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0190話 世紀の大発見

誤字報告ありがとうございます。

文字抜けが多い(最近の傾向)

 シトラスと一緒に大池の周りを軽くランニングし、着替えてから露草の館(つゆくさのやかた)を出る。向かうはベルガモットたちが暮らす青の御所(あおのごしょ)だ。


 ユーカリが来てくれると助かるのだが、いきなり皇族方の食事を従人(じゅうじん)と作るわけにもいかん。ただでさえ馴染みのない食材を使うんだしな。最初からハードルを上げすぎるのも良くない。


 根回しを済ませてるとはいえ、就任したばかりの守護者(ガーディアン)を、どこまで信頼してくれるだろうか?


 そんな事を考えながら門を出ると、ハットリくんが待っていた。

 すっかり俺たちの世話係になってるぞ……



「おはよう、ハットリくん」


「おはようでござる」


「今は何かと忙しいだろうに、時間を取らせてすまんな」


「気にしなくていいでござる。そちらの警備が必要ないだけでも、ずいぶん楽でござるからな」



 なにせ下手にうろつかれたら、ミントが落ち着かなくなる。それに隠密行動をしていると、精霊たちが追い返そうとしてしまう。俺もうっかり拳銃を撃ってしまったし!



「まあ、こっちのことは心配しないでくれ。一番危険なのは、俺が単独で行動しているときだ。コハクが危険を知らせてくれるとはいえ、対処できることは限られているからな」


「キュイッ!」


「あの不思議な魔道具だけでも、相当な戦力だと思うでござるが……」



 二挺拳銃(にちょうけんじゅう)は、まだ練習中なんだ。加えて武器の特性上、多対一だと押し返せない。それを補う方法は拳銃を使った近接戦闘だが、映画みたいな殺陣(たて)をやるには自分の身体能力が低すぎる。よくあるフィジカールブーストみたいな、強化魔法でもあればいいのだが。


 ベルガモットに発現した増幅術が、その手の効果を発揮するかもしれないと思っていた。しかしその力は、スキルの効果を上げるもの。俺に発動したところで、なんの効果も得られない。


 まあ無い物ねだりしても虚しくなるだけ。コルツフットが持っていたような麻薬は論外だし……

 今は自分自身を鍛えつつ、皇族が所蔵している書物や、大図書館の蔵書に期待しよう。



「しかし皇居の料理番が、あっさり承諾してくれて驚いた」


「タクト殿がカラミンサ上皇后様(じょうこうごうさま)の孫だからでござる。腰のマジックバッグを見て、それに気づいた者がいたのでござるよ。勇名(ゆうめい)()せた方の孫でござるからな。みな怖がっているでござる」



 祖母の武勇伝を色々聞かされたが、たしかに恐れる気持ちは理解できなくもない。身内に敵対すれば容赦しないあたり、俺もその血を受け継いでいそうだ。



「ということは、カモミール母さんのことも噂になってるよな?」


「そっちは皇帝陛下が、うまく説明してくれているでござる。タクト殿の不利益には、ならないと思うでござるよ」


「ベルガモットの守護者(ガーディアン)として、出来る限り手を貸すつもりだ。しかし後継者候補になる気はない。そのあたりを徹底しておいてくれ」


「それを簡単に言ってしまうあたり、上皇后様の血筋でござるな」



 アインパエで暮らす人の価値観は知らないが、俺にとって皇位継承権など足枷にしかならん。それより従人の待遇向上と、アインパエの立て直しが喫緊(きっきん)の課題。そっちをやるには、自由に動けた方がいい。他国との橋渡しも、しがらみなく出来るからな。


 歩きながらあれこれ情報のすり合わせをしていたら、青の御所が見えてくる。

 さて、頑張るとするか!



◇◆◇



 厨房に案内されると、部屋の隅にサフランが立っていた。料理の心得があるみたいだから、監視役ってところだろう。そして他には中年の男性が一人だけ。建物内でも遠巻きに視線を感じるだけだったので、やはり相当怖がられているらしい。


 目付きの悪さは自覚してるし、この程度は想定内だ。悪意を感じないだけ、ずいぶんマシだとも言える。そもそも俺は上人(じょうじん)にいくら嫌われようと、ダメージはないからな!



「ナスタチウム様の食べられる料理を作ってくれる兄さんだな。俺の名前はイノンド。兄さんと同じ南方大陸出身だ」


「申し出を受け入れてくれ、感謝する。俺の名前はタクト・コーサカ、そしてこの子の名はコハク。厨房に動物を入れるのは、ルール違反だと思う。だがコハクは霊獣なので、衛生的に問題ないはず。俺の護衛も兼ねてるから、大目に見てくれると助かる」


「キュイッ!」


「皇居の連中は動物に寛容だから問題ないぞ。なにせ霊獣は皇族の守り神みたいなものだからな。むしろ一目見ようって(やから)が、入り口のところに集まってる」



 俺が後ろを向くと、鈴なりになっていた顔が、扉の向こうにサッと隠れた。一人だけ遅れたやつがいるぞ。ワタワタと周囲を見て、慌てて首を引っ込めている。



「なるほど。やたら視線を感じたのは、コハクを連れていたからか」


「クゥゥー」



 コハクが申し訳無さそうな声を上げるので、(あご)の下で指をクニクニと動かす。それを見ていたギャラリーたちが、ワッと湧く。俺本人は怖がられていたとしても、コハクがいるから敵意を向けられない。霊獣様々だな。



「伝わっていると思うが、俺の持つレシピを不用意に広めるのだけは、やめてくれ。別大陸ってことで特別に許可をもらっているが、俺はタラバ商会に所属してるんだ。そこと独占契約を結んでいる関係上、南方大陸に流出すると大きな問題になる」


「ここで働く者は情報漏洩の怖さをよく知ってる。特に御所内で働いてるのは信頼の置ける者だけだから、安心してもいいぞ。それに俺はタラバ商会に恩があるからな。裏切るような真似は絶対にしない」



 どうやら見習い時代に、タラバ商会の系列店で修行していたらしい。独り立ちしてからは、世界中の食材や郷土料理を研究。その知識と腕を買われ、ここにスカウトされたそうだ。



「だが豆だけってのは、やっぱり限界があってな。できるだけ美味いものを食べさせてやりたいんだが、いまだに満足してもらえない。まったく情けない限りだ」


「豆を主食にするのは、相当苦労があっただろ。ナスタチウムの体質を考えると、他に使えるのは芋くらいしかないしな」


「世界中から豆に関するレシピや加工品を集めた。しかし、その多くは調味料やおかずだ。パンや麺と合わせるならそれでもいいが、それを単品で食べてもらうわけにはいかない。潰した豆や芋で代替品を作ろうとしても、うまくいかなくてな」



 豆を使った調味料か。それは大いに興味がある。他国からわざわざ呼び寄せるほどだし、彼の実力は本物で間違いない。こちらも大いに勉強させてもらおう。



「まずは、いま使ってる材料や調味料を教えてもらえないか」


「おう、任せとけ」



 しかし凄いな、こんなに豆料理があったとは。俺の知らない材料や加工品が、所狭しと置いてある。枝豆まであるじゃないか! 塩ゆでにして、キンキンに冷えたビールが飲みたい。



「この壺は?」


「それは内陸にある街から取り寄せた、塩漬け煮豆の発酵調味料だ。野菜とかに塗って食べる」


「こっちの桶には白い塊が入ってるな」


「そっちは豆の搾り汁を固めたやつだ。アインパエの漁師町で製法を見つけて、試しに作ってみた。しかし、味がほとんどしなくてな……」



 おいおい、大発見じゃないか。味噌と豆腐だぞ、これ。やばいテンションが爆上がりしてきた。まさかこの世界でも作られていたなんて……



「主食になるものは、俺が用意してある。あとはこの二つを使わせてもらおう」



 夢にまで見た、日本の朝ごはん。豆腐とわかめの味噌汁、作ってやるぜ!


食事の披露と失語症の治療。

次回「0191話 解決の道筋」をお楽しみに。

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