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0123話 ローリエの才能

誤字報告ありがとうございました。

読み上げソフトに頼りすぎて、同音異字が……w

 メドーセージ学園長と別れ、シトラスたちと一緒に冒険者ギルドを出る。森の氾濫で集めた魔晶核やアイテムは、ギルドが一括で預かってから分割払いってことになった。ニームが学園から戻ってきたら、いくらか渡してやろう。なにせ今日から寮を離れ、俺の家にホームステイだ。必要になるものが、いくつも出てくるはず。



「簡単に正体を見破られるとか、キミって結構()けてるよね」


「学園長は転移者や転生者に関する情報を持ってたんだ。俺の特徴がそれらと一致したので、確信したらしい。相手の方が一枚上手だった、その一言に尽きる」


「なんか負け惜しみに聞こえるんだけど」



 うるさいぞ、シトラス。公式に残されたその手の記録って、ほとんど存在しないんだからな。現にオレガノさんの祖父だって、ずっと正体を隠したまま暮らしていた。そもそもアインパエの皇族が保管してる資料なんて、俺が知ってるわけ無いだろ。だからバレてしまったのは、仕方のないことなのだ!



「ミントたち、何かやらされたりしないです?」


「その点はあまり心配してない。困ったことが起きたら学園長が助けてくれるし、術の解明にも手を貸してくれるそうだ。それに俺は特殊な五つ星シューティング・スターへ昇級したからな」



 見た目は普通の星マークが五つ並んでるだけだが、カードに魔力を流すとその形が流星へ変わる。特殊な能力を持ち、冒険者ギルドが認める功績を残した者にのみ与えられる等級。俺の場合は災害級の氾濫を鎮圧し、同じシューティング・スターの学園長から推挙され、四つ星から異例の飛び級になった。



「旦那様。普通の五つ星とは、なにが異なるのでしょうか?」


「滞在している街のギルドから特殊な依頼が来ること以外、基本的にはあまり変わらないらしい。大きく違ってくるのは、冒険者ギルドに対して強くなる権限だな」


「……なにができるの?」


「例えば、俺たちの力がバレるような成果に対して、非公開の申請ができる。今回の氾濫でも、キングオーガをシトラス一人で撃破しましたとか、たった四人で三百匹以上の敵を倒しました、なんて情報が一般に知られなくなるんだ」



 もちろん自己顕示欲の強い人もいるし、名声を得たい奴だって多い。そうした冒険者の活躍は、よく話題になっている。


 だが俺としては人知れず悪と戦うヒーロー、みたいな立ち位置に収まるつもりだ。前世でも、ちょっと憧れてたし!



「それに家名を名乗れるそうよ」


「キュィッ!」


「そんなわけで、今日から俺の名前はタクト・コーサカになる」



 新しくなったギルドカードを取り出すと、そこには前世で使っていたフルネームが刻まれている。死んでみてわかったが、やっぱり思い入れがあるからな。この世界でも〝香坂 拓人(こうさか たくと)〟の名前は大切にしよう。



◇◆◇



 学園から帰ってきたニームを、新しい家へ招き入れる。短期間とはいえ、良家の子女を預かるんだ。それなりに立派な屋敷でないと体裁が悪い。


 てな訳で、実業家が別荘にしていたという、庭付きの一戸建てを借りた。一階にパーティーホールがあり、外構えはかなり立派だったりする。使う予定はないが、ハッタリとしては必要十分だろう。


 もちろん表札も作ったぞ。ジャスミンの錬金術でサクッと。



「家を出て一年たたないうちに、兄さんも家名持ちですか。父さんが聞いたら、びっくりしますよ」


「ジマハーリに戻って上層街に住んでやるのも面白そうだが、俺としてはもう会いたくない人物だから絶対に知らせるなよ」


「そんなことは間違ってもやりません。私だってもうこのまま家を出たいと、思ってるくらいなんですから」



 学園側にも手を回しているので、ニームがホームステイする話は、サーロイン家へ届かない。なにせ学園長が味方だから、そのあたりはバッチリだ。同郷出身の生徒経由で伝わるのは、防ぎよう無いが……



「さすがに使用人まで雇えんから、掃除は各人分担でやってもらうぞ」


「お任せください、タクト様」


「あたしも頑張る!」



 ステビアとローリエはやる気十分で大変よろしい。料理は俺とユーカリがやるし、洗濯はニームに柔軟剤魔法を教えながら手伝ってもらおう。


 残りは水麦(みずむぎ)の精白や、雑用担当だな。



「私とコハクちゃんは、あまり手伝えなくて、なんだか申し訳ないわ」


「キュゥーィ」


「二人は俺の心に、潤いと憩いを与えてくれるのが、仕事だからな。その羽と毛皮で存分に癒やしてくれ」


「それなら任せて頂戴。私が身も心も癒やしてあげるからね」


「キュッキュッキュッ!」


「兄さんばっかりズルいです。私だって触ってみたいのに!」


「あら、ニームちゃんなら構わないわよ。行きましょ、コハクちゃん」



 右手をニームの方に差し出すと、コハクが腕を伝って肩へ移動する。それを追うようにジャスミンが飛び立ち、ニームの腕に掴まった。



「暖かくてフワフワで幸せ……」


「天然の羽毛と毛皮なんだもの、品質はピカイチよ」


「キュイ」


「あの……私も触ってみていいでしょうか?」


「あたしも触ってみたいです!」



 恍惚としてしまったニームを見て、ステビアとローリエも興味を持ったらしい。二人ともコハクを撫でたり、ジャスミンの羽を触りながら、表情をとろけさせていく。


 これだけ仲良くできるなら、みんなで楽しく暮らしていけるはず。期間限定の共同生活だが、忘れられない思い出になるよう、頑張るとするか。



◇◆◇



 引っ越したばかりということもあり、収納した場所を思い出せないものが多い。なるべくどの家でも、同じ場所に置くよう心がけてるが、家具や設備のレイアウトは、それぞれ違うからな……



「おーい。誰か黒いマークの付いた、緑の箱を知らないか?」


「キッチンに置いてる背の高い棚の下から二番目、左奥にしまった木箱の上にあるよ」


「ホントか。ありがとうローリエ、探してみるよ」



 教えられた引き出しを開けてみると、ローリエが言った通りの場所にあった。あの子の記憶力、かなりいいな。



「ボクのカバン、どこに置いたか知らない?」


「シトラスさんの黒いカバンは、寝室にあるクローゼットだよ。赤と茶色のカバンと一緒に、右扉の裏に掛けてあった」


「サンキュー、ローリエ」



 これは単に記憶力で片付けられる問題か? ちょっと試してみよう。



「ローリエは数をいくつまで数えられる?」


「えっと、百まで」


「それならこの本を一ページづつ見てくれ。内容は理解できなくて構わない」


「うん、いいよ」



 俺が八十ページほどの本を渡すと、ローリエはパラパラとページをめくり始める。



「一体ローリエに何をやらせる気です? あの子はまだ文字が読めないんですよ」


「俺の推測が正しければ、とんでもないものが見られるぞ。その能力を持ってるなら、識字なんて関係ない」


「タクト様、全部読んだよ」



 さすが早いな。ならあとは確かめてみるだけ。まっさらの紙とペンを渡し、俺はローリエに問いかけた。



「四十三ページ目の内容を、ここに書き写してくれ」


「うん!」



 ペンを持ったローリエが、紙の上にサラサラと文字を書き始める。その光景を見たニームは、完全に固まってしまう。



「よし、一字一句間違いがないな。すごいぞローリエ」


「えへへへへー」



 頭を撫でてやると、しっぽをユラユラ揺らしながら、嬉しそうに微笑む。お風呂でユーカリとミントに洗ってもらったおかげで、髪質がかなり改善したな。子供特有の細くて柔らかい毛が気持ちいい。



「ちょっと兄さん。これは一体どういうことなんですか。こんなの普通じゃありません」


「そりゃ特殊能力だからな」


「タクト様。どういった能力なのか、教えていただけませんか」


「これは瞬間記憶といって、見たものの内容をそのまま覚えてしまう能力だ。時間のあるときに教科書でも読ませてやれ。丸暗記してくれるぞ」



 森での状況を聞いたときも、ローリエは鮮明に覚えていた。それは生まれながらに、瞬間記憶の能力を持っていたからだろう。だから物の位置や、周りにあったものまで、正確に言えたんだ。


 これまでの人生で、本なんて読んだ機会はないはず。なのでちょっと記憶力がいい程度の、認識だったに違いない。俺だってこうしてテストするまで、確信できなかったしな。



「まさかローリエに、そんな力があったなんて……」


「あたしニーム様のお役に立てる?」


「もちろんですよ、ローリエ。これから本をたくさん読んで、いっぱい勉強しましょうね」



 ローリエが成長して知識を蓄えていけば、ニームにとってかけがえのない存在になる。


 スマホなんてないこの世界で、調べものをするのは大変だ。何かを知りたいと思えば、本のある場所に出向くか、持ち運ぶしかない。しかし常に百科事典が隣に控えていたらどうだ?


 その価値は計り知れない。本当にいい従人(じゅうじん)が来てくれたな。


これがローリエに将来つけられる二つ名〝魔女の書庫ウィッチーズ・アーカイブ〟の由来です。


次回は主人公が去ったあとの冒険者ギルドと、パルミジャーノ骨董品店の2場面を送りします。

「0124話 大人たちの思惑」をお楽しみに!

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