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0103話 財布の出血を心配してるんじゃない

誤字報告ありがとうございました!

初めて始まった、みたいなのはついつい……

 ニームに連れられたのは、ちょっと高級そうな個室喫茶。なんでも若い女性の間で、高い人気を誇る店らしい。確かに店へ入っていくのは、若いカップルや女の子の集団ばかりだ。



「この店に入るのか?」


「どうしたんです兄さん、怖気づきました? 学生証や冒険者証があればツケ払いもできるお店ですから、大丈夫ですよ」


「財布の出血を心配してるんじゃない。まあいいか、とっとと入ろう」



 気づいてないのか? 周りから注目されまくってるぞ。なんだかんだで、ニームは美人だからな。それに俺たちが連れている従人(じゅうじん)は、とにかくよく目立つ。近くにいるカップルとか、男性が思い切りつねられてるし……


 立っているだけで被害が広がりそうだから、個室へ逃げよう。



「いらっしゃいま……!? しっ、失礼しました。いらっしゃいませ」


「全員で座れる大きな部屋を頼む」


「かしこまりました」



 俺の肩を見たまま固まってしまう者が多いのに、一瞬で営業モードに復帰するとは。よく訓練された店員じゃないか。なにせジャスミンは、やたら愛想を振りまく。まだ付き合いは短いが、すっかり有翼種(ゆうよくしゅ)の認識が変わってしまった。


 微妙にソワソワしてる店員の案内で、イスが十脚並べられた部屋へ通される。



「図書館でもそうでしたが、相変わらず兄さんは従人との距離がおかしいです」


「相変わらずって、さっき見ただけだろ」


「なにを言ってるんですか。兄さんは屋敷にいた頃から、やたらミントを近くに置いてたでしょ」



 俺としては距離を取っていたつもりだが、周りからはそう見えなかったのか?

 もしかして俺のモフモフ好きがバレていたのでは……



「まあ実家とは縁が切れてるんだし、今さら知られていたところで、どうでもいい話だな」


「なに一人で納得してるんです。孤高を気取ってみたところで、全然似合いません。それにこのことを知ってるのは、たぶん私だけですよ。家にいた頃の兄さんって、空気のように扱われてましたからね」


「話には聞いてたけど、タクトって本当に家族から(ないがし)ろにされてたんだ」



 一族から捨てられた自分と重なったんだろう、ジャスミンがそっと身を寄せてきた。羽毛の感触が素晴らしすぎて、過去のことなんてどうでも良くなってくる。



「サーロイン家は魔法の実力が全て、みたいなところがあるからな。だがそんな俺のことを、ニームはよく見ていたわけだ」


「そういえば離れの近くで、ニーム様をよくお見かけしたのです」


「怖いもの見たさってやつですよ。あの頃の私は、まだ子供だったんです。相手の脅威もわからず、興味本位で近づいてたんですから」



 時間があれば本を読むか魔法制御の訓練をしていたので、ニームが近くにいたなんて全然気づかなかったぞ。ミントも知ってたのなら、教えてくれても良かったのに。


 とはいっても、あの当時は無理か。俺はミントに対して、そっけない態度を取ってたし。



「脅威って、お前……」


「うちの学園長先生は[賢者]のギフトを持っていて、内包している魔力量は国内でもトップクラスと言われてるんです。そんな人より多いとか、どう考えてもおかしいでしょ。ほんと化け物じみてますよ、兄さんは」



 オレガノさんにも同じことを言われたが、あの時より魔力量は大幅に増えてる。そろそろ魔力タンクを名乗っても良さそうだ。



「いくら容量が多くても、俺が使えるのは生活魔法だけだからな。宝の持ち腐れにしかならん。それよりニーム、お前が使役している従人の名前を教えてくれ」


「この子はステビアです。ボディーガードを自由に選べと言われたので、この子にしました。まだレベルは二十ですが、なかなか優秀ですよ」


「はじめまして、タクト様。ニーム様のボディーガードを務める、ステビアと申します」



 貴重なギフトが発現した大事な娘を守るため、金に糸目をつけなかったんだろう。礼儀作法はしっかりしているし、移動中も周囲に気を配っていた。常に主人を守れる位置に立っているとか、ボディーガードの鏡だな。



「よろしくな、ステビア。ニームはまだ兄と呼んでくれるが、俺はもうただの一般人だ。気軽に接してくれ」


「兄さんの使役してる子たちも、ちゃんと紹介してくださいよ。それにさっきの質問にも、答えてもらいますからね」


「わかってる、後でちゃんと説明する。それよりステビアを席に座らせてやれ。そんな所に立たれると、落ち着いて茶を楽しめん」


「いえ、私は……」


「いいですよ、座りなさいステビア。ここは防犯もしっかりしてますから、危険はないでしょう。それに兄さんの従人たちは、全員が席についています。一般人より待遇が劣るようでは、サーロイン家の恥になってしまいますからね」



 よしよし。才人(さいじん)が持つプライドを、うまく刺激できたようだ。ステビアが着席するのを待ち、みんなのことを紹介していく。


 さて、とりあえずなにか注文しよう。小麦の産地だけあり、メニューにはカラフルなお菓子が載っている。なによりシトラスがもう待ちきれない感じだからな。このまま放置してたら、しっぽがちぎれかねん。



「みんな、好きなものを頼んでいいぞ」


「やった! 何にしようかな」


「こんなお店に入るのは初めてなので、ミント迷ってしまうです」


「どれも美味しそうなので、わたくしも困ってしまいます」


「……あるじ様、選んで」


「私はタクトのを、分けてもらうわ」



 シトラスはドライフルーツ入りのパウンドケーキ、ミントは赤根(キャロット)ケーキか。ユーカリはパンケーキが気になるようだ。シナモンにはふわふわのシフォンケーキを選んでやろう。俺はマドレーヌっぽいやつにするか。これならみんなで味見できる。



「ステビアも遠慮するなよ」


「ここは兄さん持ちですからね。あなたもなにか頼みなさい」


「はい。ありがとうございます、タクト様」



 どうやらステビアはショートブレッドにするらしい。ニームがワッフルに決めたところで店員へ注文を伝え、しばらく雑談をしながら過ごす。すると程なくして、お茶とお菓子が運ばれてきた。


 こうして妹から言及されるとは思ってなかったが、あらかじめ考えていた言い訳を伝えるとするか。


次回は妹ちゃん切れる?

「0104話 問答無用です!」をお楽しみに!

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