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0129話 いきなりすぎて、それどころじゃないよっ!

 雑談をしながら情報のすり合わせをしているうち、ベニバナの緊張もほぐれてきたようだ。タメ口で話せるほうが、俺としてもやりやすい。



「学園長から受けた説明を、もう一度確認させてくれ。前触れもなく体調に変化が出るようになったのは、陰陽(いんよう)のギフトが発現してからなんだよな?」


「うん、そうだよ。いろいろ調べてもらったけど、病気や体の異常は見つからなかった。マハラガタカの大きな治療院でも、同じ結果だったの。それで両親がマノイワート学園に相談したら、特待生って扱いで預かってくれることになったんだ」



 マハラガタカというと、央国(おうこく)ヨロズヤーオの首都か。あそこは、この大陸で最も繁栄した地域だ。都市の規模という観点で見ても、北国(ほっこく)アインパエにある帝都(ドアッガ)より発展している。そんな大都市でも解決できなかったのなら、もう頼れるのは学園だけしかないよな。



「ギフトが発現してから一年と少し、突然訪れる不調に悩まされるのは辛かっただろ」


「家の手伝いもしにくくなったし、旅行だって気軽に出来ないんだよ。そんなの当たり前じゃない」


「それだけの経験をしてきたんだ。今日ちょっと増えるくらい、なんでもないよな?」


「えっ!?」



 とにかく陰陽というギフトは、発現例が少ないため謎が多い。なにがトリガーになるのか、人によってまちまち。そしてギフトのもたらす影響が明確にならないまま、一生を終えることすらある。


 ベニバナの場合は、それが体調の変化になって現れるとのこと。倦怠感や頭痛といった不調から、前触れもなく高揚したり落ち着かなくなったり、一貫性のない症状として……


 しかし前世でアレルギー体質だった俺なら、その苦しみは理解できるつもりだ。なにせ原因がわからない限り、対処ができん。そして外傷や発熱のように、見てすぐに分かるような症状でなければ、軽く見られがちだからな。


 学園長も古文書をあたって症例を調べたり、色々と手を尽くしてくれている。しかし、彼女がなにに影響を受けているのか、まったく掴めていないのが現状だ。俺がニームから依頼を受けて学園長に相談したところ、異世界の知識を役立てて欲しいと懇願された。


 ならば全力で取り組んでやろうではないか!



「事前に指示していたとおり、動きやすい服装で来てくれたのはありがたい」


「ニームちゃんの彼氏と会うような格好じゃないけどね」


「ちょっ!? なにを言ってるんですか、ベニバナさん。この人はただの幼なじみだと、何度も説明したでしょ」



 俺とニームをくっつけようとするな、ステビアの機嫌が悪くなってしまう。ユーカリが背景に百合の花を咲かせたいくらい、二人はベッタリなんだぞ。



「ニームの言うとおりだ。こいつとは距離が近すぎて、幼なじみ以上の感情が持てん」


「失礼すぎますよ、兄さん。私だって、女の子なんですから!」



 待て、ニーム。ここは同意する流れだっただろ。どうして怒るんだよ。それにベニバナもニヤニヤとこちらを見やがって。脳内でどんな妄想が繰り広げられているのやら……



「とにかく一つ確認しておく。ベニバナは従人(じゅうじん)に触られたり、指示されたりするのは平気か?」


「従人は貴重な労働力だからね。一緒に作業することも多いし、近くにいてストレスを感じたりすることはないよ。それにタクト君の従人はみんな綺麗にしてるから、触られても平気かな」


「それは僥倖(ぎょうこう)だ。ならシトラス、ベニバナを抱きかかえて、一番高い柱まで登ってくれ」


「はいはい、わかったよ」


「ハイは、一回でいいぞ」



 シトラスはよくわかっていない感じのベニバナをお姫様抱っこし、俺より背の高い柱へ一気にジャンプ。そのまま上へと登っていく。



「ちょっ!? まだ心の準備が!!」


「あいつは自分のやりたいこと優先なんだ。拒否したって必ずやらされる。だから諦めなって」


「だけど、こんな一気にジャンプしたら落ちる、落ちるからっ」


「平気だよ。シナモンほどじゃないけど、ボクも高いところは得意だからさ」


「普通の従人は、そんな事できないってぇーーー」



 シトラスのレベルは七十。一等級換算で五百六十なんだぞ。世界最高クラスのステータスを持った従人にとってみれば、女性を一人抱きかかえて行動するなんて程度、なんの負荷にもならん。



「どうだー、体調に変化はあるかー?」


「いきなりすぎて、それどころじゃないよっ!」


「ならしばらくそこでゆっくりしていてくれ。俺は約束通り、チャイブを愛でさせてもらおう」


「公衆の面前なんだし、変なことしたらダメだからねー?」


「兄さんが暴走したら私が止めてあげます。安心してください」



 お前ら、俺のことをなんだと思ってるんだ。ちょっとモフらせてもらうだけだぞ。



「手加減してくださいよ、ダンナ。お嬢から逆らわないように言われてますけど、強い制約はかけられてないんで」


「ちょっとブラッシングしてみたいだけだから心配するな。お前は黙って体を委ねているだけでいい」


「あたいたち獅子種(ライオンしゅ)の毛はゴワゴワですから、触っても面白くないと思うんですが……」


「なにバカなことを言っている。実にブラッシングしがいのあるモミアゲと、細くてキュートなしっぽじゃないか。精悍な顔立ちも目を引くし、とても可愛いぞ」


「あっ、あたいが可愛いなんて、冗談はよしてください、ダンナ」



 さっきベニバナが貴重な労働力だと言っていた。その思想を反映しているんだろう。動くのに必要なカロリーは、十分与えられている感じだ。加えて栄養バランスも、そこそこ考えられている。爪もきれいだし、肌もみずみずしい。


 しかし、身だしなみは最低限。オレガノさんやニームの従人を見ていると、不合格の烙印を押さざるをえん。


 持久力に偏重した獅子種は、長時間動けることに価値があるのはわかる。男従人ならそれもありだが、チャイブは女性なんだぞ。もう少し気をつけてやれば、大きく羽ばたくことだって夢じゃない。それを今から俺が、わからせてやろう!


次回は第三者視点で「0130話 振り回されるベニバナ」を送りします。

無慈悲な主人公……


◇◆◇


マハラガタカ:たかまがはら→高天原

が名前の由来です。

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