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0177話 これで勝負なのじゃ!

いつも誤字報告ありがとうございます。

助かってます。

 まったく宗教団体ってのは面倒でかなわん。あいつら教義を行動理念にしてるから、融通というものがまるで無い。他国の皇族を異端審問にかけるとか、バカも休み休み言いやがれ。お前らはアインパエと戦争でもするつもりか?


 結局、審問官の独断専行だったようで、事なきを得たが……



「ねえ、ねえ。聖女ってどんな人なの?」


「俺も会ったことはないから知らん。そもそも滅多に人前へ出てこないしな。ベニバナが祈祷を受けた時も、カーテン越しに話をしたそうだ」


「どんな人が聖女になれるです?」


「ベルガモットみたいに、術を使える上人(じょうじん)と言われてるな。あれだけ珍しい体質の人間が、そうそう生まれてくるはず無いのに、ここ数百年に限って言えば、どの時代にも聖女はいるんだよ」


「ジャスミンさんみたいに長寿なのでしょうか?」


「私たちの寿命は長くて二百年くらいよ。タクトみたいな人と出会わない限り、森の外で生きられないと思うわ。大聖堂で有翼種(ゆうよくしゅ)たちが暮らしてるのなら別だけどね」


「……大聖堂のてっぺん、登りたい」



 マハラガタカは、近いうちに連れて行ってやるからな。

 俺はシナモンの頭を撫でながら、話を続ける。



「とにかく聖女には謎が多い。なにせ立場的には教皇より上だ。学園長が聖女の名前を出したら、慌てて引き下がっただろ。ダエモン教徒で、彼女に逆らえる者は誰ひとりいない」



 ラズベリーという名の女性らしく、今回はその威光に助けられた。学園長に聞けば、詳しい人物像がわかるかもしれん。まあ宗教に興味はないので、どうでもいいが……


 膝に座ったシナモンを愛でながら思考を巡らせていたら、研究室の扉が開く。入ってきたのはニームとベルガモット、そしてマツリカだ。



「ベニバナとローズマリーはどうしたんだ?」


「クミンさんのところに行ってますよ。私は皇女殿下に校舎を案内していたので、お二人とは別行動です」


「設備が充実しておって、驚いたのじゃ。特に学食がすごかったのじゃ」


「ちゃんと赤根(にんじん)も残さず食べろよ」


「うぅ……わかっておるのじゃ。タクトのおかげで、好き嫌いが減ってきたからの。(わらわ)も成長しておるのじゃ!」



 えっへんと言いたげに胸を反らすな。可愛すぎるだろ、そんな姿。思わず頭を撫でくりまわしたくなるぞ。



「今のうちに聞いておきたいことがあるのですが、構いませんか?」


「ベルガモットのことだろ?」


「はい、そうです」



 ベルガモットがこちらをじっと見つめるので、手招きしてやる。するとシナモンが膝から降り、代わりにベルガモットが収まった。せっかくだから頭を撫でてやろう。



「話してもいいか?」


「妾たちはニームの秘密を知ってしまったからの。こちらも正直に明かすのが、フェアというものなのじゃ」


「いえ、もうわかりましたからいいです。何かがトリガーになって、ケモミミやしっぽが現れるのでしょ?」


「いい線いっているが、正確には少し違う」



 ベルガモットが魔力を持っていないこと、ニームには隠せないしな。体質や支配値について、すべて話す。このメンバーなら、どんな情報を共有しても大丈夫だ。外に漏らす可能性は絶対ない。



「まあ兄さんに気に入られている理由は、わかりました。ですがベタベタしすぎです。いいんですか? アレを放置しておいて」


「タクト様なら問題ありません」


「側付きまでたらし込むとは、なかなかやりますね」



 マツリカに訴えても無駄だぞ、ニーム。それと言葉はちゃんと選べ。たらし込んでなど無いわ。マツリカは正真正銘の上人(じょうじん)だからな!



「タクトは妾にとって、兄と同じ存在なのじゃ。こうしてスキンシップを取るくらい、なんの問題もないのじゃ」


「ちょっ!? なんですか、それ。兄さんには私という、本物の妹がいます。あなたの入り込む余地などありません!」


「サーロイン家のご令嬢が、なにを言っておるのじゃ。妾はタクトと同じベッドで寝るほど、親密なのじゃぞ。お主こそ割り込みはやめるのじゃ」


「わっ、私だって兄さんと一緒に寝たことくらいあります」



 おーい。なに二人で盛り上がってる。



「ほほう。妾は毎日一緒に寝ておるが、ニームは何回くらい寝たのじゃ?」


「まっ、毎日!? 私も今日から迎賓館で寝泊まりします。ステビア、ローリエ、引っ越しの準備をしますよ」


「お待ち下さい、ニーム様。私たちが迎賓館に入るのは無理です」


「ねえタクト様、迎賓館ってどんなところ?」



 気づかないうちに隣りに座っているとは、ローリエもなかなかやるようになったじゃないか。ネコミミ少女に左右から挟まれて、俺は幸せだぞ。



「無駄に装飾が多くて、ちょっと落ち着かないね」


「お風呂がとてもきれいなのです」


「大きな厨房があって、お料理するのが楽しいですよ」


「……暖炉、最高」


「部屋が広いから、気持ちよく飛び回れるわ」



 本当にマノイワート学園は凄い。それなりの頻度で、各国の要人を招くことがあるのだろう。迎賓館には謁見の間や会議室、そしてサロンやパーティーホールなどがあり、長期滞在も可能な建物だ。各種施設のある本館は使ってないが、俺たちが泊まってる別館だけでもかなり広い。



「ならば妹の座をかけて、妾と勝負するのじゃ」


「いいでしょう、受けて立ちます。勉強なら負けませんよ」


「これで勝負なのじゃ!」



 マジックバッグから取り出したのは、マス目が描かれた板と白黒の駒。リバーシとは、また懐かしい物を。これ、カモミール母さんが強かったんだよな……


 っていうかお前ら、まだ言い合いしてたのか。いい加減にしろ。



◇◆◇



 白熱するニームとベルガモットの勝負をよそに、俺たちはお茶を楽しむ。クミンに提供する晩飯は、どんな献立にしよう。栄養満点の茶碗蒸しと、中華風のささ身粥に、おかずを数点かな。同じものばかりだと飽きるだろうし、少しずつ変化をつけてやらねば。



「うぅー、兄さぁーん。皇女殿下が強すぎますー」


「泣きついてくるな」



 ステビアの機嫌が悪くなるだろ。



「コテンパンにやられた妹を慰めるのは、兄の役目じゃないですかぁー」


「まったく、仕方ないな」



 ステビアを手招きで呼び寄せ、隣りに座っているローリエと一緒に、三人でニームの頭を撫でる。ベルガモットに見せつけるためだろう、ここぞとばかりに甘えてきやがって。まあ悪い気はせんが、ちょっとあざとすぎるぞ。


 しかし皇族ってのは、リバーシの特訓でもするんだろうか?

 二人の勝負を見ていたが、ベルガモットも母さん並みに強い。



「これで妹の座は、妾のものじゃな」


「それくらいで勘弁してやれ。俺にとってニームとベルガモットは、どちらも同じくらい大切な存在だ」


「面と向かって言われると、さすがに照れてしまうのじゃ」


「そういう事をサラッと言う兄さんは、本当にズルいです」



 別に問題ないよな、嘘は言ってないんだし……



「そういば、ニームを守ってやると言ったじゃろ。その事で相談があるのじゃが」


「皇女殿下も協力してくださるのですか?」


「全力で戦った者同士に友情が芽生えるのは、お約束じゃからな」



 いつの間にか、バトル漫画になっていたらしい。

 仲良くなれたようだし、どうすればニームを守れるのか、検討を進めていく。



「ならばこういう作戦はどうじゃ?」



 さすが為政者の娘。なかなか面白いことを考える。たしかに上手くいけば、ニームをサーロイン家から独立させることが可能だ。あの男(エゴマ)の性格を考えると、きっと餌に飛びつくだろう。ちょっと面白くなってきたぞ。


次回から3話連続で第三者視点に。

いよいよ主人公の元実家が物語に絡んでくる。

 「0178話 サーロイン家の二人」

 「0179話 式典」

 「0180話 今さら戻ってこいと言われても、もう遅い」

と続きます。お楽しみに!

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