0015話 本領発揮
本日二話目の投稿(手動)です。
やっと主人公のギフトをお披露目。
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(2022/07/21 21:35)
設定の齟齬が発生したため修正。
[旧]
魔素の濃い森で発生する魔物は、なぜか湿地へ入るのを嫌がる。そうした習性のおかげで、力のない野人たちは、生活する場所を追われずにすむ。
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[新]
魔素の濃い森で発生する魔物は、それが存在しない場所へ出てこようとしない。その境界線が沼地と考えられている。そうした習性のおかげで、力のない野人たちは生活する場所を追われずにすむ。
下層街を取り囲む壁を超えると、そこは見渡す限りの湿地帯だ。主要な街道以外は畦道しかなく、地盤が少し乾燥している場所には、野人たちの暮らす掘っ立て小屋。遠くの方に見えているのは、危険生物が生息する森。
魔素の濃い森で発生する魔物は、それが存在しない場所へ出てこようとしない。その境界線が沼地と考えられている。そうした習性のおかげで、力のない野人たちは生活する場所を追われずにすむ。
そんな魔物の中でも例外なのが、スライム系なんだよな。あいつらは湿地にもいるし、時々街の中にも紛れ込む。山スライムなんてのもいるくらいだから、本当に謎の生態をしている。魔素の塊である魔晶核を落とさないのに、どうして魔物に分類されたのかは、専門家でも意見が分かれているらしい。
「そうだシトラス。いちおう武器を渡しておこう」
「これって、その辺に落ちてる木の枝じゃないか」
「なにを言ってるんだ、こいつだって立派な武器だぞ。名前はそう〝ひのきのぼう〟だ。攻撃力は二で、かっこよさはゼロだからな」
「相変わらずキミは、時々意味不明なことを話すよね!」
このネタはわからなくて当然だろう、なにせこの世界にはヒノキがない。あったとしても意味不明だけどな!
まあ一種のお約束ってやつだから、そう呆れないでくれ。だいたいお前、地べたを這いずり回ってるスライムに、どうやって攻撃する。いちいち踏んだり殴ったりしていたら疲れるだろ。
「効率よくスライムを倒すには鈍器が一番なんだぞ」
「知ってるよ。子供の頃は水スライムを相手にして、戦う練習してたんだから」
「それは頼もしい限りだな。濡れてもいい靴を用意したから、気兼ねなく湿地へ入って構わない。泥汚れは生活魔法で、すぐ落としてやる」
壁沿いの目立たない場所へ移動し、ソックスを脱いだあとに地下足袋を履いてもらう。すっかり健康的になった素足が、とても眩しいぞシトラス。
「群れからはぐれたんだろう、あそこに一匹だけ水スライムがいるな。丁度いいから倒してみろ」
「ボクの実力を見せてあげるよ!」
勢いよくぬかるんだ場所へ走っていくが、そんなに張り切らなくていいぞ。泥はねが凄いことになってるじゃないか……
「やーっ!!」
手にした棒を振り下ろすと、水スライムがグニャリとへこみ、弾けるように消えてしまう。しかしシトラスは、そのままの姿勢で固まってしまった。自分の体に起きた違和感に気づいようだ。
「えっ!? なんで? どうして??」
「おめでとう、シトラス。これでお前はレベル一だ」
「でもでも。キミは二百五十六匹倒さないと上がらないって、言ったじゃないか。なんで四等級のボクが、一等級と同じ上がり方をするのさ」
「それは俺の持つギフトによって、得られた効果だ」
「もしかしてキミのギフトって、経験値を増やしてくれるの?」
「いや、俺のギフトにそんな力はない。できるだけわかりやすく説明すると、十五という数値を構成するビット――要は四本ある縦の棒だな。そこに俺の持つギフトを行使して、そのうち三本を見かけ上ゼロにしている。そうすると経験値が一つのビットに集中し、一等級と同じ状態でレベルが上っていく」
つまり今のシトラスは、十五と一の論理積を取った状態。その結果、一とゼロの部分はビットがクリアされ、一と一の部分だけビットが立つ。これこそ論理演算師というギフトが持つ、本当の力だ。二進数やビット操作という概念を持っていなければ、絶対にこの使い方は思いつかない。転生者である俺だから、そして前世でプログラミングをしていたから、たどり着けた領域。
今はまだ下位四ビットの領域しか、操作できないという制限がある。それに使える演算子は論理積だけ。しかし俺自身のレベルを上げていけば、ギフトも成長するはず。そうすれば八ビット全域の操作ができたり、論理和や否定的論理積などが使えるようになるだろう。
「すごい、すごいよ! だからキミはボクを選んでくれたんだ」
「特殊な配列持ちということもあるが、強くなれるとわかっていたからだ。なにせ四等級はレベルが上がるごとに、強さがプラス十六される。ところが一等級は一レベルでたった二しか加算されない。レベル一のお前は、一等級で言うところのレベル八に相当する強さを得た」
「じゃあ、このままレベルを上げていけば、ボクは誰よりも強くなれるってこと?」
「いずれ全てのビットを立てることができれば、伝説の存在にだってなれるぞ」
論理演算でビットを立てたとしても、それは本当の強さではない。なにしろ論理演算師のギフトでは、恒久的に値を書き換えられないからだ。もしシトラスの持つ五ビット目から八ビット目を有効にしたければ、何かしら別の手段が必要になる。しかし今それを考えなくても構わないだろう。時間はまだたっぷりあるのだし、まずは四等級のシトラスを強くしていく。そこだけに集中すればいい。
「伝説の存在かぁ……」
「ただし一つのビットに経験値を集中させると、成長のバランスを崩すかもしれない。そのへんのマネジメントは俺がやる。なのでレベル上げするときは、必ず俺の近くでやるようにしろ」
「わかった!」
「ひとまず話はここまでだ。次は三匹倒せばレベル二、そして更に五匹でレベル三になる。思う存分暴れてこい」
俺は指輪で従人の状態を確かめながら、ビット操作を繰り返す。やはり必要経験値が一等級相当だと、面白いようにレベルが上がるな。ゲームなんかでも、この頃がすごく楽しいんだよ。野人の子どもたちと競争しながら、水スライムに攻撃するシトラスを見て、俺はそんな事を考える。
群れで発生していたスライムも減ってきたし、そろそろ自分の仕事を始めるか。俺は畦道に右手を付き、集中力を高めていった。
次回も主人公が地味に活躍。
「0016話 魔力の糸」をお楽しみに。
朝7時に予約投稿します。