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その日も突然やってきた。王都でコーヒーなんて飲んでいたら、いつの間にか大陸の地図からシダール国境の集落が消えていたからびっくりした。道だとか家が変わることはしょっちゅうだけど、最近は国の土地が減ったり増えたり町ができたり減ったりすることが多い。皆ダイスの国王陛下には呆れていた。まあ、戦争で村が消えたわけじゃなくて犯罪者が全員殺して火をつけたらしいけど。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、起きて。」
生憎青年には『お兄ちゃん』なんて呼ぶような知り合いはいないのだが、先ほどまでこの牢屋にいるのは自分だけだったので振り向いてみた。
「さあ早く早く!見つかる前にここを出るよ。カギは明けたからね。」
「お前…どうしてここに?」
それから、彼はびっくりするほどわき目を振らずに全速力で軍営を脱出した。今日の暗さを見るに、デリア兵たちは追ってこないだろうと思い足を止めると、保護色で身を包んだ相手を見つめる。
「ここからまっすぐ海沿いに行くとでかい港町があるから、そこで情報収取するといいよ。」
ビー玉のような目が一瞬きらりと光ると、鳥の羽ばたく音が聞こえた。
「見えてんぞ、御使いさん。」
リードの視力が、とある異世界のギネスなんか軽く超えるほど高く、どんな暗闇にいても通常運転であることをひたすら焦っているデリア兵たちには知る由もなかった。
脱走劇約5分、太陽が出るまであと約5時間、遡ること約5時間。
焦げ臭いにおいと酸素濃度の異常に目が覚めた。火の不始末?雷?いや、戦争だ。体に染みついた動きで安っぽい装備をみんなつけているから、出来損ないのリードとは言え自分の判断は間違ってないだろう。
「シダールが攻めてきた!女子供にも容赦がねぇ。死にに行くぞ。」
相手が必死になっているにもかかわらず考えてみる。
『蹴散らせ、この町は灰にする。戸惑うなよ雑魚ども。』
怒鳴っているわけでもないのに響く声の男だ。なんとも聞き覚えのある声だった。目が合うと彼は一瞬迷子の少年のような顔をしてふにゃりと苦笑した。白馬と城が似合う顔だ。
たったそれだけでリードは動けなくなってしまう。音を立てずに滑り落ちてきた剣が首にふれた。あたりを見回すと村人の死体が炎の中に投げられている。五年待たずに死にやがって、自分だけ違う死に方をするのがただただ悔しかった。
自分の親の仇を見つめる。
「そんなに簡単に死ねるわけないだろお前が。」
こいつが何を考えているのかわからないのはいつものことだった。
「お前が殺してくれれば簡単に死ねるんだけどなぁ。」
普通の人間なら首が落ちる勢いで剣をふる。
その刹那、シダール兵を名乗るデリア軍による襲撃のため焼け野原になった小さな町が綺麗にまったいらになった。
その様子を覚えているのは黒い鳥だけ。
次回は送れますm(__)m