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世界はこんなにも  作者: 禁母夢
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第一話 春

それはある五月のよく晴れた日の事でした。

いつものように憲太が家を出て学校に向かう途中のことです。

毎朝通学路の途中にあるその家の前の通るとよく吠えてくる犬がいました。

その犬は人間みたいな名前ですけど、コージという名前です。

飼い犬ですし、吠えるだけで噛まないのでよっぽど大丈夫です。

とはいえ興奮した様子のその犬は子供にはちょっと怖く感じますし、低学年の子は怖がってしまい、集団下校の時は憲太が付き添って回り道をするくらいでした。

しかしその日に限ってはまったく何の物音もしなかったのです。

不思議に思い、憲太が生垣の隙間からそっと覗きこんでみるとそこにはおばさんがしゃがみこんでいました。

そのおばさんは憲太も知っている人で、憲太の母憲子とは一緒にたまに喫茶店にも行く仲なのです。

名字は知らないけど、憲太の母は美帆さんと呼んでいます。

美帆さんは若くして旦那さんを亡くしている事もあってか、たまに家に来る事もあったので、憲太も会えば挨拶くらいはしています。

美帆さんの飼っている犬のコージという名前もその亡くなった旦那さんが関係しているということをちらっと聞いたことがありました。

「あ、おばさん」

「あら、憲ちゃん」

そう言っておばさんは立ち上がりました。

「どうしたの?」

「ううん、犬が鳴かないからいないのかなって…」

よくよく見るとおばさんは犬小屋を覗きこんでいるのでした。

その奥は薄暗くて良く見えないのですが、たしかにいつもよく吠えてくるあの大きな柴犬でした。

「あぁ、この子は今朝からちょっと具合が悪いのよ。普段はこんなじゃないんだけどねぇ…ご飯も食べなくて」

「そっかぁ…」

普段は通るだけでうるさく吠えてくる存在だったけど、いなければいないで寂しいものなんです。

不思議ですね。

「憲ちゃんは学校に行かなくていいの?」

「あぁ…うん。行ってきます」

そう言って憲太はいつものように学校に向かいました。

最上級の憲太にとって、朝は低学年のチビ達を引率する役目があるのです。

いくら犬が心配だからといって、遅くなってはみんなに迷惑をかけてしまいます。

そんな憲太の役割を分かっている美帆さんはその背中をニコニコと微笑んで見送るのでした。


時は流れて夕暮れ時です。

よく晴れた日で、5月だと言うのにちょっと歩くと少しだけ汗をかいてしまいそうな日です。

パートの仕事を終えて午後4時頃に美帆さんが帰ってくると庭に小さな訪問者が来ていることに気付きました。

見覚えのある小さな背中。

「あら…来てたの?」

「あ…うん。食べるかなって。パン…」

見てみるとそれは小さく千切った食パンでした。

給食で出たのでしょうか。

それとも一度帰って家から持ってきてくれたのでしょうか。

美帆さんはそういうものをコージは食べないとわかっていました。

よく吠えるコージは粗野なようで、美帆さんが作ったもの以外はなかなか食べてくれないのです。

しかし憲太の優しい気持ちが嬉しかったのでそれは言わない事にしました。

憲太は今どきの子供らしくちょっと物静かでしたが、素直で美帆さんは良い印象を持っていました。

美帆さんの亡くなった旦那さんと少しだけ似ている優しい眼差しを憲太に感じ取っていたのかもしれません。

その優しい眼差しが錯覚ではなかったとコージを心配してくれている憲太の様子を見ていると再確認できて何だか嬉しくなってきました。

「多分お腹を壊しているんじゃないかな?…ご飯食べられないんだし…」

「そうかしらね。特に変なものは食べていないと思うのだけど…」

心配そうにコージを見つめている憲太を見て美帆さんはふと思いつきを口にしました。

「あ、そうだ。せっかく来たんだからお菓子でも食べていく?」

「えっ…でも…」

「お母さんには私からメールしておくから。ね?」

「う、うん…」


 美帆さんの家に初めて憲太は上がりこみました。

「おじゃまします」

一応靴を脱ぐときにそう言いましたが、この家には美帆さんしかいないと気付くと憲太は何だか自分がひどく子供っぽく思えました。

案内されたのは良く片づけられた洋風の部屋です。

綺麗なソファにガラステーブル。

ソファはふかふかですし、美帆さんが出してくれたジュースのグラスもなんだかワインを入れるようなオシャレな形をしています。

どうも憲太の家のような雑多な感じが全然ありません。

(憲太の母である憲子さんの名誉のためにいっておきますが、憲子は憲太や憲太の弟など子供がいるからこうした壊されそうな豪奢な家具は使わなくなったのですよ。)

ストローの通されたジュースを飲んでいる憲太を美帆さんはニコニコして見つめています。

この小さな訪問者と二人きりで午後のお茶をしている事がなんだか可笑しくて仕方ないのでしょうか。

風はやさしく、あくまでも穏やかです。

一方憲太は大人の女性と二人きりになることが何だか気恥ずかしくて仕方ありませんでした。

憲太の母憲子も同級生の中ではなかなかの美人だと言われてますが、美帆さんはちょっと雰囲気が違います。

独身で子供がいない、という事もあってかおばさんと呼んでいながらも、どうもおばさんっぽさがないのです。

ふと憲太は美帆さんを見ました。

憲子よりも細身ですが、それでいて出るとこは出ていて、また引っ込むところは引っ込んでいます。

(これも憲太の母である憲子さんの名誉のためにいっておきますが、憲太を含めて2人の出産を経た彼女にとっては自身の体型維持よりも育児に力を注がねばいけないのですよ)


(あっ…)

憲太は一瞬どきっとしてしまいました。

美帆さんの穿いているスカートの隙間から白いものがちらっと覗いてしまったのです。

幼い憲太はチラリズムの美学などというものにはまったく縁がないでしょうから、動揺ははっきりと出てしまいました。

「どうしたの?慌てなくていいのよ?」

優しく包み込むような美帆さんの声。

慌てて憲太は目線を反らしましたが、動揺は収まりませんでした。

鼓動が早くなり、その鼓動に誘われるようについまた見たくなる衝動に駆られるのです。

憲太は母憲子が愛情をたくさん注いで育てた優しい良い子ですが、かといって男の子である事に代わりはありません。

憲太だって衝動には襲われるし、時にその衝動に負けてしまうのです。

再びちらりと視線を送ってしまうと、やはり美帆さんのスカートの隙間から白い三角地帯が覗けていました。

まあ、憲太も高学年にもなりますからそんな衝動は健全極まりないものですね。


(もしかして…)

ふと思い当った美帆さんは足を組みかえると、それに合わせたように憲太も目線を逸らしたり、そっと送ってきたりします。

(やっぱり…もうっ!)

「ふふっ…憲ちゃんももうそんな年頃なのね」

ちょっと残酷な仕打ちをしてみる美帆さん。

自分の下着を覗いていることに気付いた美帆さんは少年を泳がせる事もなく、すぐにすくいあげてしまいました。

覗いてる事を指摘されると驚いたような表情で顔を伏せる憲太。

「もう…エッチね。お母さんに言いつけちゃおうかしら」

追い打ちをかけるように言葉を続ける美帆さん。

今頃は憲太の小さな胸の中いっぱいに、きっと少年特有の自己嫌悪に襲われているのでしょう。

ちょっと可哀想ですが、美帆さんだって子供だと思っていた憲太に下着を覗かれている事に気付かれた時は驚いたし恥ずかしい!と思ったのです。

これも憲太が大人になるにあたって通らなくてはいけない道でしょうね、きっと。

とはいえ美帆さんはそんな健全極まりない衝動にそうですか、と言ってくれるほど少年の性衝動に寛容ではないのです。


「ごめんなさいね。意地悪しちゃったわね」

数分間の無言の圧力にさすがにやりすぎたかと美帆さんも反省しました。

憲太は涙目になってしまっています。

少年の柔らかい心にはこの数分間の痛みは大変なものだったのでしょう。

この辺は子供を育てた事のない美帆さんには分かりにくいさじ加減だったのです。

「私も憲ちゃんが下着見てるなんて思わなかったから、驚いちゃったの。ね、いいのよ」

そう言っても憲太はまだ顔を伏せたまま美帆さんに向こうとはしませんでした。

「女の人に興味がある年頃だもんね。だからいいのよ?ほら…顔を上げて…」

ゆっくり美帆さんを見上げる憲太。

目は少し赤く腫れていて、ちょっとだけ可哀想になってしまいます。

「あぁ…泣かないで…ほら、…ごめんねぇ」

謝られれば謝られるほど、憲太は何だか申し訳なくなり、この場からいなくなってしまいたい気持ちになります。

謝られるのは少年にとって自尊心を傷つけられることなのです。


結局泣きだしてしまった憲太を泣きやませるために気付けば美帆さんに抱きしめられていました。

どちらかといえば小柄な憲太にとってどちらかといえば背の高い美帆さんは頭二つ分は高いため、それこそ卵を抱きしめるように美帆さんの腕の中で包みこまれるようでした。

「あっ……………」

憲太と美帆さんの二人の呟きは重なるようでした。

憲太が美帆さんの匂いと柔らかさ、温かさを感じる内にごく自然にペニスは硬く膨らみ始めました。

未成熟なペニスは熱く震えるほどに昂り、半ズボンの前を突き破るほど勃起するとすぐに美帆さんの太股の辺りにぶつかり弾力を持ってその存在をアピールしだしました。

高学年にもなればもちろん珍しい事ではありません。

憲太も他の同級生と同じように自慰を覚えたての頃ですから、なおさらでしょう。

しかし憲太は美帆さんの前でそうなってしまった事がショックでした。

綺麗な優しい美帆さんに嫌われてしまうのではないか…そうよぎると憲太にはどうすることも出来ませんでした。

「私びっくりしちゃった…憲ちゃんがこんななるなんて…まだ小さいと思ってたのにね」

美帆さんの声も知らずに上ずっていましたが、そんなことは憲太には分かるはずもなかったでしょうね。

戸惑ったような怯えたような表情で美帆さんを見つめる憲太。

それでも自分が止められなくなってしまっているのです。

熱っぽい美帆さんに当てられてしまったのでしょうか。

亡くなった旦那さんと美帆さんの間に子供はいません。

病のため子供を作れない体質だった旦那さんでしたからなおさらのことでしょうか。

「ぅ…ごめんなさい…」

「ううん、いいの。…大丈夫だからね」

小声で謝る憲太に、なぜか罪悪感を覚えてしまった美帆さんは急に慌てたように取り繕いました。



「ほら…これで大丈夫。ね?」

乱れた憲太の髪を直してあげるとようやく憲太の瞳の涙が止まったように見えました。

そこでようやく美帆さんもほっとしました。

別に美帆さんだって決して悪い人ではないのです。

それにもし憲太とこんなことをしたのがバレたら間違いなく彼女の方がまずいわけですからね。

「お母さんには言っちゃだめよ?」

別れ際の美帆さんの秘密めいた言葉は憲太の頭の中を一週間もぐるぐると回り続けたのでした。


ご読了ありがとうございました。

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機会がありましたらまたよろしくお願いします。


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