4.お見舞いと怪我の経過
「お加減はいかがかな?」
そう言ってエドワード殿下は、階段落ちで足を捻挫した私のもとへ、学園の休みのたびにお見舞いに来てくれた。
普段から無愛想で目つきが悪いので、睨まれているようで居心地が悪い。
「シルフィ、怪我は大丈夫か? あの時私が送っていれば、君にそんな怪我をさせずに済んだのに、申し訳ない」
と謝ってはくれたのだが、本心はどうなのかと思ってしまう。
私は今までしてきたように、あまりエドワード殿下を見ずに俯いたまま、
「いいえ、私の不注意だったのですから、お気になさらずに」
と応じたが、一度疑ってしまうと何もかもが疑わしく思え、全てが胡散臭く見える。
そんな私の心情など知る由もなく、エドワード殿下はいつものようにジッと私を睨むように見ているのだった。
私の親友のエミリーとカールは、ほぼ毎日のようにお見舞いに来てくれた。
「大丈夫?三日も目を覚まさないって聞いてすごく心配したのよ」
とエミリーが言うと、
「本当に捻挫で済んで不幸中の幸いだな」
とカールが言う。
「貧血だなんて、シルフィは身体が弱いのだから気をつけないとダメじゃない。誰も側に付いていなかったの?」
とエミリーに問われ
「あの日はエドワード様が私と二人で話したかったみたいで、サラは別室で待っていたし、お兄様もオスカー様もいらっしゃらなかったの」
「帰りはエドワード様が馬車まで送って下さるかと思ったのだけど、そんな様子もなかったので、私一人で部屋を出たのだけど…」
と話すと
「誰もいないなんて珍しいわね。必ず扉の前に護衛が居るはずなのに」
エミリーもそう言って黙り込む。
「たまたま誰も居なかったってことか?」
とカールが言うが、普通はそんなことはあり得ないのだ。
何か理由があって誰も居なかったのか、エドワード殿下が意図して誰も置かなかったのか、その辺のことはわからない。
ただ、今その事を考えても答えは出ないのだから、私は話題を変えることにした。
「そういえば、オスカー様は何か言ってなかった?」
と私は聞いてみる。
エミリーとカールは顔を見合わせて、
「その事については何も話してくれなかったわ。ただシルフィが階段から落ちて大変だったと言っていただけよ」
とエミリーが答えてくれた。
「そう…、私もお兄様に聞いてみたけど、ちょっと扉の前を離れた時に、私が階段から落ちたんだとしか言ってなかったわ」
他に話も聞かないから、きっと目撃者もいないのだろう。
私はもうこの話題を切り上げて、しばらく他愛もない話をして過ごしたのだった。
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「はぁ〜、やっと治ったわ〜」
そう言って私は自室の床でピョンピョン跳ねてみる。
私の足もひと月ほどで完治した。
ホントはもっと早くから歩けたのだが、皆に
「まだ歩いてはいけません」
と言われ、ベッドに居ることを強要されていたのだ。
「シルフィ様、あまり無理はならないでくださいね。まだ治ったばかりなのですから」
と心配そうにサラは言うが、
「大丈夫よ! 私はそんなにヤワじゃないわ」
と答える私に訝しげな顔で
「何をおっしゃいますか。シルフィ様は体が弱くすぐ熱を出して寝込んでしまうではありませんか」
サラにそう言われ、そういえばそうだったと思い出す。
前世の私はバリバリの体育会系。病気とは無縁の生活をしていたが、今の私はちょっとしたことで熱を出す、体力も筋力も免疫力もない虚弱体質だった。
(これではいけない! もっと身体を鍛えなければ犯人を捕まえられない!)
警察官の仕事は体力勝負だ。
私は自分の生活習慣を変えるべく、試行錯誤するのだった。
読んでいただいて、ありがとうございます。