0117話 オレガノの提案
店を早めに閉めてくれたオレガノさんとお茶をしながら、俺が想定している懸念や今後起こりうる事態を伝えていく。考えすぎかもしれないが、先手を打っておかねば相手に押し切られる。なにせニームは俺より立場が弱いのだから……
「さすがお前さんは多角的に物事を見ておる。それに最悪の事態を常に想定しておくのは、冒険者としての基本だ」
「ステビアはセルバチコに匹敵するほどの逸材だ。それはニームが従人を大切にしてきたからこそ、得られた忠心なのは疑いようもない」
「ニーム様になら、この身の全てを捧げられます」
「あたしもニーム様のために頑張る」
「ほほう。契約したばかりの子供に、ここまで言わせるほどとは」
子供ってのは意外に本質を見通せるからな。ステビアが制約ではなく、自らの意思で尽くしていると、しっかりわかっているんだろう。
そもそもオレガノさんだって、ある程度は見抜いていたはず。でなければ断りもなく、セルバチコにお茶の用意をさせたりしない。さすが超一流の商人、その慧眼ぶりは相変わらずだ。
「しかもニームには才能がある。これをつまらない横槍で潰されたのでは、世界的な損失になりかねん」
「ちょっ!? いくらなんでも言いすぎですよ、兄さん」
「お前さんがそこまで言うからには、本物だろう。よほどいいギフトを授かったのだな」
「はっ、はい。私に発現したのは、魔導士のギフトです」
「これはまたレアなものを授かったの。ゴルゴンゾーラのやつも喜んどるだろ」
「学園長先生にも、直接ご指導していただいてます」
やはり学園のトップと繋がりがあったか。オレガノさんに相談を持ちかけて良かった。あとは冒険者ギルドをどう抑えるか考えればいい。
「とにかくニームは、俺にとって大切な存在になった。だから様々な悪意や束縛から、守ってやりたい。力を貸してもらえないだろうか」
「なっなっなっ……なにを言ってるんですか、私たちは……」
そっちこそ何をうろたえている。プレゼンというのは、少し大げさにやるものだぞ。しかも嘘は一切言ってないからな。
「ボクをからかってくる時もそうだけど、そんなセリフを恥ずかしげもなく、よく言えるね」
「タクト様とニーム様、すごく仲良しなのです!」
「誰かのために一生懸命になれる旦那様、とても素敵です」
「……だからあるじ様、好き」
「シナモンちゃんの言う通りよね。あのとき体を張ってくれたから、私もタクトのこと好きになっちゃったんだし」
「キュキューン!」
シトラスにも本気で言ってるんだが、なかなかわかってもらえんな。とにかく従人を大切にする仲間は、俺にとって宝と同じ。それを失わないためであれば何だってやるし、どんな手でも使う。
「そういうことなら、儂も喜んで協力しよう」
「すまない、助かるよ」
「儂とお前さんの仲だ、気にせんでも良い」
「あの……私はなにもお返しできませんが、本当によろしいのでしょうか?」
「大切な友人の頼み事は、損得勘定抜きで聞くもの。そうではないか?」
「オレガノ様にここまで言わせる兄さんって……」
今回の借りは、また新しいレシピで恩返しせねば。麺類が安く手に入る街だし、この世界にないパスタのレシピを、渡すことにするか。
「早速で申し訳ないが、ニームの外泊許可を取りたいんだ。新しい従人のこともあるし、俺やシトラスたちの力を見せてしまった以上、説明をしてやらねばならん。しばらく俺の家から通学させるとか、可能だろうか?」
「親戚の家に寄宿する学園生もおるから、許可自体は簡単に取れる。ただし、身元がしっかりしてなければ無理だ」
しばらくニームのそばに居てやりたいが、根無し草の俺には難しいな。オレガノさんの家はかなりでかいから、一時的に身を寄せるって手もあるが……
「そこでだ。お前さん、儂のお抱え冒険者になっておかんか?」
「それは構わないが、この街に定住するのは難しいぞ」
「構わん、構わん。時々こうして遊びに来てくれるだけで十分だ。それにまた旅行にでも、付き合ってくれたらいい」
「それくらいなら喜んでやらせてもらう。定期的に会いに来るつもりにしてたし、また一緒に旅をしたいのは俺も同じだ」
「よし、決まりだな。ならセルバチコ、今から用意する書簡を、マノイワート学園まで頼む」
「畏まりました、旦那様」
とりあえず、護衛冒険者の失態で遭難したニームを、パルミジャーノ骨董品店のお抱え冒険者が保護した。かなり消耗しているので、念のため一晩預かるという書簡を学園に渡す。死人に口なしだ、汚名はラベージって冒険者に被ってもらおう。経緯はどうあれ、ニームを捨てて逃げたのは事実だからな。
そしてもう一通、学園長宛にも作った。明日は俺が学園まで出向き、森で発生した出来事を話す。メドーセージ学園長は冒険者ギルドに影響力を持つので、そちらへの報告は学園を通じて行うこととする。そうすればごく一部の者だけにしか情報は渡らない。
俺たちの力をどこまで開示するか、学園長に相談するのも手だとのこと。実際に会ってみて、信用に足る人物だと思えるなら、話してみろと言ってくれた。きっとオレガノさんは、俺のために提案してくれたんだろう。
なにせ学問に関して強力な補正を持つのが、賢者というギフト。同じ本を読んだとしても、常人にはたどり着けない深淵へ至ったりする。賢者のギフトを持つと魔力量が増えるのは、真理の泉を見つけたからだ。
俺の知らないことや、気づいていない知識を有している人物。会うのが楽しみになってきた。
主人公の肩書は、この先もどんどん増えていきますので!
次回は世界の仕組みも交えつつ、第三者視点で「0118話 ニームとステビア」をお送りします。
二人の入浴シーンをお楽しみに!