8. 放課後のダンスレッスン 1
次の日の4〜5時間目は、ダンスのレッスンになった。
今月末に王子殿下の誕生祝いの舞踏会があることは、学園も把握しているので、学園の生徒としてちゃんとダンスを踊れるようにしておきたいという、学園側の思惑だ。
1年生の3クラス合同のレッスンで、4時間目は男性と女性に分かれてそれぞれのパートを練習する。
私とエミリーは問題ないが、リリア嬢はどうだろうと見ていたら、リリア嬢も伯爵令嬢だけあって、ダンスは問題なく踊れるようだ。
休憩の時にリリア嬢に、
「リリアさんはダンスがお上手なのですね」
と声をかけたら、
「シルフィ様、私、1人でステップの練習をする時は、間違えずに踊れるのですが、相手がいると緊張して上手く踊れなくなってしまうんです」
とシュンとなる。
「あら、それはもう慣れるしかないわね。リリアさんのお兄様がお相手でも緊張するのかしら?」
と聞くと、
「兄の時はまだマシですが、相手に合わせなきゃと思って焦ってしまうと、余計に合わなくなってしまって……」
と項垂れる。
「では、これから舞踏会の前日まで、生徒会が終わってから、ダンスのレッスンをすることにしましょう。カールやルークに手伝ってもらって、少し人と踊ることに慣らしておきましょう。エミリーも一緒に協力してくれる?」
と、リリア嬢とエミリーに聞くと、
「それはいいわね。私は大丈夫よ」
とエミリーは快諾してくれたが、リリア嬢は、
「そんなご迷惑はかけられません」
とアワアワと辞退する。
「これからだって、舞踏会に出席することが沢山あるのだから、今のうちに慣らしておくのが一番よ。遠慮することはないわ。ね、エミリー」
と私が言うと、
「そうよ、そうよ。遠慮することはないわ。みんなでダンスのレッスンをしましょう」
とエミリーに言われ、リリア嬢も意を決して、
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて練習させていただきます。よろしくお願いします」
とかしこまって言うものだから、
「そんなにかしこまらなくてもいいじゃない。私達お友達ですもの、遠慮はしないで」
と私が言うと、エミリーも、
「そうよ、お友達ですもの遠慮なんて無しよ」
そう言うと、リリア嬢は勢いよく私とエミリーの手をガシッと握り、
「ありがとうございます。私のことを、お友達と思ってくださっているなんて、感激です! 私のことはリリアと呼んで下さい!」
と目を潤ませて言うものだから、
「わかったわ。ではこれからはリリアと呼ばせてもらうわね。私達のこともシルフィとエミリーでいいわよ」
そうリリアに言ったのだが、
「私は今まで通り、シルフィ様とエミリー様と呼ばせて下さい」
とリリアに言われ、
「わかったわ。好きなように呼んでいいわよ」
ということになったのだった。
休憩の後はパートナーと組んでのレッスンだが、私やエミリー、カール、ルークなど、舞踏会慣れしている生徒たちは、ダンスに慣れていない生徒の指導を手伝うことになったのだった。
* * *
放課後、生徒会の仕事が終わり、先生に許可をもらい借りていたダンス室で、ダンスのレッスンをする予定だが、何故か生徒会役員全員が揃っている。
2、3年生の生徒会役員は、もうしっかりダンスは踊れるはずだが、エディが私達のレッスンに付き合うと言い出したから、他の生徒会役員もそれに倣ったという感じだ。
(なんでこうなるかなー……)
私はそう思いながらも、断るのも申し訳ないと思いお願いしたわけだが、リリア1人のレッスンにこの人数は多すぎだよな、とため息をつく。
まあ、いろいろな人と踊った方が早く慣れるから良いだろうと、早速レッスンを始めようと思っていると、ドアをノックする音がする。入ってきたのはダンスの先生で、
「あら、生徒会役員が皆揃っているのですね。それは丁度良かった。貴方達にお願いがあるのです。1年生の中には、ダンスなどあまり踊ったことのない生徒もいて、授業とは別にレッスンさせたいので、このレッスンに一緒に参加させてやってもらえないかしら? 2、3年生の生徒会役員もいるのなら、なおさら心強いわ」
そう言われ、私達1年生組は顔を見合わせたが、生徒会長であるエディが、
「先生からのお願いならお断り出来ませんね。わかりました。では、明日から一緒にレッスンすることにしましょう」
と言うので、誰も反対する者はいなかった。
先生が、
「生徒会が終わるまでは、先にこの部屋で私が指導していますから、その後は一緒に指導を手伝ってくださいね」
そう言ってダンス室を後にしたのだった。
とりあえず、今日はリリアのレッスンに専念しよう。明日からは大変になりそうだから……。そう思って、
「リリア、今日は集中してレッスンしましょう。明日からは人数が増えるから、あまり見てあげられないかも知れませんから」
と言うと、5人でレッスンすると思っていたリリアが、なんだか大事になってきたと青ざめた顔をして、呆然と立ち尽くしているのだった。
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