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永遠にも続きそうな長い廊下の先で、カリーナが意地の悪そうな笑みを浮かべて待ち構えていた。


とても嫌な予感がした。


あのカリーナがここまで自信満々に何かを企んでいそうな顔は初めて見た。


「実は昨日、オーウェン叔父様からとても重大な話を聞いたの」


「何をですか」


早速困ったことになった。


よりにもよってこの城で一番怪しいと思われる人物の名前だ。


エレノア様はなるたけ顔に感情を乗せないように気を付けた。


しかしその鉄壁の仮面は一瞬にして打ち崩された。


「あなたが傭兵の頃に起こした数々の犯罪の証拠が見つかったんですって」


「!」


エレノアはくっと目を見開いた。


(まさかここで、恐れていたことが起こってしまうなんて)


その驚いた顔がさぞ気に入ったのだろう。


カリーナは見下すように笑いながら、付き人を顎でしゃくった。


そしてその付き人から渡された資料に関わってきた人物、日付、被害者。


証人までも事細かに記されている。


しかしこれはほんの一部に過ぎないだろう。


「でもね、私は優しいからお父様に『まだ』言わないでって言ったの。だってこの話を聞いたあなたは、すぐに城から出て行くでしょうから」


それが嘘だとは用意に分かった。


(カリーナはそんな気の利いたことは言わない)


何よりカリーナの声はかなり単調だった。


まるでそういうセリフを誰かから強要されているように。


むしろカリーナは、それをネタに即座にエレノアを追い出そうと言ったのではないだろうか。


日頃から(うと)み合っているのならその方が自然だ。


それをオーウェンが止め、自分に都合の良い方へ誘導しようとしている可能性の方が高い。


「最後の、私が出て行くというのはどういうことです?」


「あなたがどこかに嫁ぎでもしてこの城から出て行くなら、私はこの件を知らなかったことにするし、叔父様もきっと納得なさるでしょう。そういうことよ」


(カリーナを使って遠回しに出て行けと脅してるってとこ)


嫁ぐということは、王族から除籍される。


そうなるとエレノアに及ぼす影響とはつまり、嫁ぎ先によっては政治介入が出来なくなるというものだ。


オーウェンは政治から切り離したい、カリーナはエレノアにどこかに行って欲しい、そんな二人の思惑が合致したのだ。


しかし仕向けたのはオーウェンだろう。


「オーウェン叔父様は随分と頭を回しておられる。あなたはその盾にされていると、気付いていますか?」


「!ち、違うわ、私がそう提案してあげたの!」


ヒステリックな声にエレノアは顔をしかめた。


いつもおかしいが、今日はいつも以上に様子がおかしい。


「そう(りき)まなくていいですよ。なるほど、(てい)良く城から私を追い出す魂胆ですか」


カリーナは鼻を鳴らした。


今度は否定しなかった。


「元々あなたは王女でもなんでもないのよ。そもそも、本当に王女であるかすら怪しいのに。


どうしてルークはお母様を差し置いてあなたに懐くのか、検討もつかないわ」


(ルーク、オリヴィア妃・・・・・・。なるほど、王妃の不安が伝染(うつ)ったのね)


心の不安定さというのは伝染する。


現にオリヴィア妃の身の回りの世話をするメイドはもう何人も配置換えをされている。


配置換えはメイドの心理的負担を考慮されたものだった。


カリーナ自身もその例外ではない。


「本当に、この城から早く出て行って」


目の前から消えて、ではなく、城から出て行って。


それが答えだ。


「嫁ぎ先は誰が決めるのでしょう」


「自分で探しなさいよ。でも、いい人がいらっしゃらないなら私が用意してあげてもよくってよ。


そうねぇ・・・・・・ルドマン元議員なんてどう?ちょうど後妻を探されているそうよ」


クスクスと意地悪く笑う。


ルドマン元議員は六十過ぎのゲスびた顔をした老人だ。


離婚歴は三回。


いくつになっても下半身は現役らしい。


もっとも、これはカリーナの嫌がらせだ。


老人の下の事情なんてどうでもいい。


エレノアは、カリーナがどんな態度をとっても、あえて怒らなかった。


ただ少し哀れんだ目をして、ため息をついた。


その態度をどう受け取ったのか、まだ追撃が必要と感じたようで、カリーナは更に畳み掛けてきた。


「嫌ならさっさと自分で探すのね?またお父様に婿探しパーティーを開いてもらったら?」


「王族から除籍された私はそれはもう自由になって、あなたにとって余計に鬱陶しい存在になりますよ」


「フンッ!自覚してるだけタチが悪いわね!いいかしら、期限は十日よ、それまでに身の振り方を考えておくのね!」


吐き捨てるようにそう言って、カリーナは戻って行った。


(元議員、ね)


それは無いだろうと確信していた。


(だって私を政治から切り離したいのならば、どこかの豪商にでも嫁ぎ先を用意するだろうから)


オーウェンならそうする。


そんな気がした。

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