0112話 正鵠にヘッドショットされた気分だ
少し時間はかかってしまったが、これで森も落ち着くだろう。アイテムや魔晶核の数が、とんでもないことになってやがる。俺のレベルが一気に七も上がるとは、かなり強い個体が多かった証拠。これは小出しに納品しないと、値崩れをおこすかもしれん。
「周りの様子はどうだ、ミント」
「もう物音はしないので、大丈夫だと思うです」
「そうか、みんなお疲れ」
「うーん。久しぶりに暴れられて、気持ちよかったー」
シトラスは体力おばけに拍車がかかってるな。今日だって半分くらい、お前が倒してるというのに。
「……あるじ様、疲れた」
「おー、よしよし。よく頑張ったぞ、シナモン」
「飛んでる敵は、シナモンちゃんがほとんど倒したものね」
投擲術は俺の射撃より命中率が高い。今日一日で俺の練度も上がったと思うが、さすがにスキル補正には敵わんな。とりあえず抱っこして頭を撫でてやろう。
「旦那様の拳銃もすごかったです。相手の体を貫通したり、大きくのけぞらせたり。なにかコツがあるのですか?」
「さすがユーカリはよく見てる。あれは発射する弾頭が違うんだ。先端の尖った徹甲弾は貫通力が高く、先端に窪みのある先孔弾は体内に留まってダメージを増やす。ただ形状によって弾道が変わるから、それをうまく補正するのが今後の課題だな」
「今夜メンテナンスしてあげるから、忘れずに渡してね。ライフリングのピッチを変えるなら、その時に言って頂戴」
「今日使ってみた限り、基本的には今のままで十分だ。メンテナンスだけ、よろしく頼む」
弾頭の形状は状況や相手によって変えるから、下手にいじるより二丁拳銃にしたほうが良いかもしれない。その辺りは使い込みながら考えよう。
なにせ前世でも実銃を撃ったことはないし、ミリタリー系に造詣が深いわけでもなかった。銃はあくまでも作画資料として、構造や仕組みを調べただけだ。そんな素人の俺があれこれやっても、性能が向上するとは思えん。
「あのー、兄さん」
「ん? どうした、ニーム」
「どこから突っ込んでいいのやら悩みますが、兄さんは異常です」
「面と向かって異常とか言うな、失礼なやつめ」
「間違えました。兄さんも使役してる従人も、全員異常です」
「悪化したじゃないか!」
言いたいことはわからんでもないが、ストレートすぎだろ。それに美人のお前が据わり目で見つめると、変な趣味に目覚めるやつが出かねんぞ。
「キングオーガをソロで倒すとか、あれだけの数をたった六人で殲滅するとか、どう考えてもおかしいでしょ」
「私とミントちゃんは戦ってないから、実質四人ね」
「四でも六でも、そんなものは誤差です。視界を埋め尽くす数だったんですよ。いったい何匹いたことやら……」
「ジャスミンのレベルが六も上がってるから、三百匹以上倒したようだな」
「あら、そうなの。じゃあレベル三十一になったのね」
「一等級換算だとレベル二百四十八だ。鍛えてない上人相手なら、ジャスミンの身体能力でも力押しで逃げ出せるだろう」
だからジト目で見るなというのに。さすがの俺も、ゾクゾクしてしまいそうになる。
「ねえ、ボクはいくつになったの?」
「シトラスが五十一で、ミントは四十七。ユーカリが三十九で、シナモンは三十五だ。ちなみに俺は七十一になった」
「残念だなぁ、またキミに離されちゃったよ」
「今日は高レベルな魔物や魔獣が多かったから、俺にばかり経験値が入ってしまっている。悪いが諦めてくれ」
レベル六十四で俺のギフトにマージが増えた。それを使い、いったん否定論理和を適用してビットをクリアしたあと、別の演算子である論理和を融合することにより、ジャスミンのビット操作が可能になったのだ。
演算子以外の力が発現した俺のギフト、もしかしたら七十二で増えるかもしれない。ちょっと楽しみになってきたぞ。
「……はぁ。もういいです。なんかいちいち突っ込むのが、馬鹿らしくなってきました。下手すると災害指定になってたかもしれない異常を、たった四人で鎮めてしまうなんて。きっと誰に言っても信じてもらえないでしょう。だからもう、見なかったことにします」
「まあギルドに報告はしないといけないが、俺たちの能力については黙っててくれ。この力を悪用されたくはないんでな」
「それは約束します。なにせ兄さんは命の恩人ですしね。ただ話せる範囲で構いませんから、教えてもらうことは出来ませんか?」
「その辺りは帰ってからにしよう。俺たちはこれから森の異常に、会いに行かなければならない」
「会いに、行く……?」
俺はジャスミンから聞いた、森の守護者についてニームにも話す。こうした異常は守護者の体調不良によって引き起こされる。その症状は軽いものから重いものまで様々らしい。
今回の異常湧きは、かなり深刻なレベルだ。しかもギルドで聞いた話だと、ここ数年続いているとのこと。これは早急に状況の確認をせねばならん。次はもっと酷い氾濫が、おきるかもしれないからな。
「お願いします、私も連れて行って下さい!」
「魔素を感知できるニームがいてくれると助かるが、かなり森の奥へ入ることになるぞ。怪我から回復したばかりのステビアもいるし、大丈夫なのか?」
「そっ、そうでした。どうしましょう、ステビア」
「ミントさんのおかげで、傷はすっかり癒えました。体調には全く問題ありません。私はニーム様に、どこまでも付いていきます」
多少無理はしているんだろうが、顔色は悪くない。体の強靭さは、さすが獣人種といったところか。森を歩く程度なら問題ないだろう。
「ならまずは着替えだな。服がボロボロの状態で、森を歩かせるわけにはいかん」
「それならボクの服を貸してあげるよ。ステビアと身長が同じくらいだからさ」
「ありがとうございます、シトラスさん」
今は毛布を羽織らせているが、向こうの岩陰で着替えてもらおう。マジックバッグから服を一式取り出し、ユーカリに渡す。
……って、全員で行くのかよ。いくら魔素が薄くなってるとはいえ、俺の護衛を放棄するとはいい度胸だな。まあ従人同士仲がいいのは、大変結構なことなんだが。
それはともかく、小さいものでいいから、人数分のマジックバッグが欲しい。なにせ太古の力を取り戻したシトラスたちは、所有権を持てるようになった。つまり上人と同じように、マジックバッグを使えるってことだ。こんな時に各人が荷物を持てると、いちいち俺が取り出さなくてすむ。
何がおきるか不明なので試せないが、もしかすると野人と契約することだって出来るかもしれん。つまり俺が使役する五人は、神に奪われた人としての尊厳を、取り戻せたってことになる。
見てるか、この世界の神。お前のペナルティーは、俺が打ち砕いてやったぞ。ざまあみやがれ!
「で、ニームはいつまでそこに座ってるんだ? ステビアの着替えが終わり次第、森の奥へ向かうから準備しろ」
「えっと、それが……ですね」
いつもは俺に遠慮なく言葉をぶつけるくせに、珍しく歯切れが悪いな。
「ニームも着替えたいのなら服を貸すぞ。少しダブつくかもしれんが、ユーカリの着ているものなら――」
「悪かったですね、そんなに成長してなくて! 着替えたいんじゃありませんよ、腰が抜けて立てないだけです!!」
おっといけない、地雷を踏んでしまった。今回の体験はまだ十五歳のニームにとって、かなりの負担になったのだろう。これはしばらく近くにいてやるほうが、良いかもしれない。その辺りは街に戻ってから相談するか。
「なら俺がおぶってやろう」
「えっ!?」
「男に背負われるのは嫌か?」
「あっ、いえ。従人にしか興味なさそうな兄さんが殊勝なことを言うので、驚いただけです」
俺の性癖にジャストミートしてるだけあって、反論ができん!
正鵠にヘッドショットされた気分だ。
まあそれは置いておくとして。俺の中にあるニームの株は爆上がりしてるのに、逆はさっぱり上昇せんなぁ……
「俺は森の中で一番役に立たない。だから遠慮することはないぞ」
「兄さんが役立たずなんて、冗談はやめて下さい。でも……し、仕方ありませんね。どうしてもと言うなら、背負われてあげましょう」
なにツンデレみたいなことを言ってやがる。そもそもニームにデレ期なんて来るのか?
「お兄ちゃん大好き」とか言いながら、ベタベタに甘えてくるニームの姿なんか想像すらできん。そもそも甘え枠はシナモンとミントで埋まっている。ケモミミやしっぽを持たない者が、入り込む余地などない!
……いやいや待たないか、俺。
妹相手になにを考えてるんだ。
まったく、こいつといると調子が狂う。
ニームは15歳の標準より少し背が低いです。
身長:150cm/瞳:ブルーグレー/切れ長でわずかにツリ目
紅赤の髪でレイヤーボブのセミショート
胸はC-
次回、兄の力で開花する妹ちゃん。
「0113話 兄さんに常識を求めるのは、間違ってましたね」をお楽しみに!