宴の準備を~漬物は踊る~ Ⅵ
全ての刑務所の人間が昼食を終えたので
厨房を少しの間利用できるようになった。
早速ソーセージ君と共に食堂に戻ってくると
私達が入ってきた事に気がついた丸顔のおじさん給仕が話しかけてきた。
「待っていたよ、依頼の物だが
一応全部の食材がそろっていると思うんだが
念のため確認をしてくれよ」
「ありがとうございます。見させてもらいますよ」
厨房に入ると依頼した多くの食材が並んでいる。
ソーセージに果物・トマトそして香辛料に無問題もある。
全ての食材があるようだな。
「うひょー、ソーセージも本当にあるじゃないか。
美味そうだな。食べていいのか?」
「おいおい、今食べたらだめだぞ。調理するんだからな」
絶対に暫くすると食べているだろうな。
「それにしてもこんなに直ぐに集めてくれるとは
大変だったんじゃないですか?」
「まあ仕事だからな」
へへっとおじさん給仕は微笑する。
「それにここの食料倉庫には膨大な量の食料が備蓄されているんだよ」
「へえ・・そうなんですか」
やはり何でもあるわけか。そりゃ泥棒には厳しくなるよな。
おじさん給仕がこちらをじっと見つめている。
「もしかしてこれから私が作る料理に興味があるんですか?」
「ああ」
「この材料で一体何を作ろうとしているのかと興味をもってね」
「私達は漬物を作ろうとしているのですよ」
「・・・・なっ」
「兄ちゃん、そういう事をあまり人前で軽々しく言うのは感心しないぜ」
「何故ですか?」
おじさん給仕は周りの様子をキョロキョロと一度確認してから話しだした。
「高価な物はそれだけ争う火種になるって事さ。あんたら自ら死地に飛び込みに行ってるだけだぜ」
「そうなのかもしれませんね」
確かに高価な物の話をずっと話しているのは危険を伴うかもしれない。
ただ正にこれから死地に飛び込みに行くんだけどね。
「何故それだけ高価な物なのか。考えてみた事はあるのかね?」
「いえ、特には」
「希少性が高いという事さ。つまり裏を返せば厳密に生産を管理されているって事になる。
そして希少性が高いのであれば、製法を知られてはまずい連中が多いのも事実なんだよ」
「おっさん、偉く漬物について詳しいみたいじゃねえか」
ソーセージ君が割り込んできた。
「これを見てくれ」
おじさん給仕は左手を胸の前に出す。
右手で左手の手袋をゆっくりと外すと
完全に精気を失っている木製の義手が姿を現した。
「私も昔漬物の生成を追い求めてね。若気の至りってやつさ。」
「若い頃は世界の大きさなんて知らなかったし、どんな物事にどれが関連しているのかという事も
分からなかったのさ。その結果がこんな事になってしまったんだ」
「・・・」
「悪い事は言わん。やめておいた方がいいぞ。
漬物を作るってのは、有り得そうでありえないっていう
フェイクの例えに使われているぐらいなのだからな」
「ご忠告ありがとうございます」
「なあに年寄りの戯言に過ぎんよ。気にせんでくれ」
「ただ私が漬物の作り方を知っているのもまた事実なのです」
「本当に本当なのか?」
「ええ、間違いなく」
「それは何処からか漏れた事を知っているという事なのか??」
「・・・」
「まあ、そこは当然答えられはしないか・・・」
「しかし本当に知っているのなら、すぐにでも教えて欲しいぐらいだよ」
私は小首をかしげ、少し考えた様に振る舞いながら言った。
「私に協力して頂けれるなら勿論教えて差し上げますよ」
そう言うと、おじさん給仕の様子が落ち着かない様に見えた。
「・・・少し考えさせてくれ」
そう言ってぶっきらぼうに厨房から素早く出ていった。
「何だか変なおっさんだったな。あれで良かったのか?」
ソーセージ君は坊主頭を撫でながら尋ねてくる。
私は軽く頷きながらも、おじさん給仕の口角が少し上がっていた事を
見逃さなかった。




