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人魂ヴェンデッタ  作者: くまっどさん
1章 魔物生活
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4話 初めての戦闘と早々の進化

1章 魔物生活

4話 初めての戦闘と早々の進化




 ヴェンデッタは湖のそばで、動きの確認や使用可不可を含めた様々な魔術と様々なリプレイによる実体化を試していた。


「木の上ぐらいまではスーッと移動できる。そこまで行くとどう足掻いても上にいけないや」


 移動速度は鳥と同程度か少し遅いぐらい。上空の限界には約30mほどだ。その先に行くと見えない柔らかい壁があるかのように上がれない。


「でもって、手がないのは不便。それから、改めて確認した魔術のほうは魔力量が少なくて初歩のものが3,4個で精一杯。魔力量が少ないおかげで回復に時間かからないけどさ。もうちょっと勝手のいい魔術も使えたらよかったなぁ」


 魔術を試した結果は、必要とされる魔力が足りているならルールに反してどの魔術の使用も可能だった。効果が大きいものや範囲が広いものは魔力の消費が大きく、ヴェンデッタの魔力量では足らずに魔術陣が構築できなかった。


 リプレイは、実体化するものの大きさが大きく場合と機構が複雑になる場合で魔力が足らなくなった。また、実写の映画やCGが混ざっている実写映画の道具は実体化できたが、あらゆる映画の生物やアニメ映画は無理だった。

 ちなみに魔力不足で車やスマホは無理だった。まぁスマホを実体化してもほとんどの機能が使えないが。変わりに満の時に好きだった料理をいくつか実体化してみていた。


「うはっ!ラーメンとか久々。あの映画のラーメンってこんな匂いなんだな。いい匂い。あぁ、口がないのが残念だよ。はぁ・・・。さてリプレイは、自分から2,3メートル内なら離れて実体化できる。近付いて腹の中とかもいけるかも。んー。やっぱり戦い方の基本はこっそりと上に行って、実体化したものを落とすか事前に罠をしかけるかかな。魔術は逃げるときの足止めとか」


 食べれないことを心底残念に思いながらも、確認したことを整理してうんうんと頷く。能力の詳細を理解するときもあったが、わかっていることを口に出して情報を整理するのが満の頃からのクセでスペンサーの頃もやっていた。


「実体化したものを消すのは距離に関係なく意識的にできるね。消そうとしなくても10分で消える。延長はできないな。確認は大体終わったし、お次は実戦だな。魔物はどこにいるのやら。探すの大変だろうな・・・ん?これは魔力?魔力を感じれる?魔物特有のものなの?」


 周囲に目を向けて、魔物が居ないか意識を向けた途端に魔力を感じれる。感覚的に方向、距離、魔力量がわかった。


「この魔力がある場所に魔物がいるとすると。こっちのこともばれてるやも。いまさらだけど魔力を周囲に感知できないように隠蔽しないと。そういえば、隠蔽の魔術を使う冒険者って他の上位冒険者に人気だったな。つーまーり!上位冒険者は魔物が魔力を察知していることを知っていると。ひどいもんだ。情報を公開していたら死ぬ新人は少なかったろうに・・・ハイディング」


 冒険者とは、東の国で一般的な職業の1つ。冒険者協会が仕事の仲介と冒険者を取りまとめをしている。主な仕事は魔物討伐、素材採取、町や国の間を移動する際の護衛があり、戦闘経験と特殊な知識や経験、技術が必要となる仕事を担っている。多くの冒険者は収入的に日雇いに近く、協会の信用や貢献をしていないといい収入の仕事を行うことができない。ほとんどの冒険者は命がけなのにほどほどの収入で生きている。そこを生き抜けば、経験も知識も自然と身につけられるので高給が得られるために夢のある仕事とも認識されている。


 呪文を唱えて隠蔽魔術ハイディングを行使すると体が一瞬だけ仄かに光って魔術が効果を発揮したことを示す。ヴェンデッタは気づかれないように、ここから一番近い場所に感じた魔力へ気配を消すように息を潜めながら慎重に向かっていった。




 そこにはラージスネークという魔物がいた。格付けが中級の魔物で体長は20mほど、背中側は緑の鱗で腹側は薄茶色だ。肉食で木の上や茂みに潜んで襲い掛かって噛み殺すか絞め殺す。それからゆっくりと飲み込んで消化する。

 ちょうど今は何かを食べているところだった。注意深く見ているとそれはゴブリンといわれる魔物だ。

 ゴブリンは下級の魔物だ。群れで獲物を襲う。群れの数によっては格付けが中級に上がる場合もあるし、はぐれてしまった数匹の場合もよくある。灰色の皮膚をし、小学生ぐらいの身長。肉食で拾った物を武器として使用する。襲われた獲物は巣に持っていかれて死ぬまで弄ばれてから食べられる。


(ラージスネークか。普通なら冒険者や兵士じゃない限りは逃げるしかない。特に人魂の僕だと余計に逃げるべきだろうけど。僕の能力ならなんとかなるかな。あーゴブリンが食べられてるな。ゴブリンは小説だと強かったり弱かったりしてたけど、この世界だとまぁそれなりに強かったかな。人の頃に結構狩ったけど。それより目の前のやつだ。初撃は頭上から。あとは短期決戦で逃走も視野に入れておこっと。逃走時用に対人地雷をいくつか置いとこうかな)


 それからヴェンデッタは戦闘の準備を完了し、木伝いに登って、一番高いところからラージスネークの頭上となる空中にふわりと移動した。


(うし。じゃあ実体化するのは鉄骨。よくあるよねー。映画で上から鉄骨が降ってくることって。ではスタート)


 実体化ができるギリギリ上方に数本の鉄骨を実体化すると、鉄骨はラージスネークの頭や体に向かって落ちていった。


ズドンっ!ズドドドンッ!ズドンっ!

「ギシャアアアアアアアッッ!」


 ラージスネークは食事に夢中だったが、影に気づいて上を向くと落ちてくる物にぎょっとして逃げようとするも時既に遅し。鉄骨の何本かが突き刺さり、地面に縫いつけた。


「よーしよし。成功。見事に深く刺さったな。しかし、しぶといもんだな。まだ生きてるか。じゃあこうやって・・・それで。---。フレイムショット」


 ヴェンデッタは痛みで暴れるラージスネークに近寄って鼻の穴にウェスタンや西部劇の映画で使われそうな導火線のついた爆発物、ダイナマイトの束を実体化する。一旦距離をとってから呪文を唱える。鼻歌のような音が紡がれると魔術陣が構築されていく。そして、のたうち回るラージスネークの鼻にあるダイナマイトを狙って火の玉を撃ちだす火魔術フレイムショットを行使した。


ゴォウッ!ドガンッ!


 ヴェンデッタは魔術を使うとすぐさま木の後ろに隠れて結果を覗き見た。撃ち出された火の玉はダイナマイトに命中、引火して爆発する。ラージスネークの頭はその爆発で粉々に吹き飛んだ。


「ひょー。派手に吹き飛んだよ。ん?なんだ?死体からもやもやが出て・・・こっちに向かってくる!?」


 警戒したが、もやもやはかなりの速さでヴェンデッタへ向かって移動する。それにヴェンデッタが驚いて逃げる前に、体内へあっという間に吸い込まれた。すると使用した以上の魔力が湧き上がってくる。元ある魔力量より増えたことを感じる。


「これが魂吸収か。つまり、あれが魂だったのか。すごいな。魔力の回復する手段にもってこい。回復を待つ時間も薬もいらないね。魔物って便利。この調子でじゃんじゃんいこう」


 ヴェンデッタは鉄骨を消し、倒したラージスネークを放置して次へ向かっていった。




 あれからヴェンデッタは昼夜問わず森の中を移動し続けて魔物狩りを行った。群れからはぐれたゴブリンやコボルト、クラッシュボア、ホーンラビット、ハンターディアと単独か少数の魔物を狙った。

 結構森の深くにいるみたいで人には出会わなかった。彼としても人であったときの命を大事にする気持ち(魔物は別)が残っていて、人を殺すことには今のところ躊躇があった。それでも魔物に生まれた以上は人と戦うことも想定しているものの、実施せずいることに安堵していた。それもあって平原や道に向かうようなことはしていない。




 そして、何日経ったかわからなくなったある日のこと。


ドガラッ!ドガラッ!ドガラッ!

「ヴォオオオオオオッ!」

「ひょわーい!」


 ヴェンデッタは操作魔術のリモートで操作した石をぶつけたハンターディアに追われていた。全速力で逃げているが、徐々に距離が迫ってドガラッドガラッと蹄の音が近付いてきて迫力と緊張感があった。

 ハンターディアは鹿のような魔物で、普通の鹿の2倍の大きさと筋肉質な体格をしている。獲物を狙うときはこっそり忍び寄ってそれほど大きくない角を飛ばして倒すように狩りをする中級の魔物だ。そして、ハンターディアはプライドが高く、怒らせると角を使わずに体当たりで跳ね飛ばし、倒れたところを蹄で踏みつけて殺してくる。

 ヴェンデッタは強化魔術アップ・スピードで自分の移動速度をあげてから、怒りを利用して追わせていた。


「本当にすっごい迫力。父さんが浮気を疑われたときの母さん並みに怖いな」


 逃げつつも何度か振り返ったが、ものすごい形相と速度で向かってくるハンターディアに亡くなった母親を重ねるヴェンデッタ。満とスペンサー、どっちのときの母親かはわからないが、草葉の陰で息子の発言にとても遺憾であるとぷりぷり怒っているだろう。


「そろそろ大丈夫そうかな。この当たりなら爆発物を使っても他の魔物が音で近付いてこないよね」


 ヴェンデッタが逃げながら周囲の魔力を察知して魔物が寄ってこないことを確認。地面に山岳部が舞台に人狩りをするシリアルキラーのホラー映画で使われそうなギザギザの歯がついた罠道具、トラバサミを逃げながら次々と実体化していく。


「ヴォアアッ!?」

ドシャアァ!


 何個目かでハンターディアが罠にかかり、左前足を食いつかれて足を縺れさせる。そして、自分の足に引っ掛けて顔から地面に突っ込んで、そのままの勢いで派手に横転する。

 そこで倒れているハンターディアの頭の傍に、犯罪映画や戦争映画で定番の爆発方向が限定され手動スイッチで起動する指向性クレイモア地雷を実体化。予め準備しておいた操作魔術リモートを発動して地雷の起動スイッチを押す。


ドガンッ!


 クレイモア地雷の内部に詰められた無数の金属球体が爆発でハンターディアに向かって物凄い勢いで飛び出していく。金属球体はハンターディアの肉体を抉りながら貫いて、ずたずたの穴だらけにした。


「よし。今回も無傷で倒せたぞっと。さぁ吸収吸収~」


 いつものように倒したハンターディアからもやもやした魂がヴェンデッタへ吸い込まれていく。そして、いつものように魔力量が増えるが、今回はそれだけではなかった。体が光りだした。


「お?お?なになに?体が光る?人魂って光ることあるんだっけ?聞いたことも読んだこともないよ?魔力量が限界超えた?もしかして、爆発!?わわわわっ!?」


 ヴェンデッタが焦ってわたわたするも、そんなこととはお構いなしに体の光が強く大きくなって光の塊になった。しばらくして光も徐々に収まっていく。そして光が完全に収まるとヴェンデッタの居た場所に人魂ではない別の一匹の魔物がいた。以前と違って赤い光の塊に薄っすら炎のようなものが揺らめいており、両腕があった。


「ん?ん?なにごとじゃん?って腕!?腕ある?ん?人の頃みたいに思うように動かせるな・・・うんうん。これなら銃が使えるじゃん。ふふ。いいね。前より戦いに幅が広がる」


 そこにいたのは姿が変わったヴェンデッタだ。初めは驚愕していたものの徐々にクスクスと笑いながら新しい両腕の調子を確かめていた。いわゆる、魔物に生まれてそれほど経っていないのでわからないことが多いから開き直ったのだ。


「まずはひとまず姿を確認してこよっかな」


 ヴェンデッタは人魂の姿を確認したときの湖へ向かう。いままでその湖を拠点にしていた。

 湖に着くと早速姿を確認する。


「おー。これが新しい姿か。これはウィル・オー・ウィスプだな。中級では弱い部類に入るんだっけ。で、動きは前よりは・・・早い。おー動ける動ける」


 宙に浮いたまま、反復横とびをするように動く。端から見たら、ゲームのインベーダーでスピードマックスの敵キャラのように動いているだろう。ヴェンデッタの覚えてた資料通り、人魂のときより動きが機敏になっていた。


「さて。ほかに変わったところは体か。前より人魂っぽいな。炎みたいなのがゆらゆらしてる。口はないのが残念だよ。食べなくてもいいんだけど、食べれないのって結構ストレス。娯楽的要素もあったのかな。魔力量は増えたけど、こうなる直前よりも増えたな。大体なんなんだろ、これ。魔物特有の現象か。該当する何かってあったかな。んーっと・・・進化?古い本に長く生きた魔物がより強い魔物へと変わることがあり、それを進化というとか書いてあったな。これが進化なの?」


 自分を納得させるように情報を整理しながら、腕を振って準備運動のような動きをしている。ある程度動くと、リプレイで右手に拳銃を実体化する。口径は38。弾倉が回転式じゃないマガジンを装着するタイプの拳銃だ。


「まぁ生きていける可能性が増えたなら問題ないさ。早速、腕を使って銃を使ってみるか」


 ヴェンデッタは右手の銃で近くにある30mほど離れた適当な木を狙い、左手で右手の上からしっかりと支えてから躊躇なく撃つ。パンッという音と共に狙った木でドカッと低い音がなる。撃った反動で腕は少し跳ね上がり、体は少し後方へ下がった。それから同じ木に弾倉の弾がなくなるまで撃ち続ける。


「腕への反動は多少あるけど、痺れたりはない。訓練次第でそれなりに当てれそう。片手での発砲は要訓練。あまり経口の大きな銃だと反動で後ろにくるくると転がってしまいそうだしなぁ。あ。強化魔術使えば口径を気にせずに使えるかも」


 次は強化魔術アップ・パワーを使ってから、50口径の拳銃で全弾を撃ち尽くし、次にアサルトライフルでフルオートで撃ち尽くすことができた。結果は上々のものになった。


「強化魔術に拳銃2丁とライフル1丁。魔術はあと2個程度か。魔力がまだ足らないな。射撃自体は強化していれば、反動は力ずくで押さえ込めるね。浮いてるのに立ってるみたいに踏ん張ってその場で撃てるし。撃った弾と薬莢はしばらくすると消えてる。消えるといえば爆発物って爆発した直後だとどうなるのかな」


 魔力の回復を待ってから手榴弾を使用してみる。ピンを抜いて投擲。爆発と同時に消してみたら、爆発自体は消えなかった。


「実体化したもの自体は消せるけど、それによって起きた事象は消せないか。自爆だけは避けないと。あとは実戦だよね。とその前に少し休憩しようかな。戦い続け過ぎ。眠気はないけど精神的に殺伐しそうだからまったりしよっと。気分転換に魔物を避けながら気持ちよく散歩かな」


 ヴェンデッタはふわふわと浮かびながら花を愛でたり小動物に手を振ったりしつつ、木漏れ日の中を飛んでいった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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