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0106話 ニーム・サーロインの学園生活

今回もニーム視点です。

 教室へ向かって歩いていると、前方から顔見知りが近づいてきます。と言うか、階段の踊り場で待ち構えてましたよね。毎朝同じことを繰り返して、飽きないんでしょうか。



「ごきげんよう、ニームさん」


「おはようございます、ローズマリーさん」



 薄い金色の髪をかきあげながら、ローズマリーさんが挨拶してきました。今日も渦巻き状になった髪が、ビヨンビヨンと伸び縮みしています。あの髪型を維持するのに、一体どれほどの時間をかけているのでしょう。引っ張って伸ばしたら、絶対に(ひざ)のあたりまで届きますよ。


 それより私の顔をじっと見つめて、今朝はなんだか様子がおかしいです。ベニバナさんじゃありませんが、もしかして惚れてしまったとか?


 いえいえ、それはないですね。なにせ入学当初から、私のことをライバル視してる人ですし。


 まあサーロイン家とプロシュット家は、元々あまり仲が良くないはず。私は家柄なんてまったく気にしてませんが、プロシュット家の長女である彼女は、色々と思うところがあるのかもしれません。



「う~ん……特に変わったところは、なさそうですわね」


「一体どうされたのです? そうやってじっと見つめられると、教室へ行けないのですが」


「あら、ごめんあそばせ。昨日、殿方とご一緒のところをお見かけしましたので、大人の階段を登られたのではと邪推しておりましたの」



 私と兄さんはやたら目立ってたので、誰かに見られているとは思ってました。ですが、よりにもよってこの人とは……


 しかも邪推ってなんですか。あなたは才人(さいじん)なのですから、もっと言葉を選んでほしいものです。そもそも兄妹でなにかあるわけ無いでしょ。



「あの人は昔の顔なじみです。ローズマリーさんが想像なさるようなことは起きませんよ」


「男子生徒のお誘いを全て断っているあなたにも、とうとう春が訪れたと思いましたのに。残念ですわ」


「以前も申し上げましたが、私はそういったことにまったく興味がありません。将来は研究者として、身を立てたいと思っていますので」


「いけません、いけませんわよ、ニームさん。良家の子女たるもの、家のために嫁いで子を残さねば――」



 また始まってしまいました。決して悪い人ではないのですが、彼女のこんな部分が苦手なんですよね。おそらく名家の子供としては、これが正しい生き方なのでしょう。ですが家の道具にされるのは、どうしても納得がいきません。


 だからこの留学はチャンスだと思っています。ここでしっかり実績を残して学会で認められたら、独立する道が開けるかもしれない。そうすれば才人としての責務から逃れられる。



「――というわけなのです」


「ローズマリーさんのお考え、ご立派だと思います」



 ほとんど聞き流してましたが!



「ニームさんもこの機会に、殿方とお付き合いをされてはいかがでしょう。きっと世界が広がりますわよ」


「生憎ですが、お付き合いしたいという男性に、巡り合ったことがありませんので」


「どうしてですの。昨日ご一緒だった殿方、目つきは少々鋭すぎましたが、とても整ったお顔をしておりましたわよ。それにレア従人ばかり連れてらっしゃるということは、さぞかしご高名なかたなのでしょ?」



 たしかに兄さんは目鼻立ちが整っています。その点だけ見れば、サーロイン家でも一番でしょう。なにせ父さんにまったく似てませんからね。少し濃い青色の髪も綺麗ですし、緑がかった瞳に見つめられると、思わずドキッと……って、なにを考えてるんですか、私は。


 兄さんは女従人ばかり(はべ)らせているような変態です。自分の膝に座らせたり、同じフォークでか、か、か……間接キスをしたり。従人(じゅうじん)と恋人ごっこをする特殊な性癖持ち、好きになる人なんていないでしょう。



「私、図書館でお見かけしましたが、学園生ではありませんよね」

「どこかの研究所にお勤めなのかしら」

「敷地内でも拝見したことはありませんね。あれだけ見栄えの良い従人を連れていれば、すぐ噂になると思いますが……」

「ニーム様と二人並んで歩かれている姿、とても絵になっていましたわ」

「できれば紹介していただけないでしょうか」



 あー、もう。人が集まってしまったじゃないですか。全部兄さんのせいですからね。憶えておいてください、今度も絶対に奢らせますから!



◇◆◇



 同級生や諸先輩方の追及をなんとかかわし、やっと一息つくことができました。噂が噂を呼ぶとは、あのような状態を言うのでしょうか。いくらなんでもアインパエ帝国の皇族とか、飛躍しすぎにも程があります。こんど短期留学に来る人も、皇女様だったはずですし。



「今日はやたらと人に囲まれてうんざりです。ステビアにも苦労をかけましたね」


「いえ、私はニーム様をお守りするのが使命ですので」



 ステビアはこう言ってくれますが、今日は一日中ピリピリとしてました。無駄に負担をかけてしまったのは間違いないでしょう。それにこれから私がやろうとしている計画も、彼女にとっては迷惑なこと。なにせ自分本位で身勝手な行いなのですから。


 本来なら学生が関わることではないのかもしれない。しかし実績づくりには、是非ともこなしておきたい案件。無茶は承知でチャレンジしてみるべきです。学園の審査を通った仕事なら、危険はないはずですし。


 心の中でそっとステビアに謝罪しながら、二人で学園の事務棟へ伸びる渡り廊下を進む。



「失礼します」


「あらニームさん、いらっしゃい」



 カウンターに座った中年の女性が、私の姿を見て挨拶してくれます。入学してから何度もアルバイトの斡旋を受けているので、すっかり顔なじみになってしまいました。



「例の申請は通りましたか?」


「はい。研究所からも、ぜひニームさんに事前調査をお願いしたいと、返事をもらっています」



 やりました、これは大きな一歩と言えるでしょう。名指しで承認してもらえたのは、私を頼りにしてくれているということ。やはり魔導士のギフトは力になります。



「護衛の冒険者は手配していただけるのですよね?」


「条件に合う四つ星冒険者を募集すると、書類に書いてありました」


「四つ星ですか……」



 もし兄さんだったらどうしましょう。ドジっ子のミントや、小柄な猫種(ねこしゅ)の子供なんて、足手まといになってしまいそうですが。まあ森で暮らす有翼種(ゆうよくしゅ)がいれば、案内くらいはできるはず。



「調査は森の浅い部分だけですし、派遣される冒険者も厳選するとのことでしたから、なんの問題もありませんよ」


「わかりました。当日はよろしくお願いしますと、お伝え下さい」



 とにかくこれは大きなチャンス。しっかり結果を残して、ポイントを稼がなければ。そして卒業までに、自立しましょう!


フラグもしっかり()てに行く妹ちゃん。


次回はいつもの視点で「0107話 三人の適性」をお送りします。

大図書館で得られた成果は?

お楽しみに!

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