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0010話 レベルアップの仕組み

 シトラスが腕の中に収まって横になったので、頭やしっぽをそっと撫でる。もっと抵抗されるかと思ったが、素直に受け入れてくれたな。やっと俺のモフモフ愛を、理解できるようになったのかもしれない。



「さて、お風呂でも話したように、二進数で表現すると上人(じょうじん)には八個の数字があり、野人(やじん)は四個しかない。ここまでは良いな?」


「うん、野人の品質は一番から十五番で、上人の支配値は十六から二百四十までだったよね」



 記憶力もいいな、こいつは。文字や計算を教えたら、すぐマスターしそうだ。



「上人は八個ある数字のうち、上の四個しか使わない。逆に野人は上にあった四個の数字を奪われ、下の四個しか使えなくなった。しかし太古の野人は八個の数値を全て使えていたから、品質の最大値が二百五十五(255)だったんだ」


「それが天罰……」


「これは俺の予想なんだが、上の四桁は人の持つ数値。そして下の四桁は、獣の持つ数値じゃないかと思ってる」


「じゃあその辺にいる動物も、四つの数字を持ってるの?」


「いや、少なくとも俺のギフトで、数字を持った動物なんて見たことはない。恐らくだが、聖獣や霊獣と言われる存在にしか、備わってないんだと思う」



 なにせ神の使いと言われる動物だから、何かしら特殊な力があるはず。だとすれば数字を持っていても、おかしくないだろう。



「ふーん。おとぎ話に出てくるような動物と、ボクたち野人って似てるのか……」


「お前たちは人と獣、両方の特徴を兼ね備えてるからな。八個の数字を使えるのが、本来自然な姿なんだ。しかしクソッタレな神は、人の尊厳ともいえる上位四桁(4bit)の数字を、奪って行きやがった」


「だから上人に仕えないとレベルが上がらなくなったり、制約で支配される存在になったんだね」


「そういう事だ」



 言い方こそ野()だが、大抵は家畜扱いしかされない。街の外に広がる湿地に行けばいくらでもいるし、放っておけば数も増える。一般民には肉体労働や下働きで酷使され、冒険者には盾役として使い潰されてしまう。よしんばペットのように飼われたとしても、娼婦扱いかコンテスト用の道具だ。


 だがしかし! ()でてよし、食べてよし……ではなかった、触ってよし、埋まってよしと三拍子揃った存在が、他にあるだろうか?


 ――いや無い。


 まだ栄養状態が改善されていないので抱き心地は今ひとつだが、それだってすぐ向上するはず。そうなれば、全方位完全無欠の存在だ。


 ……おっと、少しトリップしてしまったな。

 シトラスがなにか言いたげにしているので、聞いてやろう。



「じゃあ、どうしてボクには八個の数字があるの?」


「すまないが、その理由はまだわからない。なにせ俺が知っている野人で八桁を保有している者は、シトラスを含めて二人しかいないからな」


「すごく珍しいってことなんだね」


「どちらも四等級、つまり下の四桁が全て埋まっている。しかし同じ品質十五番でも、四桁しか持ってないやつばかりなんだ。なにが原因で八桁になったのか、さっぱりわからん」



 一つだけ思い当たるフシはあるが、この際だし聞いてみるか。



「つまらんことを聞くが、シトラスは生まれる前の記憶とか持ってないよな?」


「生まれる前? そんなの知らないよ。なにせボクは親に捨てられてるからね。生まれる前どころか、両親の顔すら覚えてないさ」


「なかなかヘビーな人生を歩んできたんだな」


「別に親のいない野人なんて、そう珍しいものじゃないよ。みんな自分が生きていくのに必死だし、従人(じゅうじん)になると帰ってこられないんだから」



 首に刻まれた従印(じゅういん)は、一生消えない(くさび)だ。これを刻まれてしまったら最後、元のコミュニティーには受け入れてもらえない。そんな重い十字架を背負ってでも従人になりたいと願う者は、それなりの数いるらしい。まあシトラスのように、望まぬ形で刻まれる者も多いが……


 しかし、出生に秘密でもあるのかと思ったが、結局はわからないか。もう一人の存在も、屋敷で生まれた後にそのまま飼われている、上層街ではよくあるパターンだ。下働きをしている彼女の両親も、特に変わった配列は持っていない。謎は残ったままになってしまったな。



「とにかくお前が強くなっていけば、何かしらの力に目覚めるかもしれない」


「だけど四等級は何百匹魔物を倒しても、レベルは上がらないって聞いたよ」


「例えば一等級が、一の経験値でレベル一になるとして、四等級の場合は二百五十六(256)も必要になるな。ちなみに二等級が四で、三等級は二十七だ」


「絶望的じゃないか……」



 なにせフラグが立っているビットの数に応じ、指数関数的に必要経験値が増える。二ビットなら二の二乗、三ビットなら三の三乗という具合に。ということで四の四乗になると二百五十六(4×4×4×4)倍となるわけだ。


 だがこれはあくまでレベルゼロが一になる時。次のレベルに上がるには、倍の数値がプラスされる。つまり二百五十六(256)に倍の五百十二(512)が加算され、七百六十八(768)の経験値を得ないとレベルアップしない。その次が合計千二百八十(1280)だから、初項が二百五十六(256)で公差が五百十二(512)の、等差数列の和ということ。


 要はゲームに実装されている経験値テーブルと似た仕組みで、レベルアップするために倒さなければらない魔物の数は、三倍・五倍と増えてしまう。


 一等級の場合は初項が一で公差が二だから、一の経験値を得るとレベル一に、次は三の経験値でレベル二、そして五の経験値でレベル三と、どんどん上がっていく。四等級が戦闘に向かないのは、これが原因なのである。



「まあ、そのために俺がいる。心配するな、シトラス」


「慰めなんかいいよ。なんだか目の前が暗くなってきた。ボク、もう寝る」



 すっかり気落ちしたのか、シトラスはふて寝を始めてしまう。まあ俺の持つ論理演算師のギフトは、その時になったら体験してもらうとするか。


 疲れていたのだろう、本格的に寝息を立て始めたシトラスの頭をそっと撫で、俺も眠りにつくことにした。


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