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人魂ヴェンデッタ  作者: くまっどさん
0章 プロローグ
1/12

1話 一つ目の終わり

初連載してみることにしました

 キーンコーンカーンコーン。

 キーンコーンカーンコーン。


「ホームルームはこれで終わります。明日は終業式だから遅刻しないようにね」


 学校の教室でチャイムが鳴り響くと早々に生徒達は帰り支度や友人とおしゃべりを始めたりと自由にしている中、教師の前田満まえだみつるは教壇で生徒達を見渡しながらホームルームの終わりを告げた。

 前田満は、さわやかな若い社会人らしい髪型、日本人らしい童顔でカッコいいよりは可愛い寄りの顔つきとクリクリの目をしている。身長165cmと小柄で童顔の顔にあっているがコンプレックスではあった。生まれつきだが日光が当たると髪色が赤っぽく見える。


「大丈夫でーす」

「起きれた試しないんだよねー」

「寝なきゃいいじゃんね」

「肌に悪いから、ちゃんと寝るし」

「肌って、おまえいくつだよ」

「昨日の試合みた?」

「あー!あれはテンションあがるよな」

「今日はプリクラいっとこークラス変わっちゃうし」

「みんなで記念?いいね」

「せんせー、今日ひまー?」

「腹減ったわー」

「せんせー、ラーメンおごってー」

「いいな、それっ!俺はー俺はー。んーっと・・・」

「どれだけ頼むつもりよ。まずはプリクラ撮りましょー」

「金ないぞ、俺」

「先生、オススメしたラノベ読んだ?」

「やっぱり唐揚げ!ラーメンと唐揚げ!」


 生徒達は口々に返事を・・・返したのは2、3人であとは自由に話している。満は返せるものにはちゃんと答えていく。


「ちゃんと寝るように。肌に気をつけるのは今からでも問題ないよ。プリクラはいい案だけど僕は行けない。みんなの通知表をまとめたりするから時間ないんだよ」

「「「「えーっ」」」」

「「「「げっ!?」」」」

「まぁまぁ。通知表は楽しみにしてて。今日は無理だけど、代わりに終業式のあとで時間作っておくから。それから、あの小説は読み終わったよ。確かに面白かったね。人気あるのがわかる。ラーメンもわかった。唐揚げもいいよ」


 律儀に全部に答え、満が来れないことにがっかりした生徒達と通知表の話を耳にしてがっくりした生徒達は不満と悲鳴をあげる。だが、明日には時間を作ってくれるとわかり大盛り上がり。予定作りで収集が着かなくなっていた。唐揚げを望んだ生徒は踊りだしそうなほど興奮している。いや、バックダンサーばりに踊ってる。


「2年も前田先生が担任なの?」

「んーまだわからないな」

「えーっ!先生がいいよ」

「私も!」

「うんうん。先生がこの学校じゃ一番いい。面白い映画も教えてくれるし」

「あはは。ありがと。クラス替えで別のクラスになっても相談はのるから。映画もオススメするしね。また一緒になる人はよろしく」

「「「「はーい」」」」

「んじゃー明日のラーメンは全員唐揚げ付きで!」

「「「「イエーイ!」」」」


 満は生徒に人気があり、趣味への理解だけでなく相談事に一生懸命時間を削って付き合っている。いまどきは中々いない先生である。

 また、映画が趣味だけに生徒それぞれが好きになりそうな作品を紹介したり、放課後に視聴覚室を借りて上映会をしており、それが好評なのもある。

 それだけでなく、見た目が童顔で小柄のためなのか女生徒達には大人びた同級生のようにも見えるらしく、影で異性として好意を寄せられている。

 満は喜んでくれることを嬉しく思いながらも全員に奢るといくらだろうかと頭を抱える気持ちとが綯い交ぜになったことを自覚して苦笑いしつつ、生徒達に別れを告げて手を振り教室を出て行った。




 満は教員室に向かう途中に窓の外が目に入る。お昼までのため早々に帰宅する生徒達と早咲きの桜。ふと明日の終業式を実感して感慨深くなる。

 中学生の頃に両親と妹を火事で亡くし、高校生の頃には恋人で幼馴染の水戸玲香を亡くしていた。

 立て続けの不幸に悲しみにくれるも家族と恋人が応援してくれていた教師の夢を我武者羅に追いかけることで立ち直っていった。それにもう1人の幼馴染でムードメイカーの大野正孝おおのまさたかが応援し支えてくれたからやってこれたのもある。正孝には感謝してもし尽くせない親友だと思っている。

 そんな昔を思い出してちょっとセンチな気持ちになった自分に気づいて頭を掻き、これからも教師として頑張ろうと気合を入れ直す。うっしっ!と声を出し教員室へ通知表と億劫な書類の整理に向かっていった。




 日付が変わる手前の時間。満は背伸びをしてスマホを確認する。今の時間とお天気アプリからの通知でもうじき雨が降りそうなことがわかった。かばんには折りたたみ傘が入っているし。駅まではそう遠くない。駅から家も近いので濡れて風邪をひくこともないだろうと思い、帰り支度を始める。


 学校を後にし、薄暗がりの道を駅へ向かう。このあたりは駅までの近道だが民家より工場やビルが多く、時間も遅くなっていたので人の気配がなく静まり返っている。田舎のためか電灯もまばらのため、暗がりがそれなりにある。気味が悪いと感じてしまう。


(もっと早く終わる予定だったのに遅くなったな。明日も早いからさっさと帰らないと。正孝と恒例の飲みにもいけなかったし。今日地上波初放送のアクション映画は無事に録画できてるかな。雨は・・・降りそうな匂いはしてるけど、まだ大丈夫そう)


 満が早足で歩いていると後方から車がかなりの速さで走ってくる音が聞こえたので歩きながら振り返る。確かに車が向かってきていたので、歩道がない道だから道の横側に寄って避けるようにした。音が近くなってきたので、再度振り向くと突然目の前が眩しく光る。


ヴゥゥゥン!ドガッ!


 目を細めつつ手で光を遮ると経験のない衝撃と共に視界が縦横無尽に目まぐるしく変わり、意識が飛んだ。




「ぐ・・・あ・・・な・・・んで・・・」


 気が付くと満は空を見上げている。自分が道に仰向けに横たわっていることがわかってくる。どれだけそうであったかわからないが、実際には数分のこと。徐々にアスファルトの冷たさを感じだし、次いで体のあちこちから激しい痛みを意識する。痛みで呻き、回らない頭でどうしてこうなったかと思い出しつつ呟く。そこにばたんと車の扉が閉まる音がし、こつこつと誰かが近寄ってくる。これで助かったと思い、痛みを我慢しつつ声を出す。


「た・・・助・・・けて・・・」

「くっくっく。いい様だな。満」

「ま、正・・・孝・・・救急・・・」


 目の前に屈んで覗き込んできたのは幼馴染の大野正孝だった。満はさきほど以上に安堵して正孝に助けを求める。しかし、いままでに見たことがないニタニタとした嗤いを浮かべた表情のまま覗き込んでいるだけで一向に連絡しようとしなかった。


「わかってない?見えてなかったんだな。俺がやったんだよ」


 これまで正孝は陽気で軽い話し方だが優しさの感じる話し方をしていた。今は聞いたことがない馬鹿にしているような、ねっとりとした話し方に戸惑う満。話している内容にも理解が至らない。


「な、何を?・・・」

「おまえを車で撥ねたんだよ。俺が。わかるか?」

「おまえが?・・・ぐっ!はぁはぁ・・・なんで僕を?」

「当然だろ。目の前に飛び回る虫は殺すに限るからだ。昔からやってきたし」

「虫・・・昔・・・」

「色々な相手に色々な。まぁおまえの相手をするのに飽きたってのもあるし。そうだ。満。いい話をしてやるよ。・・・くはっ!悪い。くふっ。いや面白くなってな。お前のな、家族と水戸ことだ」

「家族って・・・んっ!はぁ・・・水戸って、玲香の」


 満は痛みを食いしばりながらも話を聞き逃さないようにした。いまの自分の状態も悪いが、それ以上に嫌な予感がするからだ。


「そうだよ。おまえの家族は俺が遊びに行くと馴れ馴れしくてさ。「正孝くん正孝くん」って。おまえの妹は「まさにい」とかさ。まじで鬱陶しいからさ。燃やしたんだ」

「?・・・え、お、おまえ。何を」

「あの火事だよ。あれは俺だ」

「何を。だってあれは。連続放火魔の。犯人はまだ」

「そう。それが俺。くくっ。よかったな。犯人がわかったぞ」

「なんでっ!」

「ほらほら。怪我してるのに興奮すると早く死ぬぞ。それと水戸。あいつは俺が美味しくいただいた。スタイルよかったしな。昔から抱きたいと思ってたんだ。でも翌日に自殺しちゃったんだよぉ。残念だわぁ。色々と考えてたし、もう少し遊びたかったのに」

「っ!ぐぅぅっ!」

「ああ。水戸はちゃんと初めてだったぞ!おまえのためだってよ。満が早く抱いてやっていればよかったのにな!おかげでいい思いしちゃったわ。あーっはっはっはー」

「があああっ!」


 悪魔のような顔つきで嗤う正孝に、満は頭に血が上って掴みかかろうもがくが動くたびに激しい痛みが走って伸ばした腕は空を切り地面を掻き毟るだけだった。車で撥ねられたときに頭部をぶつけ出血、背骨損傷、肋骨も折れて心臓に刺さっていて、このままでは失血死するほどの重症を負っていた。正孝はそんな様子を楽しげに眺めている。


「あー。顔色が悪くなってきたな。何度か見てきてるから知ってるんだが。おまえ、もうじき死ぬぞ。出血死ってやつだな。満。なにか言うことあるか。幼馴染として聞いてやるよ」

「殺じてやぐっ!!」

「そうか殺したいか。死ぬまでの時間でやれるならやっていいぞ。ほら」


 正孝は顔を近づけるが、満はすでに体は動かない。ぼんやりとしてしか見えない正孝を睨むことしかできない。睨むことで殺せるなら実行しているほど、穏やかな満では考えられない目をしている。しかし、その視線を受けても正孝は楽しげににやけるだけだった。しばらくして、満は目が見えなくなり睨むことすらできなくなる。先ほどまでの激痛も感じなくなり、走馬灯を見る。家族や恋人とのこと、そして生徒達を思いだしていた。


(父さん、母さん、理香。ごめん。みんなの分まで生きたかったのに。夢を叶えてやっと教師にもなったし。玲香。いまも好きで前に進めなかったよ。もっと一緒にいたかったな。あー。なんで今日なんだ。頑張って乗り越えて。明日は初めて受け持った生徒の終業式だったのに。生徒たちは大丈夫かなー。ラーメンと唐揚げ。一緒に食べたかったなー。あーあ。死にたくないなー)


「死にかけで泣いてんのかよ。あーっはっはっはっは・・・気持ち悪ぃ。とっととくたばれよ」


 正孝は涙を流す満にのけぞるほど大いに笑うが、急に豹変しゴミや虫を見るような目になると不快そうに悪態をついて車に乗って去っていった。車の音が遠ざかり満の周辺は静まり返る。そこにぽつりぽつりと雨が降り出した。


(・・・神様。いるなら・・・)


 そこで満の意識は暗闇に沈み込んでいき、永遠に浮かび上がることはなかった。




 深夜の真っ暗な道には雨に晒されている満の体がある。目からは光が消えており、生きているような気配はない。その体からもやもやした何かが抜け出る。何かは空中へ浮かんでいき、雲より上に達すると何かの先の空間が揺らぎだす。何かは揺らいだ空間へ溶け込んで混ざっていき、しばらくして空間の揺らぎが落ち着いて元に戻った。


読んでいただき、ありがとうございました。

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