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転生アラサー警察官、王子殿下を守ります!  作者: 音威ジュン
第三章 留学生編
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11.作戦開始


 夏休み前は、授業の合間の休み時間はたいていバーバラとリバーシをしていたが、セニア王子とエルーラ嬢が来てからは、(もっぱ)らエルーラ嬢とおしゃべりしていた。

 だがそれだとセニア王子とエルーラ嬢が話す機会が(ほとん)どない。

 これではいけないという事で、カールとルークにも協力してもらい、みんなでリバーシをする計画を立てたのだった。


「エルーラ様は、ボードゲームはお好きですか? 今日はみんなでリバーシをしませんか?」

 私がそう言うと、

「得意なわけではありませんが、リバーシは好きです」

 と、エルーラ嬢は答える。

「では、一緒にやりましょう」

 私がそう言うと、それに乗ってカールが、

「お、リバーシか。いいね。俺達も混ぜてもらおう」

 そう言って、セニア王子とルークと共に私達の所にやって来た。

 デュカ様は対戦には参加せずに、見物を決め込むようだ。

「では、セニア様とエルーラ様からどうぞ。負けたら交代という事にしましょう。休み時間の間に勝負がつかない場合は、次の休み時間に最初からやり直しですからね」

「そうか、ではあまりゆっくり考えてもいられないな」

 と私の言葉にセニア王子は答えるのだった。


 二人の対戦が始まったが、二人共わりとゆっくり考えている。

(これはお互いに対戦を長引かせて、次の休み時間も対戦したいという事ではないか? なかなかいい兆候じゃない?)

 私はそんな事を思いながら、二人の対戦を見守っていたのだった。

 案の定、勝敗が決まらなかったので、次の休み時間に持ち越しだ。

 なかなかいいじゃないかと思っていたが、対戦中は殆ど言葉を交わさないし、エルーラ嬢にいたっては、盤を見つめるだけでセニア王子の方を殆ど見ない。

(なんか、これダメじゃない? なんとか目を見て話す、いや、せめて話しだけでも出来るようにしたかったのに、ゲームだと話さなくてもすんでしまうからな。何かもっといい方法を考えないとダメかも……)

 私は二人の対戦を見ながら、そう思うのだった。


 結局いい案も浮かばないので、そのままリバーシを続けていたが、他の人が対戦している時も二人が話す様子はないし、だいたいにして二人が側に居るという事がない。

 婚約者なのだから、エルーラ嬢の側に居てエスコートしてあげればいいのに、セニア王子もなかなか素直にはなれないようで、困ったものだと思ってしまう。

 これは、教室だと話し相手が居るから二人共話さないが、二人きりならどうだろう?

 今度の休みにエディと四人で朝食を一緒に食べて、その後さりげなく二人になるように仕向けたらいいのではないか?

 早速エディに相談してみよう。と私は意気込んだのだった。




 * * *




 週末の休みの朝、私は早めに王宮に来ていた。

 エディとセニア王子、エルーラ嬢と四人で朝食を食べるためだ。

 ()ずエディの応接室で作戦会議だ。

 朝食の後、セニア王子とエルーラ嬢を二人きりにする作戦だったが、今までだってその機会はたくさんあったはずだ。だが二人が仲良くなる様子はない。では、どうするか。

「セニア様にヤキモチを()かせて、(あせ)らすのはどうですか? 誰か他の人に取られると思ったら、放っておけなくなるのではないでしょうか」

「ああ、それはいいかもな。では、どうする? 俺がエルーラ嬢を口説(くど)けばいいのか?」

 と、エディがニヤリと笑いながら言う。私は、

口説(くど)かなくても大丈夫です! 口説(くど)いたりすると後々面倒な事になりそですからね。そうですね、食後に庭に散策に誘ってはどうですか? 薔薇を見に行きましょうとか言って。その時はなるべくエルーラ様を見て下さい。私はセニア様の様子を見ていますから」

 と、ちょっとムッとしながら言うと、エディは笑いながら、

「わかった。ではその手筈(てはず)で行こう」

 そう言って作戦会議は終了したのだった。



 朝食は、話がしやすいように丸テーブルで頂くことにした。

 私とエディ、セニア王子とエルーラ嬢が向かい合って座る。

 食事の間も話はするが、殆ど私とエルーラ嬢が二人で話していた。

 食後のデザートを食べながら、私はエルーラ嬢に話を振る。

「エルーラ様は薔薇はお好きですか?」

「ええ、綺麗(きれい)で香りも良くてとても好きです。あの華やかさには憧れます」

 エルーラ嬢がそう話してくれたので、これはチャンスとエディを見る。

 意図を察してくれたエディがエルーラ嬢に声を掛けたのだった。

「エルーラ嬢は薔薇が好きなのか。庭の薔薇も見頃は過ぎたが、まだまだ咲いている。一緒に散策はいかがかな?」

 そう言って席を立ち、エルーラ嬢の前に手を差し出す。

 エルーラ嬢は驚いてセニア王子を見たが、セニア王子も驚いている。しかしすぐに平静を装い、

「せっかくのお誘いだ、行って来るといい」

 そう言うのだった。

 私は、(えー? いいの?)と思ったが、セニア王子も動揺しているようなので、一応作戦は成功なのかなと思い、

「私達も庭を散策しませんか?」

 とセニア王子を誘ったのだった。


 セニア王子は思った以上に動揺しているようで、私をエスコートする事も忘れて庭に出る。

 二人に近づき過ぎないように、私達は後をついて歩くが、遠目に見ていると、とても仲睦まじく見えるから不思議だ。

 たぶんエディがエルーラ嬢の方をずっと見ているからだろう。

 そう、エディの目付きに慣れてもらう為に見ているのだ。

 エルーラ嬢は、怖くてチラッと見ては(うつむ)くという動作を繰り返しているが、それが恥じらっているように見えるのだ。

 そんな風に遠目に見ていたのだが、そんな二人の姿を見ていると、なんだか胸の中がモヤモヤしてくる。

(これは作戦なのだから、エディがエルーラ様を見ていても、他意は無いはずだ。無いはずなのになんだか胸が苦しい……)

 私は知らずに自分の胸を押さえていた。

(作戦なのだと分かっていても、エディの隣に他の女性が並ぶのがこんなに苦しいなんて……。他のご令嬢と踊っているところは沢山見ているのに、どうしてだろう……。私って実はかなり心が狭いのだろうか……。ああ、いやだ。嫉妬(しっと)()られる自分の(みにく)さが(さら)け出されるようだ)

 そう思うと立っていられなくなり、その場に(うずくま)ってしまったのだった。

 それに気づいたセニア王子が、

「シルフィアナ嬢、どうしたのだ? 大丈夫か?」

 そう叫んで私の側にしゃがみ、背に手を当てる。

 セニア王子の声で振り向いたエディが、

「失礼する」

 とエルーラ嬢に言い残し、こちらに駆けてきて、私の背に手を添えていたセニア王子に、

「触るな」

 と冷ややかな声で言うのだった。

 そう言われたセニア王子はビクッとして離れたが、エディが私を抱き寄せるのを、ただ呆然と見ているのだった。


「シルフィ、どうした? 大丈夫か?」

「はい……、大丈夫です……」

 そう言いながらもエディの顔を見る事が出来ない。今自分はとても(みにく)い顔をしていると思うから。

「大丈夫じゃなさそうだな。医務室に行くぞ」

 そう言って私を抱き上げ、歩き出すのだった。

「急ぐからしっかり掴まってくれ」

 そうエディに言われ、首に手を回してしっかりしがみつくが、顔はエディの肩に押し当てて見えないようにしていた。

 それがよけいに具合が悪そうに見えたのか、かなり急ぎ足で歩くのだった。

 医務室の前に着いたエディは、ドアの前に居る警備の者に、

「開けろ」

 と鋭い声で言う。

 言われた警備の者は、慌ててドアを開けるのだった。




 * * *




 医師の診察が終わり、

「今のところは異常は無さそうですが、(しばら)くは安静にして様子を見て下さい」

 そう医務室の寝台に寝かされた私に医師が話すと、側にいたエディが、

「大丈夫か? 俺が付いているから、しばらくここで休むといい」

 そう優しく頭を撫でる。

 私は嫉妬(しっと)で胸が苦しくなったとは言えなくて、でも身体に異常が無いのは分かっているので、

「もう大丈夫です。ご心配をおかけしました……」

 そう言って起き上がると、エディが慌てて背を支えてくれる。

「最近は忘れがちだが、君は元々身体が弱いのだ。絶対に無理をしないでくれ。頼む……」

 そう言って私を抱きしめるから、私はなんだか後ろめたくて、

「せっかくの計画を台無しにしてしまってごめんなさい……」

 そう小声で言ったが、もう一度やり直しましょうとは、私には言えなかったのだった。


 私の体調を気遣って、ウィンスター邸まで送ると私を抱き上げて馬車に向かうエディと私を、セニア王子とエルーラ嬢はただ呆然と見つめていた。

 取り残された形になった二人は、お互いに顔を見合わせ、

「部屋にもどるか」

 と言う事になったのだった。

 客室棟にある自室まで二人で並んで歩くが、エルーラ嬢がポツリと呟いた。

「エドワード様は本当にシルフィアナ様と仲睦まじいのですね……」

 そう言ったが、その後の(シルフィアナ様はエドワード様にとても愛されていて羨ましいです)と言う言葉は飲み込んだ。

「ああ、俺も驚いた。普段の冷徹さからは想像も出来ないな。二人きりの時はあのように親密なのだろうか? それとも、先程はシルフィアナ嬢を心配しての事なのか……」

「どうでしょう? 私にはよくわかりません……」

 エルーラ嬢は、自分はセニア王子にあんな風に心配された事はないなと、なんだか悲しくなるのだった。




お読み頂きありがとうございます。

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