表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

112/286

0112話 正鵠にヘッドショットされた気分だ

 少し時間はかかってしまったが、これで森も落ち着くだろう。アイテムや魔晶核(ましょうかく)の数が、とんでもないことになってやがる。俺のレベルが一気に七も上がるとは、かなり強い個体が多かった証拠。これは小出しに納品しないと、値崩れをおこすかもしれん。



「周りの様子はどうだ、ミント」


「もう物音はしないので、大丈夫だと思うです」


「そうか、みんなお疲れ」


「うーん。久しぶりに暴れられて、気持ちよかったー」



 シトラスは体力おばけに拍車がかかってるな。今日だって半分くらい、お前が倒してるというのに。



「……あるじ様、疲れた」


「おー、よしよし。よく頑張ったぞ、シナモン」


「飛んでる敵は、シナモンちゃんがほとんど倒したものね」



 投擲術(とうてきじゅつ)は俺の射撃より命中率が高い。今日一日で俺の練度も上がったと思うが、さすがにスキル補正には敵わんな。とりあえず抱っこして頭を撫でてやろう。



「旦那様の拳銃もすごかったです。相手の体を貫通したり、大きくのけぞらせたり。なにかコツがあるのですか?」


「さすがユーカリはよく見てる。あれは発射する弾頭が違うんだ。先端の尖った徹甲弾(てっこうだん)は貫通力が高く、先端に窪みのある先孔弾(せんこうだん)は体内に留まってダメージを増やす。ただ形状によって弾道が変わるから、それをうまく補正するのが今後の課題だな」


「今夜メンテナンスしてあげるから、忘れずに渡してね。ライフリングのピッチを変えるなら、その時に言って頂戴」


「今日使ってみた限り、基本的には今のままで十分だ。メンテナンスだけ、よろしく頼む」



 弾頭の形状は状況や相手によって変えるから、下手にいじるより二丁拳銃にしたほうが良いかもしれない。その辺りは使い込みながら考えよう。


 なにせ前世でも実銃を撃ったことはないし、ミリタリー系に造詣が深いわけでもなかった。銃はあくまでも作画資料として、構造や仕組みを調べただけだ。そんな素人の俺があれこれやっても、性能が向上するとは思えん。



「あのー、兄さん」


「ん? どうした、ニーム」


「どこから突っ込んでいいのやら悩みますが、兄さんは異常です」


「面と向かって異常とか言うな、失礼なやつめ」


「間違えました。兄さんも使役してる従人(じゅうじん)も、全員異常です」


「悪化したじゃないか!」



 言いたいことはわからんでもないが、ストレートすぎだろ。それに美人のお前が()わり目で見つめると、変な趣味に目覚めるやつが出かねんぞ。



「キングオーガをソロで倒すとか、あれだけの数をたった六人で殲滅するとか、どう考えてもおかしいでしょ」


「私とミントちゃんは戦ってないから、実質四人ね」


「四でも六でも、そんなものは誤差です。視界を埋め尽くす数だったんですよ。いったい何匹いたことやら……」


「ジャスミンのレベルが六も上がってるから、三百匹以上倒したようだな」


「あら、そうなの。じゃあレベル三十一(31)になったのね」


「一等級換算だとレベル二百四十八(248)だ。鍛えてない上人(じょうじん)相手なら、ジャスミンの身体能力でも力押しで逃げ出せるだろう」



 だからジト目で見るなというのに。さすがの俺も、ゾクゾクしてしまいそうになる。



「ねえ、ボクはいくつになったの?」


「シトラスが五十一(51)で、ミントは四十七(47)。ユーカリが三十九(39)で、シナモンは三十五(35)だ。ちなみに俺は七十一(71)になった」


「残念だなぁ、またキミに離されちゃったよ」


「今日は高レベルな魔物や魔獣が多かったから、俺にばかり経験値が入ってしまっている。悪いが諦めてくれ」



 レベル六十四で俺のギフトにマージ(MERGE)が増えた。それを使い、いったん否定論理和(NOR)を適用してビットをクリアしたあと、別の演算子である論理和(OR)融合(マージ)することにより、ジャスミンのビット操作が可能になったのだ。


 演算子以外の力が発現した俺のギフト、もしかしたら七十二で増えるかもしれない。ちょっと楽しみになってきたぞ。



「……はぁ。もういいです。なんかいちいち突っ込むのが、馬鹿らしくなってきました。下手すると災害指定になってたかもしれない異常を、たった四人で鎮めてしまうなんて。きっと誰に言っても信じてもらえないでしょう。だからもう、見なかったことにします」


「まあギルドに報告はしないといけないが、俺たちの能力については黙っててくれ。この力を悪用されたくはないんでな」


「それは約束します。なにせ兄さんは命の恩人ですしね。ただ話せる範囲で構いませんから、教えてもらうことは出来ませんか?」


「その辺りは帰ってからにしよう。俺たちはこれから森の異常に、会いに行かなければならない」


「会いに、行く……?」



 俺はジャスミンから聞いた、森の守護者についてニームにも話す。こうした異常は守護者の体調不良によって引き起こされる。その症状は軽いものから重いものまで様々らしい。


 今回の異常湧きは、かなり深刻なレベルだ。しかもギルドで聞いた話だと、ここ数年続いているとのこと。これは早急に状況の確認をせねばならん。次はもっと酷い氾濫が、おきるかもしれないからな。



「お願いします、私も連れて行って下さい!」


「魔素を感知できるニームがいてくれると助かるが、かなり森の奥へ入ることになるぞ。怪我から回復したばかりのステビアもいるし、大丈夫なのか?」


「そっ、そうでした。どうしましょう、ステビア」


「ミントさんのおかげで、傷はすっかり癒えました。体調には全く問題ありません。私はニーム様に、どこまでも付いていきます」



 多少無理はしているんだろうが、顔色は悪くない。体の強靭さは、さすが獣人種といったところか。森を歩く程度なら問題ないだろう。



「ならまずは着替えだな。服がボロボロの状態で、森を歩かせるわけにはいかん」


「それならボクの服を貸してあげるよ。ステビアと身長が同じくらいだからさ」


「ありがとうございます、シトラスさん」



 今は毛布を羽織らせているが、向こうの岩陰で着替えてもらおう。マジックバッグから服を一式取り出し、ユーカリに渡す。


 ……って、全員で行くのかよ。いくら魔素が薄くなってるとはいえ、俺の護衛を放棄するとはいい度胸だな。まあ従人同士仲がいいのは、大変結構なことなんだが。


 それはともかく、小さいものでいいから、人数分のマジックバッグが欲しい。なにせ太古の力を取り戻したシトラスたちは、所有権を持てるようになった。つまり上人と同じように、マジックバッグを使えるってことだ。こんな時に各人が荷物を持てると、いちいち俺が取り出さなくてすむ。


 何がおきるか不明なので試せないが、もしかすると野人と契約することだって出来るかもしれん。つまり俺が使役する五人は、神に奪われた人としての尊厳を、取り戻せたってことになる。


 見てるか、この世界の神。お前のペナルティーは、俺が打ち砕いてやったぞ。ざまあみやがれ!



「で、ニームはいつまでそこに座ってるんだ? ステビアの着替えが終わり次第、森の奥へ向かうから準備しろ」


「えっと、それが……ですね」



 いつもは俺に遠慮なく言葉をぶつけるくせに、珍しく歯切れが悪いな。



「ニームも着替えたいのなら服を貸すぞ。少しダブつくかもしれんが、ユーカリの着ているものなら――」


「悪かったですね、そんなに成長してなくて! 着替えたいんじゃありませんよ、腰が抜けて立てないだけです!!」



 おっといけない、地雷を踏んでしまった。今回の体験はまだ十五歳のニームにとって、かなりの負担になったのだろう。これはしばらく近くにいてやるほうが、良いかもしれない。その辺りは街に戻ってから相談するか。



「なら俺がおぶってやろう」


「えっ!?」


「男に背負(せお)われるのは嫌か?」


「あっ、いえ。従人にしか興味なさそうな兄さんが殊勝なことを言うので、驚いただけです」



 俺の性癖にジャストミートしてるだけあって、反論ができん!

 正鵠(せいこく)にヘッドショットされた気分だ。


 まあそれは置いておくとして。俺の中にあるニームの株は爆上がりしてるのに、逆はさっぱり上昇せんなぁ……



「俺は森の中で一番役に立たない。だから遠慮することはないぞ」


「兄さんが役立たずなんて、冗談はやめて下さい。でも……し、仕方ありませんね。どうしてもと言うなら、背負われてあげましょう」



 なにツンデレみたいなことを言ってやがる。そもそもニームにデレ期なんて来るのか?

 「お兄ちゃん大好き」とか言いながら、ベタベタに甘えてくるニームの姿なんか想像すらできん。そもそも甘え枠はシナモンとミントで埋まっている。ケモミミやしっぽを持たない者が、入り込む余地などない!


 ……いやいや待たないか、俺。


 妹相手になにを考えてるんだ。

 まったく、こいつといると調子が狂う。


ニームは15歳の標準より少し背が低いです。

 身長:150cm/瞳:ブルーグレー/切れ長でわずかにツリ目

 紅赤の髪でレイヤーボブのセミショート

 胸はC-


次回、兄の力で開花する妹ちゃん。

「0113話 兄さんに常識を求めるのは、間違ってましたね」をお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点]  囮にされてた子は?
[気になる点] 囮にされた子はどうなってるんでしょう?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ