8.お城の舞踏会
2020.10.03.誤字脱字を修正しました。内容は変わっていないので、よろしくお願いします。
階段落ちの事件はやはり誰かに狙われたのだろう。あの視線はエドワード殿下ではなく、他の第三者だったと思う。
とにかく屋敷に居ても敵の動きがわからないので、近々開かれる王宮主催の舞踏会で様子を見ることにした。
普段はほとんど舞踏会には出ていなかった私だが、私がエドワード王子殿下の婚約者であるが故に、私には外せない舞踏会がある。
それが王宮主催の舞踏会なのだ。
それだけは私が必ず参加するとわかっているはずなので、私を狙う者も参加している可能性が大きい。
誰が私に接触してくるのか。
誰が敵で誰が味方か見極めることが出来るだろうか?
〜〜〜〜〜〜〜〜
「お嬢様、着きましたよ」
サラにそう言われて、馬車を降りようとすると、エドワード殿下が馬車まで出迎えてくれていた。
今日は王宮主催の舞踏会の日である。
いつもは会場の入り口のところで待っているので少し驚いたが、
「よく来てくれた。待っていたよ」
と言って、いつもの無表情で手を差し出された。
「ありがとうございます」
と手を取って馬車を降り、そのままエドワード殿下にエスコートされ会場に入った。
エドワード殿下はいつものように、氷のような眼を向けて挨拶をする。
私も殿下の隣で、婚約者として笑顔で挨拶する。
最初の挨拶はみな軽く済ませるので、怪しい動きをする者もいなかった。
ひとしきり挨拶が終わるとダンスの始まりだ。
最初のダンスは婚約者であるエドワード殿下と踊ることになる。
二人でホールの中央まで行き、曲が始まるのを待っていると、殿下に想いを寄せるご令嬢たちの視線が突き刺さる。
エドワード殿下はアイスドールとか言われて怖がられてはいるが、スタイル抜群のイケメンである。王族という地位もあって、ご令嬢がたには人気が高い。
(これは敵の視線以上に痛いな)
そう思いながら、音楽と同時に踊り出す。
いつも私は殿下の胸のあたりを見ながら踊っていたのだが、殿下の視線を感じたので、思わず顔を上げると殿下と目が合ってしまった。
そうなると、私としてはもう目を逸らせない。逸らせば負けだ。
(間近で殿下と睨み合いながらダンスって、どんな状況?)
そう思ったが、間近でみる殿下のそれは麗しいこと。あまりのイケメンぶりに思わずトキメイてしまう。
(うわ〜、近くで見るとイケメンぶりが増すわ〜。特に紫の瞳がとっても綺麗でまるで宝石のよう)
これは周りのご令嬢たちが騒ぐわけだわ。
(ヤバいヤバい、17歳の青少年にトキメイてどうする)
28歳の私が言うが、しかし私は今は殿下の婚約者。別にトキメイてもなんら問題はないのである。
(ああ、久しぶりのトキメキをありがとう)
睨み合いながらも、ちょっと幸せな気分になるのだった。
曲が終わり、いつもはダンスを待っているご令嬢たちのところに行くエドワード殿下だが、離れようとした私の手を取って、
「もう一曲踊らないか?」
と私を引き寄せた。その顔は相変わらず無表情で、私を睨んでいるようだったが、
「え?ダンスをお待ちの御令嬢たちがいるのでは?」
と聞いてみると、
「もう一曲くらい大丈夫だ」
そう言うので、せっかくの申し出を断るのも悪いと思い、もう一曲踊ることにした。
イケメンを間近で見れるのは眼福だが、睨み合って踊っているのが何とも言えなかった。
ダンスが終わり、エドワード殿下と離れ一人で壁際に移動していると、親友のエミリーがやってきて、
「ちょっとシルフィ、どうしちゃったの? エドワード様と何があったの?」
と聞いてきた。
「え? 何がって何が?」
そう聞き返すと
「だって今までこんなことなかったじゃない。二人で見つめ合って、続けてニ曲も踊るなんて‼︎」
「もう周りはザワつきまくりよ‼︎」
ちょっと興奮気味にそう言われて、
(さっきの睨み合いは、傍から見るとそんなふうに見えてたんだ)
とちょっと恥ずかしくなってしまった。
「ねえねえ、エドワード様と何かあったの?」
そう聞いてくるエミリーに
「エドワード様がいつも私を睨んでくるから、私も睨み返してあげただけよ」
と、ちょっとぶっきらぼうに話すと、
「それは睨むんじゃなくて、見つめ合うって言うんでしょ。照れなくていいから」
と冷やかされたのだった。
事故の後、少し?いや大変性格の変わったシルフィに、エドワードは戸惑っていた。
以前は儚げで守ってあげたくなるような少女だった。エドワードが見つめても視線を合わせることはなかった。
そんなシルフィだか子供の頃はエドワードととても仲が良く、エドワードはシルフィが大好きだった。
子供の頃はレイにオスカー、カールにエミリーにシルフィと、六人でよく遊んだものだ。
シルフィは身体が弱かったので、人一倍気を使った。
室内で遊ぶ事が多かったが、たまに外に出る時は必ずエドワードが側に付いていた。
レイもシルフィをとても大切にしていたが、エドワードの気持ちを知っていたので、シルフィのことはエドワードに任せてくれていた。
そんなエドワードにシルフィも懐いてくれていたのだが、ある時を境にエドワードはシルフィと距離を置くようになった。そうしてエドワードが感情を表に出さなくなってからは、怖がられるようになってしまったのだった。
それでもエドワードの気持ちは変わらず、成長したシルフィはさらに美しくなり、エドワードが15歳の成人を迎えると、すぐにシルフィに結婚を申し込んだ。
シルフィは承諾してくれたが、それは王族からの申し出が断れなかったのか、それともまだ少しはエドワードのことを好いていてくれるのか、エドワード自身には判断が出来なかった。
そんなシルフィが先日のランチでは、エドワードを見つめ返し、さらににっこりと笑顔を向けるではないか!
あまりの可愛さに思わず顔が熱くなり俯いてしまった。
さらに、ほとんど自分から話すこともなかったのに、シルフィの方から話しかけてきた。
今日のダンスでも、エドワードと見つめ合ったままダンスを踊り、その琥珀色の瞳に釘付けになった。
もっと見ていたくてもう一度ダンスを申し込むと、快く承諾してくれて、また見つめ合ってダンスを踊った。
今までエドワードはシルフィに怖がられていて、嫌われているのではないかと思っていたが、こんな風に見つめ合って微笑んでくれるなら、今までのシルフィとは違うが、今のシルフィも悪くはないなと思うのであった。
読んでいただいて、ありがとうございます。