0111話 まあ、そこで見ておけ
タイトルがちょっと長くなりました。
「無能として家から追放されると決めた俺は、第三の人生をエンジョイする」
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「無能として家から追放されると決めた転生者の俺は、モフモフたちと一緒に第三の人生をエンジョイする」
タイトルが長文化していくのは、なろうの定めです。
これはギリギリ間に合ったってところか。ミントがいなければ、最悪の事態になっていたかもしれん。それにしても護衛の冒険者はどうしたんだ? 確か四つ星と聞いていたが……
とにかくまずは安全を確保しよう。
「シトラスはキングオーガの相手、ユーカリは周囲の敵を足止めしろ」
「任せといて!」
「了解しました、旦那様」
「いくら兄さんの従人が強くても無理です。キングオーガは冒険者がチームを組んで、倒す魔物なんですよ。それにこの数を一人で足止めなんて、どう考えても不可能です」
あまりこの力を公にしたくはない。だがニームなら大丈夫だろう。ちゃんと説明すれば、きっとわかってくれるはず。
「問題ない。まあ、そこで見ておけ」
「タクト様。あっちの方でも、誰かが襲われてるみたいなのです」
「他にも冒険者がいたのか。シナモン、様子を見に行ってくれ」
「……わかった」
シナモンは両手の人差し指と中指を真っ直ぐ立て、十文字に交差させる。その手をハンドサインのように組み替えると、縮地の仙術ではるか遠くに移動していた。コミック本を熱心に読んで練習したかいあって、印を結ぶ速度がかなり上達しているな。
その直後、シナモンを見送ったユーカリが、可憐な唇から呪文を紡ぐ。ちゃんとシナモンが射程外へ出るのを待つあたり、さすが状況判断の的確なユーカリだ。
〈彼の者達の行く手を阻め 咲き誇れ氷花よ〉
氷で出来たバラが地面を覆い尽くし、足を傷つけられた魔物や魔獣がのたうち回る。そしてそのまま消えていく魔物や、動けなくなる魔獣もかなり多い。ここまで大規模な行使は初めてだが、ユーカリは大丈夫だろうか……
「ユーカリ、体調はどうだ?」
「いつもと変わりありません、旦那様」
こちらへ向かって可愛く微笑みかけてきたので、問題ないな。俺たちがこの規模で氷魔法を発動するには、いくら魔力があっても足りん。コスト度外視で発動できる魔術、ちょっと羨ましいぞ!
「……嘘。従人が魔法を。しかも花の形なんて、私でも作れない」
「これは事象改変をおこす魔法じゃない。自然の力を借りる魔術なんだ」
ニームが唖然としてしまうのも当然だろう。ある程度の形ならまだしも、緻密な花びらやバラのトゲまで再現するのは、いくら魔導士のギフトを持っていても難しい。
なにせ魔法で形を作るには三次元モデルと同じように、全ての頂点データを正確に配置する必要がある。しかし魔術はイメージがあれば、形にすることが可能。ユーカリがいま作り出したバラだって、元になったのは俺が描いたイラストだからな。
つまり魔法と魔術は、全く違う現象ということ。後でちゃんと説明してやるから、自信をなくさないようにしてくれよ……
「あー、もう。腕が六本もあるなんて反則だよ。懐に入れないじゃん」
ニームにどう説明しようかと考えていたら、シトラスの声が耳に届く。今は戦闘中だった。考えるのは後にせねば。
それにしても今のシトラス相手に、これほど持ちこたえるとは。さすが魔物の中でも上位に君臨するキングオーガだ。まだ練習時間は足りないが、あれだけ大きな的なら問題ない。ジャスミンの力作、実戦で試してみよう。
「シトラス!」
俺の声を受け、シトラスが射線から体をずらす。俺はコルト・ガバメント似の拳銃を構え、魔法で作り出したレーザーサイトの光を頼りに、引き金を引く。
――パン、パン、パン、パン、パン、パンッ
乾いた音が六回鳴り、そのうち四発が命中。六本ある腕のうち、四本を撃ち抜いた。まだ動いている的には当てづらいな。こればっかりは練習あるのみだ。
「ナイスアシスト!」
「あとは任せた、シトラス」
「使い心地はどう?」
「精度も使い心地もバッチリだ。最高の働きをしてくれたな、ジャスミン」
魔法で液化した高圧ガスをグリップ内のタンクに貯め、同じく魔法で作り出した弾頭を発射する。弾頭はその都度魔法で作り出し、ガスもタンクに直接貯めればいい。全てを魔法で完結させるため、構造がシンプルで耐久性も抜群。事象改変の規模が小さいから、俺にピッタリの武器だ。
ジャスミンが持つ錬金術のおかげで完成した、魔力の続く限り連射可能なチート兵器。この拳銃があればシトラスたちの負担を、かなり軽減できるはず。
とにかくこれで時間は稼げた。まずはステビアの容態を見てやらねばならん。
「こんなになるまで、よく頑張ったな」
体をあちこち爪で引き裂かれ、右腕は地面に垂れ下がっている。それでも最後の攻撃は、鬼気迫るものがあった。きっとあれは刺し違えてでも、一撃を与えようとしていたんだろう。
制約で無理やりやらせたのでは、あそこまでの迫力は出せん。つまりステビアは自らの意思で、ニームのために命をかけたってことだ。
「ステビア、しっかりして下さい。約束しましたよね、三人で街へ戻ると」
「ニーム様……ご無事で何よりです。私は……お役に立てたでしょうか?」
「当たり前です。あなたは私にもったいないくらい、最高の従人ですよ」
ニームは血で汚れるのも構わず、ステビアをそっと抱きしめた。この姿を見れば、ニームがどれだけ従人を大切にしているのか、よくわかる。
「兄さん、この子を早く治療院へ。このままだと私の大切なステビアが、死んでしまいます」
「わかってる。これほど優秀な従人、死なせるわけにはいかん。必ず助けてやるから泣くな、ニーム」
俺は少し離れた場所にいるミントを呼び戻す。どうやら猫種の子供は、気を失っているだけのようだ。首の従印が赤に変わってるし、契約主はシナモンの向かった先にいる冒険者か?
すぐに目を覚ます様子はないし、安全な場所で眠らせておこう。
「俺が清浄魔法で汚れを取り除く。ミントはそのあと始めてくれ」
「わかりましたです」
「綺麗にするより、早く街へ連れて行って下さい。じゃないと、ステビアは……」
「落ち着け、ニーム。これから奇跡ってやつを見せてやる」
俺はステビアに清浄魔法をかけ、血や汚れを取り除く。これをやっておかないと治療の過程で、傷口から不純物を取り込んでしまうからだ。そして全身がきれいになったあと、ミントがそっとステビアに触れる。
〈癒しの手〉
「……こっ、これって!? もしかして太古に遺失した治癒魔法?」
「野人が今の姿になって、使い手がいなくなったからな。ある意味失われた魔法と言える」
「それを兄さんは蘇らせたというのですか?」
「その通りだ」
「一体どうやって……」
「とりあえず、その話はあとだ。シナモンが戻ってきたし、キングオーガもシトラスが倒した。このまま残りの敵を掃討するぞ」
帰ってきたシナモンに向こうの様子を聞くと、黙って首を横に振った。どうやらもう一人連れていた従人と、一緒に息絶えていたらしい。近くに落ちていたという冒険者カードには、四つの星が刻まれている。このラベージってやつが、ニームの護衛をしてたんだろう。
今の状況からみて、子供の従人が襲われているスキに、逃げようとしたな。しかも護衛対象であるニームを見捨てて。どれほどの実力があったのかは知らんが、大量の飛行型に襲われたらひとたまりもないだろう。まあ、こればっかりは自業自得だ。
魔晶核がたっぷり入った袋をシナモンから受け取り、俺は次の指示を出す。残りは全員でサクッと終わらせよう。
次はリザルト回。
主人公たちのレベルは?
そして兄の意外な行動に妹が……
「0112話 正鵠にヘッドショットされた気分だ」をお楽しみに!
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(2022/10/21 20:50)
皆様に心配されたので、少しだけ状況描写を追加しました。
[修正前]
117行目
俺は少し離れた場所にいるミントを呼び戻す。どうやら猫種の子供は、気を失っているだけのようだ。首の従印が赤に変わってるし、契約主はシナモンの向かった先にいる冒険者か?
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[修正後]
117行目
俺は少し離れた場所にいるミントを呼び戻す。どうやら猫種の子供は、気を失っているだけのようだ。首の従印が赤に変わってるし、契約主はシナモンの向かった先にいる冒険者か?
すぐに目を覚ます様子はないし、安全な場所で眠らせておこう。