21.舞踏会、再び
2020.10.03. 誤字脱字を修正しました。内容は変わっていないので、よろしくお願いします。
エミリーとカールの三人で恋バナ?をしていたら、お兄様が帰って来た。また、オスカー様とエディも一緒だ。
私は今朝も言ったが、もう一度エディにお礼を言った。
「エディ、王宮で療養させていただいて、本当にありがとうございました」
そう言って頭を下げると、
「いや、気にすることはない。俺が心配でそばに置いておきたかっただけだから」
そう言いつつ顔が赤い。エディと呼ばれて照れているようだ。
「それより体調はどうだ?もう具合は悪くないのか?」
そう言われ、
「ありがとうございます。もう大丈夫ですわ」
私はそう答えた。
「では、来週の舞踏会は出られそうか?無理をしてまた倒れるといけないから、欠席にしてもかまわないが」
そうエディに言われたが、
「私はもう大丈夫ですわ。もし途中で体調が悪くなるようなら、早めに帰りますから」
そう言うと、
「その時はちゃんと俺に言うように。屋敷まで俺が送って行くからな」
そう言われ、やっぱりエディは優しいなと思うのだった。
ただ、この優しさはシルフィに対してだけだとは、シルフィは知らずにいるのだった。
今度の舞踏会はウィンスター家の親戚筋のジョンソン侯爵家だ。お父様の妹の嫁ぎ先である。
当然、従兄弟たちがいる。
長男ナッシュは19歳で、今年学園を卒業し、父親の仕事を手伝っている。
次男ルークは14歳で、私と同い年。
二人とも、私達兄妹と同じ黄色がかった茶色い髪と瞳をしている。髪は伸ばして後ろで束ねている。
この二人の従兄弟は、私をからかっているのか本気なのかわからないが、いつも私を口説いてくるのだ。
以前の私はあしらい方もわからず、ただ黙って俯くしかなかったので、この従兄弟達が苦手だった。
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舞踏会当日、今回もエディが迎えに来てくれた。
私はオレンジの生地のドレスの上に、白いシフォンの透ける生地が重ねてあるドレスで、白いシフォンのおかげでオレンジの派手さが和らいで、清楚で可愛らしい雰囲気を醸し出している。
アクセサリーはエディの瞳の色のような、紫のアメジストのネックレスとイヤリング。
髪もドレスと同じリボンでハーフアップに結って、花を飾っている。
エディは白が基調のタキシードで、ネクタイのタイピンとカフスは、私のアクセサリーと同じアメジスト。ポケットチーフは私のドレスと共布でお揃いにした。タキシードの襟に挿した花は私の髪に飾られた花と同じである。花はエディが用意してくれたものだ。
エディのエスコートで入り口に入ると、ジョンソン侯爵夫妻が出迎えてくれた。
「エドワード殿下、よくお越し下さいました。シルフィもよく来てくれたね」
と挨拶され、
「お招きいただきありがとうございます」
と二人で挨拶を返すと、
「シルフィが舞踏会に顔を出すなんて珍しいな。身体は大丈夫なのかい?」
と聞かれた。
今まで王宮の舞踏会にしか出ていなかったのだから、叔父様が驚くのも無理はない。私は、
「はい、身体も以前よりは丈夫になりました。来春は学園に入学ですので少しは社交に慣れておかなければと思いまして、今頃慌てて舞踏会に参加させていただいている次第ですわ」
と言うと、
「そうか、では殿下共々ゆっくり楽しんでいってくれ」
そう挨拶を交わしホールに入ると、瞬く間にエディに挨拶をしようとする人たちに囲まれてしまった。
次々と挨拶を交わしていくと、王弟の長男ジェームズ様が挨拶に来た。
エディの従兄であるジェームズ様は、エディより二つ年上だ。エディと同じ金髪だが、瞳の色は青で髪は短い。いつも笑顔を絶やさない人だが、私はこの笑顔を見ると、いつも背筋がゾワリとするのだった。
「お久しぶりです。エドワード殿下、シルフィアナ嬢。シルフィアナ嬢がご一緒なんて珍しいですね」
とジェームズ様に言われ、先程から何度も同じ説明をしていたので、少々うんざりしていたが、私が話そうと口を開くより早くエディが、
「ああ、来春は学園に入学だから、そろそろ社交にも慣れてもらおうと、私のお供をしてもらっているのですよ」
と言って私の腰を抱いた。
「そうですか。いつまでも身体が弱いなどと言っていては、王子妃の務めも果たせないでしょうからね」
と、ちょっと嫌味ともとれる物言いだ。
なんだか二人の間に冷たい風が吹いているような気がしたが、私は、
「ご心配ありがとうございます。私も弱いままではいけないと、日々身体を鍛えております。まだまだですが少しずつでも健康になれるように頑張りますわ」
と言って、ジェームズ様に笑顔を向けると、
「そうですか。では期待していましょう」
と言って、私達の前から立ち去った。
王宮の舞踏会で挨拶をする時は、当たり障りのない挨拶しかしたことがないが、今日のように嫌味を言われるなんて、私はジェームズ様に何か嫌われるようなことをしたかしら?と考えていると、
「あいつのことは気にしなくていいからな」
とエディが私をさらに引き寄せ、顔を近づけて話すから、びっくりして顔が赤くなる。
そんな時に、ジョンソン家のナッシュとルークの兄弟が挨拶にやって来た。
いつもの挨拶を交わし、ナッシュが私の顔を見て、
「シルフィ、顔が赤いようだが大丈夫か?熱でもあるんじゃないのか?」
と言って私のおでこに触れようとするから、エディがその手を払いのけ、
「大丈夫、熱はないよ。私が付いているから心配ない」
と凍るような声で言うものだから、辺りにブリザードが吹き荒れる。
ナッシュは何故かエディと睨み合っているように見えるが、以前に私を口説いていたのは本気だったということか? それにしても、私はもう正式にエディの婚約者だ。その婚約者に横恋慕などあり得ないだろう。いったいどういうつもりなのか。
そう思っていると今度はルークが、
「そんな顔をされるとシルフィが怖がりますよ」
とエディに言ってくる。私は、
(これはどういう状況?なんでこんなことになってるの?王子殿下にその言いようはないでしょう?これは不敬罪に問われても文句は言えない状況だわ)
そう考え慌てて、
「ナッシュもルークもどうしたの?何を言っているの?私は大丈夫よ!」
と言うと、ルークが、
「本当に? 今度は青い顔をしているよ。シルフィは身体が弱いから、無理をしているんじゃないか?」
と言ってくる。
(顔が青いのは、あなた達のせいでしょー‼︎)
と大きな声で叫びたい気持ちだ。
エディが怒っていたらどうしようと、それこそ蒼白になってエディの顔を見ると、
「そんなに俺のことが怖いかい?」
と悲しそうな顔で私を見るから、私は息をついて、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「私はエディのことは怖くないですよ。ナッシュとルークがとんでもない事を言うから、不敬罪に問われたらどうしようと、青い顔になっただけです。私はエディがとても優しい人だということを、ちゃんと知っていますから」
と笑って見せると、
「本当に?」
とエディの顔がパァーっと明るくなる。
(あー、やっぱりエディは可愛いな)
そう思うと思わず頭をなでなでしてしまっていた。
(はっ!ヤバい!公衆の面前でこれは私も不敬罪に問われるのでは?)
そう思って慌てて手を引っ込めると、その手を掴み自分の頬に当てて、
「ありがとう、シルフィ。君にわかってもらえれば、俺は十分だよ」
そう言って私にとろけるような笑顔を見せるから、思わず心臓が跳ね上がる。
「と言うわけで、ナッシュ、ルーク。シルフィは私のことは怖くないと言っているから、心配ご無用だ」
と凍りつくような目で二人に言い放つ。
これで引き下がるかと思いきやナッシュが、
「シルフィは身体が弱いんだ。王子妃なんて責務に耐えられるのかい? その…お世継ぎのことだってあるだろうし…」
と言われ、
(えー、それナッシュが心配すること? いや、この国の未来を考えるなら心配するか……)
私はそう考えて、
「ナッシュ様、心配していただいてありがとうございます。私も弱いままではいけないと、ちゃんと立派なお世継ぎが産めるように、今は身体を鍛えているから大丈夫ですわ」
そう言って胸を張ると、ナッシュとルークはびっくりした顔をして、私を見るのだった。
隣のエディを見ると、エディまでびっくりした顔で私を見ている。私と目が合うと、今度は顔を赤くして、
「そんなことを言われると、君を王宮に連れて帰りたくなる……」
と私を抱きしめながら耳元で囁くから、
「ダメです!」
と慌てて言うが、私も顔が熱くなってしまうのだった。
ナッシュとルークは小さい頃からシルフィのことが大好きだった。
小さくて、可愛くて、弱くて、儚げで、大切に大切に守ってあげなければいけない従妹。
それが二人にとってのシルフィだった。
エドワード殿下と仲がいいのは聞いていたが、あの身体の弱いシルフィが王子妃なんて無理だろう。このまま王子殿下と仲良くさせておいては、いずれそうなりそうだ。なんとかしなければと、二人はエドワード殿下に会うたびに、シルフィは身体が弱いから王子妃なんて出来ないし、ましてや王妃なんて無理に決まってますと言い続けていた。
エドワード殿下がシルフィと距離を置くようになったと聞いて、ナッシュとルークはチャンスとばかりにシルフィを口説くが、シルフィは困った顔で俯くばかりだ。
それでもシルフィがエドワード殿下のことを怖がっているのは知っていたから、殿下との結婚はないだろうと思い、悠長に構えていたら、エドワード殿下が成人したらすぐにシルフィに求婚したのには驚いた。
もうシルフィのことは眼中にないと思っていたのに。
たしかに身分的には最適だとは思うが、そんな政略結婚でシルフィが幸せになれるはずがない。婚約してからも二人の仲はあまり良くないと聞いていた。
これはエドワード殿下がシルフィに愛情がないなら、殿下から婚約を破棄してもらうのが一番だ。
そう思っていたのに、今日の二人を見ると、聞いていた話とは違うように見える。
シルフィはエドワード殿下を怖がっている様子はなくて、頭を撫でたりしている。エドワード殿下もシルフィのことを、愛おしくて仕方ないといった顔で見ているし、ましてやシルフィはエドワード殿下の子を産むために、身体を鍛えていると言っていた。
ナッシュとルークはびっくりして、ただ口を開けて驚くことしか出来なかった。
ひと通り挨拶も終わってダンスが始まった。
私とエディは、お互いを見つめ合いながらダンスを踊る。踊りながら私は、
「ナッシュとルークのこと、本当にすみません。怒ってますよね?」
と聞くと、
「いや、あいつらは昔からああだったからな。シルフィから俺を引き離そうと、いつもあれこれ言われてたんだ」
と言う。
「そうだったのですか…。全然知りませんでしたわ。私、彼らのことがちょっと苦手で、あまり会わないようにしていましたから」
「へぇ、苦手だったとは知らなかったな。何故苦手だったんだ?」
「…えーと、私のことをからかっているのか、いつも私を口説くようなことを言うのです。私はそういうの慣れていなくて、どうしていいかわからなくなって、結局黙って俯くしかなくて……」
「あいつら、俺だって口説くのは控えていたのに、シルフィを口説きまくっていたのか。許せん‼︎」
「好きでもない人に口説かれても、嬉しくもありませんよ。ホント困るだけです」
とため息をつくと、
「じゃ、俺は口説いてもいいんだな」
なんて言い出すから、私はまた顔に熱が上がって、
「う、嬉しいですけど、やっぱりどうしていいかわかりません‼︎」
そう言って、エディの胸に顔を埋めるのだった。
エディはそんな私を抱き寄せて、かなり密着したままダンスを続けることになるのだった。
二曲目のダンスも終わり、二人で飲み物を飲みながら、招待客を眺めていたが、私は、
「今日はキャシーさんは来ていないようですね。リード子爵も見かけませんが、来ていないのでしょうか?」
そう言うと、
「この前のボートの件でガッツリ言っておいたから、しばらくは俺たちの前に顔は出せないだろう」
と言う。私は、
「そうですか。今日はハーヴェスト侯爵が来ていますわね。エディ、何かあるといけませんから、私から離れないで下さいね」
「君だってまだ狙われているかも知れないから、ちゃんと俺の側にいるように」
そうお互いに言って、顔を見合わせクスクスと笑い出す。
この時はそう言いながらも、私達は何か起こるとは微塵も思ってはいなかったのだった。
読んでいただいて、ありがとうございます。 ブックマークもありがとうございます。励みになります。 お話し的には、長くはならないと思いますので、もう少しお付き合いいただけると、嬉しいです。