参加者たちがざわつく。さあ訓練の成果、存分に見せてやれ!
「……ぁー、こほん。本日は……お忙しい中、お集まりいただき……ありがとう、ございますれす」
「ラムズイヤー様が喋ってるザマス!?」
「病気が治ったンゴ?」
「きっと霊獣様のご加護に違いないワン!」
「これなら皇室は安泰ナリ」
「こうしちゃおれん、あっちに行くぞなもし」
会場の集団は、大きく分けて三つ。ステージに近い場所で見守ってるのは、親皇室派だろう。少し離れて見学している連中が、元老院を中心としたメンバーだな。そして真ん中が、中立派といったところか。
しかしお前たち、わかり易すぎるぞ。これで黒幕の尻尾を掴めないとか、アインパエの行く末が心配になってしまう。逆に全員の脇が甘すぎるせいで、埋もれてしまっていたりして……
ラムズイヤーの挨拶が進むにつれ、中央付近にいた参加者の多くが、ステージへと近づいていく。後ろの連中、悔しそうな顔しやがって。ざまあみろ。
「クルルルルルルー」
コハクが反応した!
俺は上空で待機しているジャスミンに合図を送る。妖術で上人に化け、参加者に紛れ込んでいるユーカリはあそこか。さすが状況把握に関して達人級、ベストポジションにいる。
シトラスとシナモンがいれば、壁の外から妨害されることはないし、スイは万が一の際に活躍する切り札。俺は自分の使命を果たすべく、コハクの頭を撫でながら周囲にギフトの目を飛ばす。
ステージ近くにいた人物が、人混みに紛れながら姿を消した。そして壁の方へと離れていく。
見つけたぞ。隠れているつもりだろうが、俺の目をごまかすことはできん。隠密たちが捕縛してないってことは、魔道具でも見破れない隠形だな。
今すぐ取り押さえてやるから、覚悟しやがれ。
――チュドォーーーン!!
隠れている人物に近づこうとした瞬間、会場に爆音が鳴り響いた。
スコヴィル家の安否は?
そして黒幕が取った行動とは。
次回「0202話 真打ち登場」をお楽しみに!