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パーティーの翌朝だった。


廊下を曲がるとカリーナはウロウロしており、アーノルドを見るとパッと顔を明るくして近寄ってきた。


「あら!アーノルド様、おはようございます!偶然ですわね!」


(嘘つけ最初っからそこで待ち伏せていただろ!朝っぱらから騒がしい)


見え見えの嘘をリックは吐き捨てた。


段々カリーナを視覚的に認知するごとに、嫌悪感が増してきた。


意外と自分は心が狭いのだろうかと、自嘲気味に笑う。


「朝食はいかがだったかな」


「大変美味でした。私アリドネの料理が本当に好きで、最近はよく城でも作らせますの」


(はい、親近感アピールお疲れ様です)


ふとカリーナと目が合った。


「あら、あなた───」


リックはギクリとする。


変に身体がこわばった。


「───アーノルド様のお付きの方?アーノルド様が付き人を従えるなんて珍しい。申し訳ないけれど、少し外してもらえるかしら」


「・・・・・・・・・・・・。・・・・・・はい、かしこまりました」


リックは内心ドン引いた。


まさかの覚えてない。


記憶に残ってない。


・・・・・・マジで?


(いや、別にあんな奴の記憶になんて、全くこれっぽっちも残りたくないけど、呆れて言葉も出なかった )


怒ってるこっちが馬鹿らしい。


しかし彼女が覚えていなくとも、周りに居た別の貴族の子息達は覚えている。


なにせリックは、自分達が大恥を掻く代理をしてくれた『恩人』なのだから。


そしてあのパーティーで目立ったが為に、国王に夜伽を命じられたのだ。


実のところカリーナへの嫌悪は、六割が好きでもないのにフラれたことに対して、四割は彼女の父親の国王の性癖のせいで国を追われたことに対しての八つ当たりだ。


(昨日のグラス、カリーナのだけそのままにしておくべきだった)


憎悪のオーラをまといながら、リックはエイミーの元に向かうことにした。


すでに彼女は、アーノルドと同様に、リックのほとんどの事情を知っている。


最初は笑われるかもしれないと思っていたが、エイミーは本気で(貞操の)心配をしてくれた。


「大丈夫!?ノーマルの人は慣れてないと血が出ちゃうって聞いたけど!」


「誰に聞いたんだよ。てかノーマルって何?」


「そんなことはどうだっていいの!お尻大丈夫なの!?」


「だから未遂だって!大丈夫だよ!」


「よかった、解釈違いだったから」


「?」


その心配具合が逆に心配だった。


何だったんだあの気迫は。


そして妙に『そっち』に詳しそうで怖かった。


ふと小さな人集(だか)りが目に入ってきた。


それはまだ幼い男の子と、気位も位も高そうな貴族達。


特に子供の方は貴族達に引けを取らない、豪奢(ごうしゃ)な衣服を身にまとっており、貴族達はやけに媚びへつらっていた。


(あれは・・・・・・第二王子か?それと、その取り巻きってところか)


子供に媚びるなんて見苦しい。


何より、昨晩のパーティーのことだ。


犯人はすでにアーノルドの手下が捕まえて内々に処理した。


犯人は自供しなかったが、依頼者は弟君の派閥の仕業とは薄々分かっている。


そう思うと、リックは彼らに制裁を与えられないことが歯痒くて仕方なかった。



***



とりあえずエイミーの元に向かうと、エイミーは庭のテーブルに紅茶とフィナンシェを広げてくれた。


カリーナに対する愚痴を聞くや否や、エイミーは笑い出した。


「アッハハハ!」


「エイミー笑い方が下品」


「ごめんなさい。カリーナ様は前々から無神経な方だと思っていたけれど、予想以上で。カリーナ様に少し失礼かしら、って思っていた自分がおかしくって」


なかなかディスるエイミー王女。


そういえばカリーナが好きなのは彼女の兄だ。


小姑になるとしたら、何かと思うところがあるに違いない。


リックは紅茶をすすって、フィナンシェを一口サイズにちぎって口に放り込んだ。


こんがり焼けたバターの香りと、ほんのりハチミツの甘みが口に広がった。


高貴な者は台所に立つ必要はないが、食べてるだけで親近感を装うカリーナに比べたら、実際に腕のあるエイミーの方が比べ物にならないくらい立派だと思った。


「あれが自分の国の王女と思うと、恥ずかしくて顔から火が出そうだ」


「親がすでに婿探しに動いているから、必死なのよ。リックは悪くないわ」


必死、と言えばだ。


「そういえば、さっき第二王子を見かけたんだけど」


「あぁ、ライリーね」


「まだ幼く見えたけど、何歳なんだ?」


「六歳。まだ赤ちゃんみたいなものよ。でも、大臣達には歩く宝石にしか見えないのね。甘やかされきって、きっとろくな大人に育たないわ」


いつもながらの辛辣な言葉はともかく、この国でライリーはすでに宝石なのだ。


原石と(たと)えられることが多いが、そのくらいかの幼子の存在と権威は大きいらしい。


(それが実子と養子の違いなんだろうか)


王位継承がいかにシビアかということを、顕著に表していた。


ライリーはアーノルドとは違い、国王の実子だ。六年前に突然生まれた正当な後継者。


今までは当然アーノルドが王位を継承すると考えていた。


しかし今や、ほとんどの者がライリーが跡継ぎだと思っている。


「アーノルド王子は複雑なのかな」


「そんなことないわよ。どっちかっていうとライリーに王位を継承して欲しいと思うわ。周りの早とちりよ」


リックは驚きを隠せない。


誰もアーノルドの本当の姿を知らない。


だから勘違いされたまま、殺されそうにもなる。


(それは仕方がないことなのか?)


いくら王位に興味が無いと口で否定しても、立場上どうにもならないことは分かっている。


けれど、それでも。


「にしても、エレノア様って初めて会ったけど本当に美人ねぇ。お兄様に想いを寄せるなら、カリーナ様じゃなくてエレノア様がよかったわ」


「え、エレノア王女とアーノルド王子って親しいんじゃないの?」


この前はエレノアについて話した時は、アーノルドは呼び捨てだった。


それに彼の情報源はエレノアだ。


国王がリックを追跡していないという情報にも、王女が言うならば信憑性がある。


国家機密(おうじょ)国家機密(こっかきみつ)を握っていてもおかしくはないからだ。


けれども、アーノルドはそのことはエイミーに話していないのか。


「そんな話は聞いたことが無いけれど、お兄様ならあり得るわね。私が知らないところでも、妙にツテを持っているから」


「ふーん」


「あーあ、私も昨日のパーティー出席したかったわぁ。エレノア様とお近づきになりたかった」


「まだしばらく滞在するんだろ。機会はあるよ」


「そうかしら」


「まずは俺と散歩でもどう?」


エイミーは城の中では自分の部屋に引きこもりがちだった。


基本的に本を読んでいることが多い。


別邸と違い、エイミーは本当に大人しいし、あまり笑顔が見えなかった。


しかしエイミーはリックの意図に気付いていて、


「あら、デート?」


と冗談めかして笑った。


「はいはい」


リックはまたフィナンシェを口に放り込んだ。

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