27.合流
「ここは……」
私達が連れて来られた場所は、郊外の森の側に建つ、わりと大きめの瀟洒なお屋敷だった。
(この屋敷はどこの家の屋敷かしら? ストーン侯爵かスコット伯爵? それとも別の誰かの屋敷だろうか?)
エディとストーン侯爵の姿は見えない。すでに建物の中に入ったのだろう。
私達もそのお屋敷の玄関に向かう。
馬車の中で見た感じでは、武器を持っているのはライリーだけのようだ。
このまま私が捕まっていると、エディが身動きが取れなくなる。
(ここは自力で何とかするか)
私はそう思い、歩きながら喉元から離れた短剣を持つライリーの手を捻り上げた。
「うわ、何をする!」
そう言うライリーの手から短剣が落ちると、私はそのライリーの鳩尾に拳を叩き入れ沈黙させる。
もう一人が慌てて、
「な、何をするんだ!」
そう叫んだが、その男の腹に蹴りを入れて、そちらも沈黙させたのだった。
「ふぅ、クレアさん、大丈夫ですか?」
私がそう問うと、
「はい……、私は大丈夫です。シルフィアナ様はお強いのですね……」
と驚いている。
「ええ、それなりにね」
私はそう曖昧に答えておいて、
「これからエディを助けに行くけれど、貴方は危ないから何処かに隠れていた方がいいわね」
そう私達が話していると、
「シルフィアナ様!」
と、後ろから突然声が掛かって飛び上がる。
まだ他にも仲間が居たという事か。
たしかに見張りのような人達が居ないなとは思っていたのだが、私は直ぐにクレア嬢の前に立って、後ろの敵に向き直る。
武器は護身用の短剣しかないが、無いよりはマシだ。あとは体術も交えて何とかこれで戦うしかないだろう。
何人かわらわらと出て来たので身構えると、
「お怪我はありませんか?」
そう私に問いかけたのだった。
私の前に現れた者達は、跪き、剣を横に置いて胸に手を当て騎士の礼を取る
「私は近衛隊第二部隊の隊長、イーストン伯爵家次男、リーン・イーストンと申します。我々はシルフィアナ様とエドワード様の救出に参りました」
そう言うが本当だろうか?
敵が油断させる為にそう思わせているだけではないだろうな? と、疑心暗鬼になる。
私が何も言わずにいると、
「救出が遅くなり申し訳ありません。ライリー・スコットを倒されるとは、流石シルフィアナ様ですね」
と、今度は聞き覚えのある声がする。
「ウェイン様!?」
私が驚いてそう言うと、ウェイン様は立ち上がり改めて、
「お怪我はありませんか?」
と、私に尋ねるのだった。
* * *
ウェインは、一人で向かうエドワード殿下に付き添い、一緒に馬車に乗って来たが、後をつける事も出来ずに馬車の中で、ただエドワード殿下の持つランタンの灯りを見つめていた。
その灯りが見えなくなると、馬車の扉がノックされ、
「ウェイン、居るか?」
と、声をかけられた。
馬車の扉を開けると、エドワード様の護衛でウィンスター家に一緒に来ていた近衛の先輩達だ。
「これからエドワード殿下とシルフィアナ様を救出に向かう。第二部隊の者が先行しているので、我々もそこに合流するぞ。お前はこのまま馬車で来てくれ。救出した後はこの馬車でお二人を王宮までお連れしろ」
そう言われ驚いたウェインは、
「行き先はわかっているのですか?」
そう尋ねると、
「ああ、我々も詳しい事は聞かされていないが、上からの指令だ。その場所にエドワード殿下とシルフィアナ様が連れて来られるらしいので、敵を一網打尽にして殿下達を救出するのだ。馬車を先導するのでついて来い」
そう、先輩に言われ驚いたが、とにかくお二人を救出出来るならそれに越した事はない。
ウェインは馬で先導する近衛の先輩達について行くのだった。
* * *
エドワードはストーン侯爵と共にその屋敷に入った。
中にはストーン侯爵の護衛か、或いはエドワードの見張りなのか、それなりの数の者達がいる。
シルフィと合流したら、どうやってここを突破しようか。おそらくシルフィの剣は没収されているだろう。先ずは手近な者を倒して剣を調達しないとならない。流石に素手で剣と戦うのは分が悪い。
この屋敷の左右に伸びた左側の廊下の一番端の部屋に連れて行かれた。この屋敷の一番大きな応接室といったところか。
中に入ると、やはりという人物か立っていた。
「エドワード殿下、お待ちしておりましたよ」
そう言ったのは、ライリーの父であるスコット伯爵だ。
「さて、殿下。どうぞお掛けください」
そうストーン侯爵に促され、エドワードはソファに腰を下ろす。
膝よりも少し高い、それなりに幅のある広いテーブルを挟んで、向かいのソファにはストーン侯爵が座り、その後ろにスコット伯爵が立つ。
もちろんエドワードの後ろには2名の見張りが立っている。部屋の隅とドアの所にも数名居るようだ。
「では、この書類にサインして頂きましょうか」
ストーン侯爵にそう言われ、王位継承権放棄の為の書類を差し出される。
「シルフィを連れて来てからだな。シルフィの無事を確認出来なければサインは出来ない」
エドワードのその言葉に、ストーン侯爵は、
「まあ、いいでしょう。シルフィアナ嬢の到着を待ちましょうか」
そう答えるのだった。
エドワードはこの舞台裏にダーレン公爵が関わっているのかが気になっていたので、単刀直入に聞いてみる事にした。
「何故ダーレン公爵を王位につけさせたいのだ? ダーレン公爵がそう望んでいるのか?」
「ダーレン公爵は全く王位には興味が無いのですよ。だからこそ我々はあの方に王になってもらいたいのです」
「そうやってダーレン公爵を傀儡にして、自分達で国政を思い通りに動かすつもりか。我々と言うからは、まだ他にも仲間が居るのだな」
「ああ、我々には大いなる協力者がおりましてね。その方が、事を急いだ方がよろしいと申すものですから、前回の事が落ち着いて、油断している所を狙ったわけですよ」
ストーン侯爵のその話で、ストーン侯爵よりも力のある者が後ろについている事がわかる。
(ダーレン公爵ではないなら誰だ? 今回、俺たちに関わってきたのは、スコット伯爵の他にはキール公爵くらいか。だが、キール公爵は娘を俺と婚約させたがっていた。そんな俺から王位継承権を放棄させるのもおかしな話だが……)
ただ、キール公爵も仲間で、この計画から目を逸らさせる為の芝居という事もありえるだろう。
いったい黒幕は誰なのか?
今回はなんとしても黒幕を捕らえたい。エドワードはそう考えるが、はたして上手くいくかどうか……。
お読みいただきありがとうございます。
このお話も、あと2話で完結です。
次回の更新は夜にしたいと思いますので、皆様にお付き合い頂ければ嬉しいです。




