7話 相棒トレイン
1章 魔物生活
7話 相棒トレイン
助けられたヴェンデッタは体を起こして浮かび上がると、イノーンに優しい眼差しを向けてひと撫でする。
吹き飛んだほうへ目を向けると、吹き飛ばされた奴の顔には蹄の跡がくっきりと残っており、泡を吹いて白目を向いていた。他の奴等は突然特攻してきたイノーンに驚いて固まっている。
「ふふ。ありがと。おまえのおかげで助かったよ」
「プキューン」
撫でられ礼を言われて嬉しいのかひと鳴きするイノーン。
「さぁ。もう少しだけ踏ん張るか。一緒にやる?」
「プキュッ!」
イノーンは返事とばかりに右前足で地面をザッザッと掻いて、やる気に満ちた目をしている。それを見たヴェンデッタは口元(実際に口がないが、目の下のそれと思える当たり)を上げニヤリとしながら、両手に拳銃を実体化する。ただの拳銃ではない。SF映画で、とある事件で撃たれて殉職した巡査を使って作られたロボットが使用していたセミオート、3点バースト、フルオートの3種類の射撃ができる拳銃だ。
ドガガガッ!ドガガガッ!ドガガガッ!
ヴェンデッタは実体化すると様子見しているレイドモンキーに問答無用で3点バーストで射撃し始める。
ドドドドドドドッ!
ドガンッ!
「ギャンッ!」
射撃を始めたと同時にイノーンは狙い定めた相手に向かって猛烈に走りだし、砲弾のような体当たりで跳ね飛ばしだす。練習のおかげで通常のイノーンより足が速いために避けることができず、跳ねられた奴は悲鳴をあげながら空を飛び、地面に叩きつけられる。
それだけでなく、急に止まると右後方にいるレイドモンキーに向かって飛び下がって後ろ蹴りを叩き込む。蹴り飛ばされた奴は顔に蹄の跡をつけて吹き飛び、木に叩きつけられてめり込んでいる。それを確認することなく、また暴走したトラックのように激走しては跳ね飛ばし始めた。
レイドモンキー達は突然の戦闘再開に驚きながらも応戦する。
彼らの攻撃は引っかきと噛み付きだけ。群れであり連携をとるものの、基本は奇襲や包囲からの多数による数の暴力で倒すため、数の減ったままで戦闘を行う場合は道具を使わないゴブリンと変わらない。
一旦息を整えることができたヴェンデッタにとっては、彼らとの戦いは簡単な狩りに成り下がる。
数分後、催涙弾で無効化していた最後のレイドモンキーをヴェンデッタは撃ち倒す。そして、地面へ着地するとコロリと寝転がった。
「はぁはぁ。やっと終わった。今回はオーガのときと同じぐらい危なかった。イノーンが助けに来なかったら死んでたぞ、これ」
今回は警戒はしていたおかげで奇襲はされなかったものの縄張り奥深くまで来ていたので、包囲されてしまった。そして、巧みな連携によってギリギリのところまで追い詰められた。そのことを自覚し反省していた。こういう場合でも対処方法は考えておくべきだと思い、対策を練り始めようとする。そこにイノーンが近付いてきて、ヴェンデッタに顔を寄せてくる。
「本当に助かったよ、イノーン。ありがとう。あれだな、いい相棒だよ」
「プキューン♪」
ヴェンデッタはイノーンをナデナデ。撫でながら、探しに行く前に思っていたことを口にする。
「そうだ。名前をやろうか。もう一緒に居るんだろうしな。そうだな・・・んー、猪ちゃん、ぷー、ウリ坊、ウリリン、ウリーン・・・」
センスの欠片のない名前が列挙されていき、イノーンの目から光が徐々に消えていく。あれだけ慕っていたとは思えない冷たい目にヴェンデッタは冷や汗が流れ始めている。
「そ、そうだなー。どうしよっかなー・・・あ、トレインってのはどう?」
「プゥ?プキュー♪」
イノーンは考えるそぶりを見せるも気に入ったかのように鳴いた。ヴェンデッタはトコトコ走るとこから青春映画でありそうな鈍行の電車と砲弾のような体当たりからパニック映画のようなブレーキの壊れた暴走特急を連想して思い浮かんだのだ。
「んじゃー。よろしくな、トレイン」
「プキュキュー」
それからヴェンデッタは、いままでのように一方的に餌を与えて安全にではなく、積極的に狩りへ共に行った。
「トレイン!いけっ!援護するっ!」
「プキューッ!」
ヴェンデッタとトレインは見つけたコボルトの群れにこっそりと近付いて、最高のタイミングでトレインを突撃させた。ヴェンデッタは後方からアサルトライフルで援護した。
ダララララッ!ダララッ!
ドガンッ!
「ギャッ!」「ギャウンッ!」
トレインは密集しているところへ突撃し、ヴェンデッタは突撃や混乱で群れが外へ広がらないように牽制する。ある程度数が減ると一掃するために、手榴弾を実体化してトレインに声をかけてながら投擲。そのタイミングでトレインは退避する。
「ふっふー。吹っ飛んだな。全員やり切った・・・ん?」
「プキュ?」
ヴェンデッタは吹き飛ばした跡を確認しているとかなりの速さで近付いてくる魔力を察知する。
「これは・・・ダッシュボア?」
ヴェンデッタはカウンター狙いで呪文を詠唱し魔術陣を構築したままでタイミングを待つ。しばらくしてダッシュボアが茂みを飛び出してきた。
「ロックスピア」
ドガッ!
ダッシュボアの進行方向に岩の槍を作る魔術を使う。ダッシュボアは飛び出した勢いのままに岩の槍に突撃し串刺しになる。
「今日も順調だね、トレイン」
「プキュー♪」
「終わったことだし、寝床に帰りながら果物採っていこうか」
「プキュッ!プッキュー♪」
「よし。んじゃいこー」
2匹は伴って、森の中の湖へ戻っていった。そんな日々を繰り返して半年たったある日、森の浅いところにトレインが好きな果物をあるのを発見したので採取しにきた。
「ふふーん。ふんふん。今日もたくさん生ってるね。少しもらいますよっと」
ヴェンデッタが採取していると、魔力を察知する。複数の魔力が1つの魔力と対峙しているようだ。
「複数?群れで狩りでもしているのかな。---、ハイディング。よし、見に行ってみるか」
好奇心が擽られて、ヴェンデッタはその現場を見に行くことにする。
そこには、ラージスネーク1匹と人がいた。
ヴェンデッタは魔物になったからは初めて見る人だ。助けるという気持ちが沸くものの、自分が魔物であるので思い留まっている。
(おー。初遭遇だ。人。冒険者かな。討伐か採取の依頼だろうか。それはどうでもいいとして、見つかると襲われかねないのでこっそりと。できれば、会話が聞きたいな)
ヴェンデッタは木の上の影に隠れながら音に集中しつつ、彼らの動向を見守った。
彼らはラージスネークを囲むように向かい合っている。長剣をもった男が叫ぶ。
「よし!あと少しだ!魔術は!?」
「---------。準備できたわ、レス」
「こっちもいいぜ!」
「セルンとマローニもいいとー。んじゃまー、やりますかー」
「やってくれ!マービン!」
魔術師らしい女セルンが掌に魔術陣を構築し、斧槍を使う男マローニが気合と共に長剣のレスへ返答する。
マービンにレスが声をかけるとそれを合図に瞬時に弓をつがえて矢が放たれた。
「キィシャアアアッ!」
ラージスネークの叫びが木霊する。右目に引き寄せられるようにマービンの矢が突き刺さったのだ。そこに横合いから走りこんだマローニの斧槍が振り下ろされる。斬ることはできなかったが、左側へラージスネークの頭を吹き飛ばされ、そこにレスの長剣が突き出されて左目も切り裂いた。
彼らの攻撃はまだ終わらない。レスがラージスネークの頭に足をかけて剣を引き抜くと後ろに下がる。それを切欠にラージスネークは痛みで体を捻り、頭も尾も振り回して木をへし折りながら暴れだす。そこに中々近づけずマローニは斧槍を突き出して牽制する。そこへセルンが魔術を放つ。
「サンダーショット」
魔術陣から放たれた電撃が雷速で一直線にラージスネークの頭部を打ち抜いた。ズンと倒れ、ラージスネークは息絶えた。
「よっし。倒したな。流石セルンだ」
「全くだ。相変わらずセルンの魔術ってすげーな」
「マローニは頭悪いからねー。覚えるの苦手だしー」
「うっせぇよ!」
「ふふふ。いいじゃない。おかげでいい前衛になってくれたんだし」
「がーはっはっ。よくわかってるじゃねぇか」
「さぁ。ラージスネークの解体して一旦帰ろう。まだ依頼は達成してないけど、こいつの素材もいい値で売れるしさ」
「そうね。やりましょう」
レス達は倒したラージスネークの解体を始めた。それらの全てをこっそり見ていたヴェンデッタは感心していた。
(なかなか上手な魔術だったな。生徒なら優秀の評価をあげるところだよね。連携もいい。いいパーティーだ。依頼って言ってたけど、なんだろな。んー。そこは話してくれないんだよねー。もくもくと解体始めちゃったしなー。ずっと見てるのもなー。果実採ってトレインのとこに帰ろっかな)
ヴェンデッタは解体を続けているレス達に気づかれないように、そっとその場を後にした。
読んでいただき、ありがとうございます。