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勇者学校の狂剣士  作者: ヒロ
第一章
3/31

『1』

 五年後――。


 

 異能を持つ者の中から勇者となり得る存在を見出し、育成する機関――勇者学校。


 本日は東京第二エリアに設けられている勇者学校の入学式だ。


 一般の学校よりも倍は広い体育館で、前方から新入生、次に彼らの保護者という風に並んでいる。


「続いて、新入生代表――カレン・ベルージ」


 そんなアナウンスと共に、他の新入生とは別に一人壇上の傍らで待っていた少女――カレンが徐に階段を上った。


 その瞬間、生徒たち――主に男子たちの視線を一気に奪った。


 紅蓮の炎のように真っ赤な髪は腰元まで伸びており、桃色のリボンで二つにまとめ、ツインテールにしていた。色白。

 欧州風の面差しで、美しいというよりは可愛い感じ。

 しかし、そんな彼女の瞳には強さが秘められており、ただ可愛らしいという言葉では収まらない魅力を宿していた。

 これほど完璧な女性はなかなか見られないが、彼女に欠点があるとするならば胸のサイズが非常に小さいことだけだろう。


 カレンは演台の前に立つと、まずマイクの位置を調整する。

 ベストなポジションが決まると、カレンは少し間を空けたのち口を開いた。


「おはようございます。アタシは新入生代表のカレン・ベルージです。本日は――」


 それからカレンはスピーチを続けながら、整列している自分の他の新入生たちをざっと見ていく。


 彼女の視界には、友人と話す者、顔を俯けてぼーっとしている者、自信ありげな表情でこれからの自分の成功を疑っていない者、等々が映っていた。


(やっぱり期待外れね)


 これがカレンの正直な感想だった。


 カレン・ベルージは英国からの留学生であり、有名な貴族――ベルージ家の一人娘だ。


 英国は世界有数の勇者育成国である。

 これまでに彼らが育成し、世に送り出した勇者の数は約五千万人。これは世界で二番目に多い数字であり、日本と比較すると実に百倍に相当する。


 では、なぜそんな勇者に関してエキスパートな国の出身であるカレンが、勇者育成という面で世界的にさほど有名でもない日本なんかに留学しているのか。


 それは彼女の父の意向によって決められたことだった。


 カレンの父――アベル・ベルージは英国の貴族でありながら、勇者として日々魔物を倒している異色な人物であった。

 そして、彼の話によると日本にはかつて世界屈指の勇者が一人だけ存在しており、その勇者がこの勇者学校の教師をしているということらしい。


 本当は日本になど行くつもりもなく、英国で勇者を目指す予定だったカレン。

 しかしアベルの考えによって、過去に世界最強であった勇者に教えを請うため、この日本に留学するハメになったのだ。


(本当にいるのかしら。こんな学校に最強の勇者なんて)


 壇上から見渡す限り、そのような人は見つからない。

 端の方に立ち並んでいるのは、おそらく教師陣だ。

 しかし、そこにも腕っぷしの強そうな人もいなければ、強そうな雰囲気を出している人もいない。

 どこにでもいそうな一般的な方々だ。


(これでもし、お父様の言っていたことが間違いだったとしたら最悪ね)


 そんな不安を抱きながら、カレンは難なくスピーチを終わらせた。





 入学式が何事もなく終わり、カレンたちは担任教師の案内で教室へと連れられた。


 各々が席に着くと、担任教師は教卓の前で徐に口を開いた。


「私は桜花(おうか) (らん)と言います。これからあなた方の担任と魔術師科の授業を担当させていただきます。宜しくお願いします」


 担任教師――藍は生徒たちに向かって、丁寧に頭を下げた。

 通常、勇者学校の教師は現勇者又は元勇者が勇者学校の教師を務める。

 だが、彼女らは非常にプライドが高い者がほとんどで、いま藍がしているようなことはやらないケースが多い。

 しかし、彼女は今年が教師として一年目、要するに新任教師なので、礼儀正しく振る舞っているのだ。

 これ自体は非常に良いことなのだが、幾つか問題もないこともない。


「あの子可愛くね?」


 一人の男子生徒が呟いた。

 彼の視線の先は教師である藍――ではなく、圧倒的な美々しさを放っているカレンだ。


 それから、ポツポツと喋り声や笑い声などが聞こえてくる。


(くだらないわね)


 そんな光景にカレンは呆れていた。


 勇者学校に入学する者たちは、ハイレベルな入学試験に勝ち抜いてきた者のみだ。

 それにより、この学校に入っただけで、「自分は優秀だ」「自分は強い」と思っている輩が多い。

 つまり、プライドの高いバカが沢山いるのだ。

 故に、今しがたの藍のような行動を取ると、教師はすぐにナメられる。


「で、では、次は自己紹介といきましょうか」


 そう呼びかける最中、依然として生徒たちは騒々しい。


(やっぱりこんなところに来るんじゃなかったわ)


 カレンが溜息をついて深く後悔すると、唐突に教室の透明な窓ガラスが全て割れた。


 突然の現象に一気に静まる生徒たち。


 すると、不意に藍が彼らに向かって話し出した。


「一応言っておきますが、私の異能は『念力(サイコキネシス)』です。特技は人間の頭を潰すことですよ」


 藍が微笑みながらそう言い放つと、それ以降生徒たちは一言も話さなくなった。


(あの教師。なかなかやるわね)


 それにはカレンも驚いて冷や汗をかいた。





 入学初日は授業などはせずに、基本オリエンテーションを行うのみ。

 その内容は、学校の設備の説明や各授業の担当教員の紹介、授業の詳細について等。


「ホントこの国の学校はぬるいわね」


 校舎の一階に設けられている食堂で昼食を摂りながら、カレンは一人ぼやく。


 しかし、それも仕方がないことなのかもしれない。


 彼女の母国――英国では勇者学校に入学すると、すぐに実戦形式の授業を行う。

 しかも、そこから経った一か月で下級ながらも本物の魔獣と対峙する。

 あまりにも激しい訓練のために死者が出ることもなくはない。

 だが、そんなシビアな環境に身を置くことによって、英国から輩出される勇者たちは世界的にトップクラスの実力を持つ者が数多もいるのだ。


「そういえば、初日から休んでるやつとかいたわね。一体なんのためにここに入ったのかしら」


 今朝、教室で同じクラスの生徒たちが全員自己紹介を済ませた中、一人だけ学校にすら来ていない生徒がいた。

 入学初日に欠席。

 これも英国ではあり得ないことだ。

 もしそんなことをしたら一発で退学だろう。


「ねえキミ。ちょっといい?」


 唐突に後ろから声を掛けられた。

 カレンが振り返ると、そこには見た目がチャラくて、いかにもナルシストな男子生徒。


(こんなやつですら入学できるのね)


 カレンはつくづく日本の勇者学校のレベルの低さに呆れる。


「キミさ、入学式でスピーチしていた子だよね? すごいね。あれ入学試験で成績がトップだった人しかできないのに」


 男子生徒が好かれようと必死に持ち上げるが、カレンにとっては当然のことなので特に反応を示さない。


「ところでさ、キミの名前ってなんて言うの?」


 勝手に隣の席に座ると、男性生徒が訊ねる。

 

 スピーチの話をしておいて彼女の名を知らないはずがないのだが、たぶんそこから話を派生させたいのだろう。

 そう勘付いたカレンはこのまま話しかけられ続けるのは面倒なので、渋々言葉を返すことにした。


「アンタごときに名乗る名なんてないわ。消えて」


 そう一蹴すると、カレンは再び弁当を食べ進めていく。

 だが、男子生徒は彼女の態度に苦笑しつつも、めげずに話しかける。


「その弁当美味しそうだね。自分で作ってるのかな?」


 男子生徒の言葉に、今度は再びスルーするカレン。

 もう返事をするのも億劫になったのだろう。

 すると、見た目通り短気だった男子生徒が勢いよく立ち上がった。


「おい! お前、調子乗んなよ!」


 男子生徒はカレンの腕を掴みながら怒鳴る。


「調子に乗る? それはアンタの方じゃないかしら。アタシに気安く触らないで」


 男子生徒の手を振り払うと、カレンは鋭く睨みつけた。

 それにやや慄くも男子生徒は腰元に付けている鞘から剣を引き抜いた。

 長さは身長の半分ほど、鉄製のレイピアだ。


「このアマがっ! オレが痛い目に遭わせてやるよ!」


 レイピアを構える男子生徒に、カレンは思わずクスリと笑ってしまった。


「ふふっ。そんな剣でアタシと戦う気? フランス人が使うならまだしも、日本人がレイピアだなんて」

「て、てめぇっ!」


 ケラケラと笑うカレンに、男子生徒は更に怒りを湧きあがらせる。


「まあいいわ。特別にアタシが相手をしてあげる」


 そう言って、カレンも鞘から剣を手に取った。

 長さは彼女の身長よりやや短い程度。刀身から柄まで紅蓮に染まっていた。


 すると、危険な空気を感じ取ったからか、周りで昼食を摂っていた生徒たちが全員食堂から出て行った。


「へっ。後悔すんなよ」

「それ以上は喋らないでくれるかしら。また笑ってしまうから」


 カレンがあざ笑うように発すると、男子生徒は怒りで耳まで真っ赤にしていた。


「ぜってぇぶっ潰す!」


 そう声を荒げたのち、男子生徒は手に持ったレイピアでカレンの左胸を目掛けて突き出した。

 しかし剣先が当たる直前、カレンは素早く後方へステップを踏んで回避した。


「なに今の。バカにしてるのかしら?」


 難なく躱したカレンは、男子生徒のレベルの低い攻撃に嘲笑する。


「う、うるせぇ! ここからが本番なんだよ!」


 男子生徒は一気に空いた距離を詰めると、今度は連続して突きを入れる。


「ふふっ。そこそこやるわね。でも――」


 先ほどよりも早い攻撃に感心するも、カレンはいとも簡単にそれら全てを剣で相殺した。


「なっ!」


 男子生徒は自分の全力の攻撃を容易に防がれて呆然とする。


「やっぱり遅すぎるわね。剣の使い方からやり直すことオススメするわ」


 そう言った刹那、カレンの姿が消えた。


「っ! あいつどこへ――ぐはっ!」


 男子生徒が動揺していると、唐突に彼の腹部に衝撃が走った。

 視線を落とすと、そこにはカレンが剣の柄の先を鳩尾へ押し込んでいた。


「あなたにはこれで十分だわ」


 カレンが告げて剣を腹部から離すと、男子生徒はその場で悶絶した。


「アタシに喧嘩を売るなら、今より一億倍くらい強くなってからにしてくれないかしら。目障りだわ」


 そう吐き捨てると、カレンは食堂を後にした。

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