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0163話 海苔の力

特定人物へのヘイトが溜まりそうなので、11話ほどを連続で投稿します。

推敲不足で後ほど書き換える部分もあると思いますが、おおらかな気持ちで読み進めていただければ!


明日からは毎朝7時に予約投稿を入れておきます。

 ワインビネガーに砂糖と塩を入れ、軽く煮切って酸味を飛ばす。炊きあがったご飯を(おけ)に移し替え、すし酢を注ぎながら切るように混ぜていく。あとは風魔法で粗熱を取れば、酢飯の完成だ。冷ましているうちに、にぎり飯も作っておこう。


 まずは定番の俵型や三角にぎり、そしてシトラスが喜びそうな爆弾おにぎり。



「作るのは簡単ですが、かなり手間がかかりますね」


「まあ今日は無駄に凝ってるしな。しかも巻き寿司にまで手を出してるから、時間がかかってしまうのは仕方ない」



 今日は海苔と水麦(みずむぎ)の初コラボということで、ついつい色々作ってしまった。こうしてユーカリが手伝ってくれなければ、倍以上の時間がかかったはず。


 だがしかし。反省はしているが、後悔はしていない。明日の朝ごはんも兼ねているし!



「うぅっ……手にベタベタくっついてしまうのじゃ」


「あぁ、すまん。手を濡らしてやるの、忘れていた」


「こちらをお使いください、ベルガモット様」



 ユーカリから水の入ったお椀を受け取り、ベルガモットが自分の手を濡らす。俺は生活魔法で水を出せるが、この子は無理だもんな。今日は見た目もそのままなので、うっかり失念してしまっていた。



「おぉっ、これなら楽ちんなのじゃ」


「私が料理のギフトを持っていれば、ベルガモット様にこのような真似……」


「諦めろ、マツリカ。お前は自分のできることをすればいい」



 手芸のギフトを持ってるんだから、手先は器用なはず。しかし料理が壊滅的にダメなのは何故だ。包丁を両手で握って食材に斬りかかるとか、料理のなんたるかを全く理解できてないだろ。肉や野菜は、親の仇なのか?


 教えた直後は若干マシになるが、すぐ元に戻ってしまう。しかも隠し味とか言いつつ、すぐ変なものを入れたがるし……


 味覚音痴ではないのに、自分で味付けできないとか不思議でならん。とにかくこの分野に関しては、ミントよりも劣る。なので戦力外通知を出し、今は精白担当だ。



「俺は巻き寿司に取り掛かる。そっちは頼んだぞ」


「お任せください、旦那様」


(わらわ)も頑張るのじゃ」



 巻きすの上に海苔を置き、酢飯を薄く伸ばす。かんぴょうとか生魚を使いたいが、似た食材を見たことがない。それに生魚は寄生虫が怖いから、おいそれと使うことはできん。こっちの世界に、刺し身の文化はないし……


 そんな事を考えながら、サラダ巻きをいくつも作っていく。葉物野菜と卵やツナ、肉がたっぷり入ったのも作ってやるか。


 おっと南部地域の森にしか生えていない、長実(きゅうり)も入れなくては。せっかくシトラスが採ってきてくれたんだからな。



「よし、完成だ。みんな、晩飯にするぞ」


「今日のご飯って、なんか地味だよね」


「真っ黒なのです」


「……ツヤツヤ、きれい」


「こっちは今までと同じおにぎりに、海苔を巻いたもの。この丸いのは爆弾おにぎりだ。そしてこれがサラダ巻きといって、具材を酸っぱいご飯と海苔で巻いてある」



 今日の料理を説明しながら、巻き寿司を風の刃で切る。すると切り口から、色とりどりの具材が顔を出す。



「ふわっ!? きれいなのです」


「……ツナマヨ♪ ツナマヨ♪」


「この丸くて大きいの、食べごたえありそう」


「今日の献立は野菜が足りないので、付け合せにあんかけスープを作ってます。体が温まりますよ」


「うぅっ……今日も赤根(にんじん)が入っておるのじゃ」


「薄く切っているし、黄ネギ(しょうが)黒茸(しいたけ)の風味がしっかり効いている。もりもり食べて大きくなれ」


「頭を撫でないで欲しいのじゃ」



 今日は満月の日だから、ベルガモットは俺から離れられない。寄り添って座ってるから、ちょうといい位置に頭が来るんだよ。



「旅の途中でこんなに凝った料理が食べられるなんて、やっぱりタクトはすごいわ」


「キュキュキューイ!」


「今日は時間がたっぷりあったからな。さすがにこれだけの料理、毎日は無理だぞ」


「日が沈むと妾は動けぬようになる。申し訳なかったのじゃ」


「そんなことは気にしなくていい。中途半端に進むことより、野営のしやすい場所を優先しただけ。もしどうしても先を目指したいのであれば、お前を抱っこするか手を繋いで歩けばすむ。これも予定のうちってことだ」


「実はシナモンのこと、ちょっと羨ましかったのじゃ。今度は妾も抱っこして欲しいのじゃ」


「機会があれば抱っこくらいしてやる。それより、さっさと食べ始めよう」



 あまり待たせると、シトラスがブチ切れかねん。獲物を狙うみたいに爆弾おにぎりを凝視してるから、ちょっと目が血走ってるかじゃないか。



「これふごい! ごふぁん(ご飯)より、具のひょう()が多いよ! おいひぃ、おいひぃよー」


「飯は逃げたりせん、落ち着いて食べないか」


「らって、こんなの食べたことないんだもん」


「外側を海苔で巻くと型くずれしにくくなるので、こんなおにぎりを作れるのですよ」


「こっちはご飯に、不思議な味が付いてるのです」


「……すっぱ美味しい」


「本来は穀物酢で作るんだが、果実酢でも美味しくできたな」



 時間の経過で角が取れたのか、酢飯がさらに食べやすくなっている。それに野菜と卵焼き、ハムやツナマヨとの相性もバッチリだ。



「これ、海苔と酸っぱいご飯だけでも、いけちゃうわね」


「キュイ」



 ジャスミンの食べる分は、小さな手巻き寿司にしてみたが、気に入ってもらえたらしい。中に入れる具材を色々アレンジして、手巻き寿司パーティーとかできないだろうか。海鮮類を揃える必要があるので、やるとしたらタウポートンでだが……



「今が旅行中だと、忘れてしまいそうになるのじゃ。タクトと行動を共にしておると、これまでの常識がどんどん崩れてしまうのぉ……」


「非道な魔法も平気で使いますしね」


「軽く触れただけで苦痛を与えたり、体の自由を奪ったり、恐ろしすぎるのじゃ」


「俺は生活魔法しか使ってないんだが?」



 ちょっと神経を刺激しているだけで、事象改変の規模なんて微々たるもの。つまりこの世界の基準だと生活魔法。だから俺は、なにも間違ったことを言っていない。それであれだけ効果的なんだから、要は使い方次第ということ。


 薬や刺激で神経伝達物質を出したり止めたり、微弱な電流で筋肉を動かす技術は、前世だと医療分野で使われていた。それのちょっとした応用だ。


 外傷がないのに死ぬ程痛い思いをしたり、本人の意志とは無関係に体を操られたりすれば、想像を絶する恐怖を覚えてしまうもの。もちろんユーカリが幻術で見せた、トラウマ級の体験も同じ。ギフトにも存在しない摩訶不思議な力を使われたら、二度と近づこうとは思わないだろう。



「その力を姫殿下に向けたら、即座に斬り捨てます」


「俺に敵対しない限り、そんな未来は絶対訪れん。お前も不安なら、コハクと仲良くなることだ」


「あなたと馴れ合う気はありません」



 ――プイッ



 肩に乗っているコハクが、マツリカから目をそらす。

 俺とマツリカは、互いに距離を置こうとしている。恐らくそれが原因で、コハクはマツリカにだけ馴れていない。ジャスミンによると、嫌ったり警戒をしてるわけではなく、距離を測りかねているそうだ。


 まあ俺自身マツリカの立ち位置を、まだしっかり見極められていないからな。そのあたりはアインパエへ行くまでに、なんとかしよう。



「下っ端だからかもしれないけど、ろくな情報を吐かなかったよね」


「捕縛しなくても良かったのです?」


「馬車での移動ならまだしも、こんな場所で捕まえても運べんしな」



 商隊とかは、馬車にくくりつけて連行するそうだ。なにせ警備兵に引き渡すと、報奨にボーナスが付く。俺が欲しいのは経験値だけだから、わざわざそんな面倒なことをする必要はないが。



「……産地で活〆(いけじめ)


「そうです。姫殿下を狙うような不逞の輩(ふていのやから)、生かしておく必要はありません」


「情報源にならなくても、使い道はいくらでもある。せっかく向こうから餌が来てくれたんだ、有効活用しないと損だろ」



 今日の連中は電流魔法で跳ね回り、活きの良い姿を見せてくれたからな。締めたくなる気持ち、わからんでもない。しかし雑魚をいくら減らしたところで、処理する手間が増えるだけ。臭い匂いは元から絶たないとな。



「どういうことなのじゃ?」


「アイツラを開放する前にやったこと、覚えてるか?」


「確か旦那様は、全員の指輪を外してましたね」


「俺は従人契約取扱い資格と、契約の魔道具を持っている。それで全員の指輪に、マーカーを付けてやった。もし真っ当な従人(じゅうじん)販売店に行けば、警備隊に連絡が行くって寸法だ」


「うふふ、さすがタクト。抜け目がないわ」


「組織だって動いてもらえば、依頼を仲介した連中や元締めまで、芋づる式に検挙できるかもしれん。だから今日の雑魚どもは、二度と歯向かわない程度の、お仕置きで良かったんだ」


「(あれは下手な拷問より、酷かったと思うのじゃが……)」


「なにか言ったか?」


「なんでも無いのじゃ」


流星ランクシューティング・スターの地位を使って、冒険者ギルドと警備隊には根回しをすませている。当面はこの方針で行くから、そのつもりでいろ」


「妾に異論はないのじゃ」


「物騒な話をしながら食うと、飯がまずくなる。昼間のことは忘れて、話題を変えよう」



 やっぱりおにぎりや寿司は、ついパクパクと食べてしまう。話をしている間にも、どんどん数が減っていく。これは明日の朝も、炊飯が必要になるかもしれん。まあこうやってモリモリ食べてもらえたなら、一日かけて作った甲斐があるというもの。海苔の力は偉大だな!


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