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転生アラサー警察官、王子殿下を守ります!  作者: 音威ジュン
第一章 暗殺編
25/85

25.二人の想い

2020.10.03. 誤字脱字を修正しました。内容は変わっていないので、よろしくお願いします。


 シルフィは次の日の朝、お兄様から言われた言葉にショックを受けていた。


「あんな階段から男を()り落とすような女と、結婚したいと思う男がいると思うかい? あれじゃ、じゃじゃ馬を通り越して(あば)れ馬だよ…」

「確かにシルフィがいなかったら、エディもどうなっていたかわからないから、シルフィが剣を使えることは良かったと思うけど、護衛(ごえい)としてなら頼もしいが、妻にしたいかどうかはわからないよ…。ひょっとしたらエディから、婚約解消の話が出るかも知れないから、覚悟はしておいたほうがいい……」

 そう言われたのだ。


(はー……。確かにそうだよね。私、かなり男どもを()り飛ばしたりしてたよね。私はエディと一緒に戦うことに一生(いっしょう)懸命(けんめい)で、自分がエディにどう思われるかなんて考えてもみなかった……)

 本当はエディと結婚すれば、いつも(そば)で守ってあげられると思っていたのだが、たしかに男性からすれば、そんな(あば)れ馬とわざわざ結婚したいとは思わないかも……。

「はー……」

 なんだかため息しか出てこない。

 あの時、エディを守れたのだから、私が剣術と体術を覚えたことに後悔(こうかい)はない。ただその事でエディに(きら)われたのなら、私としてはとても悲しい……。

 もし婚約を解消されたら、騎士団に入隊して近衛(このえ)の騎士として、エディを護衛(ごえい)させてもらおうか。でもそうなると、エディの隣に別の女性が立つのを、護衛(ごえい)として見ていられるだろうか……。

 私は首を振る。

 いや無理だな。エディの隣に別の女性が立つのなんて、見てはいられないだろう。

 そう思うと胸が痛くて泣きたくなる。

 私がエディを守りたいのは本心だ。でもそれだけじゃない。

 可愛(かわい)くて、(いと)おしくて、大切な人。彼のことを想うと切なさが込みあげる。泣きたくなるようなこの想い。こんな気持ちは初めてだ。前世の私だって、こんな気持ちになったことはない……。

(この気持ちが愛というものなのだろか……。愛するということが、こんなにも切ないものだとは知らなかったな……)

 私はまた一つため息をついたが、その(ほお)に一粒の涙がこぼれるのだった。




 午後から昨日の事情聴取(じじょうちょうしゅ)というか、昨日の事件の事を話さなければならなくて、私は迎えの馬車に乗り王宮に向かった。

 いつものエディの応接室ではない、もう少し広い別の応接室に案内される。一緒に来たサラは部屋の隅で待機している。

 お兄様は先に来ているはずだが、姿は見えない。エディの姿も見えない。

 会いたいと思う気持ちと、会うのが(こわ)いと思う気持ちがないまぜになって、私は胸の中に何かが詰まったような息苦しさを感じていた。


 (ほど)なくして、オスカー様のお父様である、騎士団の総師団長、アンダーソン閣下(かっか)と、近衛(このえ)師団長閣下(かっか)の二人がやってきた。

 私は立ち上がり、淑女の礼をする。

 アンダーソン閣下(かっか)に椅子を(すす)められ、両閣下(かっか)が座るのを待って、私も椅子に腰を下ろした。

「大体の話はエドワード殿下から聞いているが、ジェイクという護衛(ごえい)を倒したのは君で間違いないかな?」

 そうアンダーソン閣下(かっか)に問われ、

「はい、……間違いありません」

 私は少しためらいがちに答えた。

「君はエドワード殿下を守った。なのに何故(なぜ)そんな辛そうな顔をするのかな?」

 そう指摘(してき)されてドキッとなる。

「私は、エドワード様を守れた事は(ほこ)りに思っています。ただ今朝、兄に、そんな(あば)れ馬のような女性は、エドワード様だって妻にしたいとは思わないんじゃないかと言われ、婚約解消も覚悟しておきなさいと言われました……」

 私は膝の上でドレスをギュッと握りしめた。泣きたくなるのを(こら)えて(うつむ)いていると、

「なるほど、それは心中(しんちゅう)(おだ)やかでないな」

 (あご)(ひげ)を手で()でながらアンダーソン閣下(かっか)は、

「まあこの後、エドワード殿下が君と話したいと言っていたから、ゆっくり話すといい」

 ニヤッと笑いながらアンダーソン閣下(かっか)はそう言って、近衛(このえ)師団長閣下と共に席を立ったのだった。


 私は椅子から立ち上がり、礼をして二人を見送り、また椅子に腰を掛けた。

「はぁー……」

 昨日の話は、私がジェイクを倒したのかどうかの確認だけだった。

 あとはエディから話を聞いているのだろう。エディは私のことをどう話したのだろう。

 なんだか身体が重い。上手く息が出来ない。

(どうしよう……)

 何がどうしようなのか、自分でもよくわからない。

 その時、扉をノックする音に心臓が跳ね上がる。椅子から立ち上がり、

「……どうぞ、お入り下さい」

 そう言うと、扉を開けて入って来たエディが、

「シルフィ、体調は大丈夫か?」

 と言う。

 私は真っ直ぐに顔を見ることが出来ずに俯いて、

「はい、大丈夫です」

 と短く答えた。

 声が震えないようにするのが精一杯だった。

 エディはそんな私の態度をどう思ったのか、

「ひょっとして怒ってるのか?」

 と私に聞いてくるから、私は(うつむ)いたまま首を横に振る。

「昨日、どさくさに紛れたみたいに君に口づけたこと、怒ってない?」

「え⁈」

 思わず顔を上げてエディを見てしまった。

 エディはなんだか困ったような顔で私を見ていた。私は、

「昨日の事は夢のように現実感がなくて……。エディに口づけられたことは、私は(うれ)しかったです……。でも昨日の事は確かに現実で、私はエディを守れた事は本当に良かったと思っています。でもエディを守る為なら剣を振り回し、敵を()り倒し、躊躇(ためら)いなく人を殺すような、そんな女は……、エディには相応(ふさわ)しくないですよね……」

 最後の方は声が小さくなって(ふる)えてしまった。涙を(こぼ)さないようにするのが精一杯だった。

 エディの口から言われるのが(こわ)くて、自分からそんな風に言ってしまったのだった。

 エディはびっくりしたような顔をして、

「え? どうしてそんな話になるんだ?」

 と困惑(こんわく)したのだった。




 俺も昨日の事はいろいろ考えた。

 ついこの前まで、弱くて無理をするとすぐ倒れてしまうような、そんな(はかな)げな少女だったシルフィが、剣を使い体術を駆使(くし)して男達を倒したのだ。

 剣術も体術も、ここ数ヶ月の間に覚えたと言っていたが、そんなにすぐに身につくものだろうか? 数ヶ月前のシルフィとは別人のようだ。

 しかも剣術や体術を覚えたのは、俺を守るためだと言う。たしかに俺はシルフィに守られた。でも男ならやっぱり愛する女性を守りたい。だが、シルフィはただ守られるだけではなく、一緒に戦いたいと言ったのだ。そして、自分の背中を俺に預けると。

 シルフィとなら、共に戦うのも悪くない。お互いに(たて)となり剣となることが出来るだろう。

 そんな事を考えながら、結局俺はたとえどんなシルフィだとしても、彼女じゃなければ駄目(だめ)なんだと気づいた。(はかな)げなシルフィでも強いシルフィでも、どちらもシルフィには変わりない。彼女を抱きしめて離したくない。ずっと一緒にいたい。そう思えるのはシルフィだけなのだと、そう強く思うのだった。




「俺は、君が俺に背中を預けると言ってくれた事、とても(うれ)しかった。本当は俺がカッコよく君を守りたかったが、でも君と共に戦うのも悪くない、そう思ったんだ。俺は(はかな)げな君でも強い君でも、シルフィ、君じゃなきゃ駄目(だめ)なんだ。ずっと一緒にいたいと思うのは君だけなんだ。俺と共に戦い俺と共に歩いてくれないか」

 そう言って私を抱きしめる。

「こんな私でいいのですか?」

「エディ、私も貴方(あなた)とずっと一緒にいたい。(そば)貴方(あなた)を守り共に歩みたい」


「愛しています」


 泣きながらエディを見つめて、私ははっきりと言葉にする。

 自分の言葉に、胸の奥から湧き上がる想いに胸が一杯になる。


「シルフィ、俺も愛している。君だけだよ」


 そう言って抱きしめた私の頬を伝う涙に口づける。

 そうしてお互いを見つめ、深く深く唇を重ねるのだった。






読んでいただいて、ありがとうございます。 あとラスト1話です。最後まで読んで頂けたなら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 王を剣で支える王妃コースもありですねー 面白かったです! [一言] 完結完走おめでとうございます!
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