02
「「「《狩人》を諦めた?」」」
ラビ君を除く3人の声が揃う。
手紙にはずっと訓練していると書いてあったから、驚きだった。
それなら、一体何の《職》になったのだろう。
「おいおい、手紙では頑張ってるってずっと言ってたじゃねえか。まさか無職ってことはないよな?」
「違うよ! ただ、修練場ですぐぼくには狩人は向いていないって言われて。のスキルを覚えるための【星】がに恵まれてないってわかって。代わりに《精霊術士》を勧められたんだ」
「精霊術士……?」
聞いたことのない職だった。
【星】とは、この世に生まれ持った人間が個々に抱えている魔法やスキルを覚えるために必要なマナを表す言葉だ。
大抵の人間には潜在的に5~10個の星が生まれながら『魂』に備わっている。
体を鍛えたり勉強をすることで経験を積むと星の数が増えるらしく、教会やギルドといった各専門機関では【星】を消費することで神聖魔法や黒魔法、錬金術や戦闘スキルを習得できる。
更に覚えたスキルに【星】を振りわけることで【強化】も可能。
段階ごとに威力が上がったり魔力の消費量が緩和されたりと強化の内容は様々で、特殊な効果が身につくこともある。
回復魔法の基本である《ヒール》ならば、3段階目で詠唱短縮が解除され、5段階目で治療速度が2倍になる、などだ。
ただし、魔法やスキルには個人ごとに適正が存在し、相性の悪いものを無理に覚えようとすると【星】を多く消費することになり、強化するごとに必要な【星】も増えるために十分な効果を得られないことも多い。
非力なわたしが戦士系の代表的なスキル『シールドバッシュ』を覚えたところでそもそも盾を扱う力がないから効果を十分に生かせない。
体質的にも戦士に向いてないわたしが無理に戦士スキルを覚えようとしても、一度【星】を消費したら取り消すことはできないから無駄遣いになってしまう。
相性を知るためには、実際に【星】を消費してスキルを覚えるまで適正かどうかわからない。
また、人ひとりが生涯に手にする【星】の量は大体100個程度と言われている。
自分の中にいくつ【星】が残っているかも判別できないために大抵の人は物凄く慎重になり、結局消費しないまま人生を終えてしまうなんてこともあるとか。
ほとんどの場合は本人の適正や希望に近いものが相性の良いものとされるらしいけれど、ラビ君は大人しいし攻撃型のスキルを覚えるのは難しかったのかもしれない。
「それならそうと、ちゃんと言えよな」
「ご、ごめん……」
「まあまあ、仕方ないよ。それで精霊術士って何ができんの?」
「えーとね。水とか大気の中にいる精霊たちの力を借りて、みんなの力を底上げしてあげられるんだ。後は、地面に働きかけて魔物の足止めをしたりもできるんだよ」
「……ってことはカーナとオレだけで攻撃すんのか?」
聞いた限りではパーティーのサポートをする職業のようだけど、いまいちピンと来ない。
ヴィクト君もそれより1人でも多く攻撃に参加したほうがいいんじゃないかと言った顔をしている。
「攻撃に使える魔法はないんですか?」
「一応、火精の力を借りて火球を打つこともできるけど、そっちはあんまり鍛えてないんだ……」
「なんだよ、それ」
「うーん……」
「でも、お師匠様が言ってたけど、最初のうちはあんまりぱっとしないかもしれないけど、強い魔物と戦う時になったら絶対必要な職だって言ってたんだ! 黙ってたことは本当にごめん! でも、役に立ってみせるから置いてかないでくれよ」
怪訝な顔をするヴィクト君たちにすがるような顔を向けるラビ君。
だけど2人は無言のままだ。
「あ……あのっ」
堪りかねて、わたしが口を開きかけたその時だ。
「「ぷっ……あははは!!」」
2人がお腹を抱えて笑い出す。
本当に、悪ふざけが過ぎる2人だ。
やがて涙目になりながら呆気にとられているラビ君の肩をばんばん叩く。
「もー、何深刻な顔してんのよ」
「手紙の文面からなんか悩んでたのは察してたけどな。別に怒らねぇからパーティーに関わることは早く打ち明けてくれよ」
「う、うん。ごめん……」
この2人の悪ノリ癖は昔からだ。
少しは大人になったと思ったのに、人を困らせるためなら息が合うんだから質が悪い。
「2人ともいつか天罰が下りますよ。……ラビ君、大丈夫?」
「あ、ありがとうアレッサちゃん。それと、ごめんね」
「いいんですよ。とりあえず早くご飯を食べに行きましょう。お腹すいちゃいました」
「アレッサは本当にそればっかよねー」
「なっ! ……そうですね。そればっかりのお陰でこんな豊かなものが手に入りました」
「ゆっ!? 聞いたヴィクト! アレッサが人体を差別した!」
「お前ら生々しい会話は控えろ」
「はは……」
それから酒場に行って再開を祝した後、わたし達4人は冒険者登録を行うためギルドへと向かった。
登録はすぐに済んで、わたし達は無事に9段階ある階級の内、1番下である『鉄』になった。
これからは村や町から持ち込まれた頼み事を難易度ごとに分けた『依頼』をギルドで受注して達成することでお金を稼ぎ、暮らしていくことになる。
わたし達の目指す『白銀』は『鉄』から更に6つ上。
1つ階級を上げるためには1つ上のランクの依頼を計7回連続で達成しなければならない。
当然、わたし達は『鉄』のすぐ上の階級である『銅』級のクエストを受けた。
それでも、報酬はまだまだ町の子のお駄賃ほどにしかならない。
先は長い、頑張らないと。
☆★☆★
初依頼の内容は町の近辺にある未開拓地域の魔物の討伐で、ナイトウルフという大型狼の群れが相手だった。
もちろん、わたしひとりでは勝てないけど、ヴィクト君とカーナは本当に強かった。
「そらよ12匹目ェッ!」
「炎よ捲け! 《ブラストショット》!」
枝でもへし折るようにゴブリンを武器ごと叩き割るヴィクト君。
そして、たじろいでいるゴブリンの群れのまんなかに火の玉を直撃させるカーナ。
2人とも強い。
戦闘後、たまにかすり傷を治療するぐらいでラビ君とわたしはほとんど見物しているだけだった。
「凄いな、伸びしろあるぜお前ら」
ギルドから最初だけは付き添いすることになっている冒険者の先輩が舌を巻いていた。
「お疲れ様です、ふたりとも」
「ああ、なんていうかあれだな。オレ意外と才能あったんだな」
「アタシも、あんなに綺麗に決まるなんて思わなかった!」
「これなら次もうまくいきそうですね!」
「……ふう」
和気あいあいとする傍らで、ラビ君が額に汗をかいていることに、わたしは気が付かなかった。
クエスト初達成の日は皆で酒場に集まってお祭りだった。
「「「「乾杯!」」」」
『鉄』から『銅』への昇級は10日ほどで達成できた。
☆★☆★
『銅』から『鋼』へとクエストの難易度が変わっても、わたし達のペースは変わらなかった。
敵はエビルホーンやキラービーといった群れを成しながらも一撃が強力な魔物が増えてきて、当然、討伐数も大幅に増加した。
だけど、それでも。
「動きが鈍いぜ、《アサルトアッシュ》!」
「風よ、敵を穿て! 《ストームランス》!」
ヴィクト君の一閃とカーナの攻撃魔法の前に、魔物の群れはあっさりと打ち倒される。
2人とも本当に強い。格上が相手だったのに、今回わたしはほとんど出番が無かった。
「まだまだアレッサたちの出番は先だな」
「うん、2人だけでもよゆーだねっ!」
「……えっ」
「どうかした、ラビ君?」
「……ううん、何でも」
うつむいてしまうラビ君。
その意味を知らないまま、パーティーは順調に依頼をこなしていく。
やがてあっさりと『鋼』級へと昇級して、わたし達は舞い上がった。
そして、『銀』級の依頼を受けるようになり、わたし達は壁に遭遇した。