表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人魂ヴェンデッタ  作者: くまっどさん
1章 魔物生活
3/12

3話 人魂ヴェンデッタ

 スペンサーが死んでから2年経ったある日の夜。月の光に照らされたスペンサーの骨の頭部の中から拳大の淡く光る塊が浮き上がる。赤色の光の塊はふわふわと浮き上がり、風に流され飛んでいく。朝日が昇りそうな時間になると森の中へ降りていった。そこで朝日を光の塊が浴びると変化が起きた。光の塊が朝日を浴びるとぐぐっと堪えるように震えると2つの目がぱちりと開いた。ぱちぱちと瞬きをすると周りを見回す。そして、一言声をあげる。誕生の産声にしてはあまりにも間抜けだったが。


「ここ・・・どこ?」


 これが世界に畏怖されることになる魔物の誕生だった。

 ぼーっと周りを眺めていたが徐々に意識がはっきりとしてくる。


「んー。この森は見た覚えがないなー。僕は・・・んー、す・・・すぺん、さー。そうスペンサーだ。アーヴァント王国生まれで学校の魔術教師。で、どうしてここにいるんだ。それになんでふわふわしているんだろう」


 スペンサーは周囲を確認するも記憶にない。しかし、自分のことを思い出すことができた。それから自分の体の無事を確認しようと思ったが一番気になったのは、感覚として体がふわふわとした浮遊感を感じていた。視界は落ち着いている。


「だんだん思い出してきた。あの貴族のバカ娘に殺されたはず。また生まれ変わったのか。また死ぬ前の記憶があるし。なんかの呪いなの?何かしらの使命とかは覚えがないし、神様?とかはあった覚えもないなぁ」


 若干うんざりしながらも、今の自分を把握しようと努めた。


「んー。満のときの記憶もあるな。はぁ・・・うっし。もう殺されるのはまっぴらだ。殺されないために戦えるようになっておかないと。できるなら、権力すら捻じ伏せれるぐらいに。とか夢みたいなことを言いはするものの。問題は手足があるように感じない。僕は何に生まれ変わったんだ?当然、目は見える。音も聞こえて、匂いもわかる。腹は減ってないし。喉も渇いてない。一体僕はなんなんだろ。魔物な気はしてるけど」


 下に目を向けるも、手足どころか体も見えない。周りを見渡すが自分が写るようなものはない。


「どこか水のあるとこに行ってみよっかな。姿も見えるだろうし」


 まずは動けるかわからないが少し移動してみる。まずどうやっていいかわからないが、歩くように前へ進みたいと思うと思ったように進みだす。移動によって視界がふわふわとしなくもないが、気になるほどではない。移動できたので、そのまま森の中を進んでいく。


「お?水の匂いがする。近いな」


 それから少し進むと小さな湖があった。その湖に近付くと覗き込んでみる。そこには、目が二つついた赤色に淡く光る塊が写っていた。


「目がついてる。口はない。体もない。んーっと・・・記憶を辿ると確か人魂って魔物だったっけな。通常は青っぽいんだが、赤色の個体を見たという記憶にない。今思うと人魂って魔物につける名前としてはどうなの?人魂って人の魂って意味じゃないの?魂自体見たって聞いた覚えもないし。名づけた人が想像でつけたとか」


 むむっと悩むもどうでもいいことだと思い返して、もっと詳しく思い出す。


「人魂は格付けは下級で、すごく弱い魔物で無害。子供でも倒せてしまう。それはまずいよねーっと。稀に能力を持つものがあるんだっけ。僕もあるのかな」


 スペンサーは弱い魔物になってしまったとわかり、危機感が生まれるも焦りなく平静でいられた。理由なき直感だがなんとかなると感じているからだ。それより能力の有無をどうやって調べたものかと思っていると、元から知っているかのように能力を理解できてしまう。


「都合がいいのか、そういうものなのか。どうでもいいか。えっと、能力は”魂吸収”。倒した相手の魂を吸収して魔力を効率よく取得できる、か。魂ってあるんだな。魔力が効率よく取得できるのはいいね。スペンサーのときはあまり魔物退治してなかったから魔力量はそれほどでもなかったけど、これなら増やすのも普通よりは早そう」


 ふむふむと能力を口に出して情報を整理していく。

 魔力は魔物や人など魔力を保有する者を倒すことで得られ、魔力量は微増する。また、増える上限は個々で違う。国の魔術師や騎士達はよく魔物討伐を行っており、大量の魔力量を保有していた。


「ん?”ムービー”?満やスペンサーだったときから持っていた?あの頃は気が付かなかったけど。ええっと。2つの能力を合わせたものみたいだな。1つ目は”レコーディング”は見たものを完全に記憶しておくか。どうりで記憶力がよかったわけだ」


 満のときもスペンサーのときも本を一度読むとそれを完全に覚えていた。あの頃、周囲に天才と呼ばれた原因の1つでもあったようだ。


「ということは昔のことで他に覚えていることは・・・スペンサー時代は全部覚えているみたい。確かめようがないけど満時代も全部覚えているんだろうな、多分。趣味でよく見ていた映画のことも完全に覚えてる。正孝やレノアの顔を忘れられないのはいいのか悪いのか。他には”リプレイ”か。詳細は・・・満のときに見た映画の道具を映画の設定どおりに実体化できるのか。まじか」


 実際に使用してみると魔力が消費されて目の前に多くの映画で使われていた黒く光沢の抑えられたL字の金属。マガジンを装填し引き金を引くことで弾丸を発射できる兵器、拳銃が現れる。しかし、うんともすんともいわない。手がないと使えない。完全再現なら当然だなとスペンサーは思う。消えろと念じると出現した銃は消える。


「なんで映画の道具のみなんだろ。使い勝手はいいけど実体化できるものは増えないよなぁ。まぁいっか。リプレイでも戦えそうなのはわかったし。あとは・・・魔術使えるかなっと」


 スペンサーは減った魔力が回復してから自分がよく使っていた離れた場所の物を遠隔操作できる操作魔術を使ってみる。スペンサーの歌のような呪文の詠唱が響き魔術陣が目の前に構築されて描かれる。発動するための鍵を唱えた。


「---。リモート」


 手近にある小石に魔術をかけると小石は狙った木へ飛んでいく。こつんっと音をさせて小石は落ちた。


「うん。使える。でもこれで戦うのはなぁ。他の魔術も使えるようになったってたり?」


 魔術はルールとして個々の魔力の質によって行使可能な魔術系統が決まっている。魔術陣までは構築できるのだが、発動の鍵を唱えても魔術陣が消えてしまい行使まではできない。今回の魔術行使は、魔物でもルールが適応されているのかの確認とできれば儲けもの程度で実行する。

 とりあえず、昔カッコいいからと覚えた氷の礫を撃ちだす魔術を使ってみる。さきほどとは違う呪文を唱えて魔術陣を目の前に構築し、深呼吸のあとに発動するための鍵を唱える。


「アイスショット」


 魔術陣から氷の礫が発射されて、狙った木に向かって飛んでいく。ゴガッ!と音を立てて当たる。


「・・・ウソん。僕の魔力の質じゃあ使えないはず。いや。今は魔物に生まれ変わったんだった。魔力の質が変化してるかも」


 それから学校で数多くの魔術を覚えてきたので、魔力を度々回復をしながらいくつか魔術を唱えてみると初歩的な魔術なら全ての系統が全部成功する。規模の大きな魔術は魔力が足らずに魔術陣の構築が失敗となった。そこから魔術は何でも使えるだろうと確信する。


「これなら戦えそうだな。でも魔術を使う魔物なんて見たことも聞いたこともない。稀に特殊な能力を持つ個体もいるみたいだから、希少な魔物として討伐されるかもなー。調教魔術でペット扱いとか。怖っ!益々戦えるようになっておかないと」


 人魂状態のスペンサーはうんうんと頷くように動く。


「今後の方針は戦えるようになるために、リプレイと魔術を磨くことだな。あとは・・・スペンサーは死んだんだし。名前を新しくしよっかな、一応。何がいいだろう。んー・・・」


 スペンサーは目を瞑ってふよふよと浮かんだまま左右に動きながら新しい名前を悩む。ミツル、ケン、ハジメ、マーク、ブース、ジョン、ヒース、イーサン、クリス、シュン、アッシュ、グレイ。どれもなんか違うと感じて、何かしら意味合いのある言葉を考えてみようとする。するとスペンサーのときに殺した貴族への復讐心が影響したのか、復讐に関連した言葉が浮かぶ。リベンジ、ラーク、ベンガンザ、ヴェンジェンスと浮かぶ。と、次の言葉がしっくりときた。


「ヴェンデッタ。響きがいいね。気に入った。うん。今日から僕はヴェンデッタだ。よっし!これから忙しくなるな」


 ふんすと鼻息荒く気合をいれた(スペンサーから名前を改めた)ヴェンデッタは、これからのためにやる気を漲らせた。


読んでいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ