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(それにしても、王子とエイミーは二人揃って美形だな)


ぱっちりした二重に、整った顔立ち。


太陽の光で照り輝く栗毛色の髪。


アーノルドは長身でエイミーは平均くらいの身長。


似てはいるが少し雰囲気が違う。


アーノルドは何を考えているか分かりづらい、少しミステリアスな感じがするが、対してエイミーははつらつとして明るい。


けれども二人はいつも本当に仲が良かった。


天は二物も三物も与えるのだと、兄弟の居ないリックは少し羨ましかった。


(俺ももうちょっと、恵まれた顔に生まれたかったなー)


何が問題かというと、とにかく童顔なのだ。


十六なのに、それよりも幼く見られることが多い。


「どうしたの?変な顔して」


エイミーがクスッと笑って、リックは自分の頬をさすった。


「俺って童顔だなって思って」


「あら突然ね。でも害が無さそうで良いんじゃない?ほら、育ちの良さが出てて、穏和で優しそう。・・・・・・あ、勿論実際もそうよ!」


「フォローありがとう」


ふとエイミーはガラス製のポットに視線をやる。


「ポットが空ね。お湯を入れてくるわ」


「それなら俺が」


「いいわよ、だってリック、台所の勝手は知らないでしょう?」


エイミーが席を立ってからふと、ごく当たり前のことが成されていないことに気が付いた。


「ここって、仮にも王子の別邸なのに、使用人ってほとんど居ませんよね」


「そうだね」


居るのは最低限の警備くらいで、使用人はほとんど居ない。


シェフと掃除係くらいだ。


今の場合も、普通はエイミーではなくメイドがお湯を持ってくるのが自然な流れだ。


「言ったかな?私もエイミーも少し特殊な境遇だと」


「はい」


王子はティーカップをソーサーに乗せた。


「ここは私達の息抜きの場なんだよ。調査なんて口実さ。誰にも邪魔されず、思惑に巻き込まれず、静かな時間が欲しい時にここに来る」


「そうだったんですか」


「君のご両親は健在か?」


「はい。どっちも元気過ぎて、少し自重して欲しいくらいで・・・・・・って、すみません」


アーノルドとエイミーの両親はすでに他界していることを思い出して口を(つぐ)んだ。


「いや構わない。しんみりした話が聞きたかったわけじゃない。ただ、両親が居る幸せというのは、居なくなってからじゃないと分からない。大事にしなさいと、伝えたくなってね」


アーノルドは優しく笑った。


「とはいえ、こうして逃げて来てしまったんですが」


「何があったかは聞かないが、君のご両親が心配しないのか、ということだけ聞いていいか?」


「大丈夫です、両親は俺が逃げた理由を、よーくよーく分かっているでしょう。これに関しては両親が反省して欲しいくらいです」


(なんだって息子のケツを国王の差し出すんだ!母さんだってああなることを知っていたに違いない)


リックの父は貴族としてや、職種的には位が高いが、妻、つまりリックの母親には全く頭が上がらなかった。


母は恐妻家ではないが、父が特別母に甘いのだ。


だから息子よりも家名(つまりは母の為の保身)を優先する。


そして母は基本的に父とリックに関する全ての情報を網羅している。


王女の婿探しパーティーから夜伽まで、知らないはずがない。


「そうか。ならいいんだ」


「自由ですよね、俺」


リックは苦笑する。


「でも昔は、親の名前に傷が付かないように、必死で頑張ってきたんですよ。


ところが高等部に入った時に転入してきた友人がとてつもなくハチャメチャで。


あいつと出会ってから俺は少し変わりました。あいつが俺を自由にしてくれた。・・・・・・きっと逃げて来られたのもあいつのお陰です」


「バイトを誘ってきた例の友人か?」


「そうです。頭は良いけど親嫌いで、生活も自分で生計立ててるんですよ。だからいつも生活は大変そうでした。


お金のありがたみっていうのは、あいつから教えてもらいましたね。


と言っても、無理矢理連れていかれたんですけど!しかもブラックバイト!」


よく考えると血圧が上がりそうな話だ。


なんだって自分の周りにはこんな人でなし居ないのか。


人生あがったりだ。


そこにポットを持ったエイミーが帰って来た。


「あら面白そうな話ね」


「エイミーも聞く?言葉の通じないクレーマーの話。話してるのは同じ言語なんだけどね」


「それは一番怖い部類の話ね!」


「まずバーで働いていた時の話なんだけど───」


それからバイトの苦労話にアーノルドとエイミーは興味津々で、笑いながら聞いてくれた。


この手の話題に学園の同級生達は「貴族なのに」と忌避していたが、この二人は違った。


久しぶりに価値観が同じ人間と出会った気がする。


(帰りたくないな)


リックはなんとなく、そう思った。


いつまでも調査は続かない。


いつかはこの二人も城に帰る。


リックも仕事を探して、この地に根を張らねばならない。


でもせめて、この二人と過ごしている内は自国からの追っ手が来ませんように。


そう切に願った。



***



三ヶ月ほど経って、リックは随分アリドネにも慣れてきた。


なのにその夜は何故だか寝つけなかった。


何が心の中がゾワゾワとうごめいていた。


何の気なしにリックは別邸の庭を歩いていた。


もうすでに夜は更けていた。


(警備の人も眠そうだ)


リックは同情しつつ、それにしても警備の数が少な過ぎるように感じた。


この広い別邸に、見回りがたった三人。


不信感が余計に神経を研ぎ澄ませたのかもしれない。


塀の向こうから微かに物音が聞こえた。


リックはそっと門を開けて隙間から覗いた。


いつも居るはずの門番が、今夜は誰も居なかった。


すると誰かが来たので、慌てて扉を閉めて耳を澄ませた。


「ここが王子の屋敷だ」


「まだここに居ますかね」


「夕方入って行くのをしっかり確かめてある」


明らかにガラの悪い集団だ。


そしてその話している人物の声には聞き覚えがあった。


(これは、この前の盗賊団か!?)


リックの冷や汗がたらりと頬を伝った。話はまだ続く。


「あんな金で俺達と縁が切れると思ったら大間違いですよね、カシラ」


「だな。まだまだ金をたっぷり搾り取ってやる」


リックは息を呑んだ。


早くアーノルドに知らせなくては、そう思った矢先、誰かがリックの背後から口を塞いだ。


「っ!?」


ビクリと身体を震わして振り返り見れば、アーノルドが人差し指を自らの口元に当てていた。


「静かに」


アーノルドはリックの耳元で囁いた。


そして彼もまた、リックと同じように見えない門の向こうの様子を伺っていた。


「やっぱり、ちょうど今夜辺りに金を使い果たして王子から搾り取りに来ると思ったよ」


盗賊にそう言ったのはアーノルドではない。


くぐもってよく聞こえないが、若い女性らしき声だった。


「お前誰だ!」


「誰とは失礼な。たった一年で私を忘れてしまったんですね」


「お前まさかジ───ガッ・・・・・・」


「ぎゃぁぁァぁ!」


リックはその断末魔を聞いて身震いした。


強い。


盗賊団がものの数十秒で静かになってしまった。


(一体何者なんだ?)


リックはもう一度アーノルドを振り返り見ると、いつもの落ち着いた笑みを浮かべているだけだった。


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