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リックは今とてつもなく不幸に感じていた。


まず最初に、婿探しパーティーで自国ストラントの王女にフラれた。


娘達の将来を心配した国王が開かせたパーティで、王女らとしては本意ではなかったらしい。


リックは、大臣補佐官である父親に無理矢理背中を押され、何故か矢面に立たされたと思った上に、あろうことか第二王女は、


「申し訳ないけど、私あなたとお付き合いするつもりはさらさらないの。なんというかカケラも魅力が感じられなくて。今ここに居る誰ともお付き合いするつもりは無いなので、今日はこの辺でお開きにしましょう」


好きでもない第二王女にフラれた。


しかも悪びれもなく明るい顔で。


ちなみに第一王女は体調不良とかで顔すらも出さなかった。


(いっそその方が清々しいわ)


齢十六、まだ告白したこともされたことも無い自分が何故、代表して大恥掻かされたのか。


そして次の不幸。


そのパーティーの後、夜はとっくに更けている。


なのに帰ることなく、父親に連れられて国王の御前に召された。


そして夜伽を命じられた。


男の国王に、男のリックがだ。


タイミングを見計らって脱走した。


それはもうなりふり構わず。


窓から飛び出て慌てて家に帰って、夜会の服を脱ぎ捨て軽装に着替えて、そして今手元にある貯金をカバンに詰めて、また逃げた。


権力に弱い父親が確実に連れ戻しに来ると分かっているからだ。


「すまない、リック。でもこれもまた、お前の幸せに繋がるはずだ。・・・・・・頑張れ!」


何かそんなことを言っていた気がする。


(いくら国王の寵愛で幸せを掴めても、尻を差し出すつもりは断じてない!)


そして不幸はまだ続く。


馬を借りて国境を抜けたところで、山賊に襲われて身ぐるみ剥がされて拘束されたのだ。


それが今現時点での状況である。


「ボンボンの顔してると思ったが、案外寂しい財布だなぁ。ただの旅行か?」


「いやいや、こんな夜中に国境を越えるなんて、ワケありでしかねぇよ。どうせ騎士団にも通報出来ないだろ」


人相の悪い男達は正しかった。


リックは今確実に追われている。


なにせ国王の性癖?なるものを知り、その上夜伽をすっぽかして逃げ出したのだ。


官僚達は国家機密漏洩を防ぐ為に絶対に引き戻そうと考えるだろう。


国境を超えられたのは奇跡だ。


こうなったら隣国のアリドネで静かに逃亡生活を送る他無い。


(父さんはどうなるか分からないけど、まあ出世の為に俺を生け贄に差し出した自業自得ということで)


頬を引きつらせた。


「アリドネの治安はいいって聞いてたけど、ストラントとどっこいどっこいかよ」


もう何もかも最悪だ。


せめて服を返して欲しい。


服を持っていたリーダー格と思われる男がリックに同情の目を向けた。


「運が悪かったな兄ちゃん。俺達は少々腕が立つもんでな」


ちなみに何故その腕の立つ盗賊に捕まって無傷なのかというと、リックは何の抵抗もせずに全て差し出したからだ。


武闘派ではないリックには今、男達を打ちのめす手段も逃げ出す手立ても無い。


世の中世知辛い。


「腕があるなら盗賊じゃなくて傭兵でもすればいいじゃないか」


「全くだ。しかし俺達にも色々事情があってだな、まあお互い様だな」


(何がだよっ!)


と、リックは心の中で突っ込んだ。


「何がだよ。リーダーを失ってからも、その恩恵にあずかり続けて何の努力もしなかった代償だろう」


なので、そう発言したのはリックでも男達でもない別の人間だった。


「誰だっ!」


「たった一年でお得意様を忘れるとは、少しは顧客を大事にしたらどうだ?」


悠々としたその足取りには、恐れなど微塵も無かった。


むしろ余裕しか感じられない。


林の暗闇から現れたのは、細身で長身、格好からして明らかに平民ではない二十歳くらいの男。


彼を見てリーダー格の男が驚愕した。


「アーノルド様!?」


リックはその名に驚かず、むしろ訝しげに目を細めた。


(アーノルドだと?)


それはこのアリドネで、その名を知らぬものは居ないくらい有名すぎる名前だった。


アーノルドは不敵に微笑んだ。


「僕を様付けしてくれるくらいには、まだ落ちぶれていないか。それは結構。だが今、目の前で起こっていることは見逃せないな」


ハッとしたように男は現在の状況を思い出し、また元の悪党面に戻った。


「あんた一人で敵陣に足を踏み入れるなんて、不用心じゃないのか?」


「いやいや敵陣だなんて。なにも僕は争おうって言っているんじゃない。その男を買い取るのさ」


「はぁ?」


アーノルドは手に持っていた袋を足元に置いた。響いた金属音で中身は硬貨だと分かる。


「これでいいか」


きっと中の額を確認するまでもなく、誰もがその場で頷いてしまうだろう。


人の頭よりもう少し大きめのサイズで、その袋に満杯となると、その価値は言うまでもなく明らかだ。


「何考えてやがる」


「そもそも多勢に無勢だし。それに加えてこれは、今までのお礼かな。僕としてはまだ『傭兵』でいて欲しかったんだけどね」


「手切れ金ってとこか。悪くない額だ。いいだろう、俺達はここを離れる。好きにしろ」


盗賊達は袋を持って退散した。


有難いことに服は置いていってくれた。


確かにあの額を前にすれば、リックの服など布きれに等しい。


(案外優しいのか?)


と、思うくらいにリックは消耗していた。


多忙の為、更新は不定期になりそうです。よろしくお願いします。

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