0017話 スキンシップの理由
本日2回目の更新です。
野人の子どもたちを見送った後、シトラスも温水ミストできれいにする。温風でゆっくり乾かしてやりたいところだが、それは今夜のお楽しみにとっておこう。
「キミって本当に見境がないよね」
「喜んでいたんだから、問題ないだろ」
「そりゃー、あんなふうにキレイにしてもらえたら、喜ぶと思うけどさ。でもしっぽとか触り過ぎなんだよ」
「お前は風呂の後に可愛がってやるから、そう拗ねるな」
「拗ねてるんじゃない! ボクだけならともかく、キミの変態趣味に子どもたちを巻き込むなって言ってるの」
子どもたちがブラッシングを受けてる間、ずっと羨ましそうな顔で見てたくせに。それに今の言い方だと、しっぽのブラッシングを受けるのは自分の役目、そう告げているのと同義だぞ。本当に可愛いやつだな、シトラスは。今夜はレベルアップの祝いも兼ねて、ごちそうを作ってやるとするか。
「ブリーダーでもない俺が野人と接する機会なんて、あまり多くはないんだ。時々こうして触れるくらいのことに、目くじらを立てるな。それにあの子たちにやっているブラッシングと、お前に毎日やっているのとでは、全く意味が違うんだぞ」
「それ、どういうこと?」
「朝にも説明したが、俺のギフトで品質のビットを書き換えただろ」
「四本ある縦棒のうち、三つを見えなくして一等級と同じ状態にする、だったね」
「その操作をするためには、俺の魔力を受け入れられる状態にしなければならない。だから毎日のブラッシングで体に触れたり、料理に魔力を練り込むことによって、シトラスの体を徐々に馴染ませていた。そうしないと拒絶反応が起こり、お前の体に負担をかけてしまうからな」
「じゃあ毎晩ボクを抱き枕にしてるのも、キミの魔力を馴染ませるため?」
「もちろんそのとおりだ」
九割九分は趣味だが!
「へー、そっかー。キミのことだから、自分の欲望を満たすためにやってると思ってたよ」
なかなか鋭いな、シトラス。だがなるべく早く魔力に馴染むよう、過剰に接していたのは事実だ。そうでなければ、この短時間でビット操作なんてできない。
「スキンシップは毎日続けないと、いずれ元の状態に戻ってしまう。これからも存分にモフらせてもらうぞ」
「強くなれるのは嬉しいから、すごく嫌だけど我慢してあげるよ。せいぜい感謝することだね」
そんなことを言われるまでもなく、お前には毎日感謝している。アナフィラキシーショックの息苦しさで意識が朦朧とする中、最後まで心残りだった動物とのふれあい。そして転生したあとに渇望し続けていた、従人との和気あいあいとした暮らし。それをシトラスが叶えてくれたんだからな。
◇◆◇
冒険者ギルドへ戻り、依頼達成を報告するためカウンターへ向かう。途中で弁当を食べたりしたが、まだ混雑する時間にはなってないようだ。
「依頼達成の報告に来た」
「お疲れさまでした。まったく汚れていないようですが、水スライムの討伐はできたのですか?」
俺の後ろに控えているシトラスをちらりと見て、受付嬢がそんなことを尋ねてくる。泥だらけのまま街を歩かせるわけ無いだろ。そんなのが隣りにいたんじゃ、俺の気が滅入ってしまう。
「現地で洗って、靴も履き替えさせたからな」
「なるほど、それはありがとうございます。泥だらけで連れてこられると、掃除が大変なんですよ」
「生活魔法で洗って乾かすだけだから、そんな手間でもないだろうに……」
「貴重な魔力を生活魔法で浪費するのも、もったいないですしね。それに今朝会ったときと変わらない状態まできれいにするとか、相当時間がかかったんじゃないですか?」
単に水をぶっかけるような洗い方では、時間がかかるし汚れも落ちにくい。しかし温かいミストで汚れを浮き上がらせ、そいつを分離するだけなら短時間ですむ。霧は液体と違い密度が低いので、事象改変の量も減る。つまりそれは魔力消費を抑えられるということ。要は使い方次第ってことだ。
「その辺りはうまく遣り繰りしているから問題ない」
「とにかくお疲れさまでした。現地の状態を確認出来次第、タクト様の口座に達成料をお振込みいたします」
「それから異常発生の原因になっていた魔鉱石を見つけた。こいつの買取もお願いできるか?」
カウンターの空いたスペースへ、マジックバッグから魔鉱石を取り出す。青果店のおばちゃんと違って驚かないのは、冒険者の中にはマジックバッグを持ってるやつも、いるからだろう。
「よく見つかりましたね。何度かこの依頼は発生していたんですが、誰も発見できなかったのです」
「地下に魔力を通しやすい地層があるせいで、魔物の発生場所から少し離れた位置に埋まっていた」
「まさか新人さんが見つけてくるなんて驚きですよ。現地で野人を集めて探させたんですか?」
「いや、魔力糸を使う探査魔法だ。それで異常のあった場所を特定している」
「うわっ、アレの使い手なんて趣味が渋すぎます。タクトさんは生活魔法マニアだったのですね」
口調がちょっと砕けてきてるぞ。それに俺はマニアなんかじゃない、生活魔法しか使えないんだ。しかしこの受付嬢、よくマイナーな生活魔法を知っていたな。そっちこそマニアじゃないのか?
「その大きさなら結構な値段になるだろ?」
「はい、鍛冶職人がきっと喜びます。買取金額にはご期待ください」
よし、これで当面の生活費は稼げたはず。鉱石の純度によっては、ボーナスが付く可能性もある。買取の手続きをすませた俺の頭は、すでに今夜のメニューについて考え始めていた。まだこの世界で作ったことのないアレに挑戦してみるか。肉料理はシトラスの好物だし、俺も好きだ。
明日は朝の7時に予約投稿を入れています。
主人公の作る肉料理とは?