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0181話 ニームの悪ノリ

 やれやれ、やっと終わった。これでニームに手を出すのが難しくなる。俺の出生に関しても広まるだろうが、そっちはうまく立ち回るだけ。しばらくは学園に引きこもるし、ベルガモットの留学期間が終われば、全員でアインパエへ行く。そこで皇位継承権を正式に放棄したり、皇籍を離脱すればいい。



「みんな、ありがとう。おかげでなんとか上手くいった」


「本当にありがとうございました。サーロイン家から離れられたのは、皆さんのおかげです」



 元々はベルガモットの発案だったが、みんな喜々として手伝ってくれた。各家に招待状をしたためてくれたベルガモット。除籍の事前申請や書類を用意してくれたマツリカ。会場のセッティングをしてくれた学園長。衣装の制作を手伝ってくれたベニバナ。式典の作法を教えてくれたローズマリー。本当、みんなには感謝せねば。



「で、なんでお前は俺の腕を抱きしめたままなんだ? 動きにくくてかなわん」



 一度離れたのに、また絡みつきやがって。エゴマたちは帰ったんだから、もう見せつける必要はないだろ。



「今日から夫婦ですし、いいじゃないですか」


「これからは、ニーム姉上殿と呼ばねばならんのじゃ」


「可愛い妹ができて嬉しいですよ、ベルガモットちゃん」



 この二人、本当に仲が良くなったな。あれから何度も再戦してるし、やはりリバーシ効果なんだろうか?



「社会通念的には、養子縁組だと思うが……」


「兄さんの中では養子かも知れませんが、世間はそう思ってくれませんよ。なにせ年齢の近い男女ですからね」


「いい殿方が見つかって良かったですわね、ニームさん」


「ローズマリーさんに様々な心得を、教えてもらったおかげです」



 お前ら、なんでそんなにノリノリなんだ。

 って、待て待て。初夜の心構えとか教えてどうする。ローズマリーにもちゃんと話したよな、俺とニームは本当の兄妹だと……


 そっちの二人も止めろよ。孫が暴走してるんだぞ。笑いながら傍観するのは、やめてくれ。



「ねえ、ニームちゃん」


「なんですか? ベニバナさん」


「さっきみたいにタクト君のこと、名前で呼ばないの?」


「あー、そうですね。ついいつもの癖で、兄さんと呼んでしまいました。これから、どうしましょう?」



 いや、どうしましょうと聞かれても。

 というか、なんで上目遣いで見上げながら、首を可愛く傾けてるんだ。ちょっと小動物みたいだろ。それといい加減、腕を離せ。ステビアの視線が突き刺さってかなわん。



「好きに呼べばいいだろ」


「じゃあ……あなたとか、ダーリンとかでもいいですか?」


「却下だ!」


「まったく、うちの亭主ときたらワガママですねぇ~」



 悪乗りするニームが、こんなに手強かったとは。今まではサーロインという家名のせいで、抑圧されていたのかもしれない。もしかすると俺は、とんでもないものを目覚めさせてしまったのだろうか……


 なんてことはさておき、ローズマリーの祖父母にも挨拶をしておこう。わざわざマハラガタカから足を運んでもらっておきながら、こっちのゴタゴタに付き合わせたんだからな。



「せっかく来てくれたのに、不愉快なものを見せて申し訳ない」


「構わんよ。こうなることは承知の上で、来たのだからな。追放から逆転する定番の演劇を見てるようで、楽しかったぞ」


「ロージーちゃんの晴れ姿が見られたから大満足よ。この服、あなたがデザインしたんでしょ?」


「素人の真似事だから、元本職にみせるのは恥ずかしいが、俺のデザイン画をもとに作ってもらった。優秀な服飾職人のおかげで、形になったようなものだよ」


「謙遜しなくていい。適当なラフスケッチじゃないくらい、見ればわかる。細かい部分まで描き込まねば、あの服は作れん」


「でも、一点ものだといいけど、量産は無理ね。手が込みすぎてるわ」



 さすが元プロのデザイナーと凄腕服飾職人。マスカルポーネ夫妻って、その筋では有名人だからな。すでに引退しているとはいえ、いまだに業界への影響力を持っている。まさかこの二人が来るとは思ってなかった。



「君さえよければ、うちの息子と会ってみないか?」


「若い子たちへの刺激になると思うわ」


「キャラウェイお祖父様、シトロネラお祖母様。タクト室長を勧誘するのは、おやめ下さいな。この方がいないと(わたくし)たちの研究室は、立ち行かなくなるのですから」



 そういえばエゴマのやつ、この人たちのことを知らなかったのだろうか。プロシュット家にライバル心を燃やす男だが、母方の祖父母はどうでも良かったのかもしれん。まあ知っていたら噛み付いただろうし、参加してくれたのがこの二人でラッキーだ。



「すまんなロージー。優秀な若者をみると、ついな」


「だけどエゴマさん、どうしてこんな子を無能呼ばわりするのかしらね」


「俺は大規模な事象改変が苦手だから、威力のある属性魔法を発動できない。それにサーロイン家は属性五系の出やすい血筋なんだ。しかし俺は母が五系を束ねる風覇(ふうは)だったにも関わらず、授かったのは論理演算師(ハズレギフト)だからな」



 なにせエゴマ本人は雷神(らいじん)長男(ボリジ)炎帝(えんてい)、他家へ嫁に出された長女(クレソン)水姫(すいき)三男(チャービル)風王(ふうおう)。母親たちも属性五系持ちだから、きっと四男(ディル)にも良いギフトが出るだろう。



「他家の陰口はあまり言いたくありませんけど、スタイーン国でも今のサーロイン家は問題視されておりますの。長男のボリジ様はトラブルメーカーで、対応に苦慮しておりますし、チャービル様も今日の様子をみる限り、スクティタク学園で絶対にやらかしますわね。お父様が今日来られなかったのは、その対策を話し合うためでしたのよ」



 どれだけ迷惑かけてるんだよ、あいつら。まさかそんな事になってたなんて知らなかった。きっとエゴマのやつが、もみ消していたに違いない。



「もしかして入学当初、ローズマリーさんがやたら突っかかってきたのは、私を警戒していたからですか?」


「申し訳ございません、ニームさん。でもすぐに他のご兄弟とは違う、そう気づきましたわ。ニームさんとタクト室長は、サーロイン家の良心でしたのね」



 そのせいでニームは、ローズマリーからライバル視されてると思っていたそうだ。ローズマリー曰く、これからも勉強に関しては、良きライバル関係を続けたいらしいが……



「あのさ、タクト君って本当に皇帝の血をひいてるの?」


「それは間違いないのじゃ。妾たちは、見分ける方法を知っておるからの」


「じゃあ今までみたいな話し方だと、不敬になったりしない?」


秘密警察(ゲートキーパー)に粛清されたり、指揮官(ハンター)が暗殺に来たりしないから、安心しろ。なにせ俺自身、先日まで知らなかったくらいだ。これまでどおり接してくれればいい」



 俺たちがそんな事を話していると、桜色のうさ耳が入り口から顔をのぞかせる。



「もう入って構わないです?」


「大丈夫だから入ってこい」



 パタパタ走ってきたミントがしがみついてきたので、そっとうさ耳をモフっておく。



「エゴマたちには見つからなかったか?」


「はいです。アルカネットさんに、全部お任せしてきたです」


「よし。じゃあ片付けて撤収するか」


「あっ、今日から私も迎賓館で寝泊まりします。いいですよね、学園長先生」


「ニーム・コーサカになったのじゃからな。家族として暮らせば、まったく問題無しじゃ」



 学生寮とは目と鼻の先なのに、わざわざ引っ越してくるのかよ。さては食事目当てだな。よかろう、腕によりをかけて作ってやる。海苔の力、思う存分味わうがいい!


次回、今まで語られなかったサーロイン家の内情が明かされる。

「0182話 クミンのお泊まり会」をお楽しみに!

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